第23話『支え合うのが』

前回のあらすじ


スピルカ先生がシャーロット=アルカディア君を新たな協力者としました。

ヤバイ事件を引き起こそうとしているのは

アビスだけじゃない可能性。

アビスやレンじゃない可能性。

危険な儀式に使われる可能性。

うーん…入学初日に凄いことになったなぁ。


 …


「おま…男?」


ヨガミ先生の震える手で指さされたシャル君はにこやかに


「えぇ。」


と頷いた。


「詐欺じゃん…!」


「と言われましても…。」


「まぁまぁそれは兎も角、

取り敢えずお風呂に浸かろうよ。」


ヨシュアに頷いて僕とシャル君はゆっくりとお風呂に入る。


「あ〜〜…あったかぁい…。」


「癒されますぅ…。」


「さっきスピルカから連絡が来た。

シャーロット=アルカディア、お前も聞いたんだな?」


と、ヨガミ先生が徐に口を開いた。


「はい。微力ながらもお手伝い致します!」


「分かった。それでヨシュアから聞いたアビス=アポクリファの件だが…証拠がないから今は逃げられるのが分かっている。しかし逃げられたままだと儀式等の工作に猶予を与えることとなる。」


「その工作が終わる前に道具とか証拠を探れれば勝ち。」


ヨシュアに頷いたヨガミ先生は濡れた手で前髪をかき上げた。


「レン=フォーダン、アビス=アポクリファが今わかる1番の要注意人物。腹立つことに馬鹿じゃないだろう。目には目を歯には歯を、

生徒には生徒を。お前らが頼りだ。

危険が及ばない程度に頼んだぜ。」


「「「はい!」」」


と返事をしたは良いものの気になることがある。


「ヨガミ先生。アビスやレンが儀式をやろうとしてて…準備が整ってしまったら何が起こるのですか?」


「儀式なんて沢山種類があるからぶっちゃけ分からん。ただ、臓器の贄が必要になるって事は余程のモンだ。例えばー…


悪魔召喚、とかな。」


「あくま…しょうかん…?」


それってレンが闇堕ちしてやった事だぞ…!?


終盤で彼が企てた儀式が成功して沢山の悪魔が学校や国に放たれてしまい大混乱に陥った。更に悪魔達はレンを主とし、言う事を聞いていた。それを実際にやろうとしている輩が居る…!?

だとしたら本当にヤバイどころじゃない…!


「エクス。」


「ッ!」


ヨガミ先生の声で我に返った。


「1番は儀式を成功させないことだが、

悪魔召喚が万が一起こったとしても、教師陣で何とかするさ。お前らはその助力になるよう強くなってくれ。悪魔召喚はポンポンと簡単に、短い時間で出来るものでは無い。

焦るな。焦ると逆に怪しまれる。」


「…はい。」


「「…?」」


ヨシュアとシャル君が頭に?マークを浮かべていた。が、言えない。


「お、お前ら居るなー?」


いつの間にか後ろに居たスピルカ先生が「とーうっ!」と言いながら飛び込んできた。


「おいスピルカ!!飛び込むんじゃねぇ!!危ねぇだろうが!」


「いやーつい!明日から授業だろ?生徒よりも楽しみなんだよ!俺は座学を教えるぞ!

ヨガミが錬金術!んで実技と薬学は俺ら2人で教える!ちゃーんと覚えるんだぞ!」


「寝たら殺す。」


笑顔のスピルカ先生と中指立てるヨガミ先生。まさに天使と悪魔だ。


「抜き打ちでテストしちゃおっかなー♪」


「え、やだぁ…。」


抜き打ちテストは良い記憶が無い…。


「オレは構いませんよ。

自分の実力が分かって楽しいですから!」


「俺も!」


はぁー!?何言ってんの2人とも!!?

考えられないっ!何だこの優等生め!


「でもオレ、実技が怖いです。

箒とか乗るなんて…」


「あー…その辺は大丈夫、慣れる。

というか慣れねぇとやってけねぇよ。」


ヨガミ先生は片手でシャル君の顔にお湯をかけた。


「わぷっ」


「始める前から不安がるな。

そんなんだと俺みたいな根暗になっちまわぁ。そうだなぁ…もしまだ無理だと言うのならばお前を嬢ちゃんって皆の前で呼んでやらぁ。」


「んなっ!?」


「キッシッシ…

それが嫌なら頑張るこったな。」


「っはい!」


シャル君に不安な表情は無く、キリッとしていた。そしてザバァと波をたたせながら立ち上がった。


「身体を洗って参ります!」


「あ、俺も!」


とヨシュアも浴槽から出た。


「ヨガミ先生とスピルカ先生は?」


「俺はもう全部洗ってる。

あと少ししたらもう上がる。」


「俺は全部洗ってから浸かるスタイルだから!飛び込む前に洗った!」


「えっじゃあ僕も洗ってきます!」


最後になる!それはやだ!



「風呂場で走んなー。」


「ヨガミぃ、アイツら面白いな!」


「今回は問題児が多い…。はぁ…。」


「溜息吐くと幸せ逃げるぞ〜。」


「もうで全部逃げてるよ。」


「…。逃げてない。」


「へっ…どうだかねぇ。

じゃあ俺は先に上がる。」


「へいへーい。」



先生達の声が聞こえるけど何言ってるかは

聞こえないな…。


「ふぅ…さっぱりしましたぁ…!」


「だねー。

シャルのシャンプーめっちゃいい匂い!」


「えへへ…

実は家の物をくすねちゃいました。」


「へぇ〜!シャル君も大胆じゃんかぁ!」


「家出だし!って思って…

ははっバレたら怒られちゃいますかね。

……あの、お2人に言おうと思った事が。」


「「?」」


シャル君は悲しそうに笑った。


「オレ、こんな見た目でしょう?

だから色々な方に距離を置かれるんです。

陰口も絶えません。不思議な事にオレと話している人も陰口の対象になってしまう。

オレのせいで貴方たちが傷付くのは嫌です。

今日は本当にとても楽しかったですし…

勿論、陰ながら調査も協力致します。

だからこそ…

オレとは距離を置いた方が良いと思います。」


え?そんなの…


「「嫌だよ。折角仲良くなったんだもん。

 なんならこっちが付きまとってやる!」」


えっこんな長ゼリフがヨシュアと被った!

すっげぇこんな事あるんだ!!

あ、やばい笑えてくる…!


「「あっはははっ!!!」」


ヨシュアも一緒だった見たいで顔を見合わせて笑った。


「ふふ…っ!」


 目を見開いて驚いていたシャル君も笑ってくれた。その流れで僕は言葉を続けた。


「それに、図書館での約束忘れたとは言わせないよ?男なら約束は守るもの!でしょ?

たかが陰口くらいで距離を置いてたまるか!

それくらいで傷付くと思ったら大間違いだよ!」


「そーそ。それにシャルの陰口言う奴居たら特定するから安心してね!」


どこをどう安心しろと言っているんだ?


「エクス君…ヨシュア君…

ありがとう…ございます…!」


震える声でお礼を言ってくれたシャル君は

優しい微笑みを見せてくれた。


「よしっ!そろそろ出よう?」


ヨシュアに頷いてスピルカ先生と共に皆で

お風呂を出た。各自に身体を拭いて部屋着を着てドライヤーで髪を乾かす。

乾かし終えたらスピルカ先生が


「ちなみに脱いだ服はお前ら自身が部屋の洗濯機で洗うように!やり方や洗剤は揃えてある!洗剤は無くなったら教師に伝えること!」


と牛乳片手に僕らを指さした。


「「「はーい!」」」


返事をして脱衣所を出る。

スピルカ先生が鍵をした事を確認して扉に

背を向けた。


「じゃあさっさと寝ろよ!おやすみ〜!」


「「「おやすみなさーい!」」」




「ではまた明日、おやすみなさい!」


「「おやすみ〜!」」


ぺこりと頭を下げたシャル君は僕らの部屋の斜め左前の扉を開けて入っていった。

僕とヨシュアも部屋に入って洗濯機の隣に

ある洗濯カゴに洗濯物を入れてからベッドに飛び込む。隣同士のベッドには少しの隙間があった。


「うはーっ!ふかふかぁ!」


 落ちないようにしないと!


「(家よりちょっとベッドが小さいな。)」


「ヨシュア?どうかした?」


「ん?何もないよ?」


「そう?…今日、凄かったね。」


「そうだね。ベヒモスとグリフォンが死んじゃったのに言うのもあれだけど…

楽しかった。すっごく。」


「僕も。初めてゼウスと会って…ヨシュアとメルトちゃんと友達になれて…イデアちゃんとシャル君も友達になってくれた。

今までじゃ考えられないよ。」


転生前の独りぼっちが嘘みたいだ。

僕もとっても楽しかった。


「エクスの過去は辛かったって…

今日だけでもひしひしと伝わってくるよ。」


「えっ!?ごめん!

不快にさせたくなかったんだけど!」


顔に出てたんだろうか!?


「そういう意味で言ったんじゃない!

過去がとても辛かったんでしょ?独りで

寂しかったよね。でもこれからはメルトも、

シャルも、イデアも、そして俺も居る。

独りなんて言わないで。


支え合うのが友達、だろ?」


…何でそんな事を平気で言えるんだ、彼は。


僕は今日、久し振りに人の温かさを知った。人を思う優しい笑顔を知った。

嬉し涙の温かさを知った。


友達…そう口にするのは何年ぶりだったかな。今日、何回言ったかな。

何回言えたかな。なんかい…ないたかな…


「うぅ〜…っ…」


「泣くなよ〜男だろ?…とは言わないよ。

今日は存分に泣けばいい。

沢山泣けばスッキリするし。

何より明日に笑う糧になるんだ。」


「ぐす…っ…うん…っ!」


「でも、ちゃんと睡眠はとるんだよ。」


「ありが…とう…ヨシュア…」


「どういたしまして。」


その会話を最後に恥ずかしい話、僕は泣き

疲れて寝落ちしました。

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