第131話『堕天過多』

前回のあらすじ


僕とゼウスの天帝神雷をノイズに当てても

倒れません…!

雷の柱へ向かわなくちゃ!!



エンデュと言う男性と敵対していると

ディアレスさんが口を開く。


「おいユリウス、シャーロット頼む。」


「えぇ…。ですがディアレス、相手は魔法を使わずこの蔓延している瘴気の中でも平気な野郎です。」


魔法を使っていないと分かるのですか?

そういうスキル…?


「やべぇ奴って分かってっから。

トール、さっさとやらなきゃやべぇぞ。」


『あぁ。マスター、指示を。』


トール様は巨大なハンマーを構え、信頼の目でディアレスさんを見ます。


「コイツを潰す!」


『御意。』


「やる気だね。良いよ、受けて立つ。」


不気味な笑顔を浮かべ、ディアレスさんを

見るエンデュさんは特に構えることなく

立っています。それに気付いたディアレスさんは眉間に皺を寄せました。


「ぁ?武器も無しかよ。」


「いらないからね。」


「言ってろ!」


ディアレスさんとトール様がエンデュさんに向かって攻撃を仕掛けようとした刹那、


『ッマスター!!』


「どわぁっ!?」


何かに気付いたトール様がディアレスさんの腕を引っ張り自分の方へ寄せました!


『シャルッ!』


『ッ!』


アルテミスとラジエル様もオレ達の腕を

引っ張りました!?

引っ張られている最中、



目の前に森の主が降ってきました。



そして着地と共に訪れるとてつもない強風。

大木は簡単に折れて地面は抉れ、凶器となりながら飛ばされるオレ達を襲ってきます。


「うぁっ!!」


『きゃあぁぁあっ!!』


「あれ?

随分と勘のいい召喚獣の集まりなんだね。

簡単にぺちゃんこになると思ってたんだけどな。」


『いたっ!』


「アルテミス!!」


オレを庇う為に背中から木にぶつかってしまった…!


『わ、私は平気…!

いまは…あっち!!』


オレ、アルテミスに怪我させてばかりだ…!

どうしよう、どうしよう!

回復魔法は初級しか使えない!

そんなのじゃ…


『こーら。折角の可愛いお顔が台無しよ!』


「いてっ」


優しくデコピンされました。


『本当に大丈夫なの!

だから早く加勢しましょ!

ヴァルハラ?の2人が危ないわ!』


「…はい!」


アルテミスと手を繋ぎ元の場所へ走って戻ると、ディアレスさん達が森の主を、ユリウスさん達がエンデュさんと戦っていました。


「あ、来たね花嫁さん。」


ユリウスさんとラジエル様の攻撃を意図も

容易いと言うような顔で避けながら話しかけてきました。


「君さえこっちに来れば森の主も止めてあげるし攻撃も止めてあげるよ。」


「え…」


「耳を貸してはなりません!

私達は負けませんのでね!」


ユリウスさん!


「確かに、君達2人は人間なのに強いね。

もっと簡単に消せると思ってたんだけどな。」


「貴方は算数からやり直した方が良いですよ?計算間違い多すぎます。」


「親切にありが」


油断していたであろうエンデュさんの背後

からトール様が飛び出し、


「と?」


『爆ぜろ。』


気付き振り向く彼の首を後ろから掴み、

手から雷を発しました!


「ぁ"ッ!!??」


雷は破裂音を鳴らし、エンデュさんの全身を包み迸る。正直見るのが辛い光景です。

トール様が手を離すと同時に雷は止み、

エンデュさんは倒れ込みました。

一息吐いたトール様は手の甲で汗を拭う

ユリウスさんをちらりと見ます。


『ラジエルのマスター、前より動けていた。』


「戦えるというブラフは大事でしょう?

しんどいですよホント。

私本当は戦わないのですから。」


「そうなのですか?」


オレが聞き返すと、ユリウスさんは眼鏡を

取って汗を拭いながら答えてくださる。


「状況を確認し、敵を分析する。

これこそが私とラジエル本来の役目です。」


なのにあんなに動けるなんて…!

凄いです!


「それより貴方のマスター放っておいて良いのです?」


『私のマスターは強い。故に問題無い。』


トール様の視線を追いかけディアレスさんを見ると、大きな金色斧の柄の部分で森の主の片手を受け止めていました。たった1人で。

あ、手足が凄く震えています!


「おい助けろよ!!」


『分かっ』


トール様が向かおうとした刹那、横から黒い影が飛び出しディアレスさんの元へ。


『ッ!!マスター!!』


咄嗟に手を伸ばし雷を放つトール様。


あの影はエンデュさん!?

オレとアルテミスも急いで矢を放ちますが

間に合わ…


「ディアレスさんッ!!」


オレが叫ぶと同時にディアレスさんと雷も

矢も弾いたエンデュさんの間に白い光が現れました!


「間一髪ってとこですかね…!」


聞き覚えのある声がし、光が無くなったそこにはエンデュさんの手を杖で受け止める黒髪の男性と天使の姿が!


「レンくんっ!」


「頼むよルシファー!!」


『承諾。【明けの明星ポースポロス】』


ルシファーの手から放たれた細い光がエンデュさんの身体を貫き、膝を付かせます。


「トール早く助けろ!!」


『【雷神の鉄槌】』


森の主もトール様のハンマー攻撃によって距離を取り、その間にディアレスさんはレン君に感謝を述べます。


「ふぃー…助かったぜレン!」


「いえ、遅れてすみません。」


頭を下げるレン君にユリウスさんは溜息を

吐きました。


「まさかエンデュが死んでないとは思いませんでしたよ。レン君のおかげですね。

感謝なさいディアレス。」


「してるっつの!!」


オレも感謝を述べようと彼を見ると

キョロキョロと辺りを見回していました。


「あれ?シャル君、ヨシュア君は?」


「それがまだで…」


「う…」


『エンデュが動いたわよシャル!』


アルテミスの反応と共に視線を向けると

のそりと起き上がるエンデュさん…。

服にも体にも火傷の痕、貫かれた傷がありません…!!


「よしゅ、あ?」


「…?」


この人、何かおかしい。

さっきまでの狂気を感じません。

虚ろな瞳で辺りを見回しています。


「…」


動かず黙ってしまいました。

どうすれば良いか分からないオレ達は

戦闘態勢の緊張状態のまま相手を伺います。


あれ、森の主までもが止まった…

エンデュさんがおかしくなったから…?


「……あー…っははは。

やられた、やられちゃった。」


急に笑い始めました!

狂気が戻ってきたようです…怖い…。


「痛かった、熱かった。でも死なない。

悪魔憑きは死なない。

残念だったね、あはは。」


「何この人、ラリってるの?」


らり…?

レン君の言っていることはよく分かりませんがおかしいという意味なのは確かですよね。


「君達は殺さない。君達は殺す。

欲しいのは器、友達の器。ははは。」


殺さない。でオレとレン君を、

殺す。でディアレスさんとユリウスさんを

指さします。友達の器…?


「攻撃したらこの解毒薬壊しちゃうよ。

あはは」


ユリウスさんとディアレスさんが攻撃しようとしたのか、彼等に言い聞かせるように黒い箱を取り出しました。

というか今、解毒薬と…?


「便利な物でも命を奪う可能性がある物には緊急停止装置を付けるものでしょ?

ははは!」


ピタリと止まり、嗤った声と裏腹に笑みを

無くしたエンデュさんは黒い箱の中身を見せる。

黄色の液体が入った注射器が1本だけありました。


「たった1つの蜘蛛の糸。

斬るのは簡単、斬るのは君達。っはは!」


「甘いですヨ、エンデュ。こうしないト!」


音も気配も無く現れた真っ黒な男性はエンデュさんの肩に手を置き、指を鳴らします。

その瞬間森の主は遠吠えをし、目にも止まらぬ早さでディアレスさんとトール様を薙ぎ払います。


「ぐ…っ!」


ディアレスさんは斧で攻撃を受け止めていましたが、飛ばされてしまいました!!


「くそ…っ!!」


「ディアレス!!」


「よいしョー!!」


「ッ!?」


男性の掛け声に合わせ森の主が反対側に手を薙ぎ払い、ユリウスさんとラジエル様を飛ばします。


あっという間にお2人が飛ばされた…!

レン君とオレは何も出来ず、ただエンデュさんと男性を見ています。何かしなくちゃ…!


と思った矢先、男性がエンデュさんから箱を取ってオレ達にチラつかせます。


「さテ、君達に選ばせてあげますヨ。

大人しく俺達と来るならコレをあげまス。

お2人にも手出ししません。

拒むのなら今ここでコレを壊ス。

そして森ごと全員殺しまっセ!」


『なんと下劣な…』


ルシファーの言葉に笑顔になる男性。


「褒め言葉でス!さぁ、どうしますカ!」


ついオレとレン君は目を合わせます。


「どう…しよっか。」


「どう…しましょう…。」


どれが正解?

オレ達があちらへ行けば森とお2人を助けられる。

でもそれは相手の思うツボというもの。

オレ達は悪い事に利用される。

皆さんにも迷惑をかける。

でも拒むと…!!

それなら、せめて…

せめてレン君だけでも行かせない!


「オレがそちらに」




「【天帝神雷・天誅】ッ!!」




聞き馴染みのある声が空から雷龍と共に降ってきました!!

雷龍は口を開けて目の前のエンデュさん達を喰らう。この雷龍って…まさか


「エクス君っ!!」

『パパッ!』


嬉しさに顔を上げると、ゼウス様に抱えられているエクス君の姿がありました。

着地したゼウス様に降ろされたエクス君は

すぐさまオレ達の元へ駆け寄ってくれます。


「皆無事!??」


「オレとレン君はなんとか…

ヨシュア君はまだ合流出来ず、ディアレスさんとユリウスさんが…」


飛ばされてしまったとお伝えしようとする

オレの言葉をレン君が遮ります。


「待って。ねぇ、あの箱…壊れたよね。」


彼が指差すのは倒れたエンデュさん達の横に投げ出された歪な形の黒い箱。

先程の雷が強かったからか焦げて変形し、

形が四角ではなくなっています。

エクス君も見つけたようで首を傾げました。


「え、何あれ。」


「森の主を治す薬とか何とか。」


「え"っ!?」


お目目が飛び出しそうなほど見開いたエクス君は固まってしまいました…。


「う、嘘でしょ!?

僕結構やばい事しちゃった!?」


そんなはずない。

だってオレ達を助けてくれた。

オレの気持ちをレン君は代弁してくださる。


「ううん、助かったよ。」


するとゼウス様がふわりとエンデュさん達の元へ向かい、箱を見ます。


『ふむ…どうやら嘘だったようだ。』


「何が??やっぱ僕がやらかしたって?」


『違うその逆だ。

箱に残った液体を見るにこれは解毒薬でも

何でもない。』


「ほ、ホント?」


『あぁ、しかし伝えただろうマスター。

もう助ける方法が無いと。』


助ける方法が無い…?

では森の主は助けられない?

だったら赤ずきんちゃんは?


『ッ!?』


「ゼウス!?」


急にゼウス様が口を手で押さえました!


『うっ…ゲホッ!』


「「「!」」」


『パパ!!』

『ゼウス様…』


なんということでしょう…

あのゼウス様が口から血を…!


『はぁっ…くそっ小癪な…』


手に付いた血を睨みつけるゼウス様にエクス君は怒りました。


「ここに来る前にも血を吐いたじゃん!

大丈夫はやっぱ嘘だったんだ!!」


『マスター…』


「早く治してよ。

嘘吐かせて、何もしてあげられなくてごめん。」


『マスターが謝る理由など毛頭ない。

それにたった今治した!』


ドヤ顔です。流石はゼウス様!

様子を見ていたレン君はルシファー様をちらりと見ました。


「ルシファー。」


『対象:ゼウス様に堕天アンヘル反応過多。

しかし抑え込まれています。』


その言葉にエクス君は怒ります。


「治したは嘘じゃん!!」


『あ、ルシファー貴様!!

黙っておれば良いものを!!』


堕天アンヘル反応消失を検知。1%…』


「しょーしつ…?」


首を傾げるエクス君に対して腕を組んで

目を伏せるゼウス様。


『実際治しておる。

時間を有するだけでな。』


「よ、良かったぁ…!」


『心配かけてすまないな、マスター。』


「ホントだよ。…ってあれ!?」


エクス君の驚嘆の声の正体に視線を向けるとエンデュさんと黒い男性が居ません!!


「うわぁーん痛いでス〜!!」


「あはは。痛いね、熱いね。」


この声…森の主のいる方向!

顔を向けると森の主の両サイドにお2人が居ました。

凄く不気味なオーラを纏って笑みを浮かべている。


「悪魔憑きじゃなかったら3回は死んでましたネ!」


「前置きは良いからさっさとやろうよ

ノイズ。」


「エンデュはせっかちですねェ。

分かりましたヨ。そーレ!」


ノイズと呼ばれた男性は太腿に付けている

ホルダーから注射器を1本取り出し、森の主に突き立てました!


「君達が悪いんですヨ?

俺らを怒らせちゃったんだからサ。」


「猶予はあげたからね。」


『うぅっ…!』


「ゼウス!?」


途端に胸を押さえたゼウス様。

何が起こった…!?


『レン、大変です。

周りの瘴気に堕天アンヘル反応。

それも段々と濃くなっています!

ゼウス様の体内の堕天アンヘルもです!』


「マジかよ…」


『多分森の主に新たな堕天アンヘルが投薬されたのよ!だから森の瘴気に堕天アンヘルが溢れ始めたんだわ!』


アルテミスの言う事が本当なら一刻も早く

何とかしないと、このままでは森と共に


「全滅する…!」



「プロメテウス、玉は全部壊したかな。」


『多分な!早く合流しようぜ!』


「うん!…と言いたいんだけどさ。」


『ん?』


「俺達、柱に近付けてる?

何か変な感じがする。」


『…そういややけに遠く感じるな。』


「…」


森ってことで全部同じに見えるのは仕方ない。俺目印立ててないし。

それでも感覚が疑問を持っている。



道を戻らされているのではと。



柱が俺の直線上にある事は変わらないのに

何なんだ一体。

早くシャルやエクスの安否を知りたいのに。


『なぁおいマスター。アレ…』


プロメテウスが指さした場所は1つだけ木漏れ日が指したような、円柱の光に照らされた切り株だった。切り株の周りの光がある場所だけ草木は黄緑色で生きていた。


これって森に入って少しした場所の…


「うぐ…っ!?」


『マスター!?』


何だ急に…!?頭が割れるように痛いっ!

肺が苦しい!誰かに首を締められているような感覚!!心臓が痛い…!


『マスター!?なぁどうしちまったんだ!』


「ッ!ッ!!」


声が出ない!地面に倒れ込んでいるはずなのに感覚が無い!やばい息が…っ!


『植物が急に黒く…!!

マスターと何か関係が…!?』


意識が遠のいてきた…苦しくない…。


『マスター!?おい、マスター!!?

ヨシュア!!』


ここで俺だけ死ぬのか…やだな。独りは。

いや、プロメテウスが居るか。

なら独りじゃないな…。


ごめん、皆…。


ごめん、プロメテウス。


ごめん…

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