第93話:ジャンクフード

 翌朝。

 部屋の中で起きてから出発の準備をしていた。


 そういやギンコのやつ、昨日はいつも以上にくっついてきた気がする。

 結局、俺と同じベッドで寝ることになったのはいいが、ずっと離してくれなかった。

 俺のことをギュッっと抱きしめてくるもんだから少し寝づらかった。

 まぁいいけどね。


 しばらく部屋で待機していると、ヴィオレットがやってきた。

 どうやら出発の準備が終わったらしい。

 俺たちもすぐに部屋を後にし、ヴィオレットに付いていくことにした。


 宿を出てから歩き、馬車乗り場に到着。

 馬車の近くには御者のおっさんが待っていた。

 おっさんは俺たちの姿を見ると話しかけてきた。


「おーい! こっちでさぁ!」

「昨日はすまなかった。こちらの都合で延期してしまって」

「気にすることはないべさ。オラは運ぶのが仕事なんでな。いくらでも待つべさ」

「ではさっそく出発したいのだが」

「あいさ。すぐに準備終わるから乗ってくんろ」


 俺たちは馬車に乗り込み、王都に向けて出発することになった。




 日も暮れ始め、今夜は道端で野営することになった。

 焚き木をしつつ今日の晩飯について考えていた。


「さてヤシロ。また食事を任せていいか?」

「あいよ。丁度何を食おうか考えていたところだ」

「ほう。して今日は何を作るんだ?」

「んー。どうしようかなー」


 さて何を食おうかな。

 ぶっちゃけ何でもいいんだよな。

 好評だったカレーにでもするか?

 それとも焼肉でもしようかな?

 迷うなぁ……


 もっとこう、手軽に食べられる物がいいんだよな。

 今日はそんな気分だ。

 うーん……どうしようか……


 ……あっ。そうだ。

 久しぶりにあれにしよう。


 隠れながらカタログを出し、目的の物を次々と購入していく。

 一通り手に入れた後に購入した物を配っていった。


「はいこれ。今日はこれにしようと思う」

「何だこれは? 変な形をした箱だな」

「軽いですね。何か書いてありますけど……読めないです」

「不思議な容器だべ。これでどうやって食うんだべ?」


 俺が渡した物。

 それは『カップ麺』だ。

 偶にはこういうのもいいだろう。

 ジャンクフードではあるが、定期的に食いたくなってくるんだよなぁ。


「それはね、中には既に食材が入っているんだ」

「何だと? パンでも入っているのか?」

「いやそうじゃない。そのままでは食えないんだ。でもお湯を入れることで完成した食事になるんだ」

「よく分からんな。ただのスープということか?」

「まぁ見ててよ。とりあえずお湯を用意しないと」


 用意した水を沸かし、全員分のカップ麺にお湯を注いでいく。


「これで蓋して3分待つだけ。簡単でしょ?」

「お湯無しで食べたらダメなんですか?」

「食えなくはないとは思うけど……さすがに硬くて微妙だと思うぞ。やるなよ?」

「や、やりませんよ」


 そして3分後。

 蓋を開けるといいにおいが漂ってくる。


「これで出来上がりだ。んじゃ食おうぜ」

「うむ。では頂くとしよう」

「美味しそうなにおいです~」

「不思議な食い物だべ……」


 俺が選んだのは定番の醤油味だ。

 さっそく食うことにしよう。


 ……うん。美味い美味い。

 こういうシンプルな味が好みだ。

 キャンプで食うカップ麺は妙に美味しく感じるのはなぜなんだろうな。


「ほほー。なかなかいけるじゃないか。お湯を注ぐだけでこうなるのか……」

「食べやすくて美味しいです! ちょっと熱いですけど……」

「うめぇだ! これならいくらでも腹にはいるべ!」


 よかったよかった。

 皆の口に合ったようだ。


「まぁこれはインスタントだからな。もっと本格的なやつはさらに美味しいぜ」

「へぇ~。これよりもさらに美味しいのがあるんですね」

「味も色んな種類があるし、数えきれないぐらいのパターンがあるぞ。それぞれ違った個性があって面白いし」

「そんなにあるんですか」


 俺もラーメンは好きだし、定期的に作ってみるかな。


「また今度食わせてやるよ。次はもっと具を豪華にしてみるかな」

「どんなのにするんです?」

「そうだな。次やる時はチャーシューを用意してみるよ。ギンコならきっと気に入ると思うぜ」

「ちゃーしゅー? 何ですかそれ?」

「味付けした肉のことだよ。これがまた美味いんだ」

「!! お肉ですか!?」


 すげぇ食いついてきた。


「そ、それってそんなに美味しいんですか!?」

「ま、まぁな。具材としてはよくあうんだ」

「私も食べてみたいです~……」

「今度やってやるから期待してていいぞ」

「ほ、本当ですか!? 絶対ですよ!? 約束ですよ!? 必ずですよ!?」

「だ、大丈夫だって。そのうち作るから。だから落ち着け」

「はい! じゃあ楽しみにしてますね!」


 すごい分かりやすい反応。

 尻尾まで元気になってやがる。

 ギンコの肉好きは筋金入りだな。

 麺より先にチャーシューを全部食ってしまいそうだ。


 次は何味にしようか考えつつ麺をすすった。



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