第51話『ぴょんぴょん』

前回のあらすじ


え?自己紹介名前だけ?

…スカーレット=アルカンシエル。

は?何でアタシがやらなきゃならないのよ。

イデアちゃんだとよく分からなくなるから

ダメ?はー…分かったわよ。


えーと?あ、放課後になったから証拠を集めるために別行動したわ。

エクスちゃん、ヨシュアちゃん、メルトちゃんがアビスの部屋へ。

アタシとイデアちゃんがモーブの証言を聞きに。シャルちゃんとローランドが周りに聞き込み。

それで視点がアタシに変わったって訳。


…え?何でローランドは呼び捨てか、ですって?だってちゃんって付けるような奴じゃなくない?


 …


「じゃあ保健室に行こ!スーくん!」


元気に笑いアタシの服の袖を引っ張るイデアちゃん。もう…本当に元気なんだから。

クリム以外の女の子が話しかけてくれるなんて。いつも自分から話しかけて世話焼いてただけだったけど…こういうのも悪くないわね。


「そんなに走らなくても大丈夫よ。」


「だって気になるじゃん!」


「はぁ。分かったわよ。」


「ねぇねぇ、しょーげんって何聞くの?」


「貴女分かってないの?」


「うん!」


自信満々に頷かれると逆に清々しいわね。


「モーブが堕天アンヘルを誰に、何処で貰ったか、本当に使ったかって言うのを聞くのよ。」


「でもアビスが作ってモーブ君に渡したんだよね?」


「もしかするとアビスと名乗る別人かもしれないでしょ?そいつの特徴とか聞くの。

誰が仕組んだものか探せるようにヒントを

貰うのよ。」


「あー!そういう事なんだ!分かった!」


うーん…本当かしら。


 …


「保健室だー!」


「こーら、静かになさい。」


全く…散歩に出してもらった犬か何かかしら。無性に撫で回したくなる…。


「たのもー!」


アタシをよそに保健室の引き戸を勢いよく

開けて入るイデアちゃん。


「あ、こらっ!

静かになさいと言ってるでしょ!」


その後を追いかけると壁際に白いカーテンで隔離された場所を見つけた。

イデアちゃんはその隣の誰も使っていない

白いベッドに飛び込んだ。


「わーい!ベッドだぁ!」


「スカートの中が見えるわよ。」


「スーくんなら別にいーや。」


「ダメよ女の子なんだから!」


「その声、スカーレットとイデアか?」


あら、ヨガミ先生の声がカーテンの中から

聞こえたわ。


「えぇ、せんせ。そこ入っていいかしら。」


「あぁ、来い。」


カーテンを開けるとヨガミ先生と薄くなった皮から骨が浮き出ているモーブが居た。

…見るに堪えないわ。

こんなんで証言してもらうなんて無理よ。

念の為、カーテン閉めておこうかしら。


「わ〜…

おじいちゃんよりおじいちゃん…。」


イデアちゃんは彼の横へ移動してベッドに

手を置き、床に膝をつき顔を覗き込んだ。


「暴走した召喚獣によって魔力だけじゃなく生命力まで吸われた。

それで…このザマだ。」


ヨガミ先生が握った手も、先生より痩せ細って骨が目立つ。

…胸ポケットにアポロンは居ないのね。


「アタシ達、コイツに話を聞きに来たんだけどこんなんじゃ無理そうね。」


「いや、それなら…」


「ぴょーんぴょんっ!ぴょーんぴょんっ!」


ヨガミ先生に応えるようにカーテンの外から能天気な声が響いてくる。


…凄く頭悪そうね。


「まっ、待ってください姐さぁん!」


頭悪そうその2の声が聞こえる。

これは男の声…?


「じゃ、俺ベッドの下に潜るから。

職員室に戻ったって伝えてくれ!」


「は?」


本当にベッドの下に潜ってった…。

そしてカーテンが開けられた。


「ぴょーん…あれれっ?

ヨガミちゃんは??」


声の主は…小さなナースキャップが乗った白いモコモコのうさ耳カチューシャにオレンジ色のオン眉前髪に膝まであるツインテール、白いレースの襟チョーカー。

胸元が見える黒いナース服。丈はミニ。

リボンやら何やらフリッフリ…。

どっかのアイドルみたいな人が居た。

頭悪そう。先生も大変そうだしちゃんと

言われた通りに言ってあげましょうかね。


「ヨガミ先生は…」


「もーうっ!ヨガミちゃんに頼まれたから

ラブラビが頑張って御奉仕しようと思ったのに!」


アタシは無言でベッドの下を指した。


「ありがとーうっ!!

ヨーガミちゃんっ!!」


「ぎゃーーーっ!!

モーブを頼むって言っただけだろうが

スカーレットてめぇ売ったなァァア!!」


ラブラビという彼女は柔軟すぎる身体をえげつない角度に曲げてベッドの下を覗き込むとヨガミ先生が蜘蛛のように這って出てきた。


「姐さんから逃げんじゃねぇえぇぇ幸せ者がぁああぁあっ!!」


犬のような男が逃げるヨガミ先生の後を追う。


うるさ…動物園かしらね、ココ。


「あの子に任せていっか。

こんにちは、生徒ちゃん。

ラブラビって呼んでね!呼び捨ても可!」


頭の上で両手をウサギの耳に見立てて

ポージングをする彼女。


「らぶらび…?本名かしら。」


「ううん!でもその方が可愛いでしょ。

これでも医者なの。貴方達が怪我して、

自分で治せなかったりしたらラブラビが診てあげるの!勿論、怪我だけじゃなくて風邪とか病気もね!

あのヨガミちゃんを追いかけてったワンちゃんもお医者さんよ。あんなんだけど。」


「ワンちゃん…?まぁ確かにアレンジされた看護師さんの服着てたわね。

へぇ、お医者さんなのね。

あんなんだけど。」


「ねぇねぇラブラビちゃん。あたし達この

モーブって人にお話を聞きに来たの。

でもお話出来そうにないね…。」


イデアちゃんがしょんぼりするとラブラビは首を横に振った。


「いーえ、大丈夫!ラビはどんな怪我でも

治せるの!パナケイアとならね!」


そう言って彼女は緑の魔導書を持ち美しい

色素の薄い両目を閉じた女神を呼び出した。


「パナケイア、お願いね。」


『…』


パナケイアは目を開けずに頷き、両手を組み祈る体勢になる。

その瞬間、周りが淡い緑に輝く植物が生い茂る。とても綺麗…。イデアちゃんも驚いてキョロキョロしてる。


「お日様に照らされた森の中みたいで綺麗でしょ?パナケイアの魔法なの。

でも召喚士が近くに居ないと発動できない

魔法でね。この子を助けるために購買部へ

行かなきゃいけなくてヨガミちゃんに留守を任せてたの。」


ラブラビが聞いていないことを先程と別人かと思うくらい徐に話し始めた。


「貴女が行かなくてもあのワンコに任せれば…」


「あの子…色々と喧嘩腰ですぐ人に迷惑掛けるし、それのせいで遅くなるから任せておけないの。」


「何それ使えないわね。」


「あはは…とっても良い子なんだよ。

ヨガミちゃんのアポロンちゃんも回復魔法は凄いんだけど万が一に備えて使わないでもらったのよ。だから遅くなっちゃった。

ゴメンね。」


何故謝られるのか分からないけどこの人が

凄い人だとこの魔法で分かる。


「う…」


さく呻いた声が聞こえ、彼に視線を向ける。

驚いた事に、彼は肉付きが戻って何事も

無かったかのように復活した。


「パナケイアお疲れ様ー!

あとはラブラビがやるね!」


『♪』


微笑んで魔導書に戻ったパナケイア。

喋らないタイプなのね。

ラブラビはモーブの横へ行き声をかける。


「モーブくーん。」


「んぅ…う…。ん…?」


彼はうっすらと目を開けた。


「モーブ君、この手は何本に見える?」


「…2本…?」


「うん、正解。思った以上に意識がハッキリしてるね。安心したわぁ〜。」


掠れた声に頷いたラブラビは紙に何か書いていく。アタシは早く終わらせたいの。

だからベッドに浅く座って彼と目を合わせる。


「お目覚めかしら。」


「君は…」


「スカーレット=アルカンシエル。

アンタと同じ神クラス所属よ。

アンタ、今日のこと覚えている?

とっても迷惑掛けたこと。」


モーブはアタシから天井に視線を移した。


「…ごめん…覚えて…ない。」


あの事を覚えていない、ね。

アタシはイデアちゃんに覚えておいてと

目配せしてから話に戻る。


「あ、そう。

何で此処に居るか分からないんだ。」


「…うん…。」


「あたし達怖かったんだよー?

モーブ君の召喚獣が暴走してさー!」


「…俺の…召喚獣が…?」


「何でアンタがこうなったかを聞きに来たの。

アタシに嘘は無駄よ。

もし、嘘を吐いたら目ん玉潰すわ。

いいわね。」


「…答えられるなら…。」


「えっとスカーレットちゃん…?お、お手柔らかにね?その子の症状は初めて診たから

ラビも分からないの。」


正直それが何?って思うけど。

だって金欲しさに目が眩んだただのバカにしか見えない。

自業自得の奴なんて心底どうでもいい。

ただ、クリムに脅威が迫るのならその分子を排除するだけ。


「アンタ、クラス代表のエクス=アーシェに

怪しい薬を使ったそうね。真実かしら。」


「…うん。使った…。」


その事は覚えているのね。なら…


「じゃあ…

その薬をアンタに渡したのは誰?」


そう聞いた瞬間、モーブは目を見開いた。

彼の口からは心の片隅で思っていたことが

出てきたの。

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