第52話『ショック療法』
前回のあらすじ
…またアタシ?分かったわよ。
保健室に来たアタシとイデアちゃんが目にしたのは骨と皮だけになった見るに堪えない
モーブだった。でもラブラビという少し頭がおかし…いえ、特殊な人がパナケイアという女神と共に彼を普通の人間に戻したの。
それで話を聞いているところよ。
…
「じゃあ…
その薬をアンタに渡したのは誰?」
そう聞くと彼は目を見開き、呟いた。
「お、思い出せない…。」
やっぱり先手を打たれたか。
心の中でアタシも呟いた瞬間
「あぁ…っやだっやだ!!やだやだっ!!」
「っ!?」
モーブが急に暴れ始めた…!
「スカーレットちゃん、イデアちゃん、
危ないから離れて!」
「え、えぇ。イデアちゃんこっち。」
ラブラビに言われアタシは立ち上がって隔離するカーテンが背中に当たるくらい離れた。その後イデアちゃんの手を握って引き寄せる。
「どうしたの〜?
ほーら可愛いラブラビだよー?
だから落ち着いて〜?」
ラブラビの声は耳に入っておらず、
頭を抱え激しく動くモーブ。
「あぁああっ!!思い出せないんだっ!!」
普通、たかがそれくらいで暴れるかしら。
いえ、普通じゃないから暴れるのよね。
「顔がぐちゃぐちゃに塗り潰されててっ!!手も足も見えないぃい!!」
アタシの制服を掴んでいるイデアちゃんの手に力が篭った。驚いた、この子も怖いという感情が存在するとは。
大丈夫、アタシが守るから。
「錯乱…まだ忘却魔法とかを掛けられているかもしれないわ。パナケ…」
「待ってラブラビ。アタシがやる。【summon】」
片手で取り出した魔導書からイーリスを呼んだ。
『お呼びですか主様。』
「えぇ。
この暴れてる奴を落ち着かせて頂戴。」
『畏まりました。』
イーリスはモーブに手を向けた。
すると虹色の光が彼を包む。
イーリスの光は状態異常を消す魔法。
もし忘却を掛けられているのならこれで何とか…。無理でも錯乱は鎮めたい。
「どう?イーリス。」
『…これは…特殊な忘却魔法です。
彼の奥底に染み付いたような…。思い出そうとすると彼の記憶や精神を犠牲にする可能性が高いです。』
つまり忘却魔法が粘着シールみたいになってて、剥がそうとすると記憶や精神も一緒に取れるかもしれないってことかしら。
「つまり、今の彼は思い出そうとして精神が変になって錯乱中ってこと?」
『はい、そのようです。このような特殊な魔法は高度です。それこそ究極魔法くらいの…。』
「そう…困ったわね…。」
まぁ最初から一筋縄で行くとは思わなかったけどね。黙るか嘘を吐くかのどちらかを
モーブがとる可能性。
それと、犯人が彼に口止めをする為に仕掛ける可能性。何かがあるとは思ったけど…
ビンゴね。
『錯乱、抑え込みに成功しました。』
イーリスの言う通り、
モーブは静かに眠っていた。
「ありがとう、戻って頂戴。」
『は。』
イーリスは魔導書に戻った。
そしてイデアちゃんをラブラビに任せて彼の胸ぐらを掴む。
「寝てる場合じゃないでしょ。
おら、起きなさいよ。」
「あわわっスカーレットちゃん乱暴、
めっ!」
そんなの知らないわ。
「んぅ…っ」
よし、目を開けた。
「もう一度だけ聞くわ。
アンタ、薬を貰った奴を覚えていないのね?」
「…うん…」
「よし、分かったわ。
歯を食いしばりなさい。」
「え」
「アタシ、右利きなの。握力強くてさ。
じゃ、おやすみぃ〜♪」
「えっ何それ関係な…ぎゃあぁああっ!!」
…
「スーくん!急がないと!」
「い…急いでいるわよ!」
アタシの方が足長くて歩幅あるはずなのに
イデアちゃん足速くない!??
「まさか…はぁっ…殴って…
思い出すなんてね!」
アタシ達が走っている理由、それはモーブを殴った直後…。
「あら、目ん玉潰すつもりだったけどコントロールしくっちゃった。ほっぺ…真っ赤ね。あははっ!アタシの髪の毛みたーい。
いや、まだ薄いか。あと3、4回殴ればお揃いになるかもしれないわぁ。どれ…」
「まっっ待って!!な、殴られて思い出したよ!!指輪!!指を覆うごっつい指輪と
ラベンダーの目!片目しか見えなかった!!
あれは…あの鮫の牙は…
絶対アビス=アポクリファだ!!それに!
部屋には絶対近づくなって言ってた!!」
「…!」
それは絶対部屋に何かあるでしょ!?エクスちゃん達が危ないってことじゃないの…!?
「イデアちゃん!」
「うんっ!行こうスーくん!!」
…という訳。
エクスちゃん達もう部屋に入ってしまったのかしら…!あーもうっ!人が邪魔っ!
…イデアちゃん?
「おっと…そんなに走ってたら危ないよ。」
イデアちゃんが、天使クラス代表
レン=フォーダンに肩を掴まれていた。
「イデアちゃんに何してんのよ。
アタシ達急いでるの。
その手を離しなさい。」
「あ、その真っ赤な髪。
クリム=アルカンシエルちゃんのお兄さんかな?」
クリムのこと…?
「だったら何よ。今急いでるの。
アンタのお遊びに付き合ってる暇は無いわ。
イデアちゃんこっちに来なさい。」
「う、うん…」
「待った。ねぇ、聞いてよお兄さん。
クリムちゃんさ、俺を避けるんだ。
何か知らない?」
「知らないわよ。
アンタが嫌いなだけでしょ。」
「ふぅん…?そっか。じゃあ様子がおかしいのも俺の気の所為だね。ごめーん、えっと
イデアちゃんだっけ。
足速いね、でも気を付けてね。
速すぎるとぶつかるまで止まれないから。」
レンは彼女から手を離し「ばいばーい」と
軽く手を振り廊下を歩いていった。
クリムの様子がおかしい?
どういう事かしら…。
「ごめんねスーくん、急ご!」
「え、えぇ。」
大丈夫よ、あの子は良い子だもの。
強い子だもの。アタシよりもね。
えぇ、大丈夫。あの子は……きっと…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます