第54話:発情期
ある程度、話がまとまったところでヴィオレットは帰っていった。フォルグの里についての情報を集めるとのことで、具体的な場所などを調べてくれるそうだ。
日も暮れ、自分の部屋で椅子に座ってカタログを出す。あれこれと準備をするためだ。
ページをめくりつつカタログについて考えていた。
未だにこのカタログは不明な部分が多い。今は毎日20万円分の買い物ができるが、ひょっとしたらある日、突然使えなくなる……なんて考えたこともある。
今更ながらそんな不安にかられてしまう。
そもそも最初は10万円分しかチャージされなかったはずだ。なのにいきなり20万円も使えるようになっていた。
もしかしたら時間が経てばどんどん増えると思っていたが、どうやらそうではないようだ。
じゃあなんで20万に増えたんだ?
原因はなんだ?
もっと増える可能性はあるのか?
……分からん。
何かの条件を満たせば増えると推測するが、その条件が不明だ。
20万になったあの日って、俺は何かしたっけ。特別変わったことは無かったはずだ。
う~ん……駄目だ、思いつかない。情報が不足しすぎている。
ひょっとしたらバグみたいなもんだったりして。なんてな。
「ふぁぁぁ……」
やめやめ。また今度考えよう。
もう夜になったし、そろそろ寝るか。
再びアクビをしながらベッドまで歩き、潜り込んで横になった。
コンコン
「……ん?」
ドアをノックする音で目が覚める。
「ギンコか? どうしたんだ? とりあえず中に入れよ」
「はい……」
ドアがゆっくりと開いてギンコが入ってきた。
「こんな夜にどうした? 何か用か?」
「…………」
なんとなく来た理由は察しがつく。昨日みたいに添い寝してほしいんだと思う。
「また一緒に寝てほしいのか? まぁいいけど」
「…………」
ギンコがゆっくりと近寄ってくるが……様子が変な気がする。
足元がフラついているし、なんとなく雰囲気がおかしいような……?
「ギンコ? 具合でも悪いのか?」
「もう…………――です」
「えっ?」
ボソボソと何か喋ってる気がするが、よく聞こえなかった。
「お、おい。どうしたんだ?」
「もう……我慢できないんです」
「は?」
すぐ横まで近づいたギンコが突然ベッドの上に乗り、俺を押し倒した。
「ギ、ギンコ!?」
「ご主人様ぁ……」
俺の体に馬乗りになったギンコは、今度は両手を押さえつけてきた。
「な……お、おい! 何してんだ!? 離してくれよ!」
「いやですよぉ」
「なんでだよ!? つーかどうして両手を封じる必要があるんだよ!?」
「だってぇ……逃げちゃうじゃないですかぁ……」
「はぁ!?」
やっぱり様子がおかしい。いつものギンコじゃない。
酒に酔ったみたいに目がトロンとしてるし、息も少し荒い。
「ご主人様ぁ……」
「な、なんだ?」
「私と……繋がりましょうよぉ……」
「は? 何をいってるんだ……?」
「さっきから体が火照ってきちゃって……もうこの気持ちを抑えきれないんですよぉ……」
嫌な予感がする。
うっとりしたような表情。荒い息遣い。体が火照るという状態。
これはまさか――
発情期ってやつなのか?
獣人のことはよく知らないけど、たぶんそうなんだと思う。
だとしたらマズいぞ。このままだと子供相手に犯されてしまう……!
「お、落ち着け! な? 冷静になって話し合おうじゃないか!」
「私は冷静ですよぉ」
「だったら両手を離してくれよ」
「いやですぅ。逃がしませんよぉ」
駄目だ。応じる気が無い。
つーかギンコに押さえつけられた両手が全然動かん。なんつー力だ。
そういやフォルグ族って最強の獣人とかいってたっけ。ギンコみたいな子供でもここまでパワーがあるんだな。こんなにも力の差があるとは思わなかった。
「うふふ……」
「なぁ。頼むから離してくれよ。逃げたりしないからさ」
「じゃあ……少しジッっとしてて下さいね~」
「?」
何をする気だ?
ギンコの顔がどんどん近づいてくる。
そして――
「んっ……」
ギンコの唇で俺の唇が塞がった。いわゆるキスってやつだ。
しかもそのまま舌まで入れてきやがった。
俺の舌がギンコの舌に捕まり、そのまま愛撫するかのように動かし始めた。
口の中で舌を動かして逃げようとするが、すぐにギンコの舌に捕まってしまう。そのまま俺の舌はもてあそばれ、なすがままに流される。
そんな状態が1分ほど続いた。
「ぷはぁ……」
や、やっと口を解放してくれた……
こんな状況だけど今のはすごかったな。ギンコがここまでテクニシャンだとは思わなかった。獣人ってのはみんなこうなんだろうか。
やばい。今ので
あんなすごい経験は初めてだったからな。そりゃあ色々と反応しちゃうよ。
別に今のでギンコに欲情したわけじゃない。これは不可抗力なんだ。だから俺は悪くない。うん。
「それじゃあ……もう準備はいいですよねぇ?」
「へっ?」
おっ。両手を解放してくれた。
これでやっと――って、今度は俺のズボンを脱がそうとしてるじゃねーか!
「よせ! 脱がそうとするんじゃない!」
「大丈夫ですよぉ……私に任せてくれればいいですからぁ」
くそっ。やっぱりギンコのほうが力がある。俺の力だと止めることもできん。
このままだと――本当に犯される……!
「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「あぅ……」
「……?」
今度はどうしたんだ。急に動きが止まったぞ。
と思ったら、ゆっくりと俺の体の上に倒れてしまった。
「お、おい。どうした?」
「…………」
気を失ってるのか?
いや、よく見たらただ寝ているだけのようだ。
よくわからんが、とりあえず助かった。
起こして問い詰めたかったが、今日はこのまま寝かせてあげよう。
軽く揺さぶっても起きないし、すぐに目が覚めるということはないはず。
俺も寝よう。色んな意味で疲れた。
悶々として寝付けないと思ったが、意外にもすぐに眠気がきた。
翌朝。
俺が目を覚ますと、ギンコはベッドの上で正座していた。
「お、おはよう」
「……おはよう……です……」
気まずい……
「えっと……ちょっと聞きたいんだけど、昨日のことは覚えてる?」
「はい……」
うん。やっぱり覚えてるよね。
「じゃあさ、なんであんなことしたのか聞いてもいい?」
「そ、それは……」
モジモジしながら顔が赤くなるギンコ。
「あのですね……」
「うん」
「そのですね……」
「うん」
「……うう」
すっごく言いづらそうだ。
まぁその気持ちは分かるけどね。
「その……ご、ご主人様のことを考えていたら……体が火照ってしまって……自分でなんとかしようと思ってたんです。でも制御できなくて……」
「んで俺の所に来たと?」
「さ、最初は我慢してたんですよ!? でも、昨日は
「昨日は? いつも?」
「あっ……」
顔がトマトみたい赤くなってうつむいちゃった。
「やっぱり……話さないと……ダメですか?」
「あー、うん。本当ならこういう話を聞きたいわけじゃないんだけど、さすがにあんなことがあったからね。ある程度は知りたいかなって」
「ですよね……」
こんなこと女の子に聞くとかセクハラもいいところだ。
地球に居た頃なら速攻で通報されるだろうな。
「やっぱりアレって、発情期ってやつなの?」
「た、たぶんそうです……」
「初めてじゃないんだよな?」
「はい。で、でも。そうなったのはここ最近なんです」
獣人の体質とかは知らないけど、予想は当たってたみたいだ。
「本当にごめんなさい。私のせいでご主人様に迷惑かけちゃって……」
「まぁ体質なら仕方ないよ。そこまで自分を責めることはないって」
「昨日はご主人様と……その……キ、キキキスまでしちゃいましたし……」
その辺もしっかり覚えているのか。
つーかキスってレベルじゃなかったけどね。がっつり舌まで入れられたし。
やばい。思い出したらまた息子が反応しちゃいそう……
「で、でも私は初めてだったので大丈夫です!」
なにが大丈夫なんだろう……
ってか初めてなのにあんなテクニックを身につけていたのか。恐ろしい子だ。
「と、とりあえずその話は置いておこう。あのあと急に眠っちゃったけど、あれは何が起こったの?」
「あれはこの首輪のせいだと思います」
そういって首に付いている首輪に触れた。
「この首輪をつけていると、ご主人様に危害を加えようとしたときに効果を発揮するみたいなんです」
「ああ。だから急に気を失ったのか」
「はい。全身の力が抜けて、すごく眠くなりました」
そういやギンコを買う時に、奴隷商人がそんなこと言ってた気がする。
ということは、俺は首輪に救われたわけか。
「あの。わ、私はこれからどうなるんでしょうか?」
「どうなるって?」
「やっぱり……捨てられてしまうんですか……?」
うん? いきなり何を言い出すんだこの子は。
「急にどうしたんだよ。そんなこと言うなんて」
「で、でも。私と一緒に居ると、また昨日みたいなことが起こるかもしれませんよ? 」
「…………」
「こんな私みたいな存在は気持ち悪いですよね……。近づきたくないですよね……。なので、何言われても……受け入れる覚悟は……して……ます」
徐々に声が小さくなっていき、しょんぼりとうつむいてしまった。
たしかにギンコと一緒だとまた昨日みたいに襲われるかもしれない。だけどあれは事故みたいなもんだと思う。恐らく何かしらの要因が重なって、ああなったんだろう。
ギンコも体の変化に戸惑っているみたいだしな。だからこんなにもナイーブになっているんだろう。
だけどこんなことぐらいで見放すもんか。
この子の人生を買ったんだ。ならば責任を持って面倒を見るのが俺の役目だ。
「安心しろギンコ」
「……?」
「捨てたりなんかしないさ。絶対にな」
「……!!」
まだまだ子供なんだ。ちょっとぐらい過ちを犯すぐらい可愛いもんさ。
「ま、また迷惑をかけるかもしれませんよ? それでも本当にいいんですか?」
「んなもん大したことないさ。俺だって迷惑かけるかもしれないし。そんなこと気にしなくてもいいよ」
「昨日みたいな事が起こるかもしれませんよ?」
「それについては、なんとかする方法があるかもしれないぞ?」
「ほ、本当ですか!?」
そのためにも行く必要がある。
そう――
「だから一緒にギンコの故郷――フォルグの里に行こうぜ。そこに行けば親に会えるんだろ? だったらそこで対処法とか聞けばいいさ。」
「な、なるほど……」
「な? だから心配すんなって」
フォルグ族についてはフォルグ族に聞くのが一番だしな。
「じゃあ……これからも、一緒に居ていいんですか?」
「ああ。ギンコが望むならずっと一緒にいるさ」
頭をワシャワシャと撫でる。
「あ、ありがとうございます! えへへ……」
嬉しそうな表情をしていたので、そのまま撫で続けることにした。
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