第40話『購買部という不思議な館』
前回のあらすじ
僕らの背後に音も気配も無く現れた
天使クラス担任のリーレイ=テレサリア先生。
彼女は不穏な空気を感じると言っていた。
もしかしてアビスの事を感じ取っているのかな。僕達は情報が欲しくて購買部に寄ることにした。
…
購買部と言えば校内バイトで稼いだお金で
ポーションとか役立つアイテム買ったな〜。
…今お金無くない?
門前払いされないかな!?
「エクス君、今度は困った顔してる。
忙しいわね。どうしたの?」
またメルトちゃんに覗き込まれた。
だから近いって!!
僕は機敏に動き距離をとる。
「い、いや!僕お金持ってないから門前払いとかされないかなって!思いましたです!」
「(思いましたです?)大丈夫!私、イデアちゃんと昨日の空いた時間でバイトして少しあるから!」
マジか!!?
「オレとエクス君はウィンドウショッピングですね…。」
「そだね…。」
『金なら私が作』
「ダメに決まってんでしょうが!!」
『ふぎゅっ』
不正ダメ絶対。アポロンを掴むヨガミ先生のようにゼウスを片手で掴んでほっぺをむにゅむにゅした。
『…たのひいか?まひゅたー』
「ウン…それなりに。」
しかし買い物できないんだよなーと落胆しているとメルトちゃんがどんと胸を張って
「何かあったら奢ってあげるわ!」
と言った。
「「それは申し訳ないです!!
ダメです!!」」
「は、はいっ!ごめんなさいっ」
シャル君と全力否定でメルトちゃんを言いくるめた。
女の子に奢らせるなんて男が廃る!!
「オレ達も今度バイトしましょう!」
「うん!」
貴族もバイトするんだな…
いや、仕方ないけどさ。
「あ、着いたわ!うん、まだ開いてる!」
購買部に着いてメルトちゃんは自動ドアを
通って先に中に入った。
「あ、待ってよー!」
メルトちゃんに追いつこうと小走りして自動ドアを通った瞬間顔面に何かがぶつかって来た。
「ぶえっ!!」
「エクス君!?大丈夫ですか!?」
「いだぁ…っ…
目ん玉がぁ…ゼウス助けてよぉ…」
『すまぬ余所見をしていた。』
頬を膨らませながら僕を見るあたりさっきのほっぺむにゅむにゅが癪に障ったのだろう。くっ…僕の召喚獣なのに…。
「エクス君にぶつかったのはこの子ですね…。」
シャル君が小さな白い狐を抱えた。
「狐…?」
ただの狐にしては神々しい感じがあると言うか…顔に赤い模様があって不思議な感じ。
きゅー…とシャル君の腕の中で落ち込む狐。
僕にぶつかったことを申し訳ないと思ってくれてるのかな。
「ほらぁ、急に走ると危ないって言ったじゃん。めっ!」
男の人の声だ。
「きゅぅ…」
シャル君の腕から男の人の肩へ飛んでいく
狐を目で追いかける。
狐が飛んでいった主らしき男性は黒い狐の
仮面で目元を隠している不思議な人だった。仮面の黒に映える金色の模様が輝きを放っていて神秘的なカッコ良さもある。
うわぁ!生で見ると背ぇ高っかぁ!
この人は購買部の店主さんだ。
「こんばんは、坊ちゃん達。嗜好の館、
購買部へようこそ!食べ物や文房具、雑誌や小説などなんでもござれで不思議な館。
小生はその主、ミカウ。
今後ともご贔屓にね♡」
両手を狐の形にして口角を上げるミカウさん。うんうん、イケボなこの声だ!
この人ゲームの曲を歌った歌うまな声優さんなんだよね。めっちゃ好きで何回もリピった記憶が鮮明に蘇る。
というか、ミカウさん、相変わらずのキャラだ。館って言っても普通にコンビニみたいなところだけど…。
「あ、キミぃ。疑ってるね?
狐に化かされてないなー?化かしちゃお。」
えいっと狐の手に額を突かれたその瞬間、
コンビニ見たいな風景が一変し、
和風の…旅館見たいな風景に変わった。
何これ!??
ゲームではそんなの無かった!!
…あれ?そう言えば寄るたびに背景の色変わってたような…いや、覚えがない。
とりあえず無言なシャル君の様子を伺おう。
「…」
驚きすぎて言葉を失っているようだ。
「っふふ!驚いた?ビックリした?どーお?ゼウス様〜?お気に召しましたー?」
『ふむ、漆塗りの建物は風情があって良い。』
ゼウスの事驚かないんだ。というか等身違うけどゼウスって分かるんだ…。
そしてゼウスは漆とか知ってるんだ…。
「キミ達、何やら秘密な事を考えてそうな気がする。」
「え」
『!』
ドキリとした僕に口角を上げた顔をずいっと近づけてくる。何で分かるの!?
「小生に隠し事は出来ないよ。
キミ達には教えてあげよう。そこの美人さんとさっき入って来た乙女ちゃんと一緒においで。」
微笑んだ後、僕達に背を向け歩いていく。
よく分からないけど…シャル君を見ると彼は頷いた為、僕も頷いてミカウさんについていこうと決めた。
「あ、エクス君!シャルちゃん!」
「メルトちゃん!」
彼女が小走りで合流した。
「丁度良かった。一緒に来て。」
「?分かったわ!」
どう考えても先程のコンビニよりも長く広い空間を歩いている。沢山の障子や柱の位置など景色が変わっているからしっかりと前に進んでいる…と思う。
そう思い込んでるだけかな…。
「凄い空間ですよね。和風で…とても広い
旅館というものでしたっけ?
そんな雰囲気のある良い建物ですね。
書物で見たものよりも豪華ですが…。」
「シャル君、旅館知ってるの?」
このゲームは西洋が舞台だから和には縁が
無いはずだけど…。
「はい。家の書物で見たことがあります。
別国の建物一覧に書いてありました。
宿屋さんなんですよね。」
「そうだよ。
畳の匂いがいい匂いなんだよ〜!」
「エクス君行ったことあるの?」
「うん、小さな頃にね。」
別国ではなくて別世界のだけど。
「きゅーっ!!」
先程の白い狐がちょこんと目の前に座っていた。
「わぁ可愛いっ!」
狐はメルトちゃんに尻尾を振ってから僕らの前を数歩歩き、ついてこいと言わんばかりに振り向いた。じゃあその通りに。
「ついていこう。」
皆が狐を凝視しているので誰も口を開かない。ただフワフワな尻尾がユラユラと動くのを見ているだけ。
あぁ握りたい…っ!
その衝動を抑えると狐はその場で止まり、
丸い窓を見つめる。窓の中は何も見えない。
狐はその後、見つめた窓に飛び込んだ。
「「「!?」」」
「皆も入ってきなさーい!」
驚いていたらミカウさんの声が窓の向こうから聞こえた。もしかすると罠かもしれない。それなら僕が行った方が良い。
「僕が行くよ。ね、ゼウス。」
『うむ!今度は護ってやるぞ!』
「頼んだよ…。」
少し疑いつつもゆっくりと窓に近づいて右手で触れる。すると手が壁を貫通した。
「うぎゃあぁあっ!!」
驚きすぎて手を引っ張り出した。
良かった!!手がある!!千切れてない!!
「だぁいじょうぶだって。取って食いやしないよ。ほら、おいでおいで。」
ミカウさんの声は落ち着いた声で心が安らぐ。
「っ…はい!」
少し助走をつけて窓を割る勢いで飛び込んだ。身体は簡単に窓をすり抜け奥の部屋に
勢いよく転がり込む。
「ふぎゃっ!」
僕は部屋の障子に背中から激突した。
視界にあるのは和室とミカウさん。
全部逆さまに見える。
あれ!?靴下…僕の靴が無い!!
「あははっ!ひっくり返っちゃってまぁ…
キミ面白いねぇ。
ほら、2人もゆっくり入っておいで。」
不安そうな顔をしたシャル君とメルトちゃんもゆっくりと入って来た。
「さ、そこの君も起き上がって座布団に
お座り。靴は勝手に脱がしたよ。
ここを出る時に返すから、ね。」
指示に従っておずおずと正座で横並びの座布団に座った。ミカウさんとの間には横に長いテーブルがある。
「よく来たね、神クラスの坊ちゃん達。
お茶出すね。」
ミカウさんが指を鳴らすとテーブルに抹茶と和菓子が現れた。
「毒はないよ。安心して。ココにキミ達を
連れてきたのは小生のお客さんになってもらおうと思ってね。」
「お客さん?」
僕が首を傾げるとミカウさんは人差し指を
立て口元に寄せる。
「小生は普段購買部で商売してるんだけどね、情報屋という裏商売もしてるのさ。キミ達にはそれが必要だと思って連れてきた。」
「情報屋…?」
「うん!お金をくれたらそれに見合ったキミ達の知りたい事を教えてあげる!
何でもね!」
「な、何でも?」
「うん、何でも♡何処の世界でもお金が全てさ。でも初回サービスしてあげる。
キミ達の知りたいことはなんだい?」
僕達はお互いを見やる。
どうしようか迷った僕はゼウスを見た。
ゼウスもこちらを向いて頷いた。
『…聞いてみても良いかもな。』
…よし、聞いてみよう。
僕は口を開いた。
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