第159話『神殿:アバトン』
前回のあらすじ
悪魔の鏡は僕とゼウスの魔法を吸い込み、
3枚のどれかから自由に放ち、魔力の籠った刀でも切れない厄介物。
しかもゼウスが僕を守って傷だらけに…。
アスクレピオスが治してくれてるけど…。
…
ゼウスがアスクレピオスとエクスの魔法で回復している最中、その姿を捉えた4つの瞳が苛立ちを覚える。
【あー!折角傷付けたのに回復してるぅー!
邪魔しちゃうもんねー!!】
それを聞いた遠くから矢を放っていたヨガミが声を荒らげる。
「させねぇ!!お前の相手は俺だ!!
【
【そんなことしていーのかなぁ!】
矢の軌道に立ち塞がる1枚の鏡。
「同じ手に掛かるか!」
腕を下に振るい、光を纏った矢は2本から3本、4本、そして5本になり軌道が鏡を避けるように分散する。
【鏡見なよ。】
「誰が見…る、か…」
巨大な鏡を視界に入れないようにすることは不可能に等しく、僅かに見えたその先に
笑っているヨガミの家族全員が映っていた。
「…」
『!動けっヨガミ!!!』
【隙だらけすぎでしょ!!】
僅かな硬直に気付き、アポロンは声を荒らげるも間に合わずヨガミは悪魔の尻尾のようなしなる物で薙ぎ払われてしまった。
『あぁ言わんこっちゃない!!』
「デイブレイク!!」
『紫苑は余所見禁止!!
彼に任せなあかん!!』
「っ…分かってる!!」
「ぜ、ゼウス!!先生が!!」
『む』
『動いたら2度殺す。』
エクスすら感じるアスクレピオスの殺気に思わず背筋を伸ばす2人。
ゼウスは眉を下げながらも頷いた。
『彼奴は大丈夫だマスター。
アポロンのマスターなのだから。』
「でも…」
『そんなことより、治療中の身でありながら魔力を編んでいるな貴様。』
アスクレピオスの指摘に肩を震わせたゼウス。エクスも首を傾げた為、やんわりと話す。
『ち、治療に差し支えないだろう?』
『無いが私の気が散る。』
『ううぅん…もう少しなのだ。
どうか大目に見てくれ。』
『…』
「ゼウス何してるの?」
『ちょっとな。』
エクスとアスクレピオスは目を合わせ、
お互い追求しないようにとすぐに視線を逸らす。
「…皆、もうすぐだよ…。
…もう少し、頑張って…!」
シュヴァルツの応援に3人は頷く。
「ゲホゲホッ…いっ…てぇ…っ」
教会から飛ばされ、大分離れている壊れた家の残骸に背中から激突したヨガミは瓦礫から這い出て腕に力を入れ、上体を起こそうとしていた。
「マジでタチ悪ぃなアイツ…!!ゲホッ
くそ、絶対肋骨何本か逝った!!!」
『ヨガミーー!!』
「アポロン!!」
『めっちゃ飛ばされたじゃん!
大丈夫?』
「大丈夫な訳あるか!!」
『そんな大声出せるなら大丈夫だね!』
「……」
アポロンを睨んだ後、ふと自分の手に視線を向ける。弓を持っていた左手、矢を持っていた右手共に小刻みに震えていた。
「背中打ったからか?」
『…そんなんじゃないね。
ヨガミはまだ過去に縛られてるから。』
「…」
自分でも薄々気付いていた事を指摘され、
口を閉じて俯く。
アポロンはそんなヨガミの背中に乗る。
「ぐぇっ」
『キミ、そんなんじゃ家族に顔向け出来ないよ。易々と吹っ飛ばされてさ。』
「それは…」
『あー!!
もう、いつまでウジウジしてんの!!』
痺れを切らしたのかアポロンはヨガミの顔を両手で叩くように持った。
「いっ!!」
向き合う彼は怒っているような、普段見せている笑顔を無くした顔だった。
『キミには未来しかないの!!
亡くなった人達が、家族が歩きたかった道は
もうキミしか進めないの!!』
「!」
『もう泣かないんでしょ!!
じゃあウジウジもすんな!!』
「…」
『キミはもう独りじゃない!!
というか元々独りじゃない!!
思い出しなよ!!
独りだったことあったっけ!?』
その言葉で思い浮かぶ家族の笑顔、
そして独りになるはずだった自分が孤独にならないようずっと手を握り歩いてくれた大切な親友の笑顔。
「スピルカ…」
『ほらその顔!!無いでしょ!!
これは彼らの仇でもあるんだ!!
早く一矢報いて帰ろうよ!!』
「…………うん。…うん。」
噛み締めるように、言い聞かせるように頷くヨガミを見てアポロンは満面の笑みを浮かべた。
『よしっ!』
「つーかいつまで俺に乗ってんだ降りろ!」
『きゃー!』
スタスタと数歩先を歩いたと思えばピタリと止まり
「………ありがとな。」
と呟くように言った。
髪の隙間から見える耳の先は真っ赤に染まっていた。
『んも〜!!
ホントにキミはボクが居ないとダメなんだから!』
「うっせ、早くエクス達の元へ行くぞ!」
『はぁい!(否定しないんだ〜!)』
…
『だぁああっ!!数が多すぎるわ!!
なんっなんこれホンマに!!!!』
鏡の中からまだまだ出てくる人型鏡に苦戦しているシオンと玉藻前。
斬っても焼いても留まることを知らない人型鏡は今も尚エクス達を狙うように走っていく。
「僕達は凌ぐだけだ!!
アーシェ達の元に攻撃させないように!!」
『あの太陽コンビが吹っ飛んだから捌ききれんで流石に!!』
「やるしかないと言っとるやろこのダボ!!
いてこますぞ!!!」
『ええぇえっ!??
突然の暴言!??』
【仲が良いねぇ。
楽しそうに話しちゃってまぁ。
ほれほれ鏡に空きが出ちゃったよ〜。】
シオンの視界に入り込むように鏡を動かした悪魔。
【ココはトラウマ持ちばかりで助かっちゃうな〜!】
「トラウマ…?」
3枚の鏡は綺麗に横並びとなりシオンの正面へ移動した。
その鏡には亡くなった父、母、そしてその両親と自分を虐げていた満月家の当主達が映っていた。
「っ」
『紫苑?』
たじろいだシオンが気になり、玉藻前も攻撃の手を休めないように気をつけながら鏡を覗き込む。
『なっ!!…んちゅーもん見せてんねんごらぁ!!おい紫苑これは』
「そんなもので…」
『んぇ?』
「そんなもので僕を止められるとでも思ったかッ!!笑止千万ッ!!
【魔刃抜刀・三拾三番歌】!!」
怒りに震えたシオンの刀が光り輝き、
満月家当主の映った鏡に刃をぶつける。
【!!】
前は通らなかったはずの刃がジワジワと鏡にめり込んでいく。
【こらー!!やめなさい!!】
悪魔の指示で一目散にシオンの背後を狙う沢山の人型鏡。
『紫苑に手ぇ出すんなら死ねぇっ!!』
玉藻前の鉄扇が確実に人型鏡を破壊していき、その分刀がまだ沈む。
【しぶといなぁ!!もう!!
そらぁ!!】
獅子の前足を浮かし、全体重を乗せて地面を踏み鳴らす。そして地響きが生まれ全員がよろめく。玉藻前が体勢を少しだけ崩した事を狙い、人型鏡が割れた事で出来た鏡の破片を全て玉藻前に向け飛ばした。
『!』
シオンを庇う為、蒼い炎で円を描き鏡を焼き払いそれでも飛んでくる破片を鉄扇で捌く。
『(アカン、数が多すぎる…!!
このままやと紫苑に!いやせめて!)』
シオンに当てないよう軌道を変えるが、変えた事により自身に飛んできて所々切り傷が付く玉藻前。
【キミは本当に厄介だね!!
さぁさぁご退場願おうか!!】
巨大な手がシオン諸共潰そうと迫って来る。
捌くのを止めるとシオンに破片が刺さってしまう。かと言って捌いていると手が潰しにかかってくる。
『くっ…そがぁあっ!!』
「【
『【太陽の光矢】!』
獅子の手にぶつかる金の鳥と一線。
その力は強く、悪魔の手を弾いた。
【いたぁい!!】
「悪ぃ!大丈夫か!?」
声の主に玉藻前は安堵する。
『太陽の!!助かったわぁ!』
そしてシュヴァルツが声を上げる。
「…皆ありがとう。時間だ。
…詠唱する。少し長いからごめんね。」
【詠唱だって?させないよ!】
『マスター、私達も護るぞ!』
「うん!」
『【
ゼウスとエクスが悪魔へと向かっていくと同時にアスクレピオスはバリアを張り、詠唱を始めるシュヴァルツ。
「“聖者の願い此処に集いて、
万病眠りて無へと帰し。”」
【あぁ、邪魔だなぁ邪魔だなぁ!!
契約者!手伝って!!】
今までの比にならない暴れようの悪魔。
鏡から人型鏡を沢山作り出してはエクス達を薙ぎ払おうと手や足を振り回す。
しかし全員が連携の取れた身のこなしで避けてはすかさず攻撃を打ち込み、シオンから離れた鏡に皹が入ったのを確認する。
全員はシュヴァルツ達を護りながらそこを狙う。
「“夢幻なれども悪蔓延ること能わず。
哀歌奏でる事勿れ。”」
【え、ウザイんだけど!?
死んでよ早く!!早く早く早く早く!!】
『それはこちらの台詞だ悪魔め。』
ゼウスの雷龍は人型鏡を大量に飲み込んで壊し、シュヴァルツは杖の先端を床へコツンと当てる。
「顕現せり【神殿:アバトン】”!」
杖の先が当たったその場から円が広がるように光が走る。円の中は白い大理石のように、見る見るうちに白い壁と柱が出来上がり、
全員が城の中に居るように囲まれた。
「わぁ…!」
初めてネームレスと出会った際にオペラとミカエルの【天空宮殿】を思い出し感嘆の声をあげるエクス。
悪魔は4つの目玉をぱちくりさせ、首を傾げた。
【あれ?攻撃じゃないんだ。
なーんだ、焦って損した!!】
「はぁあっ!!!!」
【うぎゃっ!?】
その時、シオンの刀が鏡を裂いた。
そして辺りに響く悪魔の叫び。
「悪魔が苦しんでる!凄い凄い!
シオン先生!!」
エクスが目を向けると、
斬った本人も驚いた顔をしていた。
「あんなに斬れなかったのが急に…」
『この空間、アバトンの力だろう。』
皆がゼウスの言葉に耳を傾ける。
『どうやら攻撃に光属性を付与する効果があるようだな。』
「つまりこの鏡は光属性に弱い?」
『うむ。アポロンのマスターの攻撃を避けたのはその為だろう。』
「成程!じゃあ間違いなく」
『今が好機、だろうな。』
「っしゃ!アポロン行くぞ!!」
『おー!!』
各々が武器を構えている中、
一人片手で顔を抑える人物にアスクレピオスは声をかける。
『マスター?』
「う…っ…頭、痛い…」
『何?!』
シュヴァルツの頭の中には
無かったはずの記憶、否、忘れるように仕向けられたはずの記憶が戻っていくような感覚に襲われていた。
誰か分からない者と笑っていた記憶。
喧嘩した記憶。遊んだ記憶。
目の前の人物の顔は靄がかかり思い出せてはいないが姉と父と初めてあった事などが思い出されていた。
「な、にこれ…」
『(マスターの心の振れ幅がおかしい。
幼児化しそうでしないギリギリを保っている…!)』
シュヴァルツの心境状態のせいか、
アバトンが少し揺れる。
『っ!おい貴様ら!!
さっさと悪魔を殺せ!!時間が無い!!』
アスクレピオスの声に頷くエクス達。
「いくよゼウス!!
【天帝神雷・天誅】!!」
『うむ!【模倣魔法:天帝神雷・天誅】』
「ぁあぁぁ…五月蝿い五月蝿い…っ
頭の中も、お前達も…!」
「【金烏】!」
『【太陽の光矢】!』
「【魔刃抜刀・拾七番歌】!」
『【狐火蒼月】!』
「五月蝿いんだよぉっ!!!
【Proof of existence】!!!」
ネームレスがそう叫んだ瞬間、
巨大な鏡全てから雷龍が飛び出てきた。
「僕たちの!?」
『っ!相殺を狙ったか!!』
『紫苑!』
「問題無い!」
ゼウスとエクスが放った龍によって1匹は消え、ヨガミ達の矢と玉藻前の蒼い炎が助力となり雷龍を切り裂くシオン。
しかし再び雷龍が出て悪魔の周りを守るようにして浮いている。
そして雷龍だけでなく、無数の蒼い炎で出来た鳥達。
『私達の魔法を記憶したのだな、これは。』
「青い鳥が沢山…」
「俺の金烏と玉藻前の蒼い炎が混じったのか!」
1羽がエクスを目がけ弾丸のように突っ込んできた。
首を傾げたものの頬を掠める際ヂッと音がした後、着弾した場所には周りが焦げた穴が1つ。
『動けマスター!的になるぞ!』
ゼウスの声に合わせて駆けるエクス。
シオンが刀を振るおうとするも鳥に軌道を逸らされ、雷龍から雷の玉を吐かれ上手く立ち回れない。
ヨガミとアポロンも大量の鳥に阻害され弓を構える余裕が出来ず、攻撃が出来ない。
「くっそ!!腹立つ!!」
「ゼウス!どうすれば良いの!?」
『…』
エクスの問にゼウスは答えなかった。
…
「シュヴァルツ君の究極魔法ですわね。
うふふ、いつかこんなお城に住んでみたいですわ。ねぇ、貴方もそう思いませんこと?
咎人メルヴ=メルヒェン?」
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