第30話『対面怪物』
前回のあらすじ
ヨシュアの苦手科目が錬金術になりそうです。
…
「エクスどうしよう…
俺、錬金術出来ない!!」
ヨシュアが冷や汗を浮かべて焦っている。
「おっと…?」
ヨシュアにも苦手科目が存在したとは…。
「何度イメージして魔力を込めて杖を振っても出来ないんだ!!マジでヤバい!」
僕に縋り付くヨシュアの気迫もヤバい。
「お、落ち着いてヨシュア…。
何作ろうとしたの?」
「え」
「え?」
聞いたら固まったぞ…?
「ぁ…ぃゃ…その…」
彼のもごもごと動く口を見ていると横から
シャル君達が首を傾げていた。
「エクス君?ヨシュア君?お昼ですよ?」
「さぁ、共に食堂へ参ろうではないか!」
誘いを断るわけじゃないけど今はヨシュア優先だ。
「僕達は後から向かうよ!先に行ってて!」
「…はい、分かりました。
お先に4人で食事していますね!」
シャル君は何かを察してくれた。
「ご飯は皆で一緒に食べた方が美味しいからね!ちゃんと来てね!」
イデアちゃんに頷いて4人を見送る。
「ごめんエクス…。」
「気にしないで。
何作ろうとしたか聞かない方が良い?」
と聞くとヨシュアは俯いた。
「…昔に大事にしてた物…。」
「昔に?」
「壊れちゃったんだ。大事な物が。世界に一つだけの、兄さんが俺にくれた物。」
そんな大切な物が壊れてしまってさぞ辛かっただろうな。でも、僕はそんな物を手にした事が無いからどんな言葉をかけていいかが分からない。
でも何か言わなきゃ。
「だ、大丈夫だよ。まだ始まったばっかじゃん。
これから練習してけば絶対に作り直せるよ、大切な物を。」
「………そうだね。」
弱々しく笑ったヨシュアを見て胸がキュッとなった。あれは悲しさを押し殺している顔だ。
僕に出来ることは無いと思い知った。
その時だった。
「あァ〜!!やっと見つけたァ〜♪」
げぇっ!!この声は…っ!!
扉の方へ目を向けるとアイツが笑っていた。
「アビス=アポクリファ…!」
つい名前を言ってしまうと彼はゆっくりと口角を上げ、鮫のような歯を見せる。
「アビスでいいよォ〜♪
2人とも何処にも居ないから探しちゃったァ♪」
まずい…どうする…?
「何の用?」
ヨシュア?
アビスは首を傾げて考える素振りをみせる。
「え?用?うーん…そうだなァ…特に無いよォ♪
宝探しみたいで楽しかっただけぇ♪」
何なんだコイツは…。
「あはっ!そうだァ、ねぇ…君達さ」
「そんな所にまだ居るんか。」
新たに聞こえた声へ弾かれたように全員が身体を向ける。
「げぇ…シオン=ツキバミせんせぇ。」
あのアビスが「げぇ…」?
シオン先生は小さく溜息を吐いた。
「もうお昼ですよ。お昼食べないと授業が頭に入らへん、そんな奴に授業している身にもなってな。それにアポクリファ、授業寝てたやろ。
初日から何してん。後で寝んように扱いたるから覚悟しいや。」
こっっっわ。僕もアルファクラスだったらヤバかったな。
「マジぃ〜?やだァ〜!」
「ヤダやない。兎に角さっさとここから出や。
はよ閉めるで。確か神クラスはもう一度ここで授業やったっけ。
授業前には鍵は開けとくから。」
シオン先生の手には鍵が握られていた。
チャンスと思い僕とヨシュアは立ち上がり先生に会釈して部屋を出ようとした。
「あ、エクス君、ヨシュア君。」
アビスに振り返ると
「そっちは危ないかもねぇ?」
と僕達の前の扉を指していた。
「何言うとるのです。
アポクリファ、こっちに来なさい。」
「あ〜〜〜やめてよ半分せんせぇ〜〜〜」
「誰が半分先生や。」
アビスはシオン先生に首根っこ掴まれて連行されてしまった。
「「…。」」
僕らは頷き合い扉を開けて食堂と反対側、
アビスが指さした方へ歩き始めた。
広い廊下。見回すが特に怪しい所も見当たらない。その分人も見当たらない。
少し不気味に感じた僕は魔導書を両手で握りしめる。
石畳を歩く足音が増えるわけでもな…
コツン
いや、増えた。間違いなく1つ。
誰もいない廊下で今まで僕達の足音に合わせて歩いてた奴が居る。足を止め、前を見据える。
念の為、杖を持っておこう。
何が来てもいいように。
コツ…コツ…
来る…!
「あれ?何してんの?」
足音の正体は黒髪野郎の
「…レン…くん。」
レン=フォーダンだった。
1人のレンを睨んだヨシュアは
「君こそ何してるの。」
と話を聞き出そうと切り込む。
が、彼は首を傾げて人を馬鹿にするような笑みを浮かべている。
「あれ?質問してるの俺が最初のはずなんだけどなぁ。」
「…俺たちはアビスに言われたからここまで来た。」
答える気が無さそうだった為、ヨシュアはそう言った。嘘は吐いてない。
「あびす?誰それ。」
え?レンがアビスを知らない…?
もっと深く聞こう。
「あ、アビス=アポクリファって奴だよ…。
アルファクラスの…(お前に続いて)危なそうな奴…。」
「うーん…?そんな奴居るの?気になるなぁ。
今から会いに行こうかな。」
「シオン先生に連行されたから無理だと思うよ。」
「え?そうなの?ざーんねん。余程の事をやらかしたんだね、そのアビス?君。」
「おい、レン。」
怒りを含んだ声のヨシュアに呼ばれ視線を移したレンは相変わらず笑みを絶やさない。
「あれ?初対面の時は君付けしてくれてたのに。何?反抗期?」
「生憎育ちが悪いものでね。
お前、何してたのって聞いてんだけど。」
「あれ?優等生だと思ったら皮被ってたんだ。
やられた、演技上手いねぇ。」
「あわわ…」
バチバチと火花が燃え散るのが見える…!!
だ、誰か助けてぇえ…!!
「俺はここら辺歩いてただけだよ。
昨日図書館で借りた本が面白くて読みふけっちゃって。校内回れなかったから今動いている訳さ。満足し」
レンの言葉を遮るように通路の壁の1部が何かの衝撃で壊れた。
「「「!?」」」
ぽっかりと空いた白い煉瓦状の壁から人型二足歩行の怪物が歩いてきた。
怪物と分かる理由は…巨体で本来人間の顔と思われる場所には五感を感じられる物がなく、腕が奇妙に捻れ、腫れ上がっていたから。
「何…あれ…。」
「っ…こっちに来る!」
レンの声と同時に怪物がジリジリと確かにこっちへ向かってきた。
ドシンと重たい音と振動が身体全体に響く。
どうしよう…!!?
焦る中、レンが指示を出す。
「ヨシュア君、誰でも良いから先生を呼んできて!」
「は!?」
「今は君が適任だ!
ココは俺とエクス君で食い止める!」
そう言ってレンは白い翼の模様が美しい魔導書から美しい杖を出した。僕じゃ焦って上手く先生に言えない。確かに、ヨシュアに頼んだ方が良さそうだ。
「ヨシュア!僕からもお願い!」
そう言うとヨシュアは頷いてくれた。
「気をつけてね!」
「「うん!」」
「レンには言ってない!」
「え〜」
「言ってる場合じゃないよ!!」
ヨシュアの駆ける音を聞いた瞬間、
僕とレンは相棒を召喚する。
【
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