第64話『偽善者』

 ※ATTENTION

今回は最初の少しだけ嫌な表現をしています!ご注意を!


 ↓↓


前回のあらすじ


ヨシュアが血を見た瞬間豹変し、発狂した。


本当にアビスのせいじゃないの…?



「うーん…やっぱり首は危ないな、叫びもせずいきなり死んじゃうかもしれないし。

やっぱ太腿辺りが妥当かな。

よし、やってみよう。」


倒れた召喚士の太腿に刃先を当てる。

普通ならそれで小さな悲鳴が聞こえるのに

何も言わない。自我が無いように見える。

何の為の口なの?何の為の頭なの?

イラついて少し強めにナイフを押し当てた。

そして軽く一線、縦に引く。

赤い線が段々とボヤけて線を隠すほどの血が出てきた。しかし悲鳴も、怯えた顔も無い糸の切れた人形のようだ。


「…何それ、つまんね。」


『よしゅ、ヨシュア!…生徒には矛先向けるなよって…お前俺に言ってたよなァ!

お前が…破って…どぉすんだよ…っ!』


プロメテウスにそんなこと言ったっけ、俺。まぁ言ったところで別に


「どうもしないけど?」


『は…?』


「だってどうでもよくなっちゃったもん。

今は人の血で穢れた汚い叫び声が聞きたいの!ゾクゾクして堪んないの!

っふふふ…!」


『完全に気が触れてる…!』


あ、その目。怯えて凄く唆る目だ。


「プロメテウスが聞かせてくれるの…?」


『俺は…!お前を止める…!』


「召喚獣が召喚士に刃を振るうと消えるんじゃなかったっけ、忘れたけど。良いの?」


と聞くとプロメテウスは眉間に皺を寄せた。


『嫌だけどな!でもお前が正気に戻って悲しむ方がもっと嫌だ!』


…は、何だそれ。お前も偽善者の1人か。


[ヨシュア、お前が良い子だって分かってるから。だから、やめよう。命を奪うのは。]


「ぁぐっ!?」


何だ今の声…!頭が痛てぇ…っ!


『ヨシュア!』


「…っるっせぇ!!お前のせいか!!」


『な、何のことだ!?』


あぁ、不快だ。不快極まりない!


「神様の断末魔の叫びってどんなのだろう?知りたいなぁ、ねぇ?プロメテウス?」


『ごほっ…来い、ヨシュア!』


「チッ」


あぁムカつく…!!

一瞬で近づいて足を刺す!



[ちょっと待ったぁあッ!!]



「ぁ?」

『は?』


突如響く声。辺りを見回しても誰もいない。


[ヨシュア!僕が分かる?]


この声…聞き覚えがある…けど霞みがかって思い出せない。


「覚えてない。」


[覚えてない、か。聞き覚えはあるそうだな。という事はやはり今のプロメテウスのマスターは過去と今の記憶が混在しているようだ。マスター。]


[えぇ!?えーと…じゃあ…こんにちは!

ヨシュア=アイスレインの親友、

エクス=アーシェです!今ゼウスの力で君と

プロメテウスに話しかけてるよ!]


何この能天気な声。殺意が薄れる。

何だコイツ。


「何?何の用エクス=アーシェ。

君が悲鳴をあげてくれるの?」


[ひぃっ!]


「!」


一瞬の怯えた声!それだけでもゾクッとした…!嗚呼、探していたものだ!彼の命が絶たれる時の叫び声を聞きたい…!!



「エクス=アーシェ!今何処にいるの!?

 逢いに行くから場所を教えて!!」


[ひっ!!ぜ、ゼウスこれ本当にヨシュア!?

狂気の目が爛々としてるんだけど!!]


[大方マスターの声に反応したんだろう。

ほら、虐めたくなる的なやつ。]


[ぼ、僕を虐めても美味しくないよ!]


「それは俺が決める!!

ほら、教えてってば!」


[悪いが言えぬ。それに来た所でマスターには指1本触れさせぬ。

残念だがマスターの悲鳴を聞くことは]


[ひぃっ!!ゼウス!!ジャンヌ動いたよ!!アビス煩い黙ってて!!…ひぇえっ!!]


[……悲鳴を聞くことは…まぁ出来るが会話だけだ。断末魔の叫びは聞けぬ。]


「それはやってみなきゃわかんねぇよ!」


嗚呼、早く、早く!!


[…はぁ…仕方ない。分かった、教えてやろう。但し条件付きだ。]


条件?いいさ、何だってやる。


[貴様が番をしていた扉の奥。ヤマタノオロチという邪龍が暴れている。

それを止めたら教えてやろう。]


良いように使われろってか。

それは気が進まねぇ…。


「本当に教えてくれんだろうな。」


[神に誓おう。]


「…チッ…」


仕方ない。駒になってやるか。

そう思い視線を扉に向けた瞬間、扉が真っ二つに裂け、荒れ狂う風に飛ばされた。


手に持っていたナイフを捨て、膝をつき息が荒くなって動けなくなっているプロメテウスを置いてそこまで歩き中を覗くと、8つの龍の頭がうねり、暴れているのが見えた。立っているのはボロボロの女2人と子供1人。

召喚獣と思わしき者も3人。

髪を1つに纏めている女の足は擦傷が多く血が出ていた。


血、血だ…。


 ザザッ


[お願いっ!やめてぇ!!いやぁああっ!!!]


また知らない奴が血塗れの状態になって助けを乞う映像が頭に……っはははは…!



「あ、ヨシュア君!大丈夫だったの!?」


くそ、余韻に浸っていたら女に邪魔された。


「誰だてめぇ…馴れ馴れしいんだよ。俺はエクス=アーシェに用があんだ。邪魔すんな。」


「…え?え??えぇ??」


目を丸くする女の傍へ子供が駆け寄ってきた。


「よ、ヨシュア?無事で良かったけどどうしたんだ一体…エクスの事フルネームだし

メルトにそんな言葉使って…」


「はぁ?

餓鬼に呼び捨てされる筋合いなんざね」


口にしている最中で星空の髪の毛を持つ召喚獣が槍を突き付けてきた。


「よ、よよヨシュア!?お前良い子だったじゃないか!急にどうし…うわっ!」


話している最中でヤマタノオロチの頭が俺達の間に伸びて床を破壊する。


「これを倒せばエクス=アーシェの悲鳴を聞ける!」


口にすると身体が奮い立ち、やる気が漲る。

流石に物理効かなそうだし…ん、傍で燃えながら浮いている本から杖の柄が伸びている。これ引き抜いて使えばいいのか?んで…本に魔法の詠唱文が書いてある。これそのまま読めばいいのか。うし、待ってろ断末魔と悲鳴エクス=アーシェ


※過去の部分が強い状態のヨシュアですが、どうやら現在の記憶が少しだけ影響し、混乱の中ほんの少し丸くなっているようです。



「我、地獄の業火を求める者。汝、王の焔に跪け。【バシレウスインフェルノ】(棒読み)」


ん、杖から特大の火の玉が!…

すっげぇ…太陽みてぇ…。おら、燃えろ!!


「!究極魔法…」


メルトと呼ばれた女とは違うもう1人の女が燃えている龍ではなく俺を驚いた顔で見ていた。そんなんどうでもいい。さぁ、龍の悲鳴は……壊れたスピーカーから聞こえるようなざらついた声だ。何だこれ汚ぇ音。

ドブみてぇ。


「チッ…期待して損した。おい!エクス=アーシェ!見てんだろ!!終わったぞ!!」


「…いえ、まだです!後ろ危ない!

アーサー!」


『私じゃ間に合わない…!!』


「アテナ!!」

「アストライオス!!」


『くっ…【水神…】』

『…!』


などと言う会話が聞こえ振り向くと燃えている龍の1つの頭が俺を薙ぎ払おうとし、すぐそこまで迫っていた。


あ、やば…流石に間に合わ…


俺は衝撃を少しでも緩和させようと目を瞑り力を込める。


勢いよくぶつかるからこそ鳴り響く衝撃音。

しかし俺の身体は熱さも痛みも感じていない。疑問に感じて目を開くと全員が一定の方向を見ていた。その視線を追うと

 

俺の召喚獣が壁にめり込み、重力に従うように力なく落ち、倒れた。


「プロメテウス…?」

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