第5話:文明の違い
カミラの後をついていくこと数十分、ようやく人工物が見えてきた。
「ここが私達の村で〝トレッセル村〟とよんでいます」
「おー」
案内されて村へと入って行った。
村の規模はそれほど大きくなく、人口100人にも満たないといった感じだ。
「ところで魔術師様はこれからどうします?」
「あのさ、その魔術師様ってのやめない?」
「何でですか?」
本当に魔術師ってわけじゃないしな。
などと言えるわけが無い。
「そのーなんというか。できれば名前で呼んでほしいんだよね」
「はぁ……それならヤシロさんでいいですか?」
「うん。それでいいよ」
「ヤシロさんはこれからどうします? 馬車がくるのは10日後ですけど……」
あ、そうだ。忘れてた。
結局10日間はどこかで寝泊りしないといけないのか。
しかしこの村には宿泊施設なんてものが見当たらない。どれも普通の民家だ。
「やっべ……どこで寝よう……」
「あの……もしよろしければ、私の家に来ませんか?」
「えっ? いいの?」
「はい。今は1人暮らしなので、他の人が寝れる場所も十分ありますよ」
「なるほど。そういうことならお世話になろうかな」
「はい! 私の家はこっちです」
よかった。せっかく人の居るところまできたのに、野宿することになるかと思った。カミラには感謝しないとな。
そのままカミラに連れられ、家へとやってきた。そこは普通の民家で、年季が入った感じの木造の家だ。
カミラが家のドアを開け中に入った。それに続いて俺も中に入ることにした。
「お、お邪魔します」
「はい、どうぞ」
家の中は意外と広く、外見と違って綺麗で落ち着きのある雰囲気だった。
たしかにこのくらい広ければ1人や2人追加しても寝泊りできそうだ。
「何も無い家ですけど、ゆっくりしていってくださいね」
「屋根の下で寝れる場所があるだけで十分だよ。本当にありがとな」
「いえいえ。美味しいパンをご馳走になったお礼ですよ」
そんなにメロンパンが気に入ったのか。特別変わったところもないごく普通のメロンパンなんだけどな。
なら明日以降にでもまた買ってあげようかな。どうせ100円なんだし、馬車がくるまでの10日間毎日買っても1000円だしな。
「そうだ。せっかくなので食べれるもの作りますね」
「い、いやいや。さすがに悪いよ。世話になってるのにそこまでしてもらうわけには――」
「大丈夫ですって。こう見えても料理は得意なんですよ!」
「でもなぁ……」
「少し時間かかるので待っててくださいね」
「あっ……」
止める間もなく、台所まで移動してしまった。
まぁいいか。本人は気にしてないみたいだし、なら言葉に甘えることにしよう。
カミラは本当にいい子だな。今日初めて合う人に対してここまで親切にしてくれるなんてな。
でも逆に不安でもある。悪い人に騙されなきゃいいけどな。
…………
あれ?
なんだろうこの違和感。何かがすごくおかしい気がする。
なんというかありえないぐらい古臭いというか、大昔に使われてたような設備を見たような気がするというか……
う~ん……?
……あっ、分かった。
違和感の正体、それはカミラの近くにある台所にあるんだ。
家に入ったときはスルーしてたけど、よくよく見ると台所にはガスコンロみたいな設備が存在してない。それどころか、火をつけるスイッチらしき物がどこにも見当たらない。
なぜならレンガのような材質を積み上げて作られている台所だからだ。
つまりそこにあるのは――
「か、
「は、はい!? どうしましたか!?」
「い、いや。何でもない……」
驚いた。実物の竈なんて初めてみたぞ。あんなの写真やテレビでした見たことないからな。
いくらなんでも古すぎないか。今時あんなの使ってる家なんて存在しないだろうに。ここはどんだけ田舎なんだよ。
……いや待てよ?
まさかとは思うが――
「あ、あのさ。変な事聞くかもしれないけど、
「それ……? どれのことですか?」
「台所のことなんだけど」
「よく分かりませんけど、どこの家もこんな感じじゃないですか? 少なくともこの村ではみんな同じですよ?」
「そ、そうなんだ……」
予感的中。そういうことか。
カミラがメロンパンを食べた時から嫌な予感はしてたんだよな。
つまりだ、この世界では竈が普通に使われているほど文明が遅れているってことだ。
俺が地球にいた頃に比べたら200年――いや、下手したら300~400年ぐらい遅れているかもしれない。
「あ、あのぅ……何か変なところでもありましたか?」
「ご、ごめん。何でもないよ。気にしないで」
「はぁ……」
参ったなぁ。まさかここまで文明が違う世界だとは思わなかった。言わば中世ってところか。
しかしこれは困ったぞ。なぜならカタログで購入できる商品の内、電化製品の大半は使い物にならないってことになるからだ。理由は単純。この世界にはコンセントなんてものが存在しないだろうしな。
これじゃあせっかく便利な能力を手に入れても意味無いじゃないか。もうちょい近代的な世界に行きたかったな。あの性悪女神め、次にあったら文句いってやる!
そんなことを考えていると、カチッカチッという音が聞こえてきた。まるで何かを打ち付けるような音だ。
気になってカミラのほうを見てみると、竈の近くでしゃがんでいる姿が見えた。どうやら火おこしをしているみたいだ。
でもその方法が予想通りというか、『火打石』だったのだ。音の正体はあれだったようだ。
しかし上手くいっていないのか、未だに火種すら出来てないみたいだ。
「だ、大丈夫?」
「ご、ごめんなさい。火をつけるのは苦手で……」
ああそうか。この世界では火をつけることすら一苦労するわけか。
さすがに見てられない。ここは何とかしてやるか。
カタログ出現させてからページを開き、そこからライターを購入。4本セットで100円の安いやつだ。
ライターを1つ手にとってカミラの前まで近づく。
「カミラちゃん、これ使いなよ」
「? これは何ですか?」
やっぱりライターすら見たこと無いのか。
「あーうん、実際にやってみたほうが分かりやすいか」
竈の下にある木屑にライターを近づけてから点火。するとすぐに火がつき始め、徐々に大きくなっていった。
「!? す、すごい。そんな簡単にできるなんて……」
「どう? これ便利っしょ」
「あ! も、もしかしてそれって、
「ま、魔封石!? なんじゃそら」
また新しいワードが出てきたぞ……
「ええ!? 知らないんですか!?」
「あ、いや……その……」
しまった。もしかしてこの世界ではみんな知ってることなのか?
「えーと……そ、そうだ! カミラちゃんがどれぐらい知ってるか試したくって……」
「…………」
「だ、だめ?」
「い、いえ。構いませんけど……」
「じゃ、じゃあどこまで知識があるか教えてほしいな!」
「分かりました。 魔封石というのは――」
カミラが言ってたことを要約すると、 魔封石というのは誰でも魔法が使えるようになる不思議な石とのことだ。
魔法を使うには基本的に魔術師と名乗れるぐらいの修行が必要だけど、 魔封石があれば普通の人でも魔法の一部が使えるらしい。
例えば、火の魔封石なら火が、水の魔封石なら水が呼び出せるようになる。このように魔封石にも色々な種類があるようだ。
んでさっきライターを見て魔封石だと言ったのは、それが火の魔封石だと勘違いしたらしい。つまり火の魔封石があれば、簡単に火を起こせるようになるんだと思う。
「――以上が、魔封石の説明になります。これで合ってますか?」
「えっ……ああ、うん。合ってる……………………………………ト、オモウヨ」
「よかったぁ……」
しかし魔封石か……本当にファンタジーな世界に来ちゃったんだなぁ。
……ん? ならなんで魔封石とやらを使わないんだ?
今の説明を聞く限り、魔封石があればカミラでも簡単に火をおこせるようになるのに。
「そういやなんで魔封石使わないの? そんな便利な物があるなら使えばいいのに」
「そのぅ……なんといいますか……」
「?」
なぜか困ったような表情でモジモジするカミラ。
「今は魔封石を買う余裕がないんです……」
「……あーなるほど」
そういうことか。有料なのね。
よく考えてみればそんな便利な物が気軽に手に入るわけないもんな。
「ちなみにいくらぐらいするの?」
「んと……1個買うお金があれば、たぶん100日分ぐらいの食料が手に入るかと……」
「マ、マジで!?」
「ええ……」
たっか! 魔封石ってそんなにするの!?
えーと、1日の食費が約1000円だとしてそれが100日分……
ということは大体10万円ぐらいするのか。大雑把に計算してこれだから、実際はもっと高いんだろうな。下手すりゃ倍以上するかもしれない。そりゃ気軽に手が出せないわけだ。
「あっ、そろそろ火が強くなってきたので料理に入りますね」
「ああそっか、わざわざ変なこと聞いてごめんね」
「いえいえ。火をつけてくれて助かりましたし」
そのまま作業に入ったので、離れてから座って待つことにした。
カミラのお陰でこの世界のことが大体分かってきたぞ。
地球にいた頃よりも文明が違ってるが、案外なんとかなりそうだ。魔封石があれば俺でも魔法が使えるってことだしな。
……あっ、そうか!
魔封石なんて便利な物があるから文明が遅れるんじゃないか?
話を聞く限りでは、誰でも魔法が使えるってことだしな。火の魔封石とやらがあるならガスコンロみたいなのは要らないし、そりゃあまり発達しないわけだ。
他にも知りたいことはあったけど、また今度調べることにしよう。今は料理が完成するまで待つことにするか。
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