第49話『直ぐにという訳でもなく』

前回のあらすじ


スピルカ先生と話して、今日の放課後に早速動くことになりました。

少し怖いけど皆を助けたいんだ。

頑張るっきゃない!


 …


「モーブ…頼むから死ぬなよ…。」


「ヨガミちゃん、大丈夫。

ラブラビとパナケイアに任せて。」


『そーだよヨガミ。

は凄いんだから。

…だからさ、怖がらなくていいよ。』


「……あぁ。頼むラブラビ、パナケイア。」


『…。』

「うん!まっかせて!…ってパナケイアも言ってる!」


 …


ジャージから制服に着替えて、召喚獣ゼウスを魔導書に戻し、再び教室へ戻った。


「あいあいお待たせー!ヨガミ先生不在の為、アイツが来るまで俺が全部の授業を受け持ちまーす!実技は出来なかったけど座学、薬学、錬金術が残ってるからな!

じゃあ座学始めるぞー。」


(錬金術が無くなれば良かったのに…)


と思っていそうなヨシュアの顔を見ながら

僕はノートとペンを用意した。

スカーレット君はシャル君の右隣、つまり僕の隣の隣。ちっか。

僕、そういえばスカーレット君の事よく知らないな。まぁ後で聞けばいっか。


…あ、やべ。前回魔法掛けられて寝てたの

忘れてヨシュアノート写すのを忘れてた…!


「よ、ヨシュア。

昨日の座学って何ページ使った?」


「あ、そっかエクス寝てたもんね。」


「不可抗力でねっ」


「大丈夫2ページだけだよ。」


「あざー……す。」


とノートを見せてくれた。綺麗な字がビッシリと詰まった行の羅列を見ると目眩がする…。

流石抜き打ちテスト平気タイプ…優等生め。念の為シャル君にも聞こ。


「シャル君、シャル君。

昨日何ページ使った?」


「あ、エクス君眠られてましたものね。」


「不可抗力でねっ(2回目)」


「ふふ…ヨシュア君と同じ2ページですよ。」


「あざっ……。」


シャル君もノートを見せてくれた。

何かこう…お母さんの綺麗な字って感じ。

シャル君は方眼紙使ってんのかってくらい字が揃っててびっくり。

自分の字が恥ずかしくなってくる…。

そんなやり取りをしている内に黒板に字が

詰まっていく。やっばい急がなきゃ!

2ページ開けて…ここから書き始めよ。


 …


「覚えれる自信が無い。」


座学を終えた僕は机に額を当てていた。

ゲームでほんの少ししか言われてない都市とか村の名前言われてもわっかんないよぉ…

全部カタカナだし…。まだ漢字あった方がマシ…村しか漢字無い…。

それこそスピルカ先生がさりげなく魔法詠唱してるんじゃないかとばかり思う。


「エクス君、次薬学だよ!

ローブ羽織って早く行かないと!」


上の席のイデアちゃんに言われ、頑張って

立ち上がる僕は気分が沈んだままローブを

羽織ってフードを被り錬金術部屋に向かった。


「薬学…何やるんだろ。」


またポーション作れ、かな。僕だけ。


部屋に着いた僕達は巨大釜の後ろで話していた。普通の学生の会話を…ね。


「皆お待たせーい!」


ローブを羽織った先生は黒い小人のようでちまちまと歩く姿が可愛かった。ローブが大きすぎて袖から手足が出てないしローブで目が隠れてる。アストライオスに手を引かれ釜の横まで来た。


「昨日はポーション作ったよな!

じゃあエーテル作るぞー!」


嫌な予感。


「エーテルと言うのは魔力を回復出来る優れ物だ!使うのはこの大釜じゃなくて小さな釜と水と火とコレ!」


と言って先生がローブから取り出したものはポーション作りの時にも使ったヒーリングリーフと…何あれ。変な箱持ってる。

もしかしてゼラチンとか?エーテルって四角いゼリーみたいだし。ってな訳無いか。


「葉っぱとゼラチンです。」


ゼラチンなんかい。


「食うからな!食べられる物じゃないと!」


リアルだなそこ…ゲームらしくない…

あ、ゲームじゃないんだ。だからアイテム飲んだり食べたりしないとなのか。

…美味しいのかな。


「作り方は至って簡単!釜に水を入れて魔力を込めて魔法水にします!」


出たよ魔法水…。


「んでゼラチンを入れてぇ…溶かしてぇ…葉っぱ…ヒーリングリーフを入れて初級火属性魔法で熱する!」


ん?それで出来るのはゼリー型のポーションでは?


「出来るのポーションじゃね?って思ったはいそこー。違うのはこれからでーす。」


先生の星屑の杖はどーみても僕を指していた。

その通り、僕ですね。


「ゼラチンを入れて固まらせるにはどーしますか!はいエクス君っ!」


僕を指した杖を小さく振る。


「あっ!?えっっと…ひ、冷やします!」


「そーう!冷やす!氷属性魔法でパッキーンとな!そうして出来たものがこちらでーす。」


先生は教卓から皿に乗った四角く水色のキューブを取り出した。料理番組のアレだ…。


「氷属性魔法を放つことで草の細胞が変化し、エーテルに変わるんだ!あとゼラチンが固まってゼリーになる。普通に美味いぞ。砂糖を入れるとなお美味い!」


と1人で少し大きな寒天ゼリーのような

エーテルをもしゃもしゃと食べている。


「という訳で皆に材料を配るから実際にやってみー。」


先生は片手でエーテル、片手で杖を持ち、

小さく振ると材料一式があっという間に手元に来た。うっし…頑張るぞ!!




 間。



「どうせ僕はグズで不器用のあんぽんたんなんだぁああぁあ」


「おうおうどうしたエクスーヨガミみたいになってるぞー。」


うっうっ…また僕だけエリクサー(ゼリー状)だ…。


何で!?魔力調整やったじゃんっ!!凍ると葉っぱの細胞が変化するんでしょ!?

有った変化は形だけ!!

ゼリーになっただけ!


「ホントお前って魔力調整ヘッタクソだなぁ。」


「僕…これでも究極魔法詠唱なしで唱えた奴なんですけど…」


悔しくてぼそっと呟いたらスピルカ先生は

目を丸くした。


「マジか。」


作業を終えて壁際に寄ってノートをとっているヨシュア達に確認するように視線を向けた。


無言でコクコクと頷く彼らを見てアストライオスも目を見開いていた。

先生は暫く驚いた顔で僕を見つめ、


「お前本当にすっげぇな!

でも明日補習な!」


と眩しい笑顔で言った。マジかぁ…。

落胆と同時にチャイムが鳴った。

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