第27話『偉いじゃん、僕』

 前回のあらすじ


 箒が暴走し振り回された僕はゼウスから睡眠魔法をかけられたと言われました。

 やっぱり授業で寝たのは魔法だったんだ!

 一体誰が…。


 …


 僕の魔力量が原因ってどうしようもなくない?

 てかゼウスが創った箒だから何とかしてもらわないと困る!


「ゼウス!何とかしてよ!」


『うーむ…分かった。やってみよう。』


 僕から箒を預かると、彼は箒を浮かせ、

 少し遠い生徒1人の頭に…クリティカルヒットさせた。


 ……………?

 …え?


「いや何してんの!??」


『マスターに睡眠魔法かけた不届き者だから成敗しようと思ったのだ。』


「やりかたってもんがあるでしょうがっ!!」


 僕は急いで倒れた彼の元へ走った。


「だっ…大丈夫!?ゼウスがごめ……」


 あれ?何処かで見たことある顔…。


 あ、確か昨日食堂で僕の陰口叩いてヨシュアから逃げた奴だ。


 よく見ると転生前のいじめっ子と同じような顔ということもあって途端に謝る気が失せてしまった。

 なんならぶん殴っても良いのでは?と邪な考えが浮かんできた。


「…。」


『マスター?』


 僕は気付くと魔導書から取り出したゼウスの光杖を握りしめていた。


「う、うぅ…。」


 倒れていた彼は唸りながら目を開けた。

 別に鼻ぐらい火傷しても大丈夫だろう。

 僕はそれ以上の事を受けたのだから。


「…」


『おい、マスター。どうしたのだ。』


「な、何だよぉ…!」


 怯えた目…いつかの誰かを思い出す。


「…………おあいこ。」


 僕は自分に言い聞かせるように呟いてグラウンドの土を見ながら立ち上がりヨシュア達の元へ戻った。

 ブラックリストにカウントされないと良いけど…。


「…スピルカ。」

「あぁ、これは目を瞑ろう。」


 スピルカ先生とヨガミ先生は何も言わなかった。


『偉いぞ、マスター。』


 戻る最中、ゼウスが優しくそう言った。


「え?」


『何かしら私怨があったように見えた。

 それでもマスターは手を出さなかった。

 よく我慢したな。』


 うーん…ゼウスに隠し事は出来ないのかな。


『マスターが我慢する分、私が完膚なきまでに潰してやろう!』


「僕が怒られる!!せめて実技だけね!」


『む…あいわかった。』


 ゼウスに褒められるくらいなんだから本当に偉かったよね、僕。


「あ、おーい!エクス!」


 ヨシュアや皆が手を振っていた。

 皆の輪に走って戻るとシャル君が少し怒った顔で近付いてくる。


「本当に心配したのですよ!オレ達じゃ速度出ないから助けられないのがもどかしくて!」


「あははー…心配かけてごめんね…。」


「だが素晴らしい速度だったね!僕だってすぐにあそこまでスピードを出してみせるさっ!」


 決めポーズしているローランド君の後ろでアフロディーテが小さく首を横に振っていた。


 無理って言ってるよ。


「エクス君すっごーい!あたしもあんな風に速く飛べる?」


 イデアちゃんは楽しそうだ…当事者になると恐怖しかないんだよと伝えた方が…いや、箒手放し飛行出来る子が恐怖を覚えることは無いよね。うん。ロキ変なこと言わないだろうね…?心配になり彼をちらりと見ると腕を組んで眉間に皺を寄せていた。


『あんな速度だせねぇよ…。それに危ないから俺は薦めない。』


 珍しくロキがまともだ…!


「じゃあ今から箒に乗ってグラウンド1周してこーい!」


 スピルカ先生がピーッと笛を吹いた。

 それを聞いて動き出す生徒達。


「エクス、俺の後ろに乗る?」


 ヨシュアがカッコよく親指で乗っているバイクを示す。あまりの出来栄えに箒という事を忘れそうだ。乗りたいけどプロメテウスが


『ダメだマスター。これは2ケツ禁止!

 ゼウスの召喚士なら尚更だ!』


 と火をパチパチ爆ぜさせながら僕を睨む。


「えー…。」


「僕の事は気にしないで!気持ちだけ貰っとく!」


 そう言うとヨシュアは心底悔しそうに


「ごめんね…これの良さを伝えられないなんて…!悔しいよ…っ!」


 と唇を噛み締めて涙を流す。

 そ、そんなにだった…?


「じゃあ俺達先に行くね!」


「うん!」


 ヨシュア、シャル君、ローランド君、イデアちゃんが箒で先に飛んで行った。


「じ、じゃあ…い、一緒に行きましょ…

エクスくんん…っ」


 小鹿のように震えながら箒にしがみつくメルトちゃんが青ざめた顔でこちらを見る。


「だ、大丈夫?メルトちゃん。」


「だ、だいじょばないわ…。」


 だいじょばないのか…。


 そんなメルトちゃんをアテナがオロオロと心配している。


『マスター、どうかご無理なさらぬよう!』


「メルトちゃん、さっきまで大丈夫だったのにどうしたの?」


「…箒酔いしそうなの…。」


 箒酔い?車酔い的な?


「私乗り物に弱いの…。グラウンド1周くらいは何とか行けるから…せめて誰かと一緒に…と思って…。」


「分かった。僕で良ければ一緒に行こう!」


『お父様のマスター。そう言って我がマスターを置いていかないでしょうね。』


 先程の僕の行いを見れば当然だ。

 アテナが言っているのはマラソンで一緒に走ろうね!つって置いてく人のことを指しているのだろう。そんな事はしない。

だって僕は置いてかれる側だったのだから!


「ちょ、調整してみせるさ!!」


『その意気だマスター!』


 ゼウスの応援を背にもう一度箒を跨ぐ。

 腰を落としてからが勝負だ…!

 ゆっくり、ゆっくり…亀のように…!


 言い聞かせると自分の動作もゆっくりになる。それで良い。ゆっくり、ゆっくり。メルトちゃんと共に行けるほどゆっくりに…!


 なんと僕は箒に座れた。僕の足は地から離れている。


「や、やった!!」


「い、急ごう…エクスくぅん…っ」


 メルトちゃんが死にそうだ。

 少しでも気を抜いたらアウトだ。

 磁石の同極反発くらい強い勢いが僕を襲うんだ。怖いだろう、なら頑張るんだ僕!!


 そう念じていると亀のようにゆっくり進み始めた。


「よし!」


「うぅ…」


 メルトちゃんの顔色が優れない。心配だ。


 これ程なら先生に言った方が良いんじゃないか?


「メルトちゃん、無理はダメだよ。先生呼ぼ?」


「ダメよ。」


 首が振れないからか、彼女は口元を手で押さえながら拒否した。


「この程度でこれじゃ…ついていけないわ…!私は…立派な召喚士になるの…っ!

克服して…みせるっ!」


 と決意した彼女の速度は全く変わらないが、顔つきが変わった。僕も頷いて一緒にゆっくり回った。


 遅いと怒られた。

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