第53話『狐印の変装道具レンタル』

前回のあらすじ


えっと…名前を?

はい、オレはシャーロット=アルカディアです。今回はオレがご説明させていただくのですかね?

はい、分かりました…って待って下さい。


前回ってスカーレット君とイデアさんですよね?オレ、分かりませんよ?

ん?エクス君達と別れる時の話で良い…?


あ、分かりました。えっと…放課後になってオレとローランド君は生徒に聞き込みをする事になりました。

少し急いだ方が良さそうですね。

オレの勘がそう言ってます!


 …


「エクス君、スカーレット君達があちらへ

行かれましたね。ローランド君、ではオレらも行動しましょうか。」


「あぁ!でも…誰にどうやって何を聞く?」


全ての質問を受けたオレは少し考える。

堕天アンヘルを貰った人を探り、

名前を記録する…?

アビスさんから貰ったと証言してもらう?

堕天アンヘルを使うとどうなるかご存知か聞く?何処で頂けるか聞く?

うーん…。


「なぁ、我が同胞よ。堕天アンヘルを所持している人間を探るのはどうだろう。」


「あ、それオレも考えました。

記録も兼ねて探りましょう。ただ、探ってるとバレるとオレたちが危ないかも知れませんね。名前は伏せましょう。」


「しかし君の履物は家の証では…」


「あ。」


ローランド君に言われて気付いた。

これを履いて歩くのが当たり前だったから…。

では代わりの靴を…でもオレがこれ以外で

持っている靴は運動靴だけ。

1度寮へ戻る必要がありますね…。


「そういう時こそ我が館へ来る時だよ!」


いきなり目の前に黒い狐の仮面を付けた人の顔面が現れた。


「きゃあぁああっ!!」


驚いてつい悲鳴をあげてしまった…!

情けない!


「んふふ…悦い反応だ!よっと。」


彼は逆さで浮いていたようでくるりと

身を捻りきちんと地面に足を付けた。


「み、ミカウさん!!」


「な、何なんだい彼は…!

シャル、君の知人かね!?」


ローランド君が驚いてオレの後ろへ回り肩を掴んだ。


「昨日お話した購買部の店主さんです!」


「やぁ、キミがローランド=ローゼン君か。」


「なっ!!?何故僕の名前をっ!?」


「動きがオーバーで面白いねぇ!

さ、おいでおいで。

ミカウお兄さんの館へ。」


ミカウさんが指を鳴らした途端、オレたちは人が疎らな廊下に居たはずがオレ達以外

誰一人いない和風の建物の中にいた。

あの時と一緒…旅館という所のような落ち着く建物の中に。


「!!」


ローランド君は驚いて声が出ていないようで。

ミカウさんの姿は無く、また白く光る狐さんが案内をしてくれた。

今回は壁ではなく普通の引き戸の目の前に

座り込む狐さん。


「この部屋ですか?」


そう聞くと頷いて引き戸をすり抜けて行ってしまった。それを見たローランド君はオレの肩を凄く震えている手で叩いている。

…少し痛いです。


「だだだっ大丈夫なのかい!?」


「はい、この方々は大丈夫です。

信じて下さい!」


「そりゃ、信じるが…!」


オレはローランド君に向かって微笑み、

引き戸を開けた。


「失礼致します。」


「やぁ、待ってたよ。土足でどーぞ!」


「わぁ…!」


戸の向こうは広い一室で服が沢山あった。

女性用の綺麗な着物や洋服だったり男性用の洋服やスーツだったりと幅広いジャンルの服が目に入る。

あれ?奥の方の白いテーブルには小物?

その壁際には靴?凄い数です…!


「ここは服の倉庫だよ。購買部に並べているのは此処のほんの一部!

オシャレしたい年頃の子に人気なんだよー!

着物とスーツはあまり買われないけど。」


着るタイミングが限られますからね…。


「す、すごいな。見渡す限りの衣類だ…!」


ローランド君も無事に入ってこれたようですね。後ろの彼に向けた視線を前に戻した

瞬間、目の前にミカウさんが居た。


「きゃっ!」


「あははっかーわい!って女の子じゃないんだったね。ごめんごめん反省はしない。」


なさらないのですね…。

気にしませんが…。


「僕らを此処に呼んだ理由は何なのだ?」


「変装道具レンタルさせてあげようと思ってね!」


「「変装道具レンタル??」」


「そう、レンタル。1回とか少ししか使わないのなら買うより借りた方がお得なんだよん♪キミ達、探り入れる時に自分だとバレたくないんだろ?」


何故それを…。


ミカウさんは1人で壁際まで歩き、ハンガーに掛かっている衣服を適当に見繕って何も置いていない机に並べた。


「で、でもオレ達お金は…」


「無いことは知ってるよ。」


「ではタダで…?」


ローランド君が呟く程度に口にしたらミカウさんが音もなく近づいた。


「それはあまぁい。タダより高いものはないって知ってるかな、お貴族様方?

お兄さんはね、学生からは取らない主義さっ!」


「なら何をご所望なのですか?」


オレが聞いた途端、ミカウさんの口角が

にぃ…っとつり上がった。

懐からカメラを取り出し


「写真、撮らせてくれればおっけー!」


と軽く言った。しゃ、写真…?


「着せ替え人形になってよ2人とも。

ウチにマネキンとか場所を取る物は置いてないからこんなもんだよーって分かるように実際着てもらって撮って見せるの!良い?」


てっきり死ぬまで働けとか、もう少し怖い事を言われるかと思いました…。

モデルさんになれば良いのですね。


「分かりました。

後払いで宜しいでしょうか。」


「うん!

キミ達なら後払いおっけーにしておくよ。」


「ローランド君、よろしかっ…」


自分一人で決めてしまったので確認をとろうとしたら静かだったローランド君が口に薔薇を咥えて鏡に向かってポージングをしていたのです。


「さぁ!存分に撮りたまえ!!」


お話全く聞いてませんね。


「やったぁ!ノリノリで良かった。

これで契約完了。はい、これが貸衣装!

あっちに試着室あるから着てきてね!」


「はい!ありがとうございます!」


と袋を受け取り、オレとローランド君は

着替えることにしました。


 …


シャーロット=アルカディア、嵌められました…!!聞いてませんこんなこと!!!


「シャーロットくーん!

もう着れたでしょー?開けるよっ!!」


試着室のカーテンの外から声が聞こえる。


「えっちょ、まっ」


オレの話を聞いてもらえず開け放たれる

カーテン。


「おぉ!!似合ってるぅー!」


「ふむ、流石は我が同胞だ!」


オレは…女の子の服を着せられました。


いや、着てておかしいなとは思ってましたけど!ワンピースを家以外で着ることになるとは思いませんでした…!!


オレはもう男として生きると決めたのに…!


あれ!?


「ろ、ローランド君は男性モノじゃないですか!不公平です!それなら靴だけ借りて自分の私服でも良かったのでは!!」


「私服だと後々バレるよー?こわくなーい?

それに比べこれなら誰もキミだと思わない。」


「ローランド君はバレバレですっ!」


「む、確かにこれは美しい僕だ!」


「あ、彼にはね。」


ミカウさんが素早く彼にヘアセットを施す。


「ほら!

もうローランド君って分かんないでしょ!」


髪もワックスを使って形を変え、最終的に

伊達メガネを掛けて確かに誰だか分からなくなりました。

…オレもそうすれば良くないです??


「シャーロット君にもやってあげる!」


「え」


肯定も否定もする暇なく髪を弄られる。


「はい!出来たよお姫様!」


「お姫様って……な!?」


この髪型って…あのオペラ=ベルカント先生と同じでは…!?

何故オレが女装しなければならないのですか!!


「そんな睨まないでよー。

誰も男物貸すなんて言ってないでしょー?」


「う…それは…そうですけど…。」


でも女性物とも言ってませんよね…?


「まぁこれなら本当にバレないさ!

さ、行こう我が同胞よ!!いや、彼女よ!!」


とローランド君に腕を組まれた。


「それはやめて下さい本当に怒りますよ。」


「スミマセン…。」


「兎に角、気を付けなさいね。ちゃんと無事に元の服を取りに、そしてその貸衣装を

お兄さんの元へ返しに来てねー。」


ズルズルと引き摺られオレはこの格好で

聞き込みをする事になった。



…放課後直ぐに私服の男女ってこっちの方が目立つ気が…。



「よーし…女の子の服を着るのが男の子ならポージングに口出ししてもセクハラにはならないぞぅ!!訴えられる心配もなっしんぐ!

ひゃー我ながら商売上手っ♪」


とミカウさんが言ってる気がした。

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