第78話:守り神

 馬車に揺られ続けて2日後。ようやく村へとやってきた。

 ここが目的の森に最も近い村らしい。


「さて。これからの予定を話しておくぞ」


 馬車から降りて、ヴィオレットがそう切り出してきた。


「今日はこの村で泊まることにする。出発は明日の朝だ」

「ん? このまま森に向かうんじゃないの?」


 まだ陽も出ているし辺りは明るい。

 体感だと午後3時ぐらいの明るさだ。


「急いでいるわけではないだろう? ならばしっかり準備してから出発するべきだ。それに森の中を通るわけだからな。出来る限り安全に行きたいんだ」

「ああそっか」


 今からフォルグの里へ向かうと、途中で日が暮れてしまうからな。

 そうなると森の中で一夜を明かすことになる。

 確かにそれは危険かもな。


「そういうことか。やっぱり里まで距離があるのかな?」

「どうだろうな。さすがに私達の足で何日もかかるとは思えないが……」

「だ、大丈夫なの?」

「私だって初めて行く場所なんだ。人から聞いた情報以上のことは知らん」


 今さらながら不安になってきたな。


「ギンコは何か知らないか? 森の中で住んでいたんだよね?」

「ご、ごめんなさい。里からは殆ど出たことがないので……」

「そうだったな……」


 実際に行ってみないと分からないのってのは変わらないか。


「とはいえ、この中で一番土地勘がありそうなのはギンコだけなんだ。頼りにしてるからな」

「が、がんばります!」

「私も役に立ちそうな情報が無いか、少しでも調べることにするよ」

「うん、お願い。悪いな。頼ってばかりで」

「なーに。これくらい大したことじゃないさ」


 それから俺達は宿へと向かい、今日泊まる部屋を確保した。

 ヴィオレットは別行動を取ることになった。村の住人に話を聞きに行くらしい。


 俺も何か役に立つ情報が無いか調べてみるか。

 そう思い、宿のおっさんに聞き込みをすることに。


「ちょっといいですか」

「ん? 何か用か?」

「フォルグの里って知ってますか?」

「……ああ。聞いたことがあるな」


 お。いきなり当たりか?


「それがどうかしたのかい?」

「実はそこに行きたいんですけど、何か知ってることがあれば教えてほしいんですけど」

「ほお。お客さんそんな場所に行く気なのか?」

「ええ、まぁ」

「もしかして〝守り神〟に会いたいのか?」

「え……?」


 守り神?

 なんだそりゃ。


「ま、守り神って何ですか?」

「うん? 知らないのかい? あの森には、偉い守り神が存在するって話なんだが」

「そ、そうだったんですね」

「なんだ。そんなことも知らなかったのか」


 初耳だ。

 そんなことギンコは話してなかったし。


「あの森にはすげぇ強い獣人が暮らしているんだが。知ってるか?」

「それは知ってます」


 俺の横に居るのがその獣人だし。


「んでその獣人達を〝守り神〟が見守っているという噂だ」

「へぇ~」

「その守り神は、なんでも願いを叶えてくれるらしいぞ」

「ね、願いを?」

「あくまで噂だけどな!」


 願いを叶える……ねぇ。

 7つのボールを集めたら現れそうな神様だな。


「だからてっきり何か願いを叶えたくて、守り神に会いたいのかと思っていたんが……違うのか?」

「い、いやいや。別にそんなことは考えてませんよ」

「たまに居るんだわ。守り神に会いたいって人が。一攫千金狙いか知らんが、どこから噂を聞きつけてきたのやら……」

「な、なるほど……」

「何であの森なんかに行くんだ?」

「ま、まぁ色々あって……」


 俺達の場合は事情が特殊だからな。

 言っても混乱するだけだろう。


「おっと。お客さん詮索するのは失礼だったな。忘れてくれ。とりあえず自分が知っているのはこれくらいだな」

「そうですか……」

「ま、大して宿じゃないがゆっくりしていってくれ」

「はい」


 その場から離れ、借りた部屋の中へ入った。

 部屋に入ってから座ると、ギンコにさっきのことを聞くことにした。


「なぁギンコ。さっきの話は本当なのか? 守り神がどうのこうの言ってたけど」

「さ、さぁ……どうなんでしょう?」

「どうって、何で知らないんだよ……」

「だ、だって……守り神なんて初めて聞きましたから……」


 うーん。

 実際にその場所に住んでいたギンコが知らないのか。

 一気に信憑性が低くなったぞ。


「まぁ噂程度の話だって言ってたからなぁ。どっかの根拠のない話が誇張して広まっただけだったりしてな」

「かもしれませんね」


 願いを叶える神様的とか言ってたしな。いくらなんでも出来過ぎてる。

 そんな都合のいい神様が居てたまるかっての。

 そもそもギンコ自身が知らないって言ってるしな。

 考えるだけ無駄だろう。


「とりあえず今日は早めに寝るとするか。明日は早いみたいだしな」

「ですね」


 こうしていつもより早い時間に寝ることになった。




 夜になり、寝ようとした時だった。

 ギンコが俺と一緒のベッドで寝たいと言い出したのだ。

 特に断る理由も無いし、一緒のベッドで寝ることにした。


「んじゃおやすみ」

「はい。おやすみなさい」


 …………


 ……ん?

 なんだろう。

 ギンコが俺に密着して何かしているような……?


「……ギンコ? 何してるんだ?」

「ちょっとだけ……ご主人様のにおいが知りたくて……」

「えっ」


 ああそうか。

 さっきから俺の体のにおいを嗅いでいたのか。


「ま、まさか変なにおいでもしたのか?」

「いいえ~」

「じゃあどうしてそんなことするんだ?」

「こうしていると~……すご~く……安心するんですぅ~」

「そ、そうか……」

「はふぅ……」


 すっげぇ嗅いでくるな。

 嗅がれている部分が、妙にむず痒く感じる。

 別に嫌というわけじゃないけど、何となく恥ずかしい。

 かといって、今さら止めてくれ!なんて言いづらいし。

 もしかしていつも一緒に寝たがる理由って……いや、深く考えるのは止めよう。

 まぁいいか。本人が満足するまでやらせておこう。


 結局、寝付くまでずっと嗅いでいたギンコだった。

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