第14話『獣臭い手』

 前回のあらすじ


校内をヨガミ先生に案内してもらってます!


女子寮には…入れませんでした…っ!


『当たり前だろマスター。』


「ゼウスだけには当たり前と言われたくない!!」


『!?』


 …


「あれ?エクス君だ。」


成る可く聞きたくない声の主に視線を向ける。

黒髪のイケメンが陽の光に照らされていた。


「レン…君。」


僕が名前を呟くと爽やかに笑う黒幕。

背後のルシファーは12枚の羽根を6枚に減らして浮いている。


「やっほー!あれ?知らない子がいる。」


レンに挑発的な目で見られたヨシュアは顎を引いた。


「レン=フォーダン君…だっけ。

天使クラス代表の。」


「わー覚えててくれたんだぁ。

エクス君と一緒に居るってことは神クラス

なんだね。名前は?」


「…ヨシュア。ヨシュア=アイスレイン。」


「ヨシュア君ね。おっけー、覚えた。」


やり取りを見ていたプロメテウスが凭れていた壁から離れガン飛ばす。


『おいマスター。何だこのいけすかねぇ奴は。潰すかぁ?』


ポケットに手を入れながらレンの足元から

顔へ目を動かすプロメテウス。


ヤンキーに絡まれている優等生レン。


傍から見るとカツアゲに巻き込まれた可哀想な男の子、という感じだろうが、彼の内面を知っている僕にとってはプロメテウスがモブでレンが実は超強い裏番長にしか見えない。


涼しい顔のまま、レンはプロメテウスに


「召喚獣は血気盛んな炎だね。」


と嘲笑気味に呟いた。


『あぁ!?』


プロメテウスの髪や手など至る所から幾つもの小さな炎が煌めいた。

彼の左手をヨシュアは右手で力強く掴む。


「やめろプロメテウス。

俺のパートナーが失礼したね。」


『な…っ』


「いや、俺の方こそごめん。

優しい召喚獣だね。君に似て。」


皮肉たっぷりのレンの言葉にも笑顔を向けるヨシュア。


「そりゃどーも。そういう君の相棒は静かだね。君と正反対だ。」


言い返したー!!

ヤバいよこの空気!ヨガミせんせーーい!


「さっきから皆に言われるよ、その言葉。

聞き飽きちゃった。」


毛先を弄りながら話すレンをルシファーは心配そうに眉を下げながら見ていた。


この空気何とかしないと…!

僕が耐えられない!


「ね、ねぇ。レン君…僕に何か用だった?」


意を決して声をかけると彼はきょとんとした顔で


「用が無いと話しかけちゃダメだった?」


と言ってきた。

そう言われるとは思ってなかった…。


「い、いや…別にそういう訳じゃないけど…君みたいな人が僕に話しかけるなんて思わなかったから…」


「君みたいな人が、ねぇ?」


レンは僕の方へじりじりと歩み寄る。


「まるで俺の事を知っているみたいな話し方だ。今日初めて会って少ししか喋ってないのに。…もしかして何処かで会ったことある?

それとも、前世の恋人だったとか?」


しまった。


前世の宿敵、と言っても過言ではない。

…けど言えるわけないしなぁ。取り敢えず

凌がないと。何て言おうかな。さっき言った僕に話しかけると思わなかった系で行こう。


「会ったことはないと思う。

君みたいなカッコイイ人が僕に話しかけて

くるなんて意外だったからつい…。」


「…は?」


そうなりますよねー。


「俺、君と一瞬だけど殺りあった仲だよね?

名前、覚えてあげたじゃん。

え?それなら話しかけない?普通。

クラス代表同士じゃん。

共通点あると思うんだけど」


「えーっと…」


目が、目がやばい…

言葉のチョイス間違えた!


『おい、ルシファーの召喚士。』


ゼウスが上から僕とレンの間に割って入った。レンはゼウスを睨み付ける。


「何。」


『私のマスターが困っておるのでな。

その獣臭い手を退けよ。

我々に匂いが移る。』


「!」


レンが一瞬眉をひそめ左手を握り締めた。

獣臭い手?どういう事だ?僕には感じられなかった。ヨシュアの方を見るとヨシュアも

首を小さく横に振った。


『獣臭い手、と言っても何も言い返さないとは。貴様、何をしていた?』


ゼウスの問にレンはふっ、と笑って


「何のこと?」


と首を傾げた。


「言い返さない?違うよ。

意味が分からなかったんだ。ありもしない事を言われて混乱しない奴は居る?」


あのレンの笑顔。

あれは仮面だ。中はまるで笑っていない。


『…そうか、それはすまなかったな。

ありもしない事を言って。』


「気にしてないよ。じゃあ俺はそろそろ行くよ。またね、エクス君。ヨシュア君。」


ひらひらと手を振って僕らに背中を向け歩いていくレン。

あの距離なら話し声も聞こえないだろう。


「ゼウス、さっきのどういう事?」


『さっきの?』


「レンの事を獣臭い手って言ってたじゃん。」


『あぁ。あれはハッタリさ。』


「はったり?」


『アイツらは確実に、あの場に居た。』


「「!」」


驚いてヨシュアと顔を見合わせた。


『手を出した可能性があったからな。あの感じだと何か隠しているのは間違いない。』


腕を組んだゼウス。

彼の顔はレンが歩いていった道に向いていた。何て言おうか迷った時に、赤い扉が勢いよく開いた。

開けたのは汗びっしょりのヨガミ先生。


「はぁー…っ…はぁー…っ…!」


『やーん』


息を切らすヨガミ先生の左手には手のひら

サイズに縮んだアポロンが腕を握られぶら下がっていた。

アポロン静かだと思ったら何してんの。


「ただいまー!」


ヨガミ先生の後ろからメルトちゃんとアテナが現れた。


「おかえりメルトちゃん。

その…ヨガミ先生どうしたの?」


僕の質問にメルトちゃんは困ったように笑った。


「ヨガミ先生、案外女の子に人気があるみたいでね、足早に動いたのだけど女の子に囲まれちゃって。逃げようとしたらアポロンが

女の子を口説いて…って感じよ!」


「ほんっと…お前は…っ

トラブルメーカーめ…!」


血走った目でアポロンを睨みつけた先生。

何で縮んだのだろう。

小さくなったアポロンは


『そこに女の子が居るんだから仕方ないだろう?』


と反省なし。足をプラプラ動かしている。

…嘗めてるな。


「このまま手足を捥いでやろうか…っ!」


『いだだだだっ』


ヨガミ先生、本当にアポロンの腕をひねろうとしてる!!


「せ、先生落ち着いて!」


止めようと先生の両脇に手を入れる。


「離せっ!もうこんな召喚獣嫌だ!」


『またまたぁ〜そんなこと言っちゃって!

ボクが良いくせに〜!』


アポロンは手を掴まれたままにも関わらず

ヨガミ先生をバカにする表情を浮かべていた。


あの顔うっざ。


「お〜ま〜え〜…っ!!」


ヨガミ先生がブチギレる寸前ー…


「ヨガミ先生、ちょっとお話が。」


と先程まで考え込んでいたヨシュアが口を開いた。流石の先生もピタリと動きを止め聞きに入る。


「どうした?」


「さっきゼウスが言ってましたが、

天使クラス代表のレン=フォーダンがあの場に居たそうです。」


ヨシュアの報告に先生は握っていたアポロンを離した。


『いてっ』


床に顔面をぶつけたアポロンを構うことなくヨシュアの前に立った。


「詳しく聞かせろ。」


「はい…

と言っても俺よりゼウスの方が良いかと。」


全員の視線が集まり、ゼウスは頷いた。


『ここでは目立つ。何処か場所はないか?』


「それもそうだな。ついて来い。」


ゼウスに頷いた先生は先に歩いていった。


僕とヨシュア、メルトちゃんは頷きあって先生を追いかける。


 …



「何でバレてたんだ?」


『相手は最高神、全知全能のゼウス様です。

 彼を騙せる者は多くありません。』


「はぁ…なぁるほど。流石のルシファーでも難しかったか。ねぇ、ルシファー。」


『はい。』


「俺の手、そんなに獣臭い?」


『いえ、そのような事は。』


「…あの目と気迫に押された。

一瞬で嘘を取り繕えなかった。まぁ隠せても気付かれてたのには変わりないし意味無いけど。」


『これからどうされるのです?』


「どうしようね。…手駒を作ろうかな。

協力してね、ルシファー。」


『承諾。』

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