第81話『仲悪いね』

前回のあらすじ


あのアスクレピオスがゼウスに助けを求めてきました。


 …


「じゃあ…よ、呼びますよ?」


アスクレピオスはぎゅっと目を瞑って顔を

逸らした。


『…………。』


「あの〜…」


『っるさいな!私だって覚悟を決める時間が必要なんだ!!チッくそっ!!待ってろ!!』


先程の言い方とは真逆でぽふんと可愛らしい音を立てて黒蛇へと姿を変えたアスクレピオスは、なんと僕の身体に巻き付きながら

登って首まで来た。

ひぃいぃい〜〜〜っ!!喰われるぅ!!


「こ、今度こそ呼びますよ!」


『ぅ…ぐぬぬぬぬ…っ』


いだだだだっ!!!

くび、首がしまっ絞まってるぅっ!!!

本当は嫌なんでしょ!!

嫌なら嫌って言ってよもう!!


「カヒュッ…はー…っ!!はー…っ!!」


やっと緩くなった。し、しんど…


『くっ…呼べ。』


覚悟が決まったみたい…

僕は魔導書を顕現させた。

早く呼ばないと僕が死ぬ…出てきてゼウス…


「さ、【summon】っ…」


『また私を呼んだな!マスター………む。』


ゼウスの視線が僕の首を絞める黒蛇に行く。いきなり…?


『…おい、アスクレピオス。』


名を呼ばれビクッと身体を震わせる彼は舌をチロチロと出しながらゆっくりとゼウスの方を向く。


『…。』


『…我に用が有ると申すか。言うてみよ。』


ゼウスの声が低くなり一人称が変わった。

威圧してマウント取ろうとしてる?


『……………。』


小刻みな震えが喉を刺激する。

そりゃ怖いよな。自分を殺した神がそこに

居るんだから。僕だって自分を殺した殺人鬼を目の前に平然としていられないだろう。

多分漏らす。

つい持っている魔導書を胸の位置まで運んで力を込める。

僕の場合自分を殺したのは自分なんですけど。アスクレピオスはそうじゃない。

でも今、ヨシュアの為に頑張っているんだ。せめて僕が助け舟を…


『…た……けて…』


『何?』


小さな声を拾ったゼウスは聞き返す。


『たす…けて…。その子を…む、蝕む物を…じょう、浄化、して…。

やり方…おし、えて…』


必死に喉をこじ開けて出した声。

ゼウスは無表情で腕を組む。

召喚士ぼくたちは全員、黙って見守る事にした。


『…。』


『………。』


僅かな沈黙の後、

ゼウスは小さく息を吐いた。


『そう怯えるな、我が孫よ。

良い、お主に免じて助けてやる。』


『!』


ゼウス!!


『だが。条件を付ける。』


え。


『……じょう、けん…?』


『なに、簡単な事だ。貴様は…



可愛くおねだりするだけだ。』


は?


『は?』


『だーかーらぁ…お願い、おじーちゃん♡

と言ってくれればちゃんとやると言っている。』


『………………はぁ?』


口を尖らせている最高神。ちょっと…いや、

かなりヤバい。あいだだだだ!首が、また首が絞まってる!!蛇ってこんな力出るの!?


『思えば私はお主と遊んだ覚えがない!

まして会ったこともない!ケイローンの元へ行きグングン育ちよって!!可愛い孫が祖父に顔を合わせないとはどういう事だ!!

そしてハデス兄様から!?お主が蘇生薬作ってしまって死者が居なくなる云々と聞いて!?初めて会ったら私はお前を殺さなければならなくなっていてどんな気分だったか!分かるか!!』


ゼウスの熱弁に対しアスクレピオスは


『………は?微塵も分かりたくない。』


と一刀両断。おっとアスクレピオスが

通常運転になってきたぞ…?


『…何が可愛い孫だ…大体アンタそこかしこで女と子供作って放ったらかしにしてんだろ…。アンタのそれが父親アイツに影響したせいで…!!〜っ…いや、今はそんな事どうでもいい。医術の進歩の為に縋れるものには縋ってやる。

すぅ…はぁ〜〜…っオネガイ、オジーサマ。

ぶち殺させて下さい。

あ、間違えた。助けて下さい。』


どんな間違え方だよ。

蛇になってなかったら確実に中指立ててたな。これにはゼウス怒るのでは…


『…っ!っ!』


…満面の…笑みっ!!!!


『…っ良い良い助けてやろう!

見てろよ我が孫よ!ほれっ!』


涙ぐんだ笑顔を向けてヨシュアに白い光を

放つ。いやどうなってんのか分かんないし

説明もない。アスクレピオスは口を開けたまま固まっていた。


『ほれ!浄化したぞ!もう少しすれば起きるだろう!マスターもアスクレピオスも私を

褒めるが良い!』


「…」


『…』


何したか分からないから褒めようが無い…。


『…説明を。』


とアスクレピオスが言うとゼウスは

耳を掻く。


『説明が出来ん。私が浄化の光を出した、

としか。浄化の光は複雑な魔法を組み合わせて出来たモノでは無い。“ゼウスわたしの浄化の光”を放っただけなのだ。』


『…。』


またがぷるぷると震えている。

けどこれは恐怖じゃなく、怒り…!


『…ならば最初から言え…っ!

自分にしか出来ないと!

お前には出来ないのだと!!

縋って損した!!この(ピーッ)が!!』


コンプライアンス〜〜!!!


『んふふ、孫が元気になったわ。』


「ゼウス何でそんなニコニコしてんの!

罵倒されてるよ!?」


流石にどうかと思って僕が口を出すと

ゼウスは笑ったままだった。


『んー?こんな小さくて愛い者に罵倒されても痛くも痒くも無いわ。』


うーわデレデレしてる…。


『っあぁ!気色の悪い!!消毒!!

消毒液は何処だ!!身の毛がよだつ!!』


「ぐぇっ」


いだだだだっ!!また首が絞まるうぅう!

今は蛇だから毛は無いでしょう!!


その光景を見ているはずのゼウスは

止めもせず急に真顔になり徐に口を開く。


『…お主を殺した後、私に対して1番怒ったのはお主の娘息子ではなくアポロンだ。

聞いたことないか?』


その言葉で首の締めつけが若干緩くなった。


『…アイツの話なぞ聞きたくない。』


アスクレピオスは僕の顔の横でシャーッと

威嚇する。

無意識なのか本当に威嚇のつもりなのか。


『…そうか。アイツは私に敵わないと思い、私の雷霆を生み出す巨人を皆殺しした。

おかげで私も少し苦労した。こればかりは

処罰せねばならないと思ったさ。』


『おい、聞きたくないと言っただろう。』


『…私が言えた口では無いがアイツも反省しているんだ。許してやれ、とは言わないが

隣に立って話を聞くくらいに歩み寄ってやってはくれぬか?』


『ふん、

我が祖父にしてはつまらん冗談だな。』


するとアスクレピオスは僕から滑り降り、

人型に戻った。


『…私の事、言えないくせに。』


ゼウスに背を向け小さく呟いた後、

手に持った黒蛇の杖の先を床に軽く当てる。波紋のように緑色の光が広がっていく。


『…バイタル…正常。悪化状態…無し。

 ふむ、スカーレット=アルカンシエル。』


「何よ。」


『それとローランド=ローゼン、

シャーロット=アルカディア、

メルト=ガーディア、リリアン=ナイトイヴ。貴様らは外傷が目立つ。

後から看護婦達がその怪我の処置をする。

嫌がらずに受けること。話は以上だ。』


スタスタと足早に扉を目指すアスクレピオス。ゼウスは


『アスクレピオス…。』


と名を呼び、

その声を聞いた彼は歩みを止めた。


『…ヴァルハラには曾祖父クロノスも居るからな。

せいぜい私の思いを汲み取るが良い。

オジーサマ。』


『!』


身体の向きを変えずに呟き、

そのまま出ていってしまった。


クロノス…って…。

ちらりとゼウスを見ると


『…クロノス…。』


あのゼウスの頬に一筋の汗が流れる。


「ゼウス、クロノスって…」


『…私の、


 父親にあたる者だ。』


ゼウスの…お父さん!?


「そ、それってあの時間の神様の…?」


『いや、そのクロノスと私の父親は名前が

同じなだけで別の神だ。だが…ヘルメス!』


『お呼びでしょうか、ゼウス様。』


「どわぁっ!!」


にゅっと僕の足元から青い誰かが出てきた!


『ヴァルハラ所属のクロノスについて探ってきてくれ。』


『畏まりました。』


あ、引っ込んじゃった。タナトスみたい。


「ゼウス、何させたのー?」


レンの言葉に小さく息を吐く。


『…念には念を、な。父は私の事が大嫌いだからなぁ。…ま、私も大っ嫌いなのだが。』


ゼウスがアポロンの話をされた

アスクレピオスの顔してる!


『しかし参ったな。ヴァルハラに父が居るとは…嫌な予感しかせんわ。

平和なパーティーは無理かもしれんな。』



その言葉に僕達は気が重くなるのだった。

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