第20話『推しとの出会い』

 前回のあらすじ


ゲーム内に居なかったはずの

アビス=アポクリファというヤバい男に目を

つけられました。


ゼウスが言うに彼はベヒモスかグリフォンのどちらかは殺しているらしい。

もしかして両方とも…?

と、兎に角スピルカ先生とヨガミ先生に

知らせに行かないと!


 …


倉庫を出た僕達はまた前みたいに角を曲がる。このタイミングでリリアンさんとぶつかっちゃったんだよね。今度は大丈夫だろう…


「アッ待ってエクス!!」


どむっ!!


「ふぎゃあっ!」


「わぁ!!」


大丈夫じゃなかった!!またぶつかった!!また尻もちついた!

テレビで“だろう運転良くない”って言ってたもんな!!本当に良くない!!

しまった!


僕は素早く立ち上がって相手に手を差し伸べ…


「ぁぃったた…」


綺麗なブロンドヘアの美女が居る……。

ハッ!!ダメだ彼女は無事だろうか!?


「だっだだだ大丈夫ですか!?

僕の不注意ですみませんっ!!」


「ぁ…大丈夫です…。」


彼女は差し伸べた僕の手をとってくれた。

ぐいっと引っ張って立ち上がるのを手伝うと…彼女は僕より背が高かった。


 …ん?


「私…じゃない。ぼく…でもなかった。

お、オレの方こそすみません…。

お怪我は?」


声が…綺麗な男声だ。

私?僕?俺?ん?あれ?ズボン履いてる?


「アッ…だいっ…だいじょ、ぶですっ!」


「良かったぁ…。

あれ?貴方は神クラス代表の…」


「あ、えくっエクス=アーシェともももも

申します!」


「あぁ、やっぱり!わた…っ…オレも神クラスなんです。同じですね。

あ、申し遅れました。

わ…オレ、シャーロット=アルカディアと申します。男です!」


男です…男です…おとこです?

そういやどっかで……


「あーーっ!!」


思い出した!


「ひっ!?」


「あっごめんなさい!」


そうだ!彼はシャーロット=アルカディア!

僕の特に好きなキャラの1人だ!!


ヲタクとしてここで語らない訳にはいかない。という訳でちょっと語らせて下さい。


この顔が美しい彼はアルカディア家の由緒

正しき伝統を護る為に女性として育てられたんだけど、生まれ持った性である男性として

強くなりたいと決意して親の反対を押し切り家出同然で魔法学校へ入学した意思の強い

キャラ!この思い切りの良さ、

変わろうとする意識が魅力的だったんだ。

リアルの僕は出来なかったから。

女性に間違われることがとても多く、その

原因の一つである彼の髪は肩より下まである。

確か親へのせめてもの償いとして髪は切らないでいるとか。礼儀正しく美人ということで男女問わず人気。


それは3次元の相手だと。


2次元この世界が相手だと綺麗すぎて疎まれちゃう可哀想な存在。それをエクスが救ってあげる…。理由は違うけど苦しい環境はとても共感出来た。

思い入れが深いキャラなんだ、彼は。

平たく言うと推しである。


エクスがこの第2のヒロインを助けないと…!


「えっと…エクス君?どうかなさいました?

わた…オレ何か気に障るようなことしてしまいましたか?」


「とんでもない!僕がぶつかっちゃって

申し訳ないなって思ってたんです!」


「そんな、わた…オレの不注意が原因なんです!気になさらないで下さい!」


女神か…っ!!


本当に一人称を直すの可愛い……な…

ん?あの廊下を歩いているのアビス!??

アッ目が合った!!にこやかに笑った!!


手を振りながらこっちへ走ってきた!!!


「うわぁあっ!!ゼウス!!ヨシュア!!」


リリアンさんの時のように角から出てこなかったヨシュアとヨシュアに止められていた

ゼウスに呼びかける。


『何だマスター…む、アビス!』


「え?…うわっ本当だ!!」


「早く逃げよう!!」


「えっ?!えぇ!?」


困惑するシャーロット君に説明したいけど

急いでるしそのまま、はいさようならとかしたら彼がアビスに何かやられるかもしれない!!


「あっえっと〜そのぉー…一緒に来て!」


「えっ!!?」


シャーロット君の手を掴み走り出した。


 …


「はぁ…はぁ…ぅぇっ…ぁー…」


「こ、ここまで来たら…

だいっ…じょぶ…でしょ…」


「はぁ…っ…はぁ…っ」


『ふむ、マスター達は揃って体力が無いな。』


僕らは廊下をぐるりと一周してアビスの死角が生まれた瞬間、またまた倉庫に入った。

ゼウスがさっきみたいに瞬間移動させてくれれば楽だったのに…!


「っ…ど、どうしたのです…?エクスくん…」


シャーロット君が説明を求めてきたけど


「あ…息が…整ったら…話すよ…。」


と僕は寝転がった。


 間。


「っ…よし、息が整った。

まず紹介しなきゃだね。この神々しい神様が僕の相棒のゼウスだよ。」


手を添えてゼウスを紹介すると、

シャーロット君は目を輝かせていた。


「ふぁあ〜…

やはり最高神とは斯くも美しいのですね!」


『…!…っふふふ…そうだろうそうだろう?

もっと褒めるが良い!!』


うわぁ…美人さんに褒められたから超嬉しそう。そういう所は流石神話の神様だよなぁ。


「お美しいです、ゼウス様!」


言わなくて良いよシャーロット君。


『ふはははっ!貴様気に入ったぞ!名は?』


「シャーロット=アルカディアです。」


『シャーロット…?貴様、男だよな?』


「…はい。家柄で男として生まれた私は女性として育てられました。その事に関して恨みとか、負の感情はありません。

お気になさらず。」


私に戻っちゃってるよって伝えた方が良いのかな…。


『そうか。

美少年とは…恵まれたものだな、貴様。』


「…はい。」


「俺ほっとかれてる?」


ヨシュアが居心地悪そうに頭を搔く。


「あ、すみません!

わた…オレ、はしゃいじゃって…」


シャーロット君が申し訳なさそうに眉を下げた。


「シャーロットは悪くないよ!

じゃあ改めまして、俺はヨシュア。

ヨシュア=アイスレイン。よろしくね。」


「わ…オレはシャーロット=アルカディアです!ヨシュア君も神クラスですか?」


「うん。パートナーはプロメテウスだよ。

今はちょっと休憩してもらってるけど。」


「わぁ…!良いですね、プロメテウス様!

神話によると人々に火を与えてくださったという…!」


「あ、待ってその話は…」


僕の声も虚しく、ゼウスは手の指の関節を

ボキボキとならして青筋を立てていた。


『私から火を奪いよって…

次会ったらぶちのめしてやる…!』


「ぁ…ごめんなさい!」


シャーロット君が謝るとゼウスはすんっと

何事も無かったかのように


『気にするでない。』


と言った。大分気に入ったんだね…。


「シャーロットのパートナーは誰?」


ヨシュアが聞くとシャーロット君は笑みを

浮かべ魔導書を両手で持ち見せてくれた。

スピルカ先生とはまた違った星空のような

デザインの魔導書。

神秘的な月が表紙の上の方に見える。


「わぁ…綺麗だね!」


僕がそういうと嬉しそうに頷いた彼は


「出てきて、アルテミス!【summon!】」


と、本から相棒をだす。


現れたのは月のように輝く色素の薄い女性。

若干青みがかった白い髪の毛はふわふわな

ツインテール、服の胸元部分は三日月型の細かい金細工が煌めく大きな白いリボン。

白いドレスを身に纏う彼女は月の女神と言われるに相応しい姿だった。


「紹介しますね。

オレの相棒のアルテミスです。」


『はーい!呼ばれて降臨アルテミスです!

…ってパパ!?』


『おぉ、アルテミスか!』


『パパー!』


むぎゅっと抱き合う親子の図。


またゼウスの子供シリーズ!?

一体何人の子供が居るんだ…!?


「凄いね…俺らのクラスでオリュンポス

十二神がほぼ半分居るなんて…。」


「…ね。」


『貴方達はシャルのお友達?やーん!

この子可愛いから護ってあげてねっ?』


ゼウスから離れシャーロット君の肩に手を置きこちらを大きな瞳で見つめるアルテミス。


「ちょ、ちょっとアルテミス!わたっ…オレは護られません!オレが皆を護るんです!」


『んもー!そういう所も可愛いーっ!』


「んぐっ!?」


強烈なハグ攻撃をくらうシャーロット君を

見てあげることしか出来ない僕とヨシュアは暫く見守った。

…別に羨ましいとか思ってないもん。


『アルテミス。アポロンもこちらに居るぞ。』


『えっ本当?!

やったー!会うのが楽しみだわ!』


アルテミスが、ばっと両手を挙げたのでハグから解放されたシャーロット君。

酸欠になっているようだ。


そっか。ヨガミ先生のアポロンとは双子なんだもんね。


「…あ、あの…エクス君、ヨシュア君。

 さっきは何故逃げると仰ったのですか?」


息が整ったからかシャーロット君が不思議そうに見つめてくる。アビスって男から逃げたって正直に言ってもいいのかな。


「えっと…」


『マスター。コイツらは信用出来る。

私が保証する。』


とゼウスが言ったので頷いた僕は魔獣殺しの事は伏せ、アビスが危険人物だと知って

逃げたのだと告げた。


「アビス=アポクリファさん…ですか。」


「アルファクラスなんだって。クラス違うから良かったけどアイツは危険だ。

俺の本能がそう言ってる。プロメテウス出してたら喧嘩売って瞬殺されたと思う。」


ヨシュアは魔導書を持つ手に力を込める。


「…恐ろしい人ですね。

あの…2人とも、これからどうなさるのです?もし宜しければご一緒したいのですが…」


「あぁ、それはもちろ…」


ん、待てよ。スピルカ先生とヨガミ先生に

アビスの事を伝えなきゃだ。

信用出来ると言っても彼には魔獣殺しの事をまだ伏せておきたい。

けれど断りたくない…推しの頼みを…っ!


するとヨシュアがくすりと笑った。


「俺はちょっとスピルカ先生に話したいことがあるから別行動させてもらうよ。

シャーロットってもうご飯食べた?」


「いえ、まだです。」


「俺達も食べてなかったんだ。じゃあ俺も用事が終わったら合流するから、場所は食堂!

俺の用事は多分時間掛かるから2人はゆっくり校内回ってて!満足したら食堂に来るくらいゆっくりで!」


ナイスヨシュア!!本当に気が利く良い奴!


「分かった!

じゃあシャーロット君、一緒に行こ!」


「はい!…あの、シャーロットと言うのは長いので宜しければシャルとお呼びください!」


「うん!じゃあシャル君、レッツゴー!」


と、扉を開けた。


「あァ〜!みぃ〜っけ♪」


笑顔のアビスがそこに居た。



僕は光の速さで扉を閉めた。

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