第7話:カミラの過去
散歩しにカミラの家から出てから、辺り景色を眺めていた。
「なかなかいい村じゃないか」
村の雰囲気がなかなかよく、思わずつぶやいてしまう。自然に囲まれていてのどかで景色もいい。時折吹く風がなんとも心地よい。空気がうまいとはまさにこんな感じだろう。
俺が地球にいた頃は都会に住んでいたし、田舎にでも行かない限りこんな体験は出来なかった。
この世界にきてよかったと思える瞬間だな。
歩き続けること数分、遠くに気になる物体を発見した。それは大きい岩だ。なんとなく近づいてみることに。
「でっけぇ~」
目の前まで近づくと意外にも大きい岩だった。高さと幅が4~6メートルぐらいはありそうだ。この岩は村の中心あたりにポツリと存在しているみたいだ。
ただの岩のはずなのに、なぜか不思議な感じがする。気のせいか?
しばらく岩を眺めいると、遠くのほうから声が聞こえてきた。
「そこのお方。どうなされました?」
声がする方向に振り返ると、1人の老人がこっちを見ていた。
「あ、えっと……ただ眺めていただけです」
「ふーむ……見かけない顔じゃな。もしかしすると旅人ですかな?」
「まぁ、そんな感じです」
「なるほどのぅ」
老人はゆっくりと近づき、俺の隣まで移動してきた。
「ワシはこの村の村長を務めております『ヨルゲン』じゃ」
なんと村長さんだったか。いきなり大物と遭遇してしまったな。
「俺はヤシロといいます」
「ふむ。してヤシロさんはここに何用か聞いてよろしいかな?」
住人にしてみては俺は見知らぬ他人だし、探りを入れてくるのは当然か。
特にやましいことはないし、ここは素直に答えるか。
「えっと、ここで馬車をくるのを待っているんです。歩いて町まで行くのは避けたかったし、道も分からないので」
「ほほう、これは失敬。そういうことでしたか。馬車には護衛も付いているのでそっちの方が安全じゃな。何も無い村ですがゆっくりしていってくだされ」
「はい」
ニッコリと微笑む村長。
ここは本当にいい村だ。カミラもそうだったけど、赤の他人に対しても好意的に接してくれる。
無理に歩いて町まで行こうとしなくて正解だったかもな。
「……この岩が気になりますかな?」
「えっ? あ、ああ、はい」
岩を凝視しながら考え事をしていたためか、興味を持っていると勘違いされたようだ。まぁ実際に気になるっちゃ気になるけど。
「これはこの村にとって大事な〝魔封石〟なんですわ」
「へ? これが魔封石!?」
驚いた。魔封石ってもっと手の平サイズの物ばかりだと思ってた。まさかこんなに大きい魔封石が存在するのか。
「驚かれるのも無理ない。この大きさの魔封石は滅多に見る機会はないでしょうしな」
「は、はい。初めて見ました」
魔封石自体初めて見たんだけどね。でも本当のこと言うと怪しまれそうなので黙っておく。
「この魔封石は、村を守る有り難い存在なんじゃ。これが無かったらワシらは安心して生活できんのですわ」
「そ、そうなんですか」
よく分からんけど、やっぱり重要な物っぽいな。
でも確かに不思議な感じはする。そうかこれが魔封石なのか……
「おっと忘れとった。馬車が来るのは何日かあとになるんじゃが、その間はどこに住まわれますかな?」
「今はカミラちゃんの所で世話になっています。ここに来る途中で偶然出会ったんですよ」
「――なんと。カミラの家に……」
目を見開いて驚いたような表情でこっちを見ている。
あれ、何か変なこと言ったかな?
「ど、どうかしましたか?」
「…………」
「あのー……」
「…………カミラは強い子じゃよ」
「はい?」
何だ? 一体どうしたってんだ?
「それってどういう意味ですか?」
「…………」
「あっ、そういやまだカミラちゃんの両親に挨拶してなかったや。親御さんは今どこに居るんですか?」
「おらんよ……」
「え? もしかして違う場所に――」
「もう……この世にはおらんのじゃ……」
「……ッ!?」
マジかよ……
まさか既に亡くなっていたなんて思いもしなかった。
そういやカミラが親の話をしたときに、少し落ち込んだような表情をしていたな。あれはこういうことだったのか。
「5年ほど前になるかの。両親はカミラを残して村を離れた時があった。父親は魔術師での、それは立派な人じゃった。母親も優しくていつもカミラが甘えておったわ」
「…………」
「しかしいつまで経っても村に帰ってくる気配が無かった。何日も何日も寂しく待っていたカミラの姿を覚えておるわい」
なんとなくその様子が目に浮かぶ。
「そんなある日に馬車がやってきて『今度こそ帰ってきた!』と、カミラが嬉しそうに叫んで近づいていったんじゃ。けど待っていたのは両親が亡くなったという報告だけじゃった……」
マジかよ……
まさかそんな経験してたとはな。今のカミラからは想像つかないな。あんなに元気そうに振舞っていたしな。
ということは両親が亡くなってからは、広い家にずっと1人で暮らしていたということか。
「カミラは本当に強い子じゃよ。まだ子供だというのに、弱音も言わずに1人で生活しているんじゃから」
「俺も……そう、思います」
「もしかしたら、父親とヤシロさんをどこか重ねているかもしれませんな……」
なるほどな。そいうことか。
今日初めてあったのにやけに親切にしてくれると思ったんだよな。まさか父親の面影を重ねていたってわけか。だからあんなに世話したがってたのか。
たしか父親も魔術師だったんだよな。俺も魔術師ということになってるし、それもあって余計に父親に近い存在だったわけか。
「短い間じゃが、カミラのことよろしく頼みますぞ」
「は、はい。分かりました」
村長はそのまま背を向けて去って行った。
1人になってもしばらくの間その場から動かず、カミラの家に戻ったのは30分ほど経ってからだった。
夜になり、辺りが暗くなったので今日はもう寝ることになった。しかし俺の体内時計ではまだ9時ぐらいの感覚だ。
この世界の住民は早寝なんだな。というか暗くて何も出来ないから寝るしかないんだろうな。
寝床で今日あった出来事を思い出していた。
今日は本当に色々あったな。一度トラックに轢かれて死んだと思ったら女神と会い、異世界に転生し、カミラと出会ってこの村までやってきた。
人生でここまで目まぐるしい出来事があった日は無いな。いや、一度死んでるんだからもう次の人生になってるのか? でも生まれ変わったわけじゃないし、どうなんろう?
……まぁいいや。とりあえず今日はもう寝よう。明日また考えよう。
お休みなさい。
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