第80話:違和感

 村から出てから森へと向かった。

 それほど遠くない場所に、森への入り口があった。

 中に入る前に立ち止まり、ヴィオレットが確認にするように喋りはじめる。


「これから森の中へと入る……が。案内はマナちゃんがしてくれるという話だったな?」

「やる」


 迷いなくうなずくマナ。


「それなら頼りにさせてもらう。だがあまり離れすぎないでくれ。森には魔物が多く生息していると聞いたからな。あまり先行しすぎると、対処が遅れるかもしれん」

「…………」

「もし魔物を見つけたらすぐに教えてくれ。私が退治しよう」

「大丈夫」

「? 大丈夫? 何がだ?」

「魔物」

「魔物が大丈夫? まさかマナちゃんが退治してくれるのか?」

「違う」

「……?」


 何だろうな。

 さっきから話がかみ合ってないような。


「ええと……すまない。マナちゃんが何を言いたいのかよく分からないのだが……」

「大丈夫。やる」

「いやだから、何が言いたいんだ?」

「こっち」

「ちょ、ちょっと……!」


 ゆっくりと森の中へ入っていくマナ。

 俺たちは困惑しつつも、その後に付いてくことにした。


 マナの後を追っていると、ヴィオレットが不安そうに話しかけてきた。


「な、なぁ。本当にあの子は大丈夫なのか? 何というか、普通の子じゃないという感じがするというか……」

「だ、大丈夫だって。ああ見えても頼りになるから。たぶん」

「たぶんって……」

「今は信じて付いていくしかないよ。どっちにしろ、マナ以外で知識がありそうな人は居ないんだから」

「そうかもしれないが……」


 やはりマナの正体を知らない人にしてみれば、あまり信用できないんだろうな。


「何かあったら守ってくれるんだろ? ヴィオレットも頼りにしてるさ」

「そ、そうか……」

「わ、私もご主人様のことをお守りします!」

「うん。ギンコのことも頼りにしてるよ」

「はい! がんばります!」

「とりあえず先に進もう。マナが待ってる」

「そうだな」

「ですね」


 それからすぐにマナの後を追うことにした。




 ……おかしい。何かがおかしい。

 そう思ったのは森の中を進んでしばらく経ってからのことだった。

 俺たちはずっと歩き続けているが、奇妙な違和感に気付いたのだ。

 何がおかしいのかハッキリと言い表せないが、とにかく何かが変だ。


 これは一体何だろうな。

 ずっとマナの後を付いて行っているんだが、何事もなく順調に進んでいる。

 特に変わった様子もなく、問題無く目的地へと近づいているはずだ。

 そう。文字通り順調に進んでいる。


 だがあまりにもスムーズ・・・・すぎる・・・


 こうも簡単に森の中を進めるものなんだろうか。

 例えるならば、迷路を進もうとした時に、あっさりゴールまで辿り着けたみたいな感じだ。

 それも複雑な道を行くのを覚悟したのに、ゴールまでの直通する真っ直ぐな一本道を進んでいるような感覚だ。


 踏みなれた〝けもの道〟を進んでいるという感じではない。明らかに作られた道・・・・・を辿っていっている。

 だが、人工的に作られた道……とはまた違っている。


 自然に出来た道なはずだけど、不自然なほど整っている。

 そんな矛盾した感覚が違和感の正体かもしれない。

 だがもう一つある。


「……妙だな」


 ヴィオレットも違和感に気付いたのか、そんなこと呟いた。


「どうしたんだ?」

「さっきから警戒はしているんだが、魔物の姿が全く見えん」


 そう。もう一つの違和感はこれだ。

 森に入ってから一度も魔物と遭遇しなかったのだ。

 それどころか、気配すら感じない。


「たしかに。全然見かけないな」

「だろう? 里に到着するまでに、何度か魔物に襲われる覚悟はしていたんだが……」

「もっと森の深くに生息してるんじゃない?」

「そうかもしれないが、ここまで気配を感じないというのはありえない」


 やはり正常ではないことには間違いないみたいだ。


「ま、まぁ別にいいんじゃない? 安全にいけるならそれに越したことはないでしょ」

「別に警戒を怠るつもりはないんだが、こうも危なげなく上手く行きすぎていると、私の存在意義が無くなるというか……」


 ヴィオレットは護衛として同行しているからな。

 出番が全くないというのも、それはそれで落ち着かないんだろう。


「そ、そんなことないって! ヴィオレットが一緒だと安心できるし! なぁギンコ!」

「そ、そうですよ! 一緒にいるとすごく安心できます!」

「す、すまない。変なこと言ってしまった。忘れてくれ……」

「お、おう」


 もしかすると、この不自然な現象はマナの仕業かもしれない。森に入る前に、変なこと言ってたしな。

 まぁいい。とりあえず今は前に進もう。

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