第91話『過去の君に誘導尋問』

前回のあらすじ


アビスと対峙したのは僕とレンとヨシュア。

ヨシュアは正気じゃなかったからユリウスさんの質問に頷いたら嘘だと言われました。

…バレてしまった。


 …


ユリウスさんは手に持った黒い羽を親指と

人差し指を擦り合わせて回転させながら口をつり上げる。


「貴方達、一体どんな嘘を吐いているんです?…もしかしてまだ誰かが居てその人が

アビスの仲間、とか言いませんよねぇ?」


どうする?多分ユリウスさんはおかしくなったヨシュアの事を知っている。

でもアビスの仲間じゃなくて僕らの仲間だ。

それにヨシュアは別に悪い事をした訳じゃない。けどそれは隠した僕にも言えることだ。悪い事してなければアビスと対峙した事を

隠す必要なんて本来ないのだから。でも記憶が曖昧だったヨシュアの事を言うと嫌な方向に進む気がする…!

“ヨシュアの記憶が曖昧なのは何故?

それはアビスの息がかかってしまったからだろう?つまりアビスの仲間になったのだ!”

と言われかねない…!


「「…。」」


僕達はお互いの顔を見る事無く俯いた。

しかしレンが僕よりも先に口を開いた。


「あの、もしかするとそれって召喚獣のせいじゃないんですか?ほら、召喚獣が居ると

エクス君…エクス=アーシェと俺だけ

アビスと対峙したということが嘘になる。」


笑顔の仮面を付けたレンを見てユリウスさんは眼鏡を中指で押し上げた。


「…ま、そうですね。ですがこれは」


「証拠はあるんですか?

俺達が嘘を吐いているってしょーこ。

黒い羽は落ちてませんよ。

貴方の召喚獣が嘘発見器だとしましょう。

ですがそれが嘘を吐いているか吐いていないかだけを見抜くのシステムならその言い分はユリウス=リチェルカさんの憶測という事です。あ、勿論嘘を吐いたのは謝ります。

ね、エクス君。」


と横から視線を送られ頷いた。

レンが話したのは確かに真実だ。

あの場にルシファーが居なくても

ゼウスが居たんだから。


「うん……嘘を吐いてすみませんでした。」


「……証拠、ですか。確かにラジエルは嘘を吐いているかどうか見抜くことが出来ます。

嘘を吐いているのにラジエルが気付くと黒い羽を私の前に落とします。レン君、君が言った通りそれだけです。

ですから私には証拠がありません。

ですがそれは君達も一緒ですよね。」


確かにそうだ。ゼウスはどうやってか見たものを映像にして皆に見せることが出来る。

けれどそうするとヨシュアがその場にいる事がバレてしまう。


「ですから証拠となる者を作りましょう。

ニフラムさん。」


ユリウスさんに名前を呼ばれた彼は嫌そうに頭を掻く。


「え〜…ホントにやるの?」


「えぇ!だってアビスの仲間かもしれない子が潜んでいるかもしれません!

この2人が誰かを匿っているのも、仲間が敵だなんて信じられないからかもしれません!

ですから、ね!」


匿っていること確定されてる…。

というかまず!


「この中に敵なんていません!!」


と少し声を荒らげてしまった。

でもレンも頷いてくれた。


「そうですよ。言いがかりです。」


それはレンの本心なのかな…。

僕達の意見を聞いたユリウスさんは悲しそうに微笑んだ。


「信じる為に疑うのですよ。」


「!」


それは…そう言うと聞こえは良いけど納得できない。そんな考えしなくちゃダメなのかな。というか敵なんていないし!


「この中の面子なら匿ってもおかしくありませんから探らせてもらいますよ。

では1だったヨシュア=アイスレイン君、君から始めましょうか。」


「…。」


くそ…っ…ユリウスさんのあの顔…

何か知ってる顔だ!元々ヨシュア以外に何かする気は無いな!まずい何する気だ…!?


「ニフラムさん、お願いしまーす♪」


「はぁ…

何かあったらユーリが対処しろよ?」


「はぁーい。」


対処!?それが必要なことする気!?


「ゼウ」


『いや、悪いが様子見だ。』


ゼウスが僕の口を手で塞ぐ。

何でこんな事するの!?ヨシュアが!


「ヨシュア君、ゴメンね。ユーリあぁなると聞かないんだ。だからパッとやって終わらせよう。」


「………はい、分かりました。」


ヨシュア!!絶対やばい事だって!!


「もががっ!」

『これマスター!暴れるでない!

大丈夫だ!』


「もが…」


嫌な予感しかしない…。


「クロノス。」


ニフラムさんに頷いたクロノスはその場で

ヨシュアに向かって手を伸ばす。

するとヨシュアの後ろにギリシャ数字が刻まれた時計のような物が現れ、両針はXIIを指している。そしてその針はXIへ進み始めた。

あれ?これって……


反時計回り?


「うぐっ!?」


急にヨシュアが心臓を押さえて苦しそうに

なってる!


『マスター!!』


プロメテウスがヨシュアの肩に手を伸ばすが、ヨシュアは右腕を必死に伸ばして

手を振り払う。


『っ…』


「頑張れーヨシュア君。」


と言いつつも無表情のニフラムさん…まさかヨシュアの時間を巻き戻してるんじゃ…!?何処まで巻き戻すつもりなんだ!?


「うぁ…ぐっ!」


ヨシュアの顔に凄い汗が…!

先生達何とかしてよ!!


と思って先生達を見るけれど皆目を見開いて一筋の汗を垂らして固まっていた。

スピルカ先生?ヨガミ先生?

何で動いてくれないの?


『マスター。今度はマスターが耳を貸せ。』


ゼウスが手を離し、僕の耳元で声を小さくして話しかけてきた。


「?」


『マスター、プロメテウスのマスターは今、マスターとレンから引き出した情報と

ラジエルのマスターが持つ情報によって

アビスの仲間という可能性を疑われている。

だから教師達も手を出せん。疑いを晴らすにはそれ相応の証拠が必要なのだ。』


「ゼウスが証拠を出せないの…!?」


『私が出したところで捏造だと耳を貸さない可能性がある。例えラジエルの羽が落ちずとも。それならば本人が違うと直接証明した方が良かろう。辛いだろうがな…。』


「そんな…。」


「うぅうぅあぁぁ…っ」


苦しさで机から手が離れズルズルと右へ倒れていくヨシュア。最終的に彼は椅子から

転げ落ちるように倒れてしまった。


「ヨシュア!」


反射的に彼に駆け寄ろうとした瞬間、


「ダメだよ動いちゃ。」


とニフラムさんにそう言われた。


言われただけなのに…


身体が、震える。動けない…。

時間を止められた?でも身体が震えている。


『マスター、ヨシュアなら大丈夫だ。

だから座ろう。』


でも…でも!

皆が凄く心配して見て……い…あれ、


ヴァルハラの人達表情1つ変えていない…。

ヨシュアが苦しんでいるのに…先生達は

悔しそうに歯を食いしばっているのに…

僕達は心配で仕方がないのに…


何だ…それ。


無性に腹が立ち僕が魔導書を出そうとした

瞬間、ヨシュアの呻き声が無くなった。


「…」


『マスター?』


プロメテウスが彼を揺さぶるけど起きる気配がない。今度は肩を叩く。


『おい、マスター!起きろって!

おい!ヨシュア!!

……くっ!!な、なん…っ』


ヨシュアの身体を起こしていたプロメテウスが彼を床に寝かせ、胸を押さえて…


光り輝き消えた。


「プロメテウス!!」


『(祖父ゼウスが治したはずのあの得体の知れないモノがアイツの中に復活し、

プロメテウスが消えた…!プロメテウスも

事件でやられた時間まで戻され、

そのマスターに施された祖父ゼウスの治癒も戻すのか…曾祖父クロノスは…!)』


『チッ…やはり時間を巻き戻したのだな、父上は…。』


ゼウスが呟いた瞬間、銃声が鳴り響く。

何が起こったか分からない僕達はただ呆然としていた。するとドサリと机に大きな鳥が…違う、天使だ。天使が…ラジエルが墜ちてきた。皆驚いて負傷したラジエルを見ているけど僕は一瞬で視点を左に変えた。


「…超頭痛い、何これ。」


起き上がったヨシュアが煙の出てる拳銃を

手にしていた。


「ヨシュア…?」


名前を呼ぶと何も映さない濁った瞳が

僕を見る。


「……誰だっけ、お前。」


「!」


あの時の怖いヨシュアが戻ってきてしまった…。そこまで戻された…。

何させる気だよ、ユリウスさん…。


「やぁ、こんばんは。

ヨシュア=アイスレイン君?私はユリウス。

加虐嗜好の君が何も考えず撃った召喚獣の

マスターです。こちらが少々手荒な真似をしてしまったので混乱して撃ってしまったのでしょう?ですから、特別に1発はノーカンとしてあげましょう!その分、銃から手を離して

質問に答えてくださいね。」


「…」


…ヨシュア…普通にしていれば疑われる事も無い。頼む…。


「貴方はアビス=アポクリファに会ったことがありますか?」


ヨシュアは視線を右上、左下に動かしてから


「あるんじゃね。」


 と答えた。マジか…!?


「ではあると過程しましょう。

それは何処ですか?」


「………暗い、部屋…?

アイツと…ソイツが居た。」


「「!」」


ヨシュアは僕とレンを指さした。ユリウスさんは心做しか嬉しそうに口角を上げる。


「おっと…!本当ですか?

彼等は2人と召喚獣と居て君とは会っていないと言っていましたが…」


「じゃあ会ってない。

アビスとかいうやつにも会ってない。」


凄い手のひら返し。

流石にユリウスさんも顔が引き攣る。


「…(ラジエルの羽も反応していない。)んー?どういう事でしょう?」


「記憶が混乱しててどれが今で過去で夢か

分からない。だから自分でも嘘を吐いているか分からない。」


「!…ラジエル。」


ユリウスさんの呼び掛けに起き上がった

ラジエルは首をフルフルと横に振った。


「…どうやら本当のようですね。では質問を変えましょう。貴方はとある人物から

加虐嗜好者と伺っております。

そして君は今、過去の貴方だと。」


誰だそんな事言ったやつは…。


「それが?」


「そんな貴方の記憶が曖昧だとしてもこの2人とアビスに会ったという事を憶えている。

つまりそれは今の状態の貴方があの場に居てもおかしくないという事でもある。

…この機会に乗じて自分の欲を満たすために生徒を傷付けたりして?」


「覚えてな……」


トールが視界の隅で一瞬手を動かしたと

思ったらヨシュアは僕を見てゆっくりと

口角を上げる。え、何?


「あぁ…っ!そうだお前はエクス=アーシェ!俺はお前の悲鳴を聞きに会いに行ったんだ…!そうだ、あの部屋の地下に!

アイツが壁に穴空けて!」


嬉しそうなヨシュアはレンを指さす。

突然器物破損発言されて焦るレン。


「ちょ、ちょっとヨシュア君?」


「そしてお前は水色の頭の男と向き合っていた!それでゼウスに邪魔されたんだ!」


まずい…遠回しに、いやがっつりアビスに

会ったと言っている…。

しかも言い方はアレだけど全部本当だ…

(レンについてはわからないけど)。

急に何で思い出した?まさかトールが記憶を鮮明にするために雷撃ったとか…

な訳ないよな…。

という事を思っている場合じゃない。

ユリウスさんはまた嬉しそうに笑っているのだから。


「へぇ!水色の頭、ですか。

それはアビス=アポクリファの特徴にありますねぇ!ゼウスに邪魔されたと言うのは…

エクス=アーシェ君と敵対していたから、

という訳ですね?」


おいおい誘導尋問じゃん!

まさかその返事次第でヨシュアが肯定したらアビスの仲間と勝手に決めつける気じゃないだろうな!!


「それは…」


ヨシュア…!!

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