第22話『怒らせんなよ』

前回のあらすじ


シャル君と図書館へ行ってレンと遭遇。

見張っとけと言われたけどやっぱりなるべく会いたくないや。それ以外に収穫が無く、

ヨシュアを待ちながら美味しいご飯を食べる事に。


美味しい肉は魔物でした。


美味しいご飯に罪は無い!

無い…けども…っ!


 …


「ご、ご馳走様でした…ぅっぷ…」


食べ過ぎた…。


「ビーフシチューパイ、

とても美味しかったです!」


「っはは!エクス、これじゃあ夜ご飯食べられないね。」


「…ね。」


「ふふっ!」


僕を横目にコーヒーを啜るヨシュアと手を

口元に寄せてクスクス笑っているシャル君。

あぁ、友達って良いなぁ…。


「なぁ…あれアルカディアの…」


急にモブの声が結構後ろから耳に入る。


「それにアイツってゼウスの召喚士じゃね…?」


「代表になってぜってぇ調子乗ってるよな。」


テンプレ不良が2人…。

僕を虐めていた奴らにそっくりな反吐が出る声だ。そういう悪口は悲しいけど理不尽に言われ慣れてるから気にしない。

けどシャル君の悪口言ったらぶちのめしたろ。推し過激派の気持ちが今ならわかる。


「エクス、ナイフ貸して。」


ヨシュアが手を差し出してきた。


「何するの?」


「いーから。貸して。」


ちょっと怖いヨシュアにハンバーグを切っていたナイフを渡す。


「ありがと。

2人とも、そこから動かないで。」


微笑んだヨシュアが目に入った瞬間、

彼の左手が素早く動いた。


「「ひぃっ!!」」


さっきの不良たちが悲鳴をあげる。

身体を捻って見てみると不良たちの間には壁に刺さったナイフがビィィンと揺れていた。沢山の人が居るにも関わらず誰も怪我をさせずに壁に刺さったようだ。


「あっごめーん!手が滑っちゃったあー。」


ヨシュアはケラケラと笑ったあとで椅子から立ち上がりナイフを回収しに行った。


「エクスは少なくともおめぇらよりかは調子に乗ってねぇよ、お小言しか言えねぇ雑魚どもが。失せろ、燃やすぞ。」


ん?何かアイツらに言ったのかな?ヨシュアの口が小さく動いた。髪の毛で表情が読み取れない。彼が口を閉じた瞬間に不良たち2人は逃げ出した。

それを見ずにヨシュアは帰ってきた。


「ただいまー。」


「おかえり。

アイツら逃げてったけど何したの?」


「ん?煩いよって注意しただけだよ。」


「そうなのですか?」


注意しただけで逃げるだろうか?と、僕と

シャル君は不思議でしょうがなかった。


「さて、晩御飯まであと少し!

何しようか?」


とヨシュアが首を傾げた瞬間、辺りが宇宙のような、星空のような空間へと早変わりした。


「「「!?」」」


先程の食堂に居た人間は疎か机や食券機もない。


「よぉー!美味いもん食えたかー?」


あ、この声は!


「スピルカ先生!」


星空の神アストライオスと歩いてきた子供、スピルカ先生。


「な、え?あの?」


困惑するシャル君に目を見開き驚く先生。


「あれ!?知らない奴が居る!

 お前ら2人きりじゃなかったのか!」


「僕らの新しく出来た友達です。」


シャル君は戸惑いながらも


「あ、えっとシャーロット=アルカディア

です。神クラスの…。」


先生にお辞儀しながら名乗った。


「あ、俺の教え子か!そうかそうか!

俺はスピルカ=アストレイ!

よろしくな、シャーロット!」


「はいっ!」


「んで、お前らが一緒って事は…

伝えたのか?」


僕を見ているから魔獣殺しの事だろう。


「いえ。」


と首を小さく横に振った。


「ふむ…流石にこの空間に呼び出してしまったからな…。」


「この空間はアストライオスの?」


『…。(コクリ)』


ヨシュアに頷いたアストライオス。


「そう、所謂異空間だ。綺麗な世界だろ?」


「星空の中に居るみたいです!綺麗…!」


驚く僕達を見て自慢げに微笑むスピルカ先生。そして


「にっしっし!…では、今から

シャーロット=アルカディアを新たな協力者とする!」


と言った。


「「!?」」


「お、オレが…協力者、ですか?」


「そう。」


「一体何の…?」


スピルカ先生は僕らが体験した事を踏まえ

簡潔に魔獣殺しの事をシャル君に伝えた。


「…という訳だ。」


「成程。高ランクの魔物さんは危険な儀式の道具として使われることも多いと聞きます。

それにしても何て酷い…。ベヒモス、

グリフォン、どうか安らかに…。」


指を絡めて祈るシャル君は聖母感満載だ…

じゃなくて。

喋っちゃったけど大丈夫なのかな。


「責任は俺がとる!から大丈夫!」


顔に出てたのかスピルカ先生が自分の胸をどんと叩いた。


「という訳でエクス、ヨシュア、シャーロット。お前らに調査を依頼する!

怪しい行動を取る人物、怪しい道具があれば直ぐに俺かヨガミに伝えること!

自分に命の危険が伴うと判断した場合、

命を優先して時には手を引くこと!

いいな?メルトにも伝えておいてくれよ?」


「はい!分かりました!」


「せんせーい、メルトちゃんが居ないのは何でですか?」


僕達に話があるのなら全員を呼んだ方がいいはずだしちょっと疑問に思ったので挙手してみた。


「これは俺とアストライオスの魔法なんだがな。ある人間を起点として隔離空間を生み出せるんだ。だからお前らの近くに居ないと出来ないんだ。」


成程。

でも何処から僕達に魔法をかけたんだろ?


「まぁまた喋る機会があれば詳しく教えてやるよ。で、なんだけどな。」


「「「?」」」


先生は少し顔をひきつらせた。


「実はこの空間は時間の進みが変わっていてな。この空間を解除すると…」


先生が杖を足元でコツンと鳴らした途端に食堂に戻ってきた…のだが、


「くっっっら!!」


明かりが1つもない!!

食券機も明かりが落ちてる!


外は…完全に夜だった。


「どっ…どういう事…?」


「ちょーっと調節が難しくてな…

今もう22時なんだわ。就寝時間。」


「「「えっ!?」」」


さっきまで真昼間だったのに!!


「ホントすまん!あの空間に居ると時間感覚が狂うんだ。宇宙に居るみたいにな。

少しだけあの空間に居たってだけで本来の時間軸がめっちゃ進んでる訳だ。

だから頑張って時間を留まらせようとしてはいるんだがどうも難しくて…

マジで反省してる。」


しゅんとする先生とアストライオスを見て

顔を見合わせる僕ら。


「まぁやること無かったし大丈夫ですよ。」


ヨシュアの言葉に頷いた。


「本当にすまん!大浴場は時間外だが俺が特別に許可を出す!今から着替え持って入ってこい!俺とヨガミも入る!」


と急かされたので僕達は一旦寮に戻り、部屋に送られていた荷物の中から部屋着らしき服と下着、洗髪剤等を持って、シャル君と合流して大浴場に向かった。


お母さん、ちゃんと服とか色々と用意してくれたんだな…。


「ねぇシャル、

シャルのルームメイトって誰?」


ナイスヨシュア、それ気になってた!


「オレのルームメイトはえーと…

ローランド=ローゼン君…という優しい方です。非常に高い美意識をお持ちでしたよ。

赤い薔薇を1本頂きました!」


美意識高い…赤い薔薇…?

まさかゼウスが雷を落としたウザい…

んんっ個性的な召喚士では…。


「エクス君?どうかなさいました?」


「あ、いや!何でもないよ!

あ、大浴場!此処だね!」


大浴場と書かれた木の看板が上に掛かっている扉の前に立った。扉を開けるととても広い脱衣所が。鏡もドライヤーもロッカーもたっくさんある!

僕ら3人はど真ん中3つ、横並びで使うことにした。


友達とお風呂なんて入った事ない。

そもそも1人でも傷だらけの身体を見るのが嫌で目を瞑って着替えたっけ。

流石にエクスの身体は真っ白で傷が1つもない。リストカットの痕も。


「どうかされましたか?エクス君?」


「あぁ、い」


いや、なんでもないと言おうとしてシャル君を見た。彼は既に上半身裸だった。


美女のはだ…か…


「前隠してシャルくぅんッッ!!!!」


「ええぇっ!?」


「っははは!シャルが綺麗過ぎて男ってこと忘れてるみたい。おっさき〜♪」


ヨシュアが腰にタオルを巻き、お風呂へ繋ぐ引き戸を開けて先に行った。


「あ、ヨシュア君!!えっと、エクス君!!

オレは男ですから!!

大丈夫です!行きましょう!!」


とシャル君に無理矢理引き摺られお風呂場へ。シャル君は蛇口を捻って桶に水を張り、僕に向かって構えた。


「お水かけますよ!!」


えっお湯じゃないの!?

歯を食いしばる暇もなく水を顔面狙ってかけられた。


「ぶへっ!!つめたぁああっ!!」


「オレを女性と間違えた罰です。

ちょっと怒ってるんですからね!」


「ぁぃ…すみませんでした…。」


冷水をかけられた事で思考が正常になった。シャワーを軽く浴びて浴槽に向かうと

ヨシュアとヨガミ先生が居た。

ヨシュアが僕らに向かって手を振った。


「エクス!シャル!」


「おー…お前らかってぎゃあぁあああッ!!!

 なっ何で女が此処にいるんだよおッ!!!」


赤面するヨガミ先生の絶叫が響き渡る。

煩い。


「こんばんは、ヨガミ先生。

 シャーロット=アルカディアと申します。

 正真正銘の男でございます。」


ちょっと怒って男という事を笑顔で強調するシャル君。


「エッ?」


ヨガミ先生は真っ白になった。


なるよな、そりゃあ。

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