第36話『中身の無い話』

 前回のあらすじ


ヨガミ先生の辛い過去を知って、頑張ろうと決意してポーション作りすること100本目で成功!シャル君達との約束を守る為にお風呂へ行こうと部屋に戻ったらヨシュアが倒れてました!?


 …


「よ、ヨシュア!?」


僕は慌てて彼を起こした。


「う、うぅ…ん。」


良かった、息がある!死んでない!

少し乱暴に揺さぶると目を開けた。


「う……えくす?」


「そうだよ!どうしたの!?」


「…し、しお…」


塩?


「シオン…先生が…超スパルタだった…。」


 へ?


「シオン先生?」


「錬金術…スピルカ先生に頼もうと、したら…シオン先生に…頼めって言われて…

頼んだら扱かれた。

…魔力すっからかん…。」


「えぇ!?僕エリクサー持ってないしなぁ…どうしよう…あ、お風呂!お風呂は疲労回復と魔力回復効果があるんだって!

一緒に入ろ!!シャル君とローランド君が

待ってるんだ!」


「…うん…シャルと…ローランドに…

補習受ける前に…エクスと皆で入ろって…

言われてる…」


良かった、一緒だったんだ。


「立てる?」


「うー…」


のそりのそりと動き、ゆっくりと立ち上がったヨシュア。僕は身体を支えてあげた。


「下着や部屋着は全部クローゼットに入ってる?」


「ん…シャンプーと…リンスと…

ボディーソープは…洗面台の…」


鏡の後ろか。あの洗面台鏡が棚の蓋になってて開けると棚になってるんだよね。


「分かった。取ってくるからジャケット

脱いでベッドに座ってて。」


「んーー。」


寝起きのような不機嫌さ。

ヨシュア早起きだけど絶対低血圧だと思う。(偏見)

えーっと、僕のはコレとコレ。ヨシュアのは

コレとコレ…かな。袋あると便利だけど……あ、僕の鞄の中に綺麗に折り畳まれたビニール袋が入ってた。お母さんありがとう!

これにヨシュアの分を入れてっと。

あとヨシュアと僕のジャケットをハンガーに掛けてっと。よし!準備万端!


「ヨシュア、これ持って。お風呂行くよ!」


「んーー…」


ダメだこりゃ。

僕は荷物を全部持ってヨシュアの手を

引っ張って行くことにした。



「あ、シャルくーん!お待たせー!」


更衣室の扉の前にいるシャル君に手を振ると彼も気付いて手を振り返してくれた。


「エクスくーん!ヨシュアくーん!」


「お待たせーってあれ?ローランド君は?」


「彼は花を摘んでくるよーっ!て仰って…」


女の子か。


「もしエクス君達が来たら先に入っていてくれたまえ!とも仰ってました。」


「じゃあ先に入らせてもらおう。

見てわかる通りヨシュアが魔力すっからかんで死にかけでさ。」


「まぁ、それは大変です!

そうさせて頂きましょう!」


シャル君が更衣室を開けた瞬間、



中にいた大勢の男子生徒の汚い悲鳴が

響き渡った。


「!!?」


「えっ何!?シャル君どうしたの!?」


驚いて固まるシャル君を後ろへ動かし僕が中に入ると皆顔を真っ赤にさせてタオルで身体を隠していた。


おっと、この光景は見覚えがあるぞ。

つい昨日の事だ。茹で蛸のように真っ赤な1人が僕を指さした。


「お、おまっ!?

女子連れてくるとか正気か!??」


やっぱり昨日の僕だ。


「か、彼は僕の友達です…

ちゃんと男性です…。」


「う、嘘だ!!でっ出ていってくれよ!!」


「シャル君、どうしよ。」


「うーん…どうしましょう。

 あのー…オレ、男なのですが…。」


「男なら…堂々と入ろう、シャル…。」


ヨシュアが死にかけの表情でそう言うと

シャル君はその手があった!と言わんばかりの表情を浮かべ僕の後ろから更衣室に入った。僕とヨシュアもシャル君に続きロッカーへ向かう。皆が口を開けて僕達を凝視する。

お前ら変な目でシャル君見るなよ!(過激派)

昨日みたいに横並びで着替えることにしたのでローランド君の為に僕の右側のロッカーにも荷物を一時的に置いた。


「うーん…困りました。間違えられるのは

多分髪の毛長いからですよね…。」


「でもそれは罪滅ぼしなんでしょ?

切っちゃダメだよ。」


そう言うとシャル君は目を丸くした。


「あれ?オレこの話しましたっけ…?」


アッやっべ。ファンブックに書いてあったの

覚えてて喋っちゃった。取り繕わないと…!


「き、聞いたよ?忘れちゃった?」


「すみません、記憶に無くて…。」


あったら怖いよ。


「気にしないで!」


「すみません。」


謝りながらシャツを脱いだシャル君。

その瞬間、風呂場から出てきた人も含め彼を見た大勢が鼻血を噴き出して倒れてしまった。


「えぇええ…っ!?

な、何故オレを見て倒れるのです!?」


「み、皆シャル君を見ちゃダメだ!

美しさでやられるぞ!!」


僕は自分の手を広げてシャル君をガードする。


「死人がいっぱーい。あははっ」


ヨシュアが死んだ目で倒れた彼らを見ている。そのセリフこっっわ!!

倒れた人を気にしてどんどんと人が入口に

寄ってくる。そしてシャル君と目が合った人が1人ずつ鼻血を流して倒れていく。

死屍累々!!


「どどどどうしましょうエクスくんっ!!」


「取り敢えず前隠して…!」


「オレ、男ですよ…?」


腑に落ちないだろうけど死人を出さないためだ。我慢してもらわなきゃ!!


「知らない人はそう思えないの!!

何にせよこのままじゃまずい……

よし、最後の1回。

ゼウスごめんね!【summon!】」


ロッカーに置いた魔導書が輝きゼウスが現れた。


『どうしたマスター…っと…今度は血溜まりか。アルテミスのマスターを女と勘違いしたのだな。っくくく…人間は面白いなぁ。』


「笑ってる場合じゃないよ!!

た、倒れている全員を回復させてほしい!」


『心得た。』


ゼウスは指を鳴らして倒れた全員を

緑のヴェールで包んだ。瞬間的に意識が戻り顔から鼻血が消えて起き上がるまで回復した。


『ついでにアルテミスのマスターを輩から見えないようにした。前を隠す必要は無いぞ。

マスターとプロメテウスのマスターには見える。』


何その機能。


「あ、ありがとうございます!ゼウス様!」


『うむ、素直に礼が言えるのは良い事だ。

血痕も消したしもう問題無いぞ。』


「ありがとうゼウス。助かったよ。」


『うむ。また何かあると私は出れぬ。

だから小さくなって風呂に付き合おう、

マスター。』


ポンっと音を立てて小さくなるゼウス。


「濡れないようにね。」


『私の周りは何でも弾く結界を張ってある。濡れぬし汚れぬぞ!』


「…便利だね、ホントに。」


『うむ!』


「もう居たのだね!我が友たちよ!」


ローランド君も合流した。

荷物を退かしてそのロッカーをペンペン叩くと彼は気付いてくれた。


「場所取りありがとう。おや?不自然に間が空いているが喧嘩でもしたのかい?」


不自然に間?喧嘩?僕の左隣はシャル君で間なんて…あ、本当にシャル君が見えなくなってヨシュアとの間が空いてると思ったのか!


「ゼウス」


『分かった。』


ゼウスが指を鳴らしたと同時にローランド君が驚いた。


「わぁっ!?」


「お、驚かせてごめんなさい。ちょっと色々あって姿を隠していました…。」


「ふ、ふん!お、驚いてなど居ないさ!

ちょっとびっくりしただけで…」


人々はそれを驚くと言うんだよ。

そんなローランド君が準備出来たので風呂場への扉を開いた。シャル君を見ていなかった人がこちらを見たけど驚いた素振りも無いので本当にシャル君は見えていないのだろう。どんなスキルなんだろう…。ステルスを弄ったのかな。シャワーを座って浴びる為に蛇口を捻り椅子にシャワーの水を当てる。よし、こんなもんかな。ゆっくりと座って身体にシャワーを当てる。あったかぁい…。


するとシャル君が座っている所に1人が歩いてきた。え?シャル君居るのに…

えっちょっマジで座ろうとしてる!!


「ゼウ…」


ゼウスにどうにかしてもらおうとした時、

彼の頭に風呂桶がクリティカルヒットした。

えっ投げたの誰?!


「ごめーん…手が…滑ったぁ。」


ヨシュアが腕をプラプラさせて反省していない顔を向けた。お前かい!!ナイス!!


「石鹸で…手が…滑りやすくなって…

ごめんね。俺の近くは…危ないよ…。」


そう言うと桶を当てられた彼は舌打ちをして離れていった。


「あ、ありがとうございます…

ヨシュア君。」


「んーー…」


良かった、いつものヨシュアだ。

僕達は軽くシャワーを浴びて湯船に浸かった。あ〜〜生き返るぅ…!!

ヨシュアを見ると彼の顔にだんだんと生気が戻ってきた。


「ヨシュア、気分はどう?」


「んー…いい気分。元気になったよ、

ありがとうエクス。」


何もしてないけど…。


「我がライバルよ。

ポーションは作れたのかね?」


ローランド君に少し自慢げに頷いた。


「記念すべき100本目でね!」


凄い!と言われると思いきや反対に

ローランド君の顔は引き攣った。


「ひゃ…100もやったのか…!」


「うん…死ぬかと思ったよ。でも出来た!」


 魔力減っていったからとはいえ!


「凄いですね、エクス君!

100回もやる根性!流石です!」


シャル君も拍手して褒めてくれた。

少し褒められていない気がするけど。

ヨシュアは僕を羨ましそうに見ながら


「エクスみたいに沢山魔力があれば俺も死ぬことなかったのにな〜…。」


と口までお湯に浸かった。


「そう言えばヨシュア、シオン先生に錬金術の補習頼んだんだよね?」


と聞くと口まで浸かっていた身体が肩まで出てきた。


「うん…ヨガミ先生の言う通りスピルカ先生が手が離せないからって紹介されたんだけどほら、アビスの事があると思ってさ。

でも逃げられたからって言って補習してくれた。凄いんだよ、シオン先生。

杖を刀に変えたんだよ!!

あれちょーーーカッコよかった!!」


腕をブンブンと振るのを見るあたりヨシュアは完全に生き返ったようだ。安心した。

けれど笑顔だった顔が急に沈んだ。


「けど超スパルタだった。何でこんなのも出来へんの?って言われるならまだしも無表情でさ。少し出来るようになった瞬間にアレ作れコレ作れって次々と課題出されて休憩させてもらえなかった。しかもまともに出来なかった。」


だから死にかけてたのか。

ヨガミ先生でもキツいと思ったけどそうでもなさそう。


「ローランドとシャルはソツなくこなしそうだよね。」


言われた2人は顔を見合わせた。


「まぁ今の僕に苦手な事は無いからねっ!」


「オレは実践が不安です。箒の飛行は何とかなりましたが実際に戦うとなると恐怖で竦みそうです。…今エクス君とは当たりたくありませんね。」


苦笑するシャル君に頷くローランド君とヨシュア。


「シャルに同意。

プロメテウスが瞬殺される未来が見える。」


「ぼ、僕のアフロディーテは強いが…

今はまだ君と張り合いたくない。

美しさが損なわれそうだからねっ」


皆、何やかんやゼウスを警戒してるな。


『ふはは!そう卑屈になるな。私が華麗に

散らせてやるから安心すると良い!』


小さなゼウスがドヤ顔すると


「「散らせないでほしい。」」


とローランド君とヨシュアに否定された。


「ふふ…っ…でも、オレたちはいずれ、

エクス君とゼウス様に勝ってみせますよ。」


『お?』


「僕こそ1番に相応しい人間だ。

あっさりと退いてもらうよ。」


「テッペンか。いいねぇ…明日からでもエクス&ゼウスの対策でも練ろうかな。同じ部屋だから観察出来るし苦手なものや弱味を握っちゃおうかなー。」


「エッ精神的!?」


こんな感じで笑い声が絶えない会話を楽しんだ。頭や身体を洗う時も皆横一列に並んで座った。他の人から見えないシャル君の所に座ろうとする奴は僕ら3人が奇行と言われてもおかしくない行動で阻止した。


今まで体験した事の無い楽しさがそこにあった。この楽しいのがこれからの日常に起こるんだ。嬉しいなぁ。楽しいなぁ。


「エクス君よ。何なのだその緩んだ顔は。」


シャンプーを泡立てているローランド君が

訝しげに僕を見る。


「ん?皆とお風呂は楽しいなーって。」


「僕が居るからねっ!当たり前さ!」


通常運転のローランド君。

こういうのゲームだと面倒臭い人だとか思ってたけど実際は大切だよね。自分に自信を持てる人って見習おうって思えるから。


「そうだね。」


『…(マスターから黒いものが消えた。

友の影響か?私の浄化の力か?私ですら分からぬあの黒いもの…一体何なのだ…。

今も解錠中のスキルロック…これが外れた一瞬で確認するしかないな。)』


ゼウスがまた何か考えている。

どうしたのかな。


「ゼウス?」


『む?どうした?背中洗ってやろうか?』


通常に戻った。大丈夫なら良いけど。


「いいよ自分でやるから。そうじゃなくてさ、何か考えている顔だったからどうしたのかなーって思って。」


『心配かけてすまない。

少し気になることがあってな。』


「…そっか。何かあったら言ってね。」


『必ず。』


ゼウスに微笑み、身体を洗った僕達は早めに上がって着替えて食堂に向かった。

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