第4話:魔術師の存在

 ぐぅ~


 歩いてから数分後、そんな可愛らしい音が聞こえた。

 どうやら音の発生源はカミラのお腹あたりらしい。音がなってからカミラは恥ずかしそうにしていたからだ。


「ご、ごめんなさい……」

「い、いや。別に気にしてないさ」


 そっか。今は昼過ぎぐらいだもんな。まだ何も食べていないんだろう。

 ……そうだ。案内してくれるお礼に何か食べ物でもおごろう。


 カタログを呼び出し、開いてからページをめくっていく。ページには様々な食品が載っている。

 んーと、そうだな……


「カミラちゃん、ちょっといいかな?」

「はい?」

「この本に載ってる中で、好きな食べ物とかある?」


 カミラの前まで近づき、見やすいようにカタログのページを開いた。


「……? 本……?」

「そうそう。この中から自分の好きな食べ物を選んでほしいんだけど」

「た、食べ物……? どこにあるんですか?」

「ん?」

「???」


 あれ? 

 なんだろう。意味が通じてない気がする。


「えっと、この中から選んでほしいんだけど……」

「ご、ごめんなさい。ちょっとよく分かりません……」


 んんん? どういうことだ?

 さっきから俺が言ってる意味を理解してないような感じだ。


 …………


 あ、もしかして――


「ちょっと聞くけどさ、この大きな本見える?」

「えっと……本というのはどこにあるんですか?」


 ……なるほど。そういうことか。

 つまりカタログは他人には見えない仕様らしいな。道理で話が噛み合ってないと思った。


「あーごめん。なんでもない。忘れて」

「???」


 そっか。カタログは自分しか見えないのか……

 まぁいいや。だったらテキトーに俺が選ぼう。

 さてどれにしようかな……

 んー……メロンパンでいっか。美味しいし、安いし。


 カタログから100円のメロンパンを選び購入。するとカタログから袋に入ったメロンパンが飛び出てきた。


「カミラちゃん。これ食べなよ。けっこう美味しいよ」

「えっ!? い、いいんですか……?」

「うん。俺はさっき食べたしね」

「で、でも……」

「いろいろ教えてくれたし、村まで案内してくれるお駄賃みたいなもんさ。だから遠慮なんてしなくていいよ」

「…………」


 ぐぅ~


 再びなるお腹の音。


「……じゃ、じゃあ頂きます」


 袋を少し破いてから差し出した。それを少し顔を赤くしながら受け取るカミラ。

 受け取ってからは、物珍しそうにメロンパンをジロジロと見ている。まるで始めて見る食べ物みたいな態度だ。そして匂いを少し嗅いでから一口。

 すると――


「……!!」


 ムシャムシャと勢いよく食べ始めた。すごい食べっぷりだ。

 そんな勢いなもんで、10秒ぐらいで完食してしまった。


「どう? 美味しかった?」

「は、はい! すっっっごっく美味しかったです! こんなに甘くて柔らかいパンは始めて食べました! こんな美味しいパンを食べられて感激です!」

「そ、そうか……」


 本当に美味しかったんだな。目をキラキラさせて早口で喋っている。


「…………」

「…………」


 ん? 

 なぜかジーッっとこっちを見つめている。


「えっと、もう一個食べる?」

「……えっ!? いや、その、わ、悪いですよ! まだ出会ったばかりなのにここまでしてもらうのは……」

「大丈夫だって。どうせ100円のパンだしな」

「ひゃくえん……?」

「あーなんでもない」


 そっか。異世界だから通貨も違うのか。覚えておこう。

 さっきと同じようにカタログからメロンパンを購入。


「わっ……何も無いところから飛び出てきましたよ!?」


 カタログから購入すると、他人からはそう見えるのか……


「き、気にしないで。魔法みたいなもんだから」

「ということは……魔術師様だったんですか!?」

「へ? 魔術師?」

「まさか魔術師様だったなんて……私は他の魔術師様と会話するのは始めてなんです!」

「ちょ、ちょっと待って」


 魔術師って何だよ!?

 この世界にはそんなのがあるのかよ!?

 言葉から察するに、恐らく魔法使いみたいなもんか?


「あの、魔術師って……魔法使えたりするアレのこと?」

「そうですけど……違うんですか?」


 なるほどな。この世界にはそんなのが存在するのか。ようやく異世界って感じがしてきたな。

 まぁ俺のカタログも魔法みたいなもんだしな。否定しても混乱するだけだろうし、ここは話に合わせることにしよう。


「い、いや。間違って無いよ。じ、実は俺は魔術師だったんだよ! はっはっは……」

「やっぱり! あ、あの……よろしかったら握手してもいいですか!?」

「も、もちろんさ!」

「やったぁ!」


 どうしよう。すごく心が痛む。本当はごく普通の人なんだけどな……

 いや、一度死んで蘇ったんだからそうでもないのか?

 ……深い事は考えないようにしよう。まぁ握手ぐらいなら大丈夫だよな?


 差し伸ばしてきた手をとって握手することに。


「わぁ……あれ?」

「ど、どうしたのかな?」


 もしかして嘘だってことがバレた!?


「い、いえ。魔術師様の手ってもっと硬いと思ってましたから……」

「な、なんでそう思ったの?」

「だって、魔術師って厳しい修行をしないとなれないって聞きましたから」

「へ、へぇ……」


 魔術師ってどんな人種なんだよ。つーかこの世界での魔術師はどういう認識なんだろう。

 聞いてみるか。


「えーっと、カミラちゃんは魔術師についてどれだけ知ってるの?」

「詳しいことまで把握しているわけではないのですが、ある程度なら……」

「じゃあ知ってる範囲内でいいから、魔術師のこと教えてくれない?」

「え? 何でですか?」

「あー……そのー……」


 やべえ。言い訳考えてなかった。

 どうしよう……

 んーと……


「……も、もしかしたら間違って認識してるかもしれないし? だから一応確認したいなーって……」

「…………」

「ダ、ダメかな?」

「い、いえ。かまいませんよ」


 そう言ってコホンとセキをした。


「えーとですね、私達の中には誰しも〝魔力〟というのを持っています。でも魔力はあっても普通の人は使うことができません」

「なんで?」

「魔力を放出する技術が無いからです。なので普通の人は魔力を持っていてもコントロールすることができないのです」


 魔力ねぇ……

 この世界ではみんな魔力ってやつを持っているということか。


「魔力をコントロールするのには厳しい鍛錬と、気が遠くなるような長い修行が必要です。そうして魔力を自由に操る技術を会得します。その人達のことを総じて〝魔術師〟と呼んでいます」


 へぇ、修行すれば魔法が使えるようになるのか。

 だったら俺もやってみようかな――


「でも修行をすれば全員がなれるわけではないのです」


 えっ。そうなの?


「魔力を操るには個人差があって、1年で会得する人もいれば10年かかっても何も得られない人もいるって聞きました。ですよね?」

「あーそうだったような気がしなくも無いような……」

「ヤシロさんはどのぐらいで習得できたんですか?」


 実はなにも習得してないんです。

 なーんて言えるわけがない。だって修行とか全くしてないんだもん。


「えーっとだな……1年ぐらい……かな?」

「す、すごいです! たった1年で魔術師になられたんですね!?」

「ま、まぁね……」


 もうこれでいいや。そういう設定でいこう。


「それにしてもカミラちゃんはよく知っているね」

「はい。親が魔術師でしたから……」

「へぇ……」


 うん?

 どうしたんだろう。突然元気が無くなった気がする。気のせいか?

 まぁいいや。魔術師のこといろいろ聞けたし。


「カミラちゃんは物知りなんだね。ご褒美にもう1個パンあげるよ」

「……ほ、本当ですか!?」

「うん。だから気にせずに食べていいよ」

「やったぁ!」


 あげたメロンパンを再び美味しそうに食べるカミラだった。

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