第102話『発見親子うさぎ』

 前回のあらすじ


 アビスが城下町の何処かにいる可能性が高くなり、僕のスマホ…じゃない、デバイスに仕込まれたAIのアイオーンに頼んでユリウスさんを始めシャル君、メルトちゃん、スピルカ先生に連絡してアビス捜索開始!

…の前にベスカちゃんの親を捜す要員としてゼウスがタナトスとヘルメスを呼んだら…


もう見つかったって。


 …


「タナトス、見つかったって本当?」


 石畳から顔だけ出しているタナトスを疑う訳じゃないけど…ちょっと聞いてみる。すると彼は


『多分。』


 と曖昧な返事をした。多分か。でも候補がある時点で僕とヨシュアの数歩前を歩いているようなものだもんな。ゼウスの代わりにマスターとして言わなきゃね。


「ありがとう、じゃあ連れてきてもらえる?」


『分かりました。』


 小さく頷いて石畳に沈んでいくタナトス。彼は情報を集める時に何で地面から顔しか出さないんだろう。


「ゼウス、タナトス凄いね。」


『うむ、私の手足の1人だからな。』


ヨシュアに褒められてゼウスも嬉しそうだ。


『ゼウス様、マスター。』


 ん?聞き覚えのない声が上から聞こえる。

顔を上げると、ヘルメスが僕らを見下げていた。彼はふわりと目の前に着地して青い帽子の鐔を上げる。


『子供を捜す親を1人発見致しました。如何なさいます?』


「え?1人??」


 ヨシュアが聞き返すとヘルメスは頷いた。


『えぇ、男性が1人です。』


 ベスカちゃんはパパとママと言っていた。じゃあタナトスの方はどうなるんだ?


『連れてこいヘルメス。』


 僕が考えている最中でゼウスが彼に指示を出す。


『マスター、考えても良いが1番はこの童自身が決めること。それにタナトスは両親を見つけたとは言っておらぬ。故に母親1人かもしれんだろう?』


「あ、確かに。ヘルメス頼むよ。」


『畏まりました。』


 彼はまた浮かび上がり、空中を蹴って速度を出して何処かへ向かった。その様子を見ていた僕達。ヨシュアはゼウスに疑問をぶつける。


「ゼウス、あの2人ってエクスの魔力で呼び出してるの?」


『いや、私の魔力だ。しかし彼らと召喚の契りを行ったのはマスターの魔力だがな。無論、私を呼ばなくてもあの2人をマスターは呼び出せるのだ。』


「へぇ!それは凄いね。召喚獣3体なんて!」


 褒めてくれるヨシュアを見下ろして


『別にマスターは俺様だけで十分だろ?』


 と少し不機嫌そうに呟いた。


「ふふ、まぁね。あ、ねぇアレ見てみて。

タナトスとヘルメスじゃない?」


 ヨシュアが指さす方には確かにタナトスとヘルメスが。その後ろには走ってくる男女が居た。彼らは僕らの目の前で足を止め、タナトスとヘルメスは頭を下げる。


『ゼウス様、マスター、連れて参りました。』


『僕達はこれで失礼致します。』


「あ、うん。ありがとうね。」


『ご苦労だった。』


 魔導書に戻った前2人を驚いた顔で見ている後ろの男女。驚く事かなぁ?まぁいいや、今はベスカちゃんだ。


「こんにちは、貴方達はベスカちゃんの…」


 親なのか何なのか知るべく声を小さくすると女性が目を見開いて


「ベスカの親です!!」


 と僕の肩を掴んだ。凄い焦ってる顔…本当のご両親かな、と少し疑ってしまう自分がいる。そのまま視線を男性に向けると、視線に気付いた彼はポリポリと頭を掻いた。


「恥ずかしい話、俺達夫婦は超がつくほどの方向音痴でして…迷って地図を熱心に見ていたらベスカが居なくなっていて…妻ともはぐれてしまって…。」


 ほ、方向音痴だって…?


「とりあえずベスカ起こそう。ベスカ起きて!…プロメテウス、お願い。」


『おう。おい、起きろ。親が来たってよ。』


プロメテウスは地に足をつけて上下に揺れ、ベスカちゃんを揺り起こす。やっぱ優しいな。


「ん…んんぅ…」


 あ、起きた。

寝ぼけ眼を擦るベスカちゃんは両親らしき2人を数秒見る。段々と頭が冴えてきたようで


「パパ!ママ!!」


『うぉっ急に危ねぇな!』


 プロメテウスから落ちそうになるほど2人に手を伸ばす。


「…信じていいね。」


と言いつつも少し疑っているようなヨシュアに頷いたプロメテウスは父親にベスカちゃんを手渡す。


『ほらよ。』


 ベスカちゃんを受け取った2人は彼女に顔を寄せる。その顔は安堵と、そこから来た涙で目の辺りが濡れている。


「ありがとうございます…!!ベスカ、ごめんよ!パパとママがしっかりしてなかったから…」


「本当にごめんねぇ…!今度はずっと手を繋いでいましょ!」


「うんっ!!」


 バニたんを母親に渡し両親と手を繋いだベスカちゃんは満面の笑みを向けてくれた。


「エクスおにーちゃん!ヨシュアおにーちゃん!ゼウスおにーちゃんにぷろ…?ぷーおにーちゃん!ありがとー!!」


『プロメテウスな!!』


 プロメテウスは長くて覚えられなかったんだな。僕とヨシュアは3人に手を振った。


「ベスカちゃん!ちゃんとパパとママと手を繋いで離れちゃダメだよ!」


「迷子になるなよベスカ!パパとママをしっかり見てあげてね!」


「うん!分かった!」


 ゼウスも腕を組んで両親を見やる。


『両親も両親ぞ。二度と愛娘の手を離すでない。』


「「は、はい!」」


『…』


 プロメテウスは何も話さない。ベスカちゃんはそれが少し寂しいのか眉を下げる。


『う……あー…そのウサギ…バニたん?を大事にしろよ。か、可愛いんだから。』


 そんなベスカちゃんに気付いたのか照れ隠しにそっぽを向きつつ言葉を口にするプロメテウス。ベスカちゃんは聞けたのが嬉しかったのかこれでもかと言うくらい口を吊り上がらせて大きく頷いた。


「うんっ!!」


「本当にありがとうございました。あの、お礼は…」


「別に要らないですよ。ね、ヨシュア。」


「うん。お礼のためじゃなくてベスカの為に動いただけだから。」


「なんて心優しいのでしょう…本当にありがとうございます…!貴方達に神の御加護があらんことを!」


 そう言うと両親は深々と頭を下げて僕達に背を向けた。


『(神は私だがな。)』


 何か言いたげなゼウスとヨシュアと共に小さくなる背中に暫く手を振り続けた。


「「ばいばーい!」」


 そして見えなくなってから手を下ろす。


「見つかって良かった…本当に。あの子の笑顔を守れた…よね。」


 言い切りたかったけれど自信が無くなりヨシュアに聞く形になってしまった。彼は少し笑って


「うん、だと思うよ。」


 と言ってくれた。


「……。」


 嬉しい気持ちと同時に羨ましいという思いが出てくる。やっぱり前世の記憶って嫌な事ばかりだから強く覚えているのかな。楽しいこと思い出そ。楽しいこと………


 あれ?


 前世は何が楽しかったんだっけ。


 あれれ?


 記憶が霞みがかっている感じ……。あ、そうだ。デウス・エクス・マキナだ。僕の唯一の生きがい。今その世界に転生しているのに思い出せなかった。ひょっとして僕おかしい?


「エクス?どうしたの?」


 いけない、こんな顔してるとヨシュアに心配をかけてしまう。


「ううんごめん、何でもない。」


「…そう。俺じゃ頼りないかもだけど相談してね?」


「頼りなくないよ。僕も同じ言葉をヨシュアに送るよ。」


「それこそ頼りなくないよ。……じゃあアビス探そっか。無理はしない程度に。」


「だね、じゃあ何処から探る?」


「そうだな…」


「アーシェ、アイスレイン!」


 この声はシオン先生?声に振り向くと髪が白黒のオッドアイで簡易的な着物姿のシオン先生と相変わらずワインレッドに黒フリルのドレス姿のオペラ先生が居た。


「シオン先生とオペラ先生!」


「お前たち、怪我あらへんか?」


「はい、無傷です。」


 ヨシュアの返答にオペラ先生のミカエル人形が口を開く。


「お前達が無事で良かった。スピルカから話は聞いてる。一緒に探すぞ。」


あれ?オペラ先生片方手ぶらだ。

ケット・シー人形どうしたんだろ?それに先生が2人…?気になったので聞いてみよう。


「あの、先生方は2人ずつ僕達全員についてくれるんですか?」


 シオン先生は首を横に振った。


「いいや、君達のとこだけ私とベルカントの2人やで。手負いの私と倒れたアイスレイン…万が一の戦力的にベルカントが居た方が良いという事になったからこうなった訳や。私達以外はデイブレイクとテレサリアが向かった。ま、私の左手動かしても多少軋むくらいで済むほどに回復したし問題あらへんのやけどね。」


「軋むの良くないっ!」


 怒ったようにミカエル人形をシオン先生の顔にぐりぐりさせるオペラ先生。なんか珍しい組み合わせだなぁ。


「痛っ分かった分かった、なるべく動かさんから!人形離してや!」


「絶対だぞ!」


「善処はする。」


「…」


 納得してないオペラ先生本人の口がへの字だ。確かに無理して欲しくないよなぁ。


「そうこうしてる内にアビスがおらんくなってまうかもしれへんぞ。早く向かうで。」


「向かうって何処に?」


 僕達の疑問を受けたシオン先生は一瞬僕達を見て、視線を泳がせた。


「…………」


 あ、これ考えていないやつだな。


「…………来い、玉藻前たまものまえ!」


 少し考えた結果、玉藻前を呼ぶ事にしたシオン先生。青い炎と共に小さな白い九尾の狐さんが現れる。


『呼ばれて参上玉藻前!…あ、姿間違うた!ちょい待っとって!』


 くるっと一回転して人型になる玉藻前。


『よしっと。紫苑?どないしたん?』


「人探ししたい。手伝って欲しい。」


『そういう事ならお狐さんに任せとき!

で、誰?』


「アビス=アポクリファという奴や。」


『アビス=アポクリファ?…もしや紫苑を怪我させた原因やないか?それ。』


玉藻前の雰囲気が急に怖くなった…!

シオン先生は臆せずこくりと頷く。


『やはりか。ええで、さっさと見つけて皮を剥いだりましょ。いや、皮と肉を剥いで骨だけにしたるわ…!!』


 鉄扇を広げた玉藻前は元の大きさに戻る。


「し…玉藻、あんま目立つのはよろしゅうないのやけども。」


 眉間に皺を寄せるシオン先生の右腕をつんつんする玉藻前。


『しゃあないやーん。気配感知は本来の姿の方が優れとるんやもん。変化すると魔力も減るし感知も鈍るで悪い事しかあらへんし。堪忍してや。』


「…はぁ…分かりました。ほな行こか。元凶を探しに。」


「「はい!」」


「うむ!」


せめてアビスの手がかりだけでも掴みたい…!

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