第81話:おにぎりの具

 森の中を進むこと数時間。まだ目的地に辿り着けずにいた。

 そこで開けた場所を見つけ、そこで休憩を取ることになった。


 腰を下ろして座っていると、横に居るギンコが袖を引っ張ってきた。


「ん? どうしたギンコ」

「あ、あの……出来れば……水が欲しいんですけど……」

「ああ。ノドが渇いたのか」

「は、はい……」

「ちょっと待ってね」


 ずっと歩き続けていたからな。さすがにノドを潤すものが欲しくなるか。

 荷物を漁って飲み物を探そうとするが……


「あ。やべ」

「ど、どうかしましたか?」

「飲み物入れるの忘れてた……」

「そ、そんなぁ……」


 飲料水は重くなるし、あまり入れないようにしてるんだよな。

 俺にはカタログという便利な能力があるわけだし。それでも全く問題無かった。


 けど今ここでカタログを使うのはマズい。

 すぐ近くにはヴィオレットが居るからだ。

 出来れば人前でこの能力を使うのは避けたい。


 トイレでも行くフリをして、離れた所で使うか?

 これが一番最善なんだろうけど……なんか面倒くさくなってきた。

 この場にはギンコとマナ以外にはヴィオレットしか居ないんだし、いちいちコソコソ使うのも大変だ。


 もういっそのこと、ヴィオレットには打ち明けてしまおうか。

 ここまで一緒に来たんだ。今さら他人にバラすようなことはしないはず。

 しかもここは森の中。ヴィオレット以外の人に見られる危険性は無い。

 今がチャンスなのかもしれない。


「な、なぁヴィオレット」

「む? どうした?」

「今からやることなんだけどさ……出来れば、誰にも言わないで欲しいんだ」

「? 何の話だ? 意味が分からないんだが……」

「見てれば分かるよ。いくよ」

「?」


 カタログを出し、ジュースを選ぶ。

 すると目の前の空間からペットボトルが出現し、俺の手の上に落ちた。


「! そ、その魔法は……!」

「こういうことなんだよね」

「以前にも見たことがあるが……やはりとんでもない魔法だな……」


 ああそっか。ヴィオレットには前にも見せたことがあったんだった。


「つまり秘密にしたいというのは……」

「うん。これのこと。バレたら面倒になりそうだったからね。なるべく秘密にしたかったんだ」

「…………」


 ヴィオレットは驚きの表情のまま、俺の手の上にある物を見つめる。


「ひ、一つ聞くが。まさか食べ物の生み出すことが出来るのか……?」

「うん。出来るよ」

「ということは……まさか、あの『ちょこれいと』というものも……ヤシロが生成したのか……?」

「まぁね。というか疑ってたの?」

「い、いや。疑っていたというか、あの食べ物はどこから来たのかずっと不思議だったんだ。あそこまで甘くて美味しいものが、どうやって入手したのかずっと考えていたんだが……なるほど。これで納得した」


 そこまで気に入ってたのか。

 本当に甘い物が好きなんだな。


「しかし本当に珍しい魔法だな。私も初めて目にした……」

「そんなに珍しいの?」

「珍しいなんてもんじゃない。前例が無いんだ。恐らく世界で唯一、ヤシロにだけしか使えない魔法だ」

「そ、そこまですごいのか……」


 やっぱり俺のカタログは変わっているよなぁ。

 他人から見たら異能の力だと思うだろう。


「物を生み出す魔法自体は存在する。だけどな、食べ物を生み出す魔法というのは未だに発見されていないんだ」

「ま、まじで?」

「精々、水や氷を出すのが限界だ。なのにヤシロは食べ物を、しかもあんなにも高品質の食べ物を作り出している。これはとんでもないことだぞ」


 ヴィオレットがここまで言うなんて。

 本当にやばい能力なんだろうな。


「もしかして……バレたらやばい?」

「相当な。色んな国から狙われることだろう」

「お、おい……脅かすなよ……」

「よく考えてみろ。もし自由自在に食べ物を生み出せたとしたら、あらゆる経済を崩壊させることが可能になる」

「べ、べつにそんなことしないっての」

「それ以外にも、色々な場面で重宝されることになる。誰もが欲しがる魔法だ。それを国が放っておくと思うか?」


 やっぱりこの能力を隠し通して正解だったな。

 これからもずっとバレないように気を付けよう。


 そういえば以前に塩を販売した時に、伯爵に呼び出されて怒られたっけ。

 あの時はやけに過敏に反応してくるなーとは思ってたんだよな。

 わざわざ監視まで付けてきたぐらいだしな。やりすぎだろうとは思ったけど、その時は特に気にすることは無かった。

 けど今思うと、俺みたいな能力を警戒してたのかもしれない。

 考えすぎだろうか?


「え、ええええ!? ご、ご主人様が捕まっちゃうんですか!?」

「い、いや。その可能性があるってだけだ……」

「で、でも……狙われることもあるんですよね?」

「す、すまない。脅かし過ぎた。その可能性があるってだけなんだ。本当にそうなるとは限らない」


 でも狙ってくる連中が現れるってことは事実だろうな。


「そ、それにだ。既にヤシロみたいな人材を確保しているかもしれないしな」

「ん? どういうこと?」

「どこの国も、有能な魔術師を身近に置いておくのが基本なんだ」

「そうなの? ってことは、 王都ルーアラスにもそういう人材を囲っているってこと?」

「そうだろうな」


 なるほどね。

 有能な魔法を使えるってだけで、国から好待遇を受けれるってことか。


「事情は大体わかったよ。やっぱり隠し通し続けたほうが安全ってわけか」

「今後のことも考えるなら、安易に話すことはオススメしないな」

「だろうね」

「私も他人には話さないと誓おう。私のことを信頼してくれているからこそ、打ち明けてくれたんだろう? その信頼を裏切るようなことはしないさ」

「うん。ありがとな」


 ま、これからもやることは変わらないってことだ。


 しかしあれだ。

 小腹が空いてきたな。


「まだ先は長いだろうし、ここで何か食べないか?」

「そうですね。実は少しお腹が空きました」

「いいな。私もそうしたいと思っていたところだ」


 というわけでメシにすることになった。


「さーて。何にするかなー」

「今回はどんな料理をするつもりなんだ?」

「んー」


 こういう状況ならば、もっと手軽に食べられる物が欲しいんだよな。

 となると……やはりあれしかないな。


「今回は料理はしないよ。もっといい物がある」

「そうなのか?」

「もしかしてハンバーガーですか!?」

「いや。今日はそれじゃない。簡単に作れてバリエーションがある食べ物だ」

「えーと……あとは……サンドイッチですか?」

「似たようなもんだ。今出すから待ってろ」


 カタログからある食べ物を複数購入。それを皿の上に並べた。


「これは……黒い塊? いや包んでいるだけか?」

「初めて見ました……」

「これはな、〝おにぎり〟だよ」


 そう。俺が食べたかったのはおにぎりのことだ。

 見た目はあまり変わらないが、中の具によって様々な味を楽しめる。

 キャンプといえば定番の食べ物じゃないだろうか。


「この黒いのは何だ? 」

「それは海苔のりというんだ。これは焼き海苔だけど。こうやって包めば手が汚れないし、手軽に食べられるんだよ」

「なるほどな……」


 皆は不思議そうに見ていたが、俺が一口食べると、続けて食べ始めた。


「……ほう。いいなこれ。食べやすくて美味しい」

「美味しいですー! いくらでも食べれちゃいます!」

「イケるっしょ。他にも色々な種類用意したからどんどん食え」

「はい!」


 やはりおにぎりにしてよかったな。

 具材によって好みが分かれるだろうし、簡単に好きな具を選べる。


 ふと横を見ると、マナがジーッっと眺めていた。


「なんだ。マナは食べないのか?」

「いい」

「遠慮しなくてもいいのに」

「おいしい?」

「ああ。美味いぞ。食ってみろよ。ほら、好きなの選べって」

「ん」


 マナもおにぎりを手に取り、リスのように食べ始めた。


「具は色んなの揃えたからな。他のも食べ比べてみたらどうだ」

「そうですね……じゃあ私はこれを」

「それは鮭が入ってるぞ」

「こっちを貰おうか」

「それはツナマヨだな」


 みるみるうちに減っていく。大人気だな。


 そんなこんなで無事に食べ終わり、皆もリラックスしている。


「ふー。美味かった。皆はどれが好きだった?」

「んーと、サケというのが美味しかったです」

「私はツナマヨが気に入ったな」


 ちなみに俺は昆布が好きだ。

 皆それぞれ違っていて面白い結果になったな。


「マナはどうだ? どんな具がよかった?」

「ぷりん」

「……あのなぁ。おにぎりにプリンは合わないと思うぞ?」

「だめ?」

「いや、ダメとかじゃなくてな……」

「…………」


 さすがにおにぎりプリンは食ったことはないな。

 どう考えても美味しくなるとは思えない。


 まぁいい。とりあえず食後のデザートはプリンにするか。


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