第21話『それ魔物』

前回のあらすじ


転生前での推しの1人である

シャーロット=アルカディア君と仲良くなれました。とても幸せです。

推しは愛でるものですからね。


しかし!


ヨシュアに先生への報告を託しシャル君と

校内を回ろうと倉庫の扉を開けた瞬間、

アビス=アポクリファが目の前に居ました。


推しとの時間を邪魔しやがってこのクソ野郎がぁあ!!


 …


「あれぇ〜?何で閉めちゃうの〜?

遊ぼ〜よ〜♪」


僕はダンダンッとノックされている扉を背中で押さえつける。


な、何でココが分かったんだ!?


「あ、あの方がアビス=アポクリファさん…

一瞬見ただけでも怖い方でした…。」


鍵を掛けゼウスに呼びかける。


「ぜ、ゼウス!」


『分かった。全員手を繋げ。』


「アルテミス、一旦戻って下さい。」


『はーいっ!』


アルテミスが本に戻った事を確認し、

僕とヨシュアとシャル君は手を繋いだ。


『そらっ!』


ゼウスが指を鳴らした瞬間、倉庫から教室と思われる広い場所に移動した。


「わぁ!凄いです!」


『ふふん!私に出来ぬ事など有りはせぬ!』


「スキルロック…」


ボソッと呟くとゼウスは床にしゃがみ込み、

のの字を書くというあからさまな落ち込み様を見せた。


「ごめんって…。

一旦休憩してて、ありがとうゼウス。」


本を2回ノックしてしょげていたゼウスを戻した。


「と、兎に角!

お互いアビスには気を付けようね、エクス。」


「ヨシュアは1人だからね、気を付けてよ?」


「うん、プロメテウスが居るから大丈夫。

じゃあまた後で!」


ヨシュアは手を振った後、扉から出ていった。


「ここで…魔法を学べるのですね。」


シャル君は教室の端から端まで伸びる長い机に手を置き、大きな黒板を見つめた。


「そうだね、楽しみだよ!」


「オレもです…!憧れていたから!」


笑顔が眩しいっ!


「明日から授業ですね!魔法学などは得意なのですが運動音痴でして…実技頑張らないと…。」


ハッ!!そうか、リアルで勉強しなきゃいけないんだった!召喚士も万が一に備えて召喚獣に頼らず強くなる必要がある。

魔法を深く知り正しく使う為の魔法学と魔法と国の歴史を学んだりする座学。

あと…箒に乗ったりして宙を舞ったり、魔法を使う実践訓練。(またの名を実技訓練)

魔法道具を作る為の錬金術などの薬学。

この3つを僕はリアルに学ばなきゃいけないんだ…。


ちょっと楽しみだ!


「エクス君、オレ図書館に行きたいです!」


「図書館?分かった、行こう!」


シャル君の提案に乗り、図書館へ向かった。


 …


「うわぁあ〜!!ひっっっろ!!」


ゲームで見るよりもでかい!!

一人称視点だからだけど!

テンション上がるなぁ!!


「え、エクス君!しーっ!」


「あっ」


やべ、恥ずかしっ。


周りに沢山の本が空中を漂っていて、豪華なシャンデリアで薄暗さが程よく調整された館内。

沢山の棚にはぎっしりと本が詰まっている。


「やはり図書館は凄いですね…!

圧倒されます…!」


シャル君が目を輝かせていた。


「そうだね…!」


ちらほらと人が居るので小声を心がける。


「図書館でお勉強すると頭に入りやすいんです。本が好きだからかな…。」


「分かるよ、僕もそうだから。」


1人で落ち着いて勉強出来るのが図書館だけ

だったから…。


「本当ですか!良ければ今度、一緒にお勉強して下さいませんか?」


「っふふ…下さいませんかって聞くんじゃなくてやろうって言ってくれれば良いのに。

友達なんだから。」


「友達…!」


「あれっ?エクス君じゃん!」


おぉーっとアビスに気を取られて忘れていた人が目の前にぃ…。


「レン…君…。」


黒髪イケメンが1人で居た。


「お知り合いですか…

って…あ、貴方は天使クラス代表の…」


シャル君に頷いた彼はニコリと微笑み


「覚えていてくれたんだね。俺はレン。

レン=フォーダンです。

美人さんに覚えて貰えてたなんて嬉しいなぁ。」


と言った。シャル君は男ですよー。


「わっ…オレはシャーロット=アルカディア。

 すみませんが男です。」


「おと…アルカディア家って女性が当主の有名な貴族の家だね。

お会いできて光栄だよ。」


一瞬で立ち直った…!


「あはは…持ち上げないで下さい。

オレは家出同然で入学した奴なので…」


「え?そうなの?」


「はい。…ココに入学したからには天使クラス代表の貴方にも負けません。

それほど強くなって帰ります。」


シャル君の目が覚悟の目に変わった。

レンはくすっと笑い


「受けて立つよ。」


と挑発的な笑みを浮かべた。

…あの顔腹立つんだよね。僕だけかな。

ふと周りを見ると顔の良い2人が睨み合っている所をニヤケながら見る生徒が多い。

主に女性。


「エクス君、シャーロット君。

合同授業を楽しみにしてるね。

ヨシュア君にも宜しく〜♪」


レンは手を振りながら図書館を出ていった。

二度と僕の前に現れないでねー。


「…。」


あれ?シャル君が何か考え込んでる。

話しかけた方が良いかな。でもなー…。


「エクス君、頼みを聞いてくださって有難う御座いました。オレ、満足しました!」


パッと笑顔になったシャル君。


「そ、そう?なら良かったよ。」


「これからどうしますか?

エクス君は何処か行きたい所とかございます?」


「え?うーん…特に無いかな。

でもぐるっと回りたいかも。」


「分かりました!お供致します!」


「ありがと!」


僕は背後に何か視線を感じながらシャル君と図書館を後にした。


 …


「いやーいっぱい歩いたね!」


「そうですね!」


結局ぐるっと回ったけど収穫無しだったので食堂に戻ってきた。

結構人が居る。アビスは居ないだろうな?

気を張ろうとするけどお腹が減って集中力が持たない。


「お腹減った〜…。」


「あ、食券?を買えば良いみたいです!」


「ヨシュアには悪いけど先に食べよ…

お腹減りすぎて気持ち悪くなってきちゃった。」


「そうですね、お先に戴きましょう。」


2人で大きな食券機の前に立った。

すっごい種類…。

写真が載ってるからどんな料理か分かりやすい!

あ、ハンバーグプレート!!

エビフライにポテトにハンバーグが乗ってる!

これにしよっと!

 

あれ?


「…これどうやって買うの?」


食券を発行するにはお金が要るよね?


取り敢えず押してみよ。えいっ。


ボタンを押すと食券が発行された。

電子板に【エクス=アーシェ:ハンバーグプレート】と現れていた。

食券にも同じように印刷してあった。

ボタンを押した指で誰か認証するシステムか…。朝昼夜のご飯は無料で間食は自分で払えってヨガミ先生言ってたっけ。

注文したのが誰か分かればタダで食べまくる人も出てこないわけだ。便利システム!


「僕決まったよ!シャル君は?」


「うーん…迷います。

エクス君何になさいました?」


「ハンバーグプレート!」


「美味しそうですね!

…ちょっとオレには量が多いみたいです…。

うーん…あ、これにします!」


【シャーロット=アルカディア:ビーフシチューパイ】と電子板に現れた。

食べ物まで気品溢れてる…!


食券受け取りと書いてある機械に自販機のお札を吸い込むような所があり、食券の大きさに合っていたので置いてみるとシュッと

吸い込まれて無くなった…。


「あいてっ」


頭に何かプラスチックが当たった。

咄嗟に手を出してキャッチする。

何だこれ、透明な円盤?色々な角度で見ていたら

【エクス=アーシェ:ハンバーグプレート】と円盤の中に小さく文字が現れた。

机ニ座ッテ待ッテイロ。とも書いてある。


言葉遣いよ。


同じように食券を機械に入れたシャル君の目の前に白い光の玉がふよふよと浮き、疑問に思った彼が両手を揃えると光の玉は円盤となり優しく乗った。


…扱い違くない?


「シャル君、円盤みせて!」


「はい。」


覗き込むと【シャーロット=アルカディア:ビーフシチューパイ】と書いてあり、

机ニ座ッテ待ッテテネ♡と書いてあった。


扱い違くない?


疑問を持ちながらも給水器から紙コップに水を注ぎ、先程座っていた席に戻った。


「ふふ、料理が楽しみです!」


「だね!

あんな種類沢山あると迷っちゃうな〜!」


「ですね!あ、そうだ。

エクス君、少々お伺いしたい事が。」


「何?」


「エクス君は何故召喚士になろうと思われたのですか?」


「えっ」


唐突な質問につい驚きの声を出してしまった。

ゲームの主人公は入学した理由なんて語ってない。当たり前のように入学して、当たり前のようにその日々を過ごしていただけ。

彼の意志など知らない。

ゲームの主人公の創られたエクス=アーシェの意志など…


「ぁ…っと…」


「も、もしかして何か言い辛い事を聞いてしまいましたかっ!?すみません!」


シャル君に謝らせてしまった。

急いで訂正しろ!僕!


「違うそうじゃない!ただ…」


「ただ?」


「ただ…自分を変えたいと、思ったんだ。」


あれ、口から勝手に…。


「僕、昔から根暗で内気で何も取り柄が無くて。

けれどこんな僕でも人を護る為に戦いたい、強くなりたい、変わりたい。

そう思ったから、だよ。」


適当に喋ってしまった。

何言ったか覚えていない。

シャル君はニコリと微笑んだ。


「初めて会って全く貴方のことを知らないのに何故だかそれが貴方の力の源なのだと感じます。

でも、取り柄が無いなんて言わないでください。貴方を心の底から応援致します!」


本心…。そんな気がしてきた。

そうだ、コレは僕の物語だ。

ゲームに囚われるな。僕が主人公なんだ。

彼に倣う必要なんて無い。


「口にしたら頑張ろうって思えたよ。

ありがと、シャル君。」


「いえ!

こちらこそ教えて下さり有難う御座いました。」


ちょうど良いタイミングで置いておいた円盤が光り輝く。え、何?爆発する!?


流石にそんなことは無く、円盤が最高潮の光を発した後、円盤の位置にハンバーグプレートがナイフとフォーク、白ご飯付きで机に現れた。


「わぁっ!すっげぇ!」


「転移魔法の類でしょうか…!」


「「いただきまーす!」」


うはーっ!

こんな豪華なご飯はいつぶりだろう!

小学生以来かもしれない!

肉がうんまーーいっ!!


「美味しい…!」


上品に膨らんだパイを崩しながら食べる推しはとても絵になる。

シャル君はご飯じゃなくてサラダが付いてる!


「んね!!マジで美味い!

早くヨシュア来ないかなー?」


「ですね…!」


「呼んだ?」


「「うわっ!」」


目の前に円盤を持ったヨシュアが。


「ごめん先に食べてる!」


「すみません!」


「何で謝るの。寧ろ待っててくれなくて良かったよ、こっちが申し訳なくなるから。」


と笑うヨシュア。育ちが良いなぁ本当に。


「あ、来た。」


円盤がサンドイッチとコーヒーに変わった。


「え?それだけ?」


「だって夜ご飯もあるし。」


「あ。」


 忘れてたっ!!!


「夜ご飯、エクスが食べられなかったら俺が食べてあげる〜。」


「お願いするよ。先生に会えた?」


「うん、話せたよ。」


良かった…安心した。

ヨシュアはコーヒーを1口飲んで


「アビスは?」


と聞いてきた。


「僕とシャル君は会ってない。ヨシュアは?」


「俺も。急に静かになったよね。」


「何も企んでないと良いけど…。」


ヨシュアの皿は空になってた。


「ね。あ、エビフライうま!」


「それ美味しいよね。魔物にしては。」


「まもの?」


ヨシュアにしては中々の冗談を…


「え?エクス知らなかった?」


「えっ!?」


そりゃあ知らないよ!!


「お肉とか、多くは魔物さんなんですよ。

 オレも食べたことあります!」


「知りたくなかった!!」


「(普通の家畜も居るけど貴族が買い占めちゃってるからなー。俺は兎も角、シャルが魔物を食べたことあるとは…ちょっと意外だったな。)」


ん?ヨシュアがシャル君を見ながらコーヒーを啜ってる。…惚れたか?

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