第113話『ただいま、学校!』

 前回のあらすじ


ゼウスのお陰でアルファクラスや天使クラスの皆の召喚獣が出せるようになっていました。その後、僕は褒め殺されました。

嬉しいけどなんか恥ずかしい!


 …


「んむ。」


身体が勝手に起きた。その後寝ようと

思っても寝れなくなってしまっていた。

…今何時だ?ぼんやりした意識の中、枕元に置いてあるデバイスの電源を付けると、

パジャマ姿のアイオーンが居た。


『ナイトモードアイオーンです。

エクス様、今はAM3時ですよ。』


「ぅわぁ…」


微妙な時間だ。起きようにも自分の底に眠気が居る感じで起きたくないから寝るけどね。


『エクス様、メールが一通届きました。』


「めーる…?」


アイオーンは白い手紙を手にしていた。


『ニフラム様からです。』


「?」


“おじさん、忙しくてメールでごめんね。

病院を退院するんだってね、おめでとう。

病院内や城下町でのエクス君の活躍は

シュヴァルツやユリウスから聞いてるよ。

シュヴァルツに会いに行く時は健康体で行くんだよ。アスクレピオスにお世話になるのはダメだからね。君達の更なる成長と、

シュヴァルツ&アスクレピオスの患者にならない事を願って。”


と書いてあった。嬉しかった。けれどそれと同時に急な睡魔が襲ってきて僕の意識が

遠のいた。


 …


「どーーんっ!!」


「ぐぇっ!!?」


身体に何か降ってきた!!殺される!?

顔だけ衝撃の方へ向けるとイデアちゃんが

笑顔で寝転んだ体勢で僕の上に乗っていた。


「い、いであちゃん!?」


「あ、起きた!遅いよーエクス君!

皆準備始めてるよー?」


「え?」


確かにイデアちゃんが懐かしく感じる制服姿だ。左右を見るとレンもローランド君も

制服に袖を通していた。


「女の子達も準備出来たんだよー!」


イデアちゃんが僕から下りたので身体を起こすと布団を畳んでいる女の子達の姿が。

あ、1人シャル君だ。

とか言ってる場合じゃない!


「ぅぇ!?やばっ!起こしてくれてありがとうイデアちゃん!準備する!」


「はーい!」


「エクス急げー?」


窓際からヨシュアの笑い声が聞こえる!


「うん!急ぐ!」


皆に見守られながら着替えや諸々を済ませた。


「お、お待たせ!皆。」


よし、忘れ物無し!


「朝ご飯は寮の中でだそうよ!

皆で行きましょう!」


メルトちゃんに頷いて病室を後にした。

僕が寝ている時に先生が来てロビーに集合だそうだ。ホテルみたいに見える病院だから

修学旅行の気分だ。クラスで別れて並んでいるようなのでリリアンさんとレン、クリムさんと別れた。


「エクスー!お前らー!そこに並べー!」


スピルカ先生が手を振っている。

僕達は先生の近くに並んだ。するとヒメリア先生とシオン先生が皆の前に立った。


「お前達!今回は私達のせいで大変な目に

遭わせてしまって本当にすまなかった!」


「心から反省しとります。二度とこのような事を起こさんよう誠心誠意努めます。」


2人は深々と頭を下げた。先生達のせいじゃないのに…。悪いのはアビスなのに…。

するとヨガミ先生が2人の隣に立った。


「この2人だけじゃねぇ。俺達教師は全員

気付かなかった。すまなかったな。」


ヨガミ先生が頭を下げると、スピルカ先生、リーレイ先生、オペラ先生、ラブラビ先生、ルプス先生も頭を下げた。

一番最初に頭を上げたヨガミ先生。


「自分達を正当化するつもりはねぇけど、

召喚士とはこのような危険が常に付き纏うものなんだ。

魔物討伐や、堕ちた召喚士相手とかにな。」


堕ちた召喚士…アビスがその1人だろうか。

それにネームレスも。


「俺達も今後このような事が起こらないように努力する。だからお前達もいついかなる場所でこのような事態になった時でも対処出来る力を身につけるんだ。自分を、自分の大切を守るために。守れるように。」


僕とスピルカ先生はヨガミ先生の後悔を

知っている。過去の辛さを知っている。

だから他の人よりヨガミ先生の言葉が重く

感じた。ヨガミ先生は目を伏せ、

直ぐに咳払いをした。


「んんっ…さて、辛気臭せぇ話は以上!

これからワイバーンに乗って帰るぞ!

だがしかし神クラス代表エクス始め7人組!

お前達は残れ!いいな!」


「…ん?」


先生はどう聞いてもどう見ても僕を指さしていた。皆をちらりと見ると僕と同じ驚いた顔をしていた。

その間に天使クラスとアルファクラスが屋上へ向かった。そして暫くして僕達以外の

神クラスも移動を始めた。

教師1人だけ残ったヨガミ先生に問いかける。


「あ、あの…何で僕達残るんですか?」


先生は僕を見て視線を泳がす。


「あー…実はワイバーンが足りないと言われてな。2、3匹くらい。お前達なら大丈夫だろうと思って残ってもらった。」


ん?意味が分からないぞ?


「つまり、俺達はワイバーンに乗らず召喚獣と共に帰れということですか?」


ヨシュアが言うとヨガミ先生は頷いた。


「エーテル用意してあるからもし自分や

召喚獣の魔力が足りなくなったら食いながら行け。遅すぎなければ目を瞑る。

ちなみにエクスの分は無い。」


「なんでですかっ!!」


嘘だと思ったけど本当に僕だけエーテルを

貰えなかった。ヨガミ先生は鼻を鳴らし

こちらを見る。


「お前化け物級に魔力あるから必要ねぇだろ。」


「えー…」


落胆しているとサンダルで走る音が聞こえてきた。シュヴァルツさんだ。


「…良かった…間に合った…。」


「シュヴァルツさん!」


息を切らしている割には汗をかいていない

彼は優しく微笑んだ。


「…お見送りしたくて。

…皆は特に頑張ってくれたから。」


魔導書を顕現させたシュヴァルツさんは

アスクレピオスを呼び出した。

アスクレピオスは出るや否や

シュヴァルツさんの頬を抓る。


『っ…勝手に戻したと思ったら今度は出すのか!この乱暴者めが!』


「い、いひゃい…」


と言いながら僕を指さすシュヴァルツさん。アスクレピオスも目で追って僕達に気づいて手を離す。


『む。貴様ら、そういえば帰るのだったな。はんっ腹立つ顔が消えて清々する。』


「…アスクレピオス…」


むっとするシュヴァルツさん。

しかしアスクレピオスは僕達に背中を向けた。


『ま、次来る時は骨折やらの怪我ではなく、細菌や呪いなどで拗らせた病を持ってくるが良い。死人だろうが私が治してやる。』


背を向けると帰っちゃう気がしたけれど、

アスクレピオスは振り返らずそこに留まっていた。そんな彼の顔を覗き込むシュヴァルツさん。


「…悲しそう。寂しいんだね…」


『はぁ!?そんな訳あるか嫌いな神共が

消えて清々しているところだ!』


ぷんすか怒っている彼だけど一緒に

エレベーターに乗ってとても広い屋上まで

来てくれた。…素直じゃないなぁ。


『祖父のマスターよ。その背中蹴り飛ばしても良いのだぞ。医神でも神だ。

此処から人間を落とすことなど容易いぞ。』


「勘弁してください…。」


前世の学校と違ってフェンス無いからそんなことされたら危ない。さっさと帰ろう…

僕達は声を揃えて召喚獣を呼び出す。


【summon!】


光り輝いて現れたゼウスは本当に綺麗だ。

太陽の光を浴びてもっとキラキラしている。


『私を呼んだなマスター!』


「うん、あのね?ゼウリス魔法学校まで

連れてって欲しいんだ。」


『ふむ、分かった。一瞬で…』


「い、一緒に!

皆でびゅーんって飛んで欲しい!」


決してサボりたいからとかではなく!

ゼウスは快く頷いてくれる。


『それがマスターの望みならば。

…アスクレピオス、暫しの別れだな。』


声をかけられたアスクレピオスは再び

そっぽを向く。


『…残念なことにそうでもない。

パナケイアとフェンリルのマスター達に

呼ばれ暫く週に1度そちらへ赴かねば

ならなくなったのでな。』


ラブラビ先生とルプス先生の事だな?

そっか検診しに学校へ来てくれるのか。

じゃあ直ぐに会えるんだな。


「じゃあ行くぞお前ら。

ではシュヴァルツ=ルージュ医院長、

お世話になりました。」


ヨガミ先生が頭を下げると、後ろに居た

アポロンがビクビクしながら手を振った。


『ば、ばいばい。アスクレピオス。』


『ふん。……お達者で。』


『え…?』


『何も言ってない。さっさと帰れ。』


『…うん!またね!ふふっ行こうヨガミ!』


恥ずかしそうに下を向いてしまうアスクレピオスに満面の笑みを浮かべたアポロン。

ヨガミ先生の手をとって一気に駆け出す。


「え、おまちょっ…!!」


『よい…しょーっ!!』


ギリギリで踏み切って飛ぶアポロン。

ヨガミ先生も一緒に落下した。


「うぎゃぁぁぁぁああああッッ!!!」


落ちたと思ったら浮かび上がって学校を

目指している。僕達も行かないと。

皆、召喚獣に手を引かれ次々と病院を後にする。僕はシュヴァルツさんの方を向いて頭を下げた。


「お世話になりました!」


シュヴァルツさんはフルフルと

首を横に振る。


「…ううん。ぼく楽しかったよ、

エクス=アーシェ。…不謹慎かな。」


「ふふ、どうでしょう。でも僕も勉強になりました。また、アビス探し頑張りましょうね!お仕事頑張って下さい!」


「…キミも勉強頑張って…

ヴァルハラに来てね。」


「それはちょっと…

あは、あはは…ゼウス行くよ!」


『む?うむ!』


ヴァルハラなんてゴメンだ!!

僕は逃げるようにゼウスの手をとって走り、皆と同じように飛んだ。


「…またね、エクス=アーシェ。」


『…ゼウス…私は貴方に恨みの念があるとはいえ、今回のことに感謝が無いわけではないからな。』


 …


皆が召喚獣を隣に僕達の前を飛んでいる。

けれどよく見ると皆は箒に跨っていた。

箒か、その手があった。でも僕はあの箒に

嫌われているからやめた方が良さそうだ。

メルトちゃんは…あれ?アテナが見えるのにメルトちゃんが…あ、足が見える。

もしかしてお姫様抱っこされてるのかな。

アテナが乗り物判定されなければ吐き気は

大丈夫だろう。


『マスター。』


徐にゼウスが口を開いた。不思議と風を切る音がごうごうと耳の中で響いているのに

ゼウスの声は鮮明に聞こえる。


「何?ゼウス。」


『私は1度、アビスに負けた。』


「!」


ゼウスでもあの事を気にしていたのか。


『私は…全知全能の最高神でありながら

人間に負けたのだ。』


でもそれは僕のせいだ。ゼウス自身はまだ…


「…負けてない。まだ、負けてない。」


『逃がしたのだぞ。』


「あれは僕の弱さのせいでゼウスが全ての

スキルを使えなかったから勝ちを譲ったんだよ。だから、まだ負けてない。」


『マスターのせいでは…』


ゼウスは気を遣えるんだったっけ。嬉しい。


「僕のせいだ。少なくとも今回は。

でも次はもう譲らない。勝とう、ゼウス。」


ゼウスは僕から目を逸らして、

少し考えたあと、僕の目を見て頷いた。


『あぁそうだなマスター!

さぁ、皆の先頭に向かおうぞ!』


「うわわっ!」


少し元気になったかな、ゼウス。


 …


無事、ゼウリス魔法学校の黒くてカッコイイ校門まで到着!

ゼウスが先頭に行くことによってプロメテウスが怒り、僕とヨシュアの言うことも聞かずに2人で競走してしまった。ヨシュアは箒(バイク)だったから楽しそうだったけど僕ゼウスと手を繋いでるだけだったからね!?

腕脱臼するかと思った…。

皆置いてっちゃったし…


「エクス、大丈夫だった?」


ヨシュアが心配そうに声をかけてくれる。


「うん、大丈夫だよ。」


笑って答えるとヨシュアの横に居た

プロメテウスが腕を組んで僕を見る。


『謝んねぇからな!』


「別に良いよ…」


『マスター、土下座させるか。

地に伏せさせるか。』


僕の隣ではゼウスがイライラしながら

手に雷を宿し始めている。


「もう!良いって言ってるでしょ!

ちょっと戻ってて!」


「プロメテウスもね。」


『『え』』


驚きの声を無視し、僕とヨシュアは魔導書の表紙を2回ノックして彼らを戻した。

すぐ喧嘩するんだから!


「何怒ってるのよエクスちゃん。」


「ほっぺ膨らんでますよ?」


スカーレット君とシャル君だ。

シャル君はローランド君におんぶされている。3人も召喚獣を戻していた。


「ゼウスとプロメテウスがちょっとね…」


「ふぅん…ま、何でも良いわ。」


スカーレット君の素っ気ない態度に

少し傷付くと上から声が降ってきた。


「すぅーーくーーん!!受け止めてー!!」


上から笑顔のイデアちゃんがスカイダイビング状態だった。

流石のスカーレット君も驚いている。


「えぇっ!??イデアちゃんっ!!?

危ないわよ!!」


と言いつつも既に手は受け止める姿勢に

なっていた。


「きゃーっ♡」


ロキが何かの魔法を使ったことによって

イデアちゃんは右斜め上から落下し、

スカーレット君の元へ。


「うぐっ!」


勢いそのままのせいでスカーレット君は

数十歩後ろに下がって校門に衝突した。

痛そ…。


「ナイスキャッチ!すーくん!」


「痛ったたた…もうっ貴女ねぇ!

危ないでしょう!

アタシが失敗したら大怪我なのよ!」


スカーレット君、自分が背中打った事に触れてない…。イデアちゃんが怪我する可能性の事しか怒ってない…。

それに怒られているはずのイデアちゃんは

満更でもない顔だ。


「すーくんなら大丈夫だもん!

それに、怪我したらエクス君居るもん!」


「え、僕?」


僕そんな頼られてるの?嬉しいけど…

プレッシャーに弱いんだよ僕…。

スカーレット君はそれ以上言うことがないのか、


「…女の子が顔に傷付くところだったのよ…反省しなさいよ?」


とだけ。イデアちゃんは手を挙げた。


「はーい!」


「あれ?

イデアが降ってきたのにメルトは?」


ヨシュアの言う通りでメルトちゃんがまだ

来ていない。アテナだから落とすことはないだろうけど…ふと、空を見ると遅れてアテナの姿が見えた。着地したアテナに抱えられているメルトちゃんの顔色が悪い。


「メルトちゃん!」


「ぅぷ…」


『マスターの御気分が優れないようなのです。お父様のマスター、どうか回復を。』


アテナ乗り物判定されてる!!僕は慌てて

魔導書から杖を取り出して構える。


「わ、分かった!【クリアオール】!」


暫くするとメルトちゃんの顔色が戻った。

良かった…。アテナがそっと下ろすと

メルトちゃんは苦笑した。


「あはは…ごめん、お待たせぇ。」


アテナを戻しながら謝る彼女に僕達は

首を横に振る。


「ううん、待ってないよ。

じゃあ皆で帰ろう。」


「うん!」


 皆横一列に並んで同時に校門を潜った。


 ただいま、学校!

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