第144話『目覚めの太陽』

前回のあらすじ


げ…あらすじ喋るのアムルの次かよ…。

まぁいいや。

俺、ヨガミ=デイブレイクは、

任務で里帰りを決めた。


太陽のように輝いていた姉貴のように

なるって決めたから。



薄暗く、コツコツという足音が響き渡る広間に明るくて、何処か不気味な声が人を呼ぶ。


「の〜い〜ずぅ〜♪」


「何ですカ。」


呼ばれた人物は階段に座り、頬杖をついていたのをやめ、声をかけたアビスに視線を向ける。


「ジル=ギルベートどうだったァ?」


「あァ、案外ただの人間でしたヨ。

戦わなきゃこっちのもんって感じですネ。」


「流石ノイズだぁ!」


パチパチという音も寂しく響く。


「はいはイ、凄いのはライアーですかラ。

態々訂正されたいなんて趣味悪ぅイ。」


「ひっどーい、本心なのに。」


「驚いた…

貴方に本心という言葉があるとは。」


「何でそれ普通に喋って言うの?

僕だって傷付くよ???」


「驚きすぎてついネ。

…ところでネームレスは何処ヘ?」


「分かんない。

何か焦ったような感じで走ってったよ。」


「ラヴァの治癒魔法で治ったからといって

走って良い訳ではないのニ…

顔が見えないアビスが焦ったと分かったってことは余程動作に現れてたのですネ。」


「ね、ちょっと頼むよ。」


「俺めっちゃ働いてるなァー?」


「ごめんて!!僕はここから動けないもん!

だからラヴァかエンデュ連れて行ってよ。

埋め合わせするから、ね!」


「チッ…分かりましたヨ。

貴方の為ではなくネームレスの為にですからネ。」


「あいあい!頼んだよォ!」



「ん…」


ん、ここは……暗いな。

僕は今まで寝てたのか…。

手すり付きのベッドと掛け布団…病院?

シュヴァルツの病院かな。

明かりは非常口の緑色のランプだけ。

状況を整理しないと。


まず僕は味方だと思った衛兵にやられて…

ネームレスを逃がしたんだ。

その後、意識が無くなって…今に至る。


怒られるだろうな、これは…。


アムルちゃんに我儘言った挙句に重要参考人を逃がすなんて…

下手するとヴァルハラ追放ものだ。

でも僕だけ被害を被って皆が無事ならそれで良い。



“人間がこの世界で1番いらないモノです。”



ふと思い出す牢でのネームレスの言葉。

僕はそれを聞いて「そんな事ない」と


否定は出来なかった。


しないのではなく、出来なかった。


そも、人間が居なければ悪魔なんてやって

来ない。この世界は自然に溢れ、弱肉強食の世界の理を持ち、世界を廻していくのだろう。


人間が居たから森が消え、村や街が建ち、

悪魔を呼ばれ創り上げたそれが消えた。


人間とは何と自分勝手なのだろう。


なんて考えてしまうことが会議の後から

増えた。


でも僕はこの世界が好きだ。

皆が笑っている顔を見ると胸が温かくなる。

楽しい、嬉しいという気持ちが好きだ。


彼らみたいに今を必死に駆けている少年少女を見るのが好きだ。全力で応援したくなる。


この世界は良いことばかりではないけれど、

悪いことばかりでもない。

だから僕は動かなくてはならないんだ。


僕の好きなこの世界を守るために。


ごめんねシュヴァルツ。

迷惑かけたね。

わざわざこんな広い別室を用意してくれて

ありが……


僕の腕に繋がった点滴を勝手に取って手で

押え止血し動こうとした時、

暗闇に目が慣れたようで僕以外にも誰かが

寝ているのが見えた。

足音を立てずに近づく。


え、ディア…!?

何でディアが…


「うぅん…」


っ!?後ろから…まだ誰か居るの…?

踵を返し自分のベッドを通り過ぎ、

よく見てみると…オレンジ髪と……

椅子に座って寝ているのは……

エクス君とヨシュア君か!

何故彼らも此処に?

兎に角ヨシュア君をベッドに寝かさないと。

椅子に座って寝るなんて大変だし

首が疲れちゃうよね。

そう思って彼に触れようとしたその時


「ッ!」


「わっ」


いきなり目を開けた彼にバシンと手を弾かれた。驚いた、気配にかなり敏感だ。

しかし彼は声を上げることなく、

ただ僕を睨みつけた。


「………りんねさん…?」


「やぁ、起こしてごめんね。」


「いえ…お身体の具合は…?」


「走れるくらい元気だよ。」


いくら小声でも此処で話すと他2人を

起こしてしまう。

かと言ってヨシュア君もお喋りに付き合う

時間は無いよなぁ。


「ヨシュア君、僕のベッド使いなよ。

首疲れちゃったでしょ?」


「お構いなく、慣れてますので。」


慣れ…?

アイスレイン家は貴族なはずだけど…。


まぁ、だけどさ。


「…外、出ます?」


顔に出てたかな…真っ暗だけど。


「うん、お話聞かせてくれるかい?」


「はい。」


ヨシュア君とこっそり外へ出るべく、

扉を開けたその時


『ほう?アマテラスの召喚士、

随分と腕が身軽そうだな?』


あ…


「あ、アスクレピオス……」


自分の口角が痙攣のように引き攣った。


『貴様、いい度胸だな。』


やば…めっちゃ怒ってる…。


『マスターがどれだけ心配したと思っているんだ。』


「ごめんなさい…」


『プロメテウスの召喚士、貴様は要監視の

対象だということを忘れてないか。』


「えっと…」


『私とマスターは明日…いや、今日か。

此処を留守にする。

特に貴様らに勝手に動かれては適わん。』


「え…」


医院長が留守にするの…?


『何だ貴様、分かってないのか。』


「リンネさん、これ…」


ヨシュア君がデバイスを見せてくれた。


アムルちゃんとエクス君、それにスピルカ君にヨガミ君が【喪われし郷】へ任務?

でもこの文面には…


『マスターのあの症状について、

私は行かなければならない。そう思った。』


症状って…

急に小さな子みたいになるアレのこと?


『来い。』


アスクレピオスは返答を待たず浮いて廊下を移動し始めた。

僕とヨシュア君は顔を見合せ追いかけた。

アスクレピオスが止まったのは明るいものの誰もいないナースセンターの近くの広間だった。


『座れ。』


これ以上アスクレピオスを怒らせると良くないと思い、丸く可愛らしい椅子に座った。

アスクレピオスは空中に浮いたまま座ったように足を組んで僕ら2人の前へ。


『私はマスターを治したい。だからその

任務へ無理を言ってついて行く。』


「この任務で治せるの?」


『その確証を得る為に行く。

端から簡単に治るなぞ思ってない。』


「そう…

でも君を動かす何かはあった訳だ。」


僕に頷くアスクレピオスはあまり多くを

語りたくないような顔をしていた。


「あ、あの…

シュヴァルツさんは何かあるんですか…?」


ヨシュア君が申し訳なさそうな顔をして

聞いてきた。

そうか、彼はユーリさんの戯れで

気を失っちゃったんだよね。


『…貴様が知る必要は無い。』


「そう、ですか。」


アスクレピオスが話さないのなら僕が話す訳にはいかない。ごめんね。


『だからこそ、勝手に動かれては困る。

頼むから、此処から出ないでくれ。

貴様の身体とこの病院を守る為もあるんだ。』


「…」


アスクレピオスの真剣な眼差しに頷かざるを得なかった。

あのディアが病院ここに居るくらいだし、

エクス君は任務があるし勝手なことをしてられないな。


「……ごめん、分かったよ。」


『そしてプロメテウスの召喚士、

明日は学校に戻ること。良いな。』


「はい。」


『話は以上だ。

さっさと行け、大馬鹿者共。』


「「…」」


アスクレピオスは浮いたまま闇に紛れた。

足音を立てないためだな。


「…帰ろっか、ヨシュア君。」


「…そうですね。」


折角情報共有出来ると思ったのに…


「「(何か得られると思ったんだけどな)」」


多分ヨシュア君と一緒の考えだな。

ちゃんと考える子だな、彼。

…アムルちゃん、大丈夫かな。

ヨガミ君もスピルカ君も…


僕は早くネームレスを捕まえないと。


一言も話さず、病室に戻り、ヨシュア君を

無理やり僕のベッドに寝かせて椅子に

腰を降ろした。不思議と身体が疲れていたのかすぐに意識を失った。


目が覚めたら室内は明るく、

ベッドで寝ていたはずのエクス君の姿は

もう無かった。

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