第79話:新たな同行者

 朝起きると、ベッドの横にはマナが立っていた。


「……どうした。プリン欲しいのか?」

「ん」

「あいよ。ちょっと待ってろ」


 もはや慣れた光景だ。

 どうやってここまで来たのかとか、なぜ俺の居場所が分かったのかとか気になることはあるけど、今さら驚いたりはしない。

 精霊ってのはそういう存在だと思うことにしたからだ。


 そういやフォルグの里に行くことになったキッカケは、マナから教えてもらったからなんだよな。

 もしかしたらもっと詳しい情報を知っているのかもしれない。

 一応、聞いてみるか。


「なぁマナ。フォルグの里ってどういう所なのか知っていたりするのか?」

「知ってる」


 ふむ。やはり知識はあるのか。

 ならマナから直接聞いた方がいいな。

 というか最初からそうしておけばよかったな。

 下手すりゃ誰よりも詳しいかもしれない。


「じゃあさ。ギンコが捨てられた原因は分かるか?」

「知らない」

「……マジで?」

「ん」


 ……あれ?

 何でも知ってると思ったけど、そうでもないらしいな。


「それなら……里までの道は分かるか?」

「ん」

「えっ。本当に知ってるのか?」

「知ってる」


 おお。これは心強い。

 案内役がいれば大助かりだ。


「じゃ、じゃあさ。そこまで案内頼めるか?」

「…………」

「……?」

「…………」


 どうしたんだ?

 ここでダンマリとはちょっと予想外。

 さすがにダメだったか?


「えーと……じゃあこれならどうだ? プリンやるから――」

「やる」

「……いいのか?」

「やる」


 即答だったな……

 さっきの沈黙は何だったんだ。


「そ、そうか。実は今日から行く予定なんだよ。マナもついてきてくれるか?」

「やる」

「お、おう。サンキューな」


 マナの気合がすごく入っている気がする。何とくなくだけど。

 とりあえず、これで道中の不安要素はグッっと低くなったわけだ。

 頼もしい同行者が増えたもんだ。


「ぷりん」

「おっとそうだった。まだ渡してなかったな。ちょい待ってね」


 マナにプリンを渡すと、ギンコも丁度起きてきた。


「ふぁぁぁ……おはよ~ごじゃいまふ……」

「ギンコも起きたか。喜べ。マナも手伝ってくれるみたいだぞ」

「ふぁい?」

「実はな……」


 さっき話したマナとのやり取りを話した。

 すると、ギンコもさすがにビックリしたみたいだ。


「ほ、本当ですか? マナさんもついてきてくれるんですか?」

「ああ。どうやら里までの道を把握してるらしい。これで安全にいけるかもしれん」

「あ、ありがとうございます!」

「ん」


 さて。

 あとはヴィオレットにも説明しないとな。

 これが一番面倒な気がしてきた。




 数分後。

 先ほど呼び出したヴィオレットが部屋の中に入ってきた。


「どうしたヤシロ。話があると聞いたんだ……が……」


 ヴィオレットが部屋に入るとすぐにマナの存在に気が付いたみたいだ。

 明らかに驚いている。


「ちょ、ちょっと待て。その子がなぜここに居るんだ……!?」

「あー、うん。そういう反応になるよね」

「い、いつの間に追いかけてきたんだ!? 全く気付かなったぞ!?」

「今から話すから。落ち着いてくれ」


 混乱しているヴィオレットをなだめ、マナが道案内してくれることを話した。


「ほ、本当にそんなことが出来るのか?」

「本人はそういってるぞ。なぁマナ?」

「やる」

「ほらな」

「にわかに信じがたいな……」


 さすがにすぐに信じられないか。

 無理もない。俺だってマナの正体を知らなったら、半信半疑だったろうしな。


「ええと、君はたしか……マナちゃんだったかな?」

「そう」

「道中は魔物が居るし、危険だと思うぞ? 本当についてくるのか?」

「やる」


 自信ありげなマナに対し、ヴィオレットは不安そうだ。


「な、なぁヤシロ。あの子は一体何者なんだ……? どう見ても普通の少女にしか見えないんだが……」

「んー……なんというか……」


 どう説明したらいいのやら。

 前に精霊だって話したのに、全く信じてくれなかったしな。


「まぁ……そのー……と、とにかく頼りになるやつなんだよ。マナが居ればスムーズに里にいけるかもしれないぞ?」

「し、しかしだな……」

「大丈夫だって。俺が保障する。あの凶暴なエルフから守ってくれたのはマナなんだからな」

「そ、そうなのか?」

「俺が直接見たからな」


 間違ってはいない。

 マナが居たからこそ何とかなったわけだしな。


「……なるほど。実力はあるみたいだな」


 そういって少し考えた後、マナの正面に立った。


「マナちゃん。今回は君のことを深く詮索しないでおく。だがこれだけは言わせてくれ」

「……?」

「決して無理はしないでほしい。途中で考えが変わって帰りたくなったらいつでも言ってくれ。私が責任を持って送ろう。咎めたりはしないから安心してほしい。信用してないわけじゃないが、やはり心配なんだ。いいな?」

「分かった」

「うむ。ならマナちゃんの同行を認めよう」


 よかった。

 これでとりあえずは納得してくれたかな。


「早速だが、そろそろ出発したいと思う。準備はいいか?」

「大丈夫。昨日のうちに終わらせていたから」

「私もいつでも行けます!」

「ん」

「よし。なら出発だ!」


 こうして俺たちは、宿を後にした。

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