第146話『死は利用するモノ』

前回のあらすじ


…シュヴァルツです。

…エクス=アーシェとご飯を食べて…

任務の場所へ向かいました。

…辿り着いたそこは1面真っ白で…

ボロボロで…哀しい場所だった。

…何でアスクレピオスは此処に来たがったんだろ。…よく分かんないや。



生えていたであろう草木の面影も無い

白い砂の地面を踏みしめる。

白い砂は音を立てず僕の足跡を残していく

だけで特に何も無い。


数歩先に居た黒くフリフリな日傘を差した

アムルさんが僕を見るように振り向いた。


「いつ何が起こるか分かりませんわ。

気を張りなさい。」


「は、はい!」


アムルさんは口角を上げたらすぐ僕から

視線を外した。


「…」


シュヴァルツさんはしゃがんで砂を掬って

見つめていた。


「…これ砂じゃない。」


「え?」


「……もしかするとこれ…全部灰かも。」


「灰って…」


ちらりとゼウスを見ると彼は頷いた。


『間違いない。これは灰だ。』


「そりゃそうだ。」


震える声が後ろから聞こえてきた。

振り返るとヨガミ先生が下を向いていた。


「なんの前触れもなく視界に映る全てを

燃やされたんだから。」


ヨガミ先生の声が胸に突き刺さる。

先生を見ていたシュヴァルツさんは魔導書を顕現させた。


「…アスクレピオス、来て。【summon】」


光り輝く魔導書から艷めく長い金髪、

金髪に映える銀色の蛇にカラスの羽根の

髪飾りを付けた男性が現れた。

両肩のもふもふな羽根もカラスの羽根のように真っ黒で身を隠すような長いローブを着ている。格好はいつもと変わらない。


『呼んだか、マスター……げ。』


ゼウスと僕を見て露骨に嫌そうな顔をする。

うん、知ってた。


『……成程。心理的治癒が必要な訳か。』


アスクレピオスは僕らを見て嫌そうな顔をしたけれど、後ろにいたヨガミ先生をちゃんと

見ていたんだ。


『物凄く嫌だが医者の私が力を貸してやる。

…向き合えるまで。【心理的治癒カウンセリング】』


そう言って黒蛇の杖を振る。

するとヨガミ先生の腕に白蛇がぽふんという可愛らしい音を立てて巻きついた状態で現れた。


『間違っても暴力を振るうなよ。

私が貴様を殺すからな。』


「……」


ヨガミ先生は御礼を言わず、いや…

御礼を言えずに下を向いていた。

身体が小刻みに震えている。

そりゃ辛いよな…僕は体験が無いから

表面上で悲しむことしか出来ない。

それがヨガミ先生の救いになんてなるはず

ないのに。


「む…彼処に教会のような建物が周りよりかはしっかりと残ってますよ。」


シオン先生が指した場所は確かに教会だった。壁や天井が欠けており、ステンドグラスは割れているものの大部分はそのまま残っていた。


『マスターどうする?』


「気になるけど僕一人で動く訳にはいかないかな。」


『ふむ…』


「エクス君。」


アムルさんに急に話しかけられた!!


「ひゃい!!」


「二手に別れます。

わたくしとシオン君で教会を見ます。

シュヴァルツ君、ヨガミ君、エクス君は周りを見てくださいまし。」


僕とシュヴァルツさんとヨガミ先生でか。


「分かりました。」


「…うん、アムルも気を付けてね…。」


「えぇ、シオン君と一緒ですから大丈夫ですわ。さ、行きましょ。」


「えぇ。」


シオン先生が僕の横を通り過ぎるその時、


「デイブレイクから目を離さないで。」


僕だけに聞こえるように言った。

そして振り返らずアムルさんと教会へ

向かっていった。


「…じゃあ僕達は…周りを。

…エクス=アーシェ…夢の記憶は…?」


夢の記憶が薄れているからなぁ…。


「うんと…

確か森の中に何かあったような…」


『森だと?』


アスクレピオスの怪訝な声はご最も。

周り1面は白く、草木と呼べるような、

僕達以外に生きている者は無いのだから。


「…取り敢えず教会の近くを散策しよう。」


「はい。ヨガミ先生、大丈夫ですか?」


「……」


ヨガミ先生ずっと下向いて目を合わせてくれない。でもそれは仕方の無いこと。

すっごく無理してこの場に立っているんだ。

だからこそ、僕が先生の力になるんだ。

ヨガミ先生が此処に戻ってくることになったのも僕のせいなのだから。



アムルとシオンは教会の目の前に着いた。


「近くで見ると案外大きかったのですね、

この教会は。」


「そうですね。」


言葉少ないシオンをちらりと見てから

壁などの側面を確認する。


「神様の御加護なのかしら。

破損箇所が少ないですわね。

あら…?」


アムルは壊れた壁の奥、建物の中を見た。


「あれは…人骨かしら。

シオン君、見てくださいまし。」


「…形からして人骨かと。

しかし近くで見ないとわかりませんね。」


「では中に入る前にコレをやらなければいけませんわね。」


日傘を閉じ、教会を正面に捉えれる場所で

白き灰の地面に再び足を付けたアムル。


「まだフレイヤの力は借りません。」


アムルは魔導書からピンクと黒の布で形成

された猫のようなぬいぐるみを取り出した。


「そういえば貴女は杖をぬいぐるみの形に

していたのでしたっけね。」


「あら、無関心そうなのに覚えて下さってたの。嬉しいですわぁ♡」


シオンに笑みを向けた直後、アムルの足元から紫色に光る魔法陣が現れ回り始める。


「目覚めなさい。

輪廻から外れてしまった者達よ。」


詠唱後、彼女の周りを怪しく青色に光る

魂のようなものが複数飛び交う。


「(何やこの重々しく不気味な気配は…

悪寒が止まらん。)」


「【死と舞うワルツ】」


突如魂は形を成して自らの骨を象っていく。

すぐにアムルの周りに5体の紫に光る骸骨が。


「(死者蘇生の類か…?)」


アムルの魔法【死と舞うワルツ】は、

死んでしまった者の魂と

体の一部さえあれば発動出来る。

魂は肉眼では見えず、残っている未練などが

あり成仏出来ず漂っている物のこと。

アムルはフレイヤとのスキルも発動させて

魂をその目に捉えることが出来る。


魔法陣で範囲を設定し体の一部にアムルの

魔力が触れ、魂を身体に寄せることが可能。

引き寄せられた魂を再び魔力で包み、

骸骨のような依代を一時的に作り上げ会話、移動を可能とする。

体の一部とは、少量の皮膚でも骨の欠片でも、体の一部と呼ばれる場所ならば何処でも何でも良い。

今回は体が燃えて出来た灰…体の一部だった物が沢山残っていたのを使用した模様。


「まぁ、この範囲で5人ですか。

…お話聞かせて下さる?」


アムルが首を傾げると骸骨達はカタカタと

音を鳴らし話し始めた。


<炎ニ囲マレテ閉ジ込メラレタ!!

此処ニ此処ニ此処ニッ!!>


<全部アイツノセイナンダ!!>


<皆生キタママ燃エテ死ンダ!!>


<全部アイツガ仕組ンダコト!!

アイツガイナケレバ生キテイラレタ!!>


<誰モ助ケテクレナカッタ!!>


骸骨達が交える悲痛の叫びにアムルは

無表情を向ける。


「火に囲まれ閉じ込められ誰も助けてくれなかったのに亡骸は教会の外…

何故でしょう?」


<先生ガ開ケタ!>


「先生は外に居たのかしら?」


<先生モ一緒ニ居タ。

アイツ、先生ダケ助ケヨウトシテタカラ。

先生ハ僕タチヲ助ケヨウトシテクレタ。>


「先生と君達は火の手が上がるこの教会に

閉じ込められたが、犯人が先生のみ助けようとし扉を開け…先生はそれで全員を助けようとした訳ですか。」


シオンの言葉に骸骨達は自らの光を強める。


<ソシタラアイツ怒ッテ僕タチヲ殺シタ!!>


<アレハ本デ見タ悪魔ダッタ!!>


「「!」」


悪魔と言い放つ骸骨に目を向け、

問いかける。


「張本人の名前は覚えてます?」


<知ラナイ!アイツニ名前ナンテナイ!>


「名前が無い…?」


「そう言えばデイブレイクもアストレイも

教会兼孤児院があったと言っていました。」


「そういう事ですの。

しかし名前はその場で与えられるのではないのかしら。」


「さぁ…私は分かりません。」


アムルは別の骸骨に目線を向けた。


「貴方達の名前は先生に付けてもらったの?」


<ウウン、名前ノ紙ガアッタンダッテ。>


「へぇ…

じゃあその子は名前の紙が無かったのね。」


<ネェ、アイツ生キテルノ?>


「さぁ…でも可能性はありますわ。」


<殺シテ!僕タチガ死ンデアイツガ生キテル

ナンテオカシイ!>


「言われなくとも。

それはわたくし達が来た理由ですわ。」


アムルに頷き、

シオンは話を聞くために少し近づいた。


「その子、何か怪しい行動などしとらんかった?何かを集めるとか。」


<本読ンデタ。>


<イツモ窓見テタ。>


<黒イ袋持ッテタ。>


<ピアノ見テタ。>


<ヨク森ヘ行ッテタ。>


「ふーん、窓…

もしかしてこのステンドグラスかしら。」


彼女はかろうじて残っていたステンドグラスの一部を指さした。


<ウン、奥ニ大キイノガアル。

ソレ見テタ。>


「そちらへ案内してもらえます?」


<分カッタ、コッチ。>


骸骨に導かれ、アムルは足を動かした。


「…(大丈夫なんやろな…?

他にも気になる事言うてたんに何故に窓?)」


「シオン君、行きますわよ。」


「い、今行きます。」


屋根は崩壊し、床はめくれ上がり、残った

椅子などの備品は決して座れるような状態ではなく蜘蛛の巣と埃まみれになっていたが、

全く目もくれずアムルは先導する骸骨について行く。


<ココダヨ。>


2人の目の前には


顔の部分だけが無くなっている聖母らしき

人物と天使らしき人物の見上げるほど

巨大なステンドグラスがあった。

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