第103話『自分の顔を持たぬ者』

前回のあらすじ


ベスカちゃんの両親が無事に見つかって、

スピルカ先生から話を聞いたシオン先生と

オペラ先生と合流。今からアビス探しです!


 …


とは言ってもユリウスさんは今回は捕まえられると思わないーみたいな事を言ってたしなぁ。でも捕まえたらお手柄だよね。


…いや、悠長にしてる場合じゃなくね!??


「何やアーシェ、そわそわして。」


気持ち焦る僕に気付いたシオン先生が

振り向いて首を傾げる。…この人僕の前

歩いてるんですけど。何で気付いた?


「あ、いや…

早く捕まえないとなって思って。」


「せやな。しかし焦っては見える物も

見えなくなる。慎重に探すぞ。」


「はい!」


「…」


「どうした?昨日の後遺症とかか?」


僕の隣を歩くヨシュアが考え事をしているように下を向いて黙っていたことに気付いた

オペラ先生はミカエル人形の手をヨシュアにつんつんと当てる。ハッとしたヨシュアは

微笑み首を横に振った。


「あ、いえ。後遺症とかは無いです。

何処に行けばアビスを捕まえられるかなって考えてたんです。」


「ほー…。何か思いついたか?」


「いえ、残念ながら何も…でも木を隠すなら森の中と言いますし案外堂々として居るんじゃないかなって思ったりもします。」


「そうか。では注意深く見るとしよう。」


僕達は店の中には入らず歩きながら通行人を見てみることにした。当たり前だけどあの

水色黒メッシュ頭は見当たらない。

全ての通行人達の驚きの視線は玉藻前や

ゼウス、プロメテウスに向けられる。

シオン先生は特に目立っている玉藻前に話しかける。


「玉藻、どや?」


『うーむ、もしこの中に居るのならうんまい隠れ方しとるわ。全くわからん。

それに通行人らの視線が痛い…。』


「凄い目立ちますね、召喚獣。」


オペラ先生に言うと


「まぁ…人間じゃないからな。

此処を歩く召喚士以外で彼らを驚いた顔で

見ない奴なんてまず居ないだろう。」


「驚いた顔、か。…!」


呟いたヨシュアが急に止まって振り向いた。


「ヨシュア?」


「アイツ怪しい…!」


「「「!」」」


「不安分子は取り除く!追いかけるで!!」


「「はい!」」


「お、おう!」


踵を返し、人を避けながらヨシュアの後を

追いかける。


「何で怪しいと思ったの!?」


「エクスは不思議に思わなかった?

アイツだけ召喚獣を見ても驚くどころか

チラ見で終わったんだ!それと勘!」


「そ、そうなの!?」


そんな人気づかなかった!それに最後勘って!アビスに何かされたヨシュアだからこそ何か感じたのかな!?

今から追いかける人は召喚士か…それとも…


『どいつだプロメテウスのマスター!』


ゼウスが浮かび走っているヨシュアに

問いかける。


「あの白と緑のパーカー着てフード被ってる男!」


『…何?』


ゼウスが眉間に皺を寄せ目を細めるけど…


『どれだ?』


と首を傾げた。僕も見つけれていない。


「ほらあそこ!今花屋の看板前通った!」


『んぁ??んな奴居るか??』


『私も分からへん…。』


ゼウスを挟むように浮いているプロメテウスも玉藻前も同じように首を傾げる。


「あーもうっ!こっち!

アイツ歩いてるからまだ間に合う!」


言うより行動した方が早いもんね。


「っ…!くそ、走りやがった!!」


走る…あ!!見つけたっ!!


『『『?』』』


まさか召喚獣には見えないのか!?


「人が減った!私が行きます!」


通行人が居ない場所に出たため僕達の後ろを走っていたシオン先生は抜刀し飛び出す。


「玉藻鞘持っとれ!!」


『うわっと!』


雑に鞘を玉藻前に投げシオン先生は何かを呟く。


「【魔刃抜刀まじんばっとう七拾七番歌しちじゅうしちばんか】!」


声が聞こえた瞬間、シオン先生の刀が輝いて彼自身の速度が上がった。

その勢いで男の上に跳躍する。


「そこに…直れ!!」


右手だけで刀を振り衝撃波を生み出し、

走る男の目の前の石畳を抉る。


「っ」


男が足を止めた!!

着地したシオン先生は男の顔を睨みつける。


「手荒い事してしまい申し訳ありませんが、少し話を聞か…せ…」


…?シオン先生が目を見開いて止まった。

ヨシュアが代わりに男と目を合わす。


「あの、貴方……は……え?」


ヨシュアまで顔を強ばらせる。

僕とオペラ先生は何が何だかよく分からず、

オペラ先生のミカエル人形と顔を見合わす。

その後ヨシュアの震える口から


「に…さん?」


と零れる。


「え?」


もしかして兄さんって言った?でもそれならシオン先生が驚く理由って何…?


「……」


玉藻前も不思議に思ったらしく耳と9本の尻尾を下げながら話しかける。


『紫苑…?君達もさっきからどないしたん?何も無いとこ見て驚いて…』


何も無いとこ??もしかして見えてないの?


「ゼウス、この人見えないの?」


僕が指さす所をじっとみるゼウス。

やがて首を横に振った。


『全く見えん。…あ、ちょっと待てよ。

あと少しでスキルロックが外せそうだ…!』


ならその間に…


「シオン先生、どうしたんですか?

この人知り合いですか?」


「……いいや…分からん……。

だが…ひどく懐かしく感じる…。

玉藻、僕の父親の顔を見せてくれ。」


『ん?翡翠か?

よう分からんけどええで。ほっ!』


その場でくるりと回って姿を変える玉藻前。

耳も尻尾も消えてただの男性がそこに居た。

この人がシオン先生のお父さん…?

シオン先生は玉藻前と彼を交互に見たあと、


「…やはり…ちちうえ?」


そう声を零し、信じられないという顔で男性を見た。父上??え?ヨシュアのお兄さんでシオン先生のお父さん?どゆこと??

僕も彼を見ないと。男は逃げも隠れもせずただ突っ立ってパーカーのポケットに手を突っ込んでいるだけ。意を決して彼を覗き込んだ。


彼の顔は…


「…」


口角を上げているゼウスの顔だった。


「…………え?」


『出来たぞスキルアンロックが!!

 スキル発動、【万物を見通す者】!』


驚く僕を放置しゼウスがスキルを発動させる。ゼウスの金色の目が紫色に変わり、

その目で男を見た。すると…


『ッ…!!?』


息を詰まらせた。

そしてすぐさま目が金色に戻ってしまう。


『くそっ!スキルロックがもう…!!』


悔しがるゼウスに恐る恐る聞いてみる。


「ぜ、ゼウスは何が見えた…?」


『………ま、マスターの顔だ…。』


「!…僕はゼウスの顔…。」


『なん…と…。』


「お、お前達どうしたんだ…??」


オペラ先生は何も無いのかな…?

いや、何も無いならそれで良い。

取り敢えずこの人は絶対おかしい。

見る人によって顔が変わるなんて。


「あの…もうよろしいですか?」


男が初めて喋った。声までゼウスだ。


「あぁぁあ…っ…!」


ヨシュア!?


「いやだ…やめてくれ…

希望を持たせないでくれ…兄さんはもう…」


涙で潤む目を見開き両耳を塞ぎ震えるヨシュア。そんな彼にプロメテウスは着地し肩を摩る。


『落ち着けマスター!大丈夫、大丈夫だ!』


「…」


ヨシュアを見たシオン先生は唇を噛み締め、男の首に刀の先を突きつける。


「…何の真似や。自分、ただもんちゃうな。」


『紫苑…』


「そう言われても僕はこういう顔なんですよ。」


彼が喋って動くとヨシュアやシオン先生の

顔が歪む。話から察するに彼らの目に映っている人物は既にこの世を去っている大事な人だろう。だから今、生き返ったように見えるのだろう。それはどれだけ辛いことか。

何で僕はゼウスなんだという気持ちを抑えながら男にゼウスの光杖を向ける。


「答えてください。貴方は…アビス=アポクリファと関わりがありますね。」


「さぁ…知りませんね。」


しらばっくれる男に苛立ちを隠せず居ると

玉藻前が元の姿に戻って男を指さす。


『…ゼウスはんのマスター。私、嗅覚に自信あるんやけど…ここに誰かが居るんやろ?

そいつ人間の匂いが非常に薄いで。

その分薬品やら何やらの匂いが仰山ある。』


それなら尚のこと逃がさない!


「!ゼウス、お願い。」


『承知した。』


「うぉっ」


ゼウスの光背が小さくなった円が2つ浮かび上がり、男を中心に胸の位置と太腿の位置で締め付ける。その勢いで男は尻もちをついた。


「いってて…」


腰を擦ろうとする男の顬に拳銃を突きつけるヨシュア。無言でトリガーを引く人差し指に

力を入れている。


「ダメだよヨシュア!!殺しちゃダメ!!」


「…」


光を落とした目だけが僕を捉える。

氷のような冷たい瞳に宿った殺気に気圧され息が詰まってしまう。


「ッ…」


「プロメテウス、アイスレインマスターを止めてくれ。頼む、コイツを殺したらアカン。」


『わぁってる!』


プロメテウスは嫌そうにシオン先生を見てから拳銃を右手に持ち、ヨシュアの拳銃を撃ち手から離させる。すかさずヨシュアの後ろに回り両手を掴んで動けないようにした。


「ベルカントは連絡を。」


「う、うむ!」


シオン先生はデバイスを取り出すオペラ先生を横目に刀を握る手に力を込める。


「死にとうなかったら正直に答えろ。

まずは名を名乗れ。」


「脅さなくても答えますよ。

僕の名前はネームレス。」


ネームレス…?名前が無いっていう名前?


「顔はどういう事や。何故私の目には父上が映り、この子達の目には兄や召喚獣が映る?」


「あぁ、その話ですか。僕は生まれつきんですよ。その分、僕の顔を見た人の大切な人の顔になってるらしいです。」


……は?

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