第6話:不思議な粉

「できましたよー!」


 カミラの声で本を読むのを中断し、料理が出されたテーブルへと移動した。ちなみにこの本はカタログで購入したやつだ。暇だったので1冊だけ手に入れたのだ。

 テーブルの上には少し大きめの容器に、いくつかの具材が使われたスープが入っていた。


「へぇー、美味しそうなスープじゃないか」

「味はあまり期待しないでくださいね?」

「いやいや、作ってくれただけで十分ありがたいよ」


 異世界で初めて食べる料理か……少し緊張するな。

 この具材はなんだろう。なんとなくジャガイモに似ている気がする。他にはキャベツみたいな野菜が入っている。あとは……これはニンジンか?

 あとは何かの切り身みたいのがあるな。これはなんだろう。


「この切り身ってもしかして魚?」

「はい、そうです。近くの川で取れた魚なんですよ」

「へぇ~」


 なるほど。この切り身は魚だったのか。

 どれもなかなか美味しそうだ。


「んじゃさっそく頂こうかな」

「はい召し上がれ」


 スプーンで具材ごとすくい、一口。


 …………


 ほうほう。これはなかなかいけるな。


「ど、どうですか?」

「うん。おいしいよ」

「よかったぁ……」


 たしかに美味しいっちゃ美味しい。

 けれどもなんというか…………味が薄いんだよなぁ。

 不味いわけじゃないんだけど、味が薄くてなんか物足りない。たぶん調味料をあまり使ってないんだと思う。

 いろいろともったいないスープだ。もう少し調味料を足せばもっと美味しくなるはずだ。


 う~ん………………そうだ。こんなときこそカタログの出番だ。


「ちょっと待ってて」

「はい?」


 カタログを開いてページをめくる。んーと何がいいかなぁ……よし、これにしよう。

 選んだのは粉末状の『だしの素』だ。これなら手っ取り早く濃くすることができるはずだ。

 すぐに購入してカタログから飛び出た容器をキャッチした。


「わっ……また何も無いところから物が……」


 ああそうか。他人からはそう見えるんだったな。

 今度からはあまり見られないようにしよう。いろいろ聞かれると面倒なことになりそうだからな。


 購入しただしの素を振りかけ、少し混ぜてから一口。

 ……うん。これはなかなかいいんじゃないか。


「カミラちゃんもこれ入れてみなよ。なかなかいい感じになるよ」

「そ、それって……もしかして胡椒コショウか塩ですか?」

「まぁ似たようなもんさ」

「そ、そんな高価な物は頂けませんよ!!」

「へ?」


 あー、そういや昔は調味料の価値が高かったんだっけ。地域によって値段が変わるとか聞いた覚えがあるけど、やっぱここでは貴重なのか。


「大丈夫だって。この程度ならいくらでも手に入るし」

「で、でも……」


 これも数百円で買える物だしな。


「ほら、カミラちゃんも使ってみなよ。美味しくなるよ」

「や、やっぱり頂けませんよ……」


 う~ん困ったなぁ……

 そんなに貴重なのか。


 …………


 あっ、それなら違う調味料ってことにすればいいんじゃないか?


「な、何か勘違いしてない?」

「勘違い……? 何がですか?」

「これは胡椒なんかじゃないよ」

「ええ!? そうだったんですか? じゃあ何が入っているんですか?」

「えーとだな……」


 どうしよう。なんて説明したらいいんだ……?

 えーと……

 えーと……


 ……そうだ!


「こ、これはだな……」

「これは?」

「…………ま、魔法の粉さ!」

「魔法の粉???」

「そう! 料理にかけると美味しくなる俺特製の不思議な粉なんだよ!」


 なぜか危ない表現になった気がする……


「そ、そうなんですか……?」

「うん、だから気にしないで使いなよ」

「…………ああ、そういうことですね! 魔術師にもなるとそんな物も作れちゃうんですね!?」

「えっ……ああ、うん。モチロンダヨ」

「分かりました。なら使わせてもらいますね」


 1人で勝手に納得しちゃったけど……まぁいいや。それならそれで好都合だしな。

 容器を受け取ったカミラは不思議そうにそれを眺めている。


「でも、この入れ物は見たことありませんけど……これもヤシロさんが作ったんですか?」

「ソウダヨ」

「すごいですね! こんなに小さくて透明な入れ物が作れちゃうなんて!」

「マァネ」


 なんか騙したみたいで良心が痛むなぁ……

 まぁいいか。ようやく使ってくれたみたいだし。

 カミラは俺と同じように少し振りかけ、スープを口に入れた。


「……!! たしかに味が濃くなりました! さっきより美味しいです!」

「そうか。よかったよかった」

「魔法の粉ってこんなにも変わるんですね! 一体どんな素材が――」

「そ、それよりも! 冷めない内に食べちゃおうよ!」

「はい!」


 誤魔化すように急いで食べる事にした。余計な事聞かれたら面倒だしな。




 作ってくれたスープも完食。けっこう美味しかったな。


「ごちそうさん。美味しかったよ」

「いえいえ、ヤシロさんがくれた〝魔法の粉〟のお陰ですよ」

「ま、まぁ……元の料理が美味しいからこそ、引き出せた味だと思うよ」

「もうっ、それは言いすぎですよ~」


 そんなこと言いつつも口がニヤけている。嬉しさが隠しきれてないようだ。


「と、とりあえず食器片付けますね」

「それなら俺も手伝うよ」

「いえ、私がやりますよ。ヤシロさんはゆっくりしてて下さい」

「えっ。いやいや、それじゃあ悪いよ。ご馳走になったうえに片付けまでしてもらうなんて」

「いいんです。魔法の粉を少し頂きましたし、ヤシロさんには感謝しているんですよ」

「そ、そういうことなら……」


 結局、カミラが1人で片付けてしまった。


「そうだ。待ってる間は暇でしょうし、しばらく村の中を歩いてみてはどうですか? 何も無い村ですけどいい所ですよ」

「んー……よし、なら腹ごなしにちょっと散歩してくるよ」

「はい、いってらっしゃい」


 そういやまだ村周辺をよく見てなかったな。ここはカミラの提案通りに村を歩き回ってみるか。

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