第79話『夢の痕』

前回のあらすじ


変な悪夢を見て飛び起きた僕は意識不明から目覚めたローランド君とこっそり部屋を出た。するとシオン先生に見つかったものの

怒られず部屋の中へ案内してくれた。

そしてそこで出会ったのは…


 …


シオン先生は眉間に皺を寄せて前髪を

掻き上げた。髪の毛が白黒ぐちゃぐちゃだ。


「アンタだからこの時間に病院入れて面会が許されるんやでこの暇人が。

今何時やと思っとるんじゃこのど阿呆。」


金と紫の瞳で男性を睨むシオン先生。


「今は、えーと…4時50分だな。」


「………………。」


この発言で分かった。この人馬鹿だ。


「はぁ…。私が左腕折ったのを笑いに来たんやって?アーシェ、ローゼン、今からコイツが馬鹿だという事を証明したる。」


あ、もう分かってますけど…。


「私の問に答えられたら好きなだけ笑え。

 間違えたら謝れ、良いな。」


「はっ!上等!」


シオン先生は息を吸って


「1+1は?」


バカ真面目な顔でそう言った。


「「は?」」


流石に僕とローランド君は呆気にとられる。い、いくら何でもそれは簡単すぎ…あれ?中々答えないぞこの人。ちらりと見ると…


「くくっ流石に舐めすぎだろうシェンロ。」


と肩を揺らして笑っていた。


「シオンだと言うとるやろ。」



「そうだっけ?まぁいい。その答えは…



 1だ!!!」




「はぁ…。」


溜息を吐くシオン先生とつい


「「は?」」


と言ってしまった僕とローランド君。


「ちゃうわ馬鹿者!前も言うたやろ!

お前は指使わんと分からんやろが!」


え、前も言ったの?でもこれは指使うとか

暗算とかそんな話じゃなくない?


「な、何だと…!!?」


まさかのショック受けてる!?

幼稚園児でも分かる事だぞ!!?


「間違えたから謝れ。」


「すいませんっしたぁっ!!!」


うわぁ…謝った…。

それにお辞儀の角度が90度だ。


QED証明終了と言うやつやな。

分かったか。」


「「はい…。」」


ひしひしと伝わりました。


「てかコイツら誰だよ。」


男性がお辞儀したまま顔を上げてこちらを

見ていた。え、今更では。


「シュヴァルツから今度の会議のことは聞いたよな。それに今回参加することになった

生徒達や。こっちがエクス=アーシェ。

そっちがローランド=ローゼン。

コイツは一応目上や。2人とも挨拶しい。」


先生、京言葉固定になったしバリバリタメ口じゃん…まぁいいけど…。


「え、エクス=アーシェです。」


「ローランド=ローゼンっ!」


「えー…アックスとロンドン?」


「「何でそうなるっ!!」」


あ、いけない。もうイラッとしてしまった!

彼は謝りもせず僕達に自己紹介した。


「俺はディアレス=リベリオン。

そいつとどうきゅーせーというヤツだ!」


ディアレス=リベリオン…。ん?

ど、同級生!!?

シオン先生は眉間の皺を深める。


「私もコイツもゼウリス魔法学校の同期卒業生や。クラスが違うのにずっっとくっついてきてほんっっっとに腹立ってしゃあないわ。」


「だって普通気にならね?

髪が白黒だし目の色も黄色と紫で違うし。」


それは…確かに…。


「コイツは勉学全クラス最下位、実技は全クラス1位でヴァルハラに引き抜かれたんや。」


ヴァルハラ…頭は気にしないのか。


「まさかお前が先生やるとは。まぁお前の教え方分かりやすかったから納得したがな!」


「え。シオン先生がディアレスさんに勉強を教えて…?」


普通に考えると失礼な質問だけど聞かずにはいられなかった。シオン先生は頷いた。


「1週間くっつかない事を条件に授業終わりに何度か勉強を教えていたんや。」


「わかりやすいって事は…

理解なされて…?」


「おう!

筆記テストが0点から10点に増えたんだぜ!」


「え、普通に凄い。」


テスト0点だろうなとは思っていたけどこの人が10点取れるのが普通に凄いと思った。


「100点満点のテストで、や。

ホンマに殺してやろうかと思ったわ。

みっちり扱いてやったんにあの点は無い。」


マジで怒ってる…。フォローしなきゃ…!


「で、でも0点の人が点数取れる時点で凄いと思います!シオン先生の教え方がお上手ってことですよ!」


「そうだぞ!

俺が点数取れると思わなかった!」


「てめぇは黙っとれ!!」


シオン先生のお顔が般若に!!


「あいっす!!さーせん!!」


ディアレスさんが謝った瞬間、

乱暴にドアが開け放たれる音がした。

入ってきたのはぷりぷり怒っている

アスクレピオスだった。


『おいトールの召喚士…!この時間の面会を許可した覚えは無い……うげっ!』


あ、目が合った途端嫌がられた。いいもん…虐められてた時はこれが日常茶飯事だったし…。


『何故貴様らがこんな時間にココに居る!

勝手な行動は控えろと言われてただろうが!

そしてその中でもおばっ……じゃない。

アフロディーテのマスターは意識が戻ったのならまず先に伝えろ!!勝手に出歩くな馬鹿者共が!!貴様も教師なら生徒に注意をしろ!何をのうのうと話しているんだ!!』


「「「す、すみません…。」」」


勢いに負け口から勝手に謝罪が出てきた。


『ったく…トールの召喚士は出ていけ。

貴様ほど病院が相応しくない奴は居ない。』


「えー?シュヴァルツに許可もらったし。」


シュヴァルツさんの名前は普通に覚えてるんだ。覚えられるんだ…。


『マスターは1時間の仮眠中だったんだ。

貴様が邪魔したから曖昧な返事になっただけだ。許可など出てない。おら、出てけ。』


とディアレスさんの背中をゲシゲシ蹴って

追い出すアスクレピオス。


「いてっ痛てぇっ!わぁったよ!出てけばいーんだろ!夜の依頼終わったついでに寄っただけだっつーの!帰って寝る!!じゃあな

シオレン!アクス!ローレン!」


「シオンにエクスにローランドだ!!

まったく…。」


シオン先生の訂正は聞こえてたのだろうか。彼はトールを召喚せずに出ていってしまった。見たかったな…トール。


「ちなみに会議では召喚士と召喚獣が

ワンセット。

つまり召喚獣が常にそばに居る。

トールに会いたいのならその時会えるで。」


シオン先生は読心術でもあるんだろうか。

…つまり僕はゼウスを呼んで…シュヴァルツさんはアスクレピオスを呼ぶ。てことは…


『ふん、今更祖父を呼ばれたところでびびっ…び、ビビるわけ無かろう。』


汗1つかいてないけど十分ビビってますね。

手も震えている。


『私のことはどうでもいい!

貴様らはさっさと部屋に戻れ!!

二度寝は許さん!8時までには全員起こせ!

いいな!』


「「は、はい!」」


返事をするとアスクレピオスは黒蛇の杖を

顕現させてローランド君に向けた。


『…チッ…おい、アフロディーテのマスター。意識が戻ったから今から診察する。

そこを動くな。』


「え、あ、はい。」


杖から緑の光が放たれローランド君が包まれる。


『…オールクリア。…脳に異常無し。

記憶障害も見られない。状態異常無し。

…ふん、健康体だな。』


「良かった…流石僕。」


『自画自賛はどうでも良いが……うん?』


アスクレピオスの杖が僕に向く。


『…貴様……何か隠し持ってるか。』


「え?いやいやいや何も持ってませんよ!

制服はそちらに渡しましたし、

この服ポケットありませんし!」


『隠し持ってるかもしれんだろう。』


「持ってません!誓えますよ!!」


『む……。』


アスクレピオスが口を噤んだ。


「アーシェに何があったんです?」


シオン先生が聞くとアスクレピオスは眉間に皺を寄せた。


『謎の反応が手足にべったりと付いている。何だこの禍々しいモノは…何者かの手…?

それも複数…。何だこれは……!』


アスクレピオスでも分からない複数の手が

僕の手足に…?それって夢のと関係があるのかな…。

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