第31話『人間だったモノ』

前回のあらすじ


シオン先生に連行されたアビスが意味深な事を言ったので向かってみるとレンとばったり。話していると前から大きな怪物が

現れました。

 

怖すぎるっ!!


 …


summonサモン!】


声に呼応し魔導書が輝き、相棒が現れる。


「ゼウス!お願い、助けて!」


『任せろマスター!…ってアレか。

ふむ、良かろう。何故居るかは知らぬが

手出しはするなよルシファー。』


ゼウスが指を鳴らす。

怪物の両手足が天使の輪みたいな物で

ギュッと締められて大胆に転けた。


え、呆気ない。


「凄いね…君のゼウス。

ルシファー出した意味無かった気がする。」


レンを見たゼウスはとてつもなく嫌そうな顔をした。


『何故貴様らがマスターと一緒に居るんだ…。』


「まぁまぁ、それには色々訳があってね。

 今はアイツだよ。」


レンの視線の先、手足の枷を外そうと

藻掻く怪物。本当に不気味だ。


「ゼウス、あれの正体分かる?」


『完全ではないが…人間たちがホムンクルスと呼んでいるモノに近しいモノだろうな。』


「ホムンクルス!?」


に近いモノ!?何でココに!?


『ただ、存在が不安定なようだ。

元は人間そのものだろう。

魔獣の血の匂いが微かにする。それを飲んだ若しくは何かで身体に入れることで細胞が

壊れ怪物と化し生ける屍になった、というところか。』


怪物が人間…!?

じゃあ誰なんだコレは…!!


「元に戻したりとか何とかならないの!?」


『なんとか出来てももう助からない。

 元の体が変形して今になっているんだ。』


「ルシファーでも何とか出来ない?」


レンもルシファーに問うが


『無理です。このようになってはもう…。』


と首を横に振った。


あ、回復魔法…

それならいけるかもしれない!そう思い本を捲らせると、ゼウスが本に手を置いた。


『アレは状態異常、などと言う可愛いものでは無い。死者を生き返らせるなど考えてはならん。死者蘇生は生命ある者がしてはならん禁忌なのだ。マスターだろうがそれを企てるのなら容赦しない。それで私が消されても良いと思っている。それくらい本気なのだ。

頼む、今回ばかりは諦めてくれ。

…マスター。』


そんな…。ゼウスは本当に嫌がっている。

何もしてあげられないのが辛い…

けど、しょうがない。

出来ないことを悔やむより次に活かさなきゃ。でもベヒモスに続いて人間まで…?

たった1日後で?早過ぎない?


「まずこれが誰なのか知りたいよね。」


レンは物怖じせず怪物に近づく。


「うーん…ダメだ。

完全に顔が無くなってる。」


「おーーい!エクスーー!!」


ヨシュアがスピルカ先生とヨガミ先生を

連れて走ってきた。


「大丈夫だった!?」


ヨシュアの白い肌は汗をかいていた。

必死に走ってくれたんだな。

ローブも脱がずに…。


「ありがとう、

ゼウスのお陰で大丈夫だよ。」


「うぉっ!!?何だそれ!!」


スピルカ先生とヨガミ先生は怪物に近づいた。


「きんっっも!おいスピルカ!!

あまり近づくなよ!危ねぇ!」


ヨガミ先生の言葉も聞かずに怪物を観察する先生。


「すげぇ高度な拘束魔法…!

何だこれ!すげぇ!!上のヤツら…

いや、上のお方もこんなの無理だぞ!

高度過ぎる!!ふぁー!!」


怪物よりもゼウスの拘束魔法に目がいってるようだ。


『アストライオスのマスターよ。

 人が失踪した、という話は無いか?』


ゼウスが興奮しているスピルカ先生に尋ねると先生は熱が冷め驚いた顔で


「なぜ知ってる?清掃スタッフの1名が

音信不通という事を聞いたぞ!」


と言った。何だって?


『ふむ…間違いなく、そいつだろう。』


「は?どういう事だ?」


?を浮かべる先生達にレンが説明する。


「そちらのゼウスが言うに、その怪物は

魔獣の血を飲むか投与され変異してしまった

人間の成れの果てだそうで。」


「「な…!?」」


「レンの言っていることは本当?

エクス、ゼウス。」


不安な顔をしているヨシュアにこくりと頷いた。彼は黙って唇を噛み締めた。


「取り敢えずコイツは上に報告する為に俺が持って行く。ゼウス、この拘束魔法は継続か?」


魔導書からアストライオスを呼び出した、

スピルカ先生。彼に向かってゼウスは少し

自慢げに頷いた。


『私が居なくとも私が許可を出さぬ限り永遠に縛られたままだ。』


「なら良かった。

アストライオス、頼んだ。」


頷いたアストライオスは手を前に突き出し

怪物を半透明の土星の形のカプセルに閉じ込めた。


「ヨガミ、間に合わなかったら頼んだ。」


「あぁ、任せろ。」


ヨガミ先生に頷いたスピルカ先生は僕達に

背を向ける。


「はぁ…1日後でまた彼処へ行くことになるとは…あー…」


とボヤきながら数歩歩いた後、瞬間移動を

発動したのかその場から消えた。ヨガミ先生は僕達に視線を移し、腰に手を当てた。


「…さて。

一応聞くが…お前達じゃないよな?」


「ぼっ僕達疑われるんですか!?」


「断じて違います。」


僕は驚き、ヨシュアは冷静に。

レンは笑っていた。


「ひっどーい。先生だって俺らが杖と魔導書を構えてるの見たでしょう?

ルシファーも呼んでるんですよ?」


ヨガミ先生が腕を組み、レンを睨む。


「自作自演かもしれねぇだろ。」


先生は全員を疑っているように見せかけて

間違いなくレンを疑っている。

ちょっと報告を兼ねて聞いてみようかな。

僕は怪物が壊した壁の方、

レンと鉢合わせた前方を指さした。


「そういえばレン君、怪物が出る前にあっちから歩いてきたよね。」


「何?本当か、レン=フォーダン。」


「わぁ、エクス君てば意地悪だねぇ…。

えぇ、それは本当です。

隠しても無駄でしょうから白状しますよ。

けど、俺はあんなの知らない!」


黒幕だから1番怪しいのに、

何故か嘘を吐いているように見えない…。

騙されやすいのかな、僕。


「…分かった。お前らを信じよう。

 その分、第三者がいる可能性を示せ。」


先生は黒いファイルを手に持った。

見覚えがある。あれは


ブラックリスト…。


「教師が脅しか。世も末ですね〜。」


ケラケラと笑うレンに苛立ちを隠さない

ヨガミ先生。


「ぅるっせぇ。1番お前が怪しい事を忘れんなよレン=フォーダン。」


「はーい。じゃあ俺、昼食まだなんで。

これにて失礼しまーす。

行くよ、ルシファー。」


『承諾。』


振り返りもせずに去っていく背中を見つめる僕達。話を聞かれない十分な距離になった

瞬間、大きな溜息を全員で吐いた。


「はぁああ…怖かったぁ…。

ヨシュア、先生呼んでくれてありがとう。」


「いーえ。プロメテウスに頼もうと思ったんだけどバイクではヤバイと思って走った。」


「だからお前あんな汗だくだったんだな。

 てか何でお前らココに?」


「アビスが…こっちは危ないかもねぇって

言われて何か企んでると思って歩いてたら…」


「あのバケモンが出てきた、と。

うわ…壁が派手に壊れたな。

やべぇ上から何言われるか…。」


ヨガミ先生が困っているようだ。

力を貸したい!と言うのは建前で少しでも

点数を上げてブラックリスト回避したい…!


「ゼウス、直せないかな。」


『出来るぞ。』


「出来るの!?」


ダメ元で言うもんだな…。


ゼウスが手を翳すと、壊れた煉瓦の破片全てが浮き上がり、集まって1つの煉瓦に戻り元の場所へ戻っていく。あっという間に壁が

元通りになった。


「嘘だろ…すげぇ…。おかしいだろ…

こんなんも出来るのかよ…。おかしいわ…。

何でも出来るのかよ…おかしい…。」


褒めてるのかな。


『こんな貢献してもブラックリストに

我がマスターをカウントするのか。』


ゼウスーーっ!!そういうのはこっそりと!!やんわりと聞くものだよ!!

何ストレートに聞いてるの!!


「ぁ?元からしねぇよ。

お前らじゃねぇのは分かってんだから。」


先生…!


「魔獣の血と言ったな。

悪魔召喚を企んでいる同一犯の可能性が高いだろう。ただ、今回のバケモン事件のせいで命の危険が見えてきた。お前らが狙われるかもしれねぇ。」


「大丈夫ですよ!ゼウスが居ます!」


「そうなんだが…

怖いのはアイツに襲われるんじゃねぇ。

アイツになってしまうこと、だ。」


「…ぁ…」


その考えが無かった浅はかな僕の鼻筋から

冷や汗が吹き出す。


なる?アレに?想像できない…したくない!


『ふん、誰があの様な穢らわしいモノを

マスターに摂らせるか。』


ゼウスの答えにヨガミ先生は鼻を鳴らし、

胸ポケットからタバコの箱を取り出し、

振って1本咥えて火をつける。


生徒の前ですけど。

前は隠れて吸ってたのに…。


「まぁお前らは他の生徒達と違って出来が

良いから心配は少しだが、万が一に備えて

錬金術は特に頑張れよ。俺もバッチリ扱いてやるから。何なら補習してやろうか?」


タバコのせいで悪そうな顔がもっと悪く見える。


「補習…俺、受けます。」


ヨシュアが決意した瞳で先生を見据える。


「「へ?」」


いや先生も驚くんかい!!


「今日、錬金術全く出来なくて…

このままじゃ本当にヤバイと思ってたので

寧ろお願いします!!」


凄い勢いで頭を下げるヨシュア。

ヨシュアがやるなら僕も受けよう。

凄い魔力量だと褒めてもらってもゼウス頼りだったり使えなかったりなら意味は無い!


「ぼ、僕も!」


指の先まで力を入れ挙手するとヨガミ先生の口からタバコが落ちた。


「……っくくく…その心意気、気に入った。

良いぜ、時間あったら職員室に来いや。

シバいて…じゃなかった。

扱いてやるから。」


言い直したけど意味一緒じゃないか?

先生は落としたタバコを拾い上げ、携帯の灰皿に入れて胸ポケットにしまった。


「さ、時間的にお前ら昼飯食ってねぇだろ。急いで食ってこい。授業遅刻は許さねぇぞ。」


「「はい!」」


今はお昼の為に皆の所へ合流だ!


 …



『よーがみ!ボク大人しくしてたよ!』


「ったりめぇだろ。マスターの言う事聞かねぇ方が召喚獣としておかしいんだよ。」


『まぁまぁ。その新しいタバコ1本吸うの

見逃すからさ。それで?

本当にレン=フォーダンが1番怪しいの?』


「な訳あるか。1番はアビス=アポクリファだ。魔獣殺しらしいからな。」


『良かった、分かってるね。…ん?』


「ぁ?」


『ヨガミ、あっちに誰かいる!急いで!!』


「何だと!?

 チッ…おいコラ待ちやがれ!!!」

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