第55話『突撃深淵部屋』

前回のあらすじ


シャーロット=アルカディアです!

ローランド君と別れアルファクラス三人衆からアビスさんについて話を聞こうと思ったら思い出せないと錯乱し始めてしまい、

アルテミスに頼んで落ち着かせてもらっていました。


そしたらアルファクラス代表、

リリアン=ナイトイヴさんが助けを求めてきて彼女の後を追うことにしました。


 …


「こちらです!!」


リリアンさんが指したのはアルファクラスの教室の扉。


「開けますよ。」


リリアンさんがドアノブを握った瞬間、

アーサー王が彼女の手の上に自らの手を重ねた。


『マスター、私がやる。離れていてくれ。』


「ええ、お願い。」


聖剣を手にし、アーサーが勢いよくドアを

開ける。そこで目にした物、それは…


「ローランド君っ!!?」


ローランド君が沢山の生徒と色のくすんだ

召喚獣の攻撃を様々なポーズで避け続けているところ。勿論、アフロディーテと共に。


「シャル!リリアン殿!!」


「遅くなり申し訳ございません!助太刀致します!アーサー、私達もやりますよ。」


『分かった。だが教室だと私の剣が振りづらい。せめて外へおびき出そう。』


「彼らは話もまともに聞きやしない!

というか会話が出来ない!!

避け続けるのももう限界だ!

その辺は託す!」


ローランド君は攻撃を仕掛けなかったのですね。それは教室だからか、相手がおかしくなってしまっている生徒だからか。


「とりあえずローランド君の体力が減ってしまいます。アルテミス、彼のカバーを。」


『はーい!【月光のベール】!』


アルテミスがそう言うと、ローランド君が

白く光る。


「むっ!ありがとう、シャル!」


「一先ずこちらへ!」


「あぁ!」


机に足を乗せて軽快なステップで来た

ローランド君。流石です!


「さぁ、貴方達はこのリリアン=ナイトイヴがお相手致します!皆の者、ついてきなさい!」


とリリアンさんが高らかに言い放ちアーサーと共に教室を出た。しかし…


『マスター、彼らが来ていない。』


「何ですって?」


アーサーの言葉を確認するように教室を覗くと確かに全員暴れることなく教室の中に居た。まるで教室から出られないような…。

けれどオレ達を見ると即座に攻撃を放ってくる。何故彼らはモーブ君のような状態に…。


「ナイトイヴさん、こんな事になった心当たりはありますか?」


そう聞くと彼女は少し考え、ポケットから…何と黒いカプセルを取り出した。

アレは…堕天アンヘル!!?


「何故それを!!

兎に角早く捨てて下さいっ!!」


「は、はい!」


リリアンさんが堕天アンヘルを投げた

瞬間、堕天アンヘルが…


勝手に弾けた。


「吸っちゃダメです!!!」


『マスター!!』


アーサーがナイトイヴさんを抱き寄せマントで覆う。


「今は此処から離れて先生を呼ぼう!!」


ローランド君に頷き、オレらは先生達を探す事にした。


 ……


時を遡ること皆と別れた瞬間のエクス達。



僕はヨシュア、メルトちゃんと外で待っているらしいシオン先生と共にアビスの部屋へ行くことになりました。

シオン先生はー…っと…。


「…」


あ、居た。壁に凭れてる。…イケメンだと絵になるなぁ。僕らが声を掛けるよりも先に先生の菫色の目が僕らを捉える。


「エクス=アーシェ、

ヨシュア=アイスレイン、

メルト=ガーディア…やな。」


「「「は、はい!」」」


少し緊張気味に返事をするとシオン先生は

凭れるのをやめてこちらに身体を向けた。


「アストレイから話は聞いとる。

君達を連れてアビス=アポクリファの部屋へ

行って欲しいとな。」


アストレイ…ってスピルカ先生か。

シオン先生はファミリーネームで呼ぶから

たまに誰だか分からなくなるんだよね。


「此処で言うのは変かもしれんが…

ウチの生徒がすまなかった。」


といきなり頭を下げるシオン先生に困惑する僕達。


「え!?どうしたんですか急に!!

頭上げてください!」


ゆっくりと頭を上げたシオン先生は悲しそうな顔をした。


「副担任ともあろう者が生徒の企みに気付かず、他クラスに迷惑を掛けてしもた。

本当に申し訳ない。担任のルージュとまた頭下げに来るさかい…」


落ち込むシオン先生の手をとるメルトちゃん。


「気になさらないで下さい。今はアビス君が先です。アビス君は授業に?」


「いや、午前はおったけど午後は無断欠席や。

ルージュの担当授業やったさかい私が探し

回ったんやけど見つからんで。アストライアの話を聞いた後やったから部屋には敢えて

入っとらん。」


「なら部屋に居る可能性が高い…!」


僕に頷いた先生は数歩先を歩く。


「ほな行くで。」


小さくそう言った先生はスタスタと歩いていってしまう。

僕ら3人も頷いて先生の後を追った。


 …


皆、大丈夫かな。スカーレット君、ロキに何か言われてないかな。いや、スカーレット君なら大丈夫か。シャル君、ローランド君も無事だと良いんだけど…。不安に思うことが沢山あり、頭の中がぐるぐるしているとシオン

先生の背中にぶつかってしまった。


「へぶっ!す、すみません!!」


「惚けている場合ちゃうで。もう男子寮や。

ガーディア、今回は特別なだけです。

普段は入ったらあかん。ええな?」


「はーい!」


元気よく返事をするメルトちゃんに微笑み、寮の青い扉を開ける先生。その歩みは迷うことなくアビスの部屋の前で止まる。


「3人とも。今、男子寮に居る生徒を避難させる。手伝って欲しい。」


「「「はい!」」」


「アルファクラス副担任、シオン=ツキバミが命じる!!全員此処から避難せよ!!」


シオン先生の大きな声にビビった生徒達は

逃げるように去っていく。僕達は部屋の中に人が居ないかドアの向こうから声を掛ける。


「あのー!シオン先生が避難命令を出してまーす!部屋に居る人は直ちに避難して下さーい!」


という感じで。いそいそと出てくる生徒が…思った以上に少ないな。

部屋を覗くことが出来ないためもしかするとまだ人が居るかもしれないけど聞かない人には何言ったって仕方ない。僕らは全ての部屋に声をかけ終え先生の元へ戻った。


「おおきに、助かったわ。まだ残っている

生徒が居ったら…命令違反でブラックリストに載せたるさかい気にせんように。」


こっっわ。…ってあれ?


「エクス?どうかした?」


「…いや…」


あれ?アビスって1人部屋なの…?

表札にはAbyss=Apocryphaとしか書いていない。しかし先生も首を傾げたヨシュアも

無反応だ。…たまたま1人なのかな…。

それかルームメイトがコイツ嫌だって言ったのかな。

まぁどちらでも良いか。


「開けるで。何が起こるか分からへん。

用心しとき。」


シオン先生は真っ黒な杖を取り出し、それを刀に変える。か、かっけぇえ…っ!!


「アビス=アポクリファ!!

居るんやったら出てきいや!!これはクラス副担任、シオン=ツキバミの命令です!!」


刀を構えた先生の声に無反応な扉。


「…居留守か、本当に居らんか。離れとき、扉を開ける。何が起こるか分からんさかい

杖と魔導書の準備を。」


「シオンせんせぇー!」


あ、スピルカ先生が手を振りながら来た。

アストライオスも一緒だ。


「アストレイ!そないに息切らして何しとったん?」


「はー…はー…女子寮の生徒も避難させた。だから気にせずやってくだせぇ!」


やってくだせぇ…。


「おおきに。アストレイは結界で3人の守護を。……アビス=アポクリファ!

部屋に入るで!!」


刀の柄をドアノブに当てるとそこからドア

全体に1本の光が走る。僕達はアストライオスの作り出した薄いプラネタリウムのような

結界に覆われた。


「…。」


シオン先生は無言でドアノブに手を添え力を込める。ドアを開け放った途端、紫色の煙が勢いよく流れ出した。


「っ!!」


「シオン先生!!」


 それだけで居てもたってもいられなくなって息を大きく吸い込んで結界から抜け出す。


「あ、おいエクス!!」


「エクス君!!」


ごめんなさいスピルカ先生!シオン先生が

心配なんです!!煙は少なくなったけど足元を漂っている。だから小さく【summon】と言った。


『マスっ…む。』


現れたゼウスは一瞬で事を理解し、指を鳴らす。


『もう呼吸をするが良いマスター達よ。

主らに薄い結界を張った。』


「ありがとうゼウス。

シオン先生大丈夫ですか?」


振り返るシオン先生は呆れ顔だった。


「まさか結界を抜け出すとは。

命知らずな人ですね。しばきますよ。」


「すみません!!」


「まぁええわ。目の前の扉以外開けて確認したけどおらんかった。だからこの最後の扉を開けるで。」


「はい。」


先生が背中を向ける扉はベッドや机がある

部屋だ。居るならそこか。僕は杖を握りしめ、シオン先生は刀を握りしめた。そして


「現れよ、“夜叉”!!」


シオン先生の言葉に呼応し般若の面を頭の横に付け、刀を右に1本、左に2本携えた和装の鬼人が現れた。鬼人と分かったのは左の額から生えている1本の角があったから。


とにかくかっけぇ…!!

見惚れている内にシオン先生は


「動くな!!」


と扉を既に開けていた。やばい出遅れた!!が…。


「…おらん、だと?」


構えを解いた先生の後ろから部屋を覗くと

確かに誰も居なかった。けれど机の上に折り畳まれた紙がある。


「先生、紙が…。」


その紙は表紙に文字が書かれていた。

それは…


“退学届”と書いてあった。


「何やて?」


シオン先生が紙を広げた。その文面は…


[この紙を見ているって事は君達に忘却香は効かなかったんだねぇ〜ざぁんねん。

という訳で退学しまーす♪これからは城下町でお金稼ごうと思います!

僕、接客得意だからさ。あ、そうそう。

クラスの皆が黒いカプセル持ってたよ?

あれ何だろうねぇ?

あ、天使クラスの1部も持ってたよ!

コレを見ている暇、無いんじゃないかなァ?頑張ってね!

以上、アビス=アポクリファより♡]


という退学届に似つかわしくない文が記されていた。


…クラスの皆が黒いカプセルを持っていた??それって堕天アンヘルじゃ…


『む……!!』


ゼウスが勢いよく後ろを向いた。


「ど、どうしたの!?」


『まずい。モーブとノートと同じ気配が

いきなり増えた。』


「………………嘘…。」


『マスター!!

早くせねば助からん命が出てくるぞ!!』


…急がないと!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る