第117話『ハンデの提案』

前回のあらすじ


2時間連続で実技となりました。

2時間目は召喚獣が戦います!



「開始!」


スピルカ先生の声でプロメテウスが構えた。けれどゼウスは構えもせず腕を組んだまま

宙に浮かんで嘲笑しながら口を開いた。


『特別に貴様の攻撃を喰らってやろう。

好きにするが良い。』


『なーんーだーとぉおぉ…??』


煽っちゃったよ。そして乗るんだ。

ヨシュアをチラリと見ると目が合い、

諦めた顔で首を横に振った。


『貴様なぞ蟻を潰すくらい意図も容易く

殺せるのだ。

蟻の攻撃を喰らっても何ともない。』


まだまだ煽るゼウス。


『かぁーーっ!!ぶっ殺してやるっ!!』


ぷっつんプロメテウスを目の前に腕組みを

解いた彼は嘲笑をやめ、ニヤリと怪しげな

笑みを浮かべた。


『貴様の最大級の力をぶつけてみせよ!』


『上等だァ…一撃で死にやがれ!!

バレット装填…』


プロメテウスは長めの刃が付いた銃を顕現させ、足元に赤く回る魔法陣を現す。熱を帯びた風は目を瞑って集中するプロメテウスの周りを煌めきながら舞っていた。

思った以上に何か凄いの来そう…。


『皆の者、刮目せよ。

一瞬の苦しみは最高神の慈悲である。』


『ごちゃごちゃうるせぇ!!喰らいやがれッ!【プロミネンスフレイム】!!』


銃から火の玉が発射されたと思ったら段々と大きくなり、まるで太陽のような燃える球体に進化してゼウスに向かう。コレまともに受けたらゼウスでもちょっと危ないんじゃ…?


「ぜ、ゼウス…大丈夫?」


『問題無い。あの馬鹿はきちんと“魔法”を

使ったようだからな。』


ん?魔法?あれ、ゼウスのスキルって確か…

と考えているとゼウスは激しく燃える火の玉に包まれてしまった。プロメテウスは楽しそうに足をばたつかせて笑っている。


『ぎゃーっはっはっ!最高神様ともあろうお方が簡単にやられちまってんなぁ!そのまま今までの行いと共に業火に焼かれろ!!』


ゼウスのスキルを知らない皆は息を飲む。

僕は今、地面の心配をしている。


「ぜ、ゼウス〜…ち、力加減してねぇ…?」


今尚火の玉に包まれているゼウスに語りかけると、楽しそうな声で


『善処する。』


と返ってきた。プロメテウスも聞こえていたらしく、笑うのをやめて顔を引き攣らせる。


『んぇ??あれ?

そういや何で火の玉が中々消えねぇんだ?』


辺りもざわめき始めた。ゼウスは凄いんだぞって事を知ってくれれば僕に対する嫌がらせも消えるだろう。

怒られない程度にお願い、ゼウス。


『頃合か。』


相棒は覆う炎を振り払い、美しい姿のままで現れた。美しい姿のまま、焦げが無いという事はゼウスが無傷ということ。


『…おー…?』


プロメテウスは嫌な予感を感じたらしく、

声を漏らす。


『正面からガードも無しに攻撃を喰らってやったというのに…我は傷1つ付かぬぞ?』


『いやぁ…そのぉ…』


『貴様もガード無しの正面で受けるのが礼儀だろう?』


『えーっとぉ…?』


ゼウスは手を空に掲げた。

すると先程のプロメテウスが放った攻撃よりも大きな火の玉が現れた。


『…』


『皆にも教えてやろう。我のスキルの1つに【魔法無効化EX】というものがある。

それ即ち、我に魔の刃を向けた者の敗北が

決定するという事。肝に銘じておけよ。』


ふっと微笑み手を前に突き出し、

火の玉をプロメテウスへ飛ばした。


『う、うぎゃぁぁぁぁああああっ!!』


悲鳴をあげる割には逃げようともしない

プロメテウス。何か考えがあるのか?

あ、ヨシュアがこっそりとプロメテウスから距離を取っているぞ。それに気付かない

プロメテウスは急に笑いだした。


『っははは!なーんてなゼウス様よぉ!

アンタも俺様のスキルを知らねぇようだな!!』


『ほう?』


首を傾げるゼウスへ人差し指を向けた。


『いいかよく聞け!俺様のスキルはぁ…』


ドヤ顔でスキルを告げようとした瞬間、

ゼウスがパチンと指を鳴らして


『【雷霆鳴動】』


そう呟いた。すると火の玉がバチバチと音を鳴らし段々と黄色へ変わっていき、

完全に雷の玉へ姿を変えた。

【雷霆鳴動】とは通常攻撃や他属性魔法に

雷属性を付与するスキルだ。あの玉は今、

火を包んだ雷玉という事になる。


『【火属性無効化】なん……へ?』


何という間の抜けた声だ…ゲーム時代でも中々聞いた事無かったぞ。


『貴様のスキルなぞスキルロックを解除した時、既に視ている。』


それは最初に解除した時?それとも…

あ、ネームレスの時か。

確か【万物を見通す者】だったっけ。


ゲームの時は敵に関する全ての情報を見ることが出来るスキルだったはず。

例えばHPとか属性とかオートスキル、使える技が見えるっていう便利なスキル。味方には使う必要無いけれど味方っていうのは自分が持っている召喚獣の場合だもんね。


『火属性が残っていようが雷属性を付与された玉を喰らえば貴様は終わる。

後で鷲に臓物をゆっくりと啄まれる方とこちら、どちらが効いたか教えてもらおうか!』


うーわ悪い顔!!


『さらばだ、プロメテウスよ。散れ!』


『こ、この何でもあり野郎がぁああッッ!!』


プロメテウスはそう叫んだ後、雷に包まれて消えてしまった。地面は広い範囲が焼かれ、少し?抉れた程度で済んだ。


『うむ、言われた通り力加減は成功だな!』


ゼウスは満足げだけど僕は申し訳なさでいっぱいだ。


「よ、ヨシュアごめん…」


魔導書を閉じたヨシュアは首を横に振った。


「ううん。アレはプロメテウスが考え無しで突っ込んだっていう悪いところもあるから。やっぱゼウスは凄いね。」


優しく笑ってくれるなんて…やっぱ皆優しいな。同時に僕の性格の悪さが目に見えて嫌になるくらい。


「勝者ゼウス!すげぇなぁゼウスは!」


スピルカ先生がこちらに歩いてきた。


『ふふん!アストライオスのマスターも

私に慄いたか!』


「うんうん慄いたー。という訳でゼウス。

この授業魔法禁止な。」


『…エッ?』

「…えっ?」


今スピルカ先生なんて?


「ん?聞こえなかったか?魔法禁止な!」


え、無垢そうな笑顔が怖い…!!

ゼウスは慌てて抗議する。


『さ、最高神の私が魔法を使えないとは如何なものかと!!』


「だってゼウス強すぎてこのままだと

生徒達のやる気が下がるんだよ〜。

俺も生徒だとやだもん。」


確かに僕もゼウスが相手だったら嫌だ…。


『だが私はスキル自動発動してしまうのだぞ?相手が魔法を放ったら勝手に返してしまうのだぞ?』


「そうだったな。

でもそれは魔法攻撃を受けたらだろ?」


『そ、そうだが…』


「じゃあ魔法受けないように避けてくれ。

もし魔法を受けてスキル発動した時点で負け確定。」


でもゼウスには【物理軽減EX】もあるんだけど…


「あ、閃いた!全員対ゼウスにしよう!」


スピルカ先生はピコーンと電球を光らせた。

ど、どういう事?


「今からゼウスは終わりのチャイムが鳴るまで召喚士を含めた全員からの攻撃を避け続けてもらう!」


『ほう。』


「反撃した時点でゼウスの負け!

召喚士であるエクスが傷付いても負け!

バリア付与も禁止!」


それはつまり…


「今からリンチされるってことですか?」


「うーん…そういう事になるな!」


え?先生がリンチを肯定するの??


「もし1人でもゼウスやエクスにダメージを

くらわせる事が出来れば皆の成績を上げてやる!!」


その一言で全員の目が光る。


「逆に逃げ切ればエクスの成績を上げてやる!」


怖いけどそれは有難い。だってさっきヨシュアに瞬殺されて成績悪いだろうし。でもバリア付与も禁止なら僕自身避けなきゃいけないんだよね。


「これを受けるのはゼウス、エクス次第だ。さぁ、どうする?」


スピルカ先生の挑発するような笑みに笑みで返すゼウス。


『受けるに決まっている。マスターを守って攻撃を避けるだけだろう?容易い事だ。』


「ち、ちょっと待って。僕、運動神経良くないんだよ!ゼウスの足でまといになっちゃうよ。」


『足でまとい?そんな訳あるか。

大丈夫、私を信じるのだ。

バリアが無くとも必ず守ってみせる。』


やだ顔と声が良い…。

ゲームでも言われたことないのに…。


「決まったみたいだな。皆、頑張ってエクスとゼウスに攻撃を当てるんだぞ!

それでは…」


「待って下さい。」


スピルカ先生の言葉に割って入ったのは

ヨシュア。


「ヨシュア?どした?」


「相手はあのゼウスとエクスです。俺達は彼等を落とす為の協力関係ですよね。」


「あぁ、そうだな!」


おっと…?嫌な予感がする。


「俺はこの話を持ちかけられる前にプロメテウスを亡くしました。その代わりと言っては何ですが俺主催の作戦会議、させてくれませんか?」


プロメテウスは戦闘不能なだけで完全に死んでないけどね。だけどまずいな…乱戦じゃなくなったら、ヨシュアが指揮を取るなら皆が協力してやりづらくなるぞ…!


「あー…確かにそうだな!5分やるよ!

エクスもヨシュア達も話し合え!」


5分逃げる時間が潰れたと考えるべきか相手に考える猶予を与えてしまったと考えるべきか…いや、プラスとして前者を考えよう。

ヨシュアは僕から少し離れた所で皆を集め、輪になり作戦会議を開いた。


この疎外感、過去を思い出す…。仲間外れにされていたあの時の…完全に虐められる前はこうして仲間外れから始まったっけ。


『マスター?』


「っ!」


いけない、少なくともヨシュアやメルトちゃん達がそんな酷い事をするわけが無いのに!

ゼウスも眉を下げて僕を心配してくれている。


『…どんな事があろうと、マスターが道を

外さぬ限り私はずっとマスターを守る為傍に居る。

最高神という誇りにかけて約束しよう。』


「ゼウス…。ごめん、心配させちゃって。

でも僕、ゼウスと一緒に戦って強くなるから…守られっぱなしは嫌だ。」


『あぁ、

その勇士を私に魅せてくれエクス。』


「うん!」


ゼウスに頷いて前を見たら既にヨシュアを

中心に全員が僕ら2人を見ていた。

その目は嫌悪ではなく、オリエンテーションの時の挑戦者なギラギラした目。

昔は恐れていたであろう他人の目。

でも僕はあの時みたいに1人じゃないから。

ゼウスが居てくれるから大丈夫だ。


深呼吸をするとヨシュアが笑って話しかけてきた。


「エクス!俺達は束になってゼウスやエクスにハンデを背負ってもらわなきゃ魔法で君らに勝てない!でも近いうちに個人でちゃんと勝つから!」


メルトちゃんがそれに続いて手を振りながら


「今回は特別ってことで!

私達の練習に付き合ってよ!」


と言った。メルトちゃんが僕を見てくれているんだ、絶対負けられない。


「うん!けれど僕とゼウスは絶対勝つよ!」


僕がゼウスの神杖を構えると皆がニッと

笑った。現状が現状だけど受け入れられた

気がして嬉しい。

それを見たスピルカ先生が肩を震わせ大声で笑った。


「っははは!にゃーっははは!うん、皆良い表情だ!エクス、ゼウス、準備は良いか?」


「はい!」

『いつでも来い。さぁ、我に刃を向けよ!』


「制限時間はチャイムが鳴るまでの間!

つまり…あと20分!」


え?待って20分もあるの?


「お前ら…かかれぇーっ!!!」


に、20分耐え凌がないと…!!


「出来る限り頑張るから頼むよゼウス!!」


『任せよマスター!!』

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