第73話:遭遇
朝起きて部屋でのんびりしていると、ヴィオレットがやってきた。
どうやら南方面がようやく解放されたということだった。
ということで後片付けをしてから部屋を出ることにして、宿を後にした。
3人で御者のおっさんの待つ馬車乗り場へと向かう。
「これでやっと町から出られるな。なんだかんだで色々あった気がする」
「ですね~……」
「まぁ、私にとってはあまり思い出したくないこともあったがな……ははは……」
「あー……」
ヴィオレットは変な奴に捕まって軟禁状態になってたからな。
遠い目になる気持ちもわかる。
「と、とりあえずこれで南方面に行けるんだし、早く忘れて前向きにいこうぜ。なっ?」
「そ、そうですよ! きっとこれからは楽しいこともありますって!」
「すまないな。二人に気をつかわせてしまって。でも大丈夫だ、心配は要らないよ。この程度でへこたれる私ではない」
「……そっか」
「ま、ちょっとばかり運が悪かっただけさ」
本当に平気そうだな。
ああいう出来事は滅多にあることじゃないだろうし、ヴィオレット言う通りかもな。
さっさと違う話題に変えてしまおう。
そんなことを思っていると、前方に見覚えのある人を発見した。
何やらぶつぶつ言いながら歩いているようだった。
「おかしいな……いつもならこの辺りに……」
あの人は確か……
「ランディアさん?」
「え?」
間違いない。
あの帽子を被った優しそうなイケメンはランディアだ。
「やぁ。ヤシロ君じゃないか。奇遇だね。あの後大丈夫だったかい?」
「特に大きなケガをしたわけじゃなかったし、もう平気だよ」
「それはよかった。少し心配してたんだよね」
「ご主人様? この方は一体誰なんです?」
「ああそっか。二人は初対面だっけ」
ランディアに二人を紹介し、軽く自己紹介をしあった。
「僕はランディアという。ヤシロ君とはちょっとした顔見知りってところかな」
「私はヴィオレットだ。ヤシロ達の護衛をしている」
「私はギンコです。ご主人様と一緒に行動してます」
「ふむ。ヤシロ君の旅仲間かな? 二人とも綺麗で可愛らしいじゃないか。君も隅に置けないね」
「そ、そうかな?」
ギンコは言われ慣れてないのか少し照れている。
ヴィオレットは複雑そうな顔をしているが。
「ところでランディアさんはどうしてここに?」
「まぁ……その……ある人を探していてね……」
「ある人?」
そういやさっきは、何かを探すようにキョロキョロとしてた気がする。
「それよりヤシロ君こそどうしたんだい?」
「これから町を出るところなんだ。もう通れるようになったしね」
「ああそうか。たしか南が封鎖されてたんだっけ。なるほど。旅に出るところだったんだね」
「そういうこと」
そのせいで想定外の足止めを食らっちゃったんだよな。
けどようやく町を出られるようになって出発できる。
「おおっと。こんなところで止めて悪かったね」
「まぁ俺が声をかけたんだし。気にしないで」
「ああそうだ。一つ聞き忘れていたことがあったんだ」
「ん? 何か?」
「最初に会った頃にさ、音が出る不思議な物を出してくれたじゃない?」
CDプレイヤーのことか。
そういやけっこう驚いてたっけ。
「それが何か?」
「あれから考えてみたんだけどね。あれってまさかアルゼストの遺産なんじゃ――」
「見ぃつけたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……劣等種ぅぅぅぅぅぅぅ!」
突然、ドスの効いた声が聞こえた。
声がする方向に振り向くと……
「んなっ……」
「!!」
離れた場所には刃物を持った男――
エルフの姿があった。
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