第61話『その手を』
前回のあらすじ
シオン=ツキバミ、
シャーロット=アルカディア、
ローランド=ローゼン、戦線離脱。
…
「さ、流石…ヨガミ先生!!」
シャル君もローランド君も生きてた…!
良かったぁ…っ!
「ちぇ〜…ダメかぁ。なぁんで勝手にどっかいくのかなぁホムンクルスちゃん達。
お陰で玉藻前に結構燃やされて彼らを再起不能に出来なかったじゃーん。ぶーぶー。」
『ハンッ、ざまぁないな。』
「ちぇっ。いいもーん。
ほら、見てよ。兄妹喧嘩が見えるよ。」
今度の映像は…スカーレット君!?
…
スカーレット=アルカンシエル
イデア=ルークス
何、何なのよもう!!
エクスちゃんの元へ向かおうとしたらモーブと同じ症状の生徒が召喚獣と共に暴れてるじゃない!それにあの白い化け物まで…!
イデアちゃんと共にその場を切り抜けひたすら走る。
「スーくん!
多分エクス君達は寮に居ないと思う!」
「えぇ…アタシもそう思うわ!というか
まともな人が居ないってどういうことよ…。」
…っ!?急に嫌な感じがする!!
「イデアちゃん!」
「えっ」
壁際を走っていたイデアちゃんの腕を掴み
引き寄せる。
その瞬間いきなり壁が破壊された。
危なかった…。
「あ、ありがとうスーくん。」
「…いえ。ロキ、イデアちゃんお願い。」
『あぁ、任せて。』
壁を破壊した人物。
アタシと同じ真っ赤な髪を持つ
色がくすんだ天使を連れた女の子…。
「クリム、よね?」
「…ふふ、兄様ぁ。どいてくださぁい。」
初めて見る不気味な笑顔の妹だ。
「あら、話せるのね。でも楽しくなさそうなクリムは見たくないわ。」
「エクス=アーシェという人を…
殺さないと…」
エクスちゃんを…?
「嫌だわクリム。可愛い貴女が殺すなんて
物騒なこと言っちゃ。」
「兄様、クリムの自我がある内は傷付けたくありません…どいてくダさい…。」
この子がこうなったのは
本当ならこの子の好きにさせたい。
でも…苦しんでいる貴女を助けることが優先ね。
「退かないわ。エクスちゃんはアタシの玩具なの。そう簡単に壊されちゃ困るわ。
…今も昔もアタシは貴女を苦しめて、兄失格ね。」
そう、だからこそ。
「イデアちゃん、これは兄妹の話だから邪魔しないでね。アタシに何かあったらエクスちゃんをお願い。良いわね、ロキ。」
『分かったよ。けど…
それで負けたらそれこそ兄貴失格じゃね?』
「は?何?
このアタシが妹に負けるとでも?」
『(こっっわ。)オモッテナイデス。』
「ならイデアちゃん守りながら先に行きなさい!やるわよイーリス!」
『はっ。』
「邪魔しないでくだサい兄様…。
そンな兄様なんテ大っ嫌イ。」
嗚呼…その言葉、
もっと早く聞きたかったわ。
アタシの手を振り払った後、
貴女自身の言葉で。
「邪魔するなラ殺してやル…!!」
「えぇ、殺して頂戴。
けど初めての喧嘩なんだから楽しみましょう。貴女の今までの鬱憤をぶつけて来なさい、クリム。でもね、貴女を守り続ける必要があるからタダでやられるつもりは無いわ。」
天使の羽ばたきが聞こえた刹那、クリムは
杖をナイフに変えてアタシに振ってきた。
やはり貴女も物理なのね。
迎え撃つことはせず少しだけ身体を反らし避ける。
「イーリス、クリムの召喚獣は頼んだわ。」
『はい!』
何度も振り上げられるクリムの刃を
必要最低限の動きで避ける。
「あァああァァアっ!!!」
苦しそうな声、目は見開き、涙が零れる瞳…貴女がアタシの前で涙を流したのって
もう随分と昔…それこそ、お母様が亡くなった時が最後だったじゃないかしら。
…
アタシ達が小さい時…アタシは8歳、クリムは5歳の頃、お母様が病気で亡くなった。
勿論、アタシとクリムは大号泣。
とっても優しかった人が死んじゃったから
泣くしか出来なかった。お父様もいつも笑顔で優しくて…アタシ達を抱き締めて「大丈夫だぞ。俺が守ってやるからな!」と言ってくれた。それがお父様の最後の純粋な笑顔だった。お父様は本当にお母様を愛していた。
だから、本当はアタシ達よりも悲しみに溺れていた。それからお父様はいつの間にか壊れて、クリムをお母様の代わりにするようにし始めた。
アタシはそれが耐えられなくてクリムを庇った。するとお父様は…
「あぁ、アリア!!
そこに、そこに居たんだね!」
と、アタシをスカーレットではなくお母様の名前で呼んだ。アタシはお母様似だったからお父様にはお母様そのものに見えたのだろう。
だから、クリムの代わりにお母様の振りをし始めた。この口調はそのせい。クリムを侍女に任せて…狂ったお父様の看病をした。
女装はしたくなくて口調だけ真似た。
お父様の目にはお母様にしか見えてなさそうだったからそれで十分だった。
今思えば総毛立つほど不気味よね。
…いや、それは当時も思っていた。
看病している時にクリムが何をしていたのか知らない。知りたくても知れなかった。
だからほんの少しだけクリムと居られる時間はあの子の為に使いたくてひたすら遊んだ。
少しすぎて話が出来なかった。
少しでもクリムの笑顔を見れてアタシの話はしなくて良かったから心の拠り所となった。
そんな中、アタシとクリムはスクールに行くことになった。クリムを外に出してあげたくて、今まで勉強の面倒を見てくれた家庭教師にずっと頼んでいてやっと行けるようになった。
クリムの喜んだあの顔は今でも鮮明に思い出せるほど可愛くて…愛おしかった。
守らなければと強く思った。
ただ、スクールでアタシは1部に虐めと称される行為を受けた。理由は口調。
スクールへ行く為の条件は貴族という身分を隠し平民として振る舞うこと。
だから皆平等。だから人を蹴落とさないと
気が済まない雑魚が生まれる。
そんな奴に割く時間が勿体ない。
そう思ってずっと無視をし続けた。
暴力を受けそうになった時、学んでいた体術でやり返したらアタシが怒られた。
理解が出来ない。
まぁそれからは閉じることを知らない口で汚い言葉を掛けられるだけという可愛いものになったけどね。
そんなもの、痛くも痒くもない。
だってクリムの笑顔が見えるから。
家ではお父様に、学校では
だから寄り道をするとお父様は酷く怒った。
帰りが遅いと。
…癇癪が酷い時は大人の力で殴られたわ。
アタシの顔をよ。お陰で隠せなくてクリムに心配を掛けてしまった。
お願いクリム。そんな悲しい顔をしないで。
アタシは平気だから。
貴女の笑顔が見れればそれで良いから。
そしてとある日、いつもの様に学校で過ごしていると女の子が慌ててアタシの元へやって来た。女の子とは仲が良かったのよ、アタシ。
彼女は息を切らしてアタシの机を叩いた。
「スカーレット君大変だよ!
クリムちゃんが…っ!!」
全身の血の気が一気に引いたわ。
小さな人混みを掻き分け、輪の中心では
傷だらけのクリムが倒れていた。
「クリムっ!!!」
「に…さま……く、りむ…は…にい、さまが…かっこ…よ…て…だい、すき…です…よ…。」
アタシの腕の中で力なく微笑んだクリムの腫れた目は潤んでいたけどそこから涙が零れることは無かった。
震えながら泣かないように我慢していた。
そこでアタシの我慢の糸が切れた。
初めて我慢の糸を見つけ、
瞬間にプツンと切れた。
許さない。
周りに話を聞くと、アタシを虐めていた奴がアタシに敵わないと思い、学年が違うクリムに悪口を言ったそうな。更には小突いたりしていたらしいがクリムは我慢していたらしい。
それにムカついた奴らは気を引くために
アタシの悪口を言った。そしたらクリムは怒り、反抗したのだという。それならクリムが怪我したのはアタシのせいじゃない。
アタシと仲良くしてるからクリムが辛い目に遭っているんじゃ?
ならアタシから離れればクリムは無事で居られる?
アタシの後ろを歩くあの子を突き放せば…
あの子は素直に泣ける?笑える?
あの子がアタシの手を振り払うくらい嫌いになってくれれば、大嫌いと思うようになれば…あの子の心は辛い思いをしなくなる?
最低な選択しか思い浮かばなかったアタシの心は気づかない間にとっくに壊れていた。
アタシはクリムに怪我を負わせた奴を片っ端から殴りまくり、退学処分になった。
その日からアタシはクリムに冷たい態度をとるようになった。
クリム自らアタシの手を振り払ってくれるように。
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