第14話:村の特産品

 翌日。散歩がてら村を歩いている時だった。

 村のとある場所に人が集まっているのを発見。なにやら皆で話し合っているみたいだ。でもどうやらあまり景気のいい雰囲気じゃなさそうだ。

 気になったので近づいてみることにした。


「どうかしましたか?」

「おお、ヤシロさん」


 最初に反応したのは村長だ。


「この人は一体……?」

「見たことない顔ね?」


 他の人は怪訝けげんそうな感じで俺のことを見つめている。まぁ初めて会うんだからそんな態度になるのも無理ない。


「ああ、こちらはヤシロさんといってな、カミラを守ってくれた方なんじゃ」

「なんと……もしかして君が魔物を退治したという……」

「まぁ。けっこう勇気のある子なのね」


 どうやら魔物を追っ払った話も伝わっているらしいな。ちょっと照れくさいけど……

 そんな中、ヒゲの生えた40代ぐらいのおっさんが俺の前まで寄ってきた。


「君の噂は聞いているよ。カミラを守ってくれたんだってね。本当に感謝しているよ」

「い、いえ。あれは必死だったというか偶然というか……」

「しかしこんなに若いのによく魔物を相手にできたね。もしかして魔術師かい?」

「そ、そんなところです」

「やっぱり! いやぁすごいじゃないか。この歳で魔術師になるなんて」

「は、ははは……」


 そういや俺は魔術師という設定だったな。

 でも今さら普通の人間なんです! なんて言えるわけもなく、良心が痛む。

 と、とりあえず話題を変えないと!


「あ、あの! ところで皆さんは何の話をしていたんですか!?」

「あー……うん。これは村の問題でね。君が聞いてもつまらない話だよ」 


 うん? おっさんは突然暗い表情になっちゃったな。

 やはり何か困っているようだ。


「よろしければ話してくれませんか?」

「別にいいが……本当につまらない話だよ?」

「さすがに気になったんで。もしかしたら力になれるかもしれないし」

「そこまで言うなら……」


 そこへ村長が前に出てきた。


「ここはワシが話そう。実はな――」


 村長の話を要約すると、この村は王都ルーアラスの領土であり、そこに税金を払っているらしい。

 だけど最近では値上がり傾向にあり、税金を払えるかどうか不安になっているとのこと。

 このままだと村の存続も怪しくなるかもしれないらしい。


「――というわけなんじゃ」

「なるほど……」


 基本的にこの村では農業でやりくりしているとのこと。そういやカミラに初めて会ったときも農民っぽい格好をしていたっけ。


 しかし村の危機か……やはりどの世界も世知辛いもんだな。

 このままだとカミラも暮らせなくなってしまうかもしれない。ただでさえ1人でやりくりしているんだし、これ以上生活が苦しくなったら倒れてしまうかもな。

 ここはなんとかしてやりたいな。


 ……ん?

 たしか農業で生活してるのなら、もっと増やせばいいんじゃないか?


「ちょっと聞きたいんですけど、農業で生計を立てているんですよね? なら農地を増やしてみたらどうです?」

「そうしたいのは山々なんじゃが、これ以上増やすことは出来ないんじゃよ……」

「なぜです?」

「それはのぅ、あまり離れると〝魔よけの魔封石〟の範囲外になってしまうからじゃ」

「……? 言ってる意味がよくわかりませんが……」

「魔よけの魔封石があるからこそ、魔物に作物が荒らされずに済んでいるんじゃ……」

「……あっ!」


 そういうことか。

 つまり魔よけの魔封石のお陰で、この村周辺で農業ができるわけだ。でも効果範囲外で育てると魔物に荒らされてしまう。だから範囲内でしか育てることができないのか。

 農地を広げたくても広げられない理由はそこにあるわけか。限られた土地でしか栽培できないんだから、そりゃあ生活が苦しくなるに決まってる。


 うーむ。さすがにこのままにはしておけない。なんとか力になってあげたいな。

 でもどうすりゃいい? 

 俺に何ができる?

 いい方法は無いのか?


 馬車くるのは2日後、それまでになんとかしてやりたいな。

 何かいいアイディアはないもんか。

 この村を救ういい方法は……


 …………


 ……あっ。そうだ。


 カタログを呼び出しページをめくっていく。

 もしかしたらアレ・・もあるかもしれない……!

 ひたすらページをめくり続け――


「……! あった!」

「? なにがじゃ?」

「い、いえ。こっちの話です……」


 カタログは他の人には見えないんだったな。

 でもカタログはすごい。まさかこんなもの・・・・・まであるなんて思わなかった。品揃えは世界一だな。

 今はこの能力に感謝しないとな。これのお陰でピンチを救えるかもしれないからな。


「村長さん。もしかしたら何とかなるかもしれませんよ?」

「……!? それはどういうことじゃ!?」

「この村で余ってる農地ってありますか?」

「いくつか空いてる場所ならあるんじゃが、そこには新しく苗を植える予定なんじゃ」


 ほほう。それは丁度いい。


「オレの場所なら少し余ってるが……」


 手を上げて前に出てきたのは別の男だ。


「ならそこに案内してくれませんか?」

「いいけど……本当に少しだけしか余ってないぞ?」

「たぶんなんとかなります」

「はぁ……」


 農地が余っているという男と共に、村長含み数人連れてその場所へと向かうことにした。




 数分後、案内されて到着した場所は25メートルプールぐらいの大きさの畑だ。


「今はここしか余っていないんだ。他はまだ使っているからな」

「いや、十分です」


 うん。このくらいの広さがあればなんとかなりそうだ。


「それで……ここで何をするんじゃ?」

「その前に、まず穴を掘ってくれませんか?」

「穴? 掘ったところで一体何になるんだ?」

「後でわかります。今は俺を信じてください」

「わ、わかった……」


 3人の男が道具を持ってザクザクと穴を掘り始めた。

 それにしても随分と慣れた動きだ。農業をやっているだけあって何度もやったことがあるんだろうな。


「あ、そのくらいでいいです」

「これでいいのか?」


 掘った深さは40センチぐらいの穴だ。このくらいで十分なはずだ。


「んじゃいきますよ。少し離れててください」

「お、おう」


 カタログを呼び出してページをめくり、目的の品を選んだ。

 すると――


「おっと……」

「!? な、なんだ!? いきなり木が出てきたぞ!?」

「び、びっくりした……」


 そう。今購入したのは植木だ。

 この植木を植えるためにある程度深い穴が必要だったんだ。


「俺が木を支えているので根元を埋めてください」

「…………」

「あの……?」

「…………あ、ああ。わかった……」


 あまりにも衝撃的だったのか、皆は放心状態だったみたいだ。まぁその気持ちはわかるけどね。何もないところから突然木が出現したんだ。無理もない。

 皆の協力もあって無事に植木を植えることができた。


「ヤシロさん。この木はいったい何の木なんじゃ?」

「それは……この果物の木です」


 取り出したのは丸くて赤い果物。これもカタログで買ったやつだ。

 村長はそれを手に取り、興味津々な感じに見ている。


「これは、なんという果実なんじゃ?」

「あー……えっと、それはですね、〝リンゴ〟という果物です」

「ほほう。聞いた事のない名じゃな。それに初めて目にする果実じゃ……」


 へぇ。この世界にはリンゴは存在しないのか。てっきり似たような果実はあると思ってたんだけどな。

 でもこれはこれで好都合だ。


「とりあえずそれを一口食べてみてください。皮ごと食べれますよ」

「ふーむ。では頂くとしようかのぅ」


 村長はまじまじとリンゴを見つめたあと、ひとかじりした。


「………………ほう。これはなかなか美味じゃ!」

「そうなのか?」

「お、おれにも食わせてくれよ!」

「ちょ、ちょっと待ってね……」


 他の人も求めてきたのでカタログで同じやつを購入してから渡した。

 それぞれひとかじりした後、びっくりしたような表情になった。


「……うお。あめぇ!」

「確かにすごく甘いな。みずみずしくてシャキシャキしてるし、こんなに甘い果物は滅多に食えないぞ」

「な、なぁ。本当にこのリンゴとやらが実る木なのか?」

「本当ですよ」


 購入した植木は品種改良を重ね、とびっきり甘い実がなるやつを選んだからな。そりゃびっくりするほど美味しいリンゴが出来るに違いない。

 植木の値段も1個5千円もした。相場が分からないから高いのか安いのか知らないけどね。


「このリンゴの植木を何個か出しますので、他の場所にも穴掘ってくれませんか?」

「よ、よし。こんなうめぇ実ができるならがんばって掘るぞ!」

「お、おれも!」


 他の人もリンゴの美味しさに衝撃を受けたのか、すごくやる気になっている。


 そう。俺の考えた方法とはこれだ。

 土地が限られていて数が取れないのなら質を上げればいい。つまりここでしか手に入らない特産品を作ればいいんだ。そうすれば単価も上がって利益も増えるはずだ。これならば農地が少なくてもやっていけるはず。

 しかしタネや苗から育てると時間がかかる。だから既に2メートルほど成長している植木を購入したのだ。

 そんなことを考えていると何人か側まで寄ってきた。


「あ、あのさ。おれの所にもこのリンゴの木を植えてくれないか?」

「あっ! ずるいぞ! ワシの所にも1つぐらい欲しい!」

「だ、大丈夫ですって! 希望者の所には全員いく予定ですから!」

「本当か!? それは有り難い!」


 というかそうでもしないと暴動になりそうだしな。

 でもあれだ、全員がリンゴ畑というのも芸がないな。ふーむ……

 よし、ここは違うやつにしてみるか。


 他の場所にはブドウ、キウイ、ナス、トマトなど、それぞれ違うものを植えることにした。

 どれも品種改良を重ねて作られたブランドがあるやつだ。これなら他では真似できないとびっきりのが栽培できるはずだ。


 初めて見るもので育て方に不安があるということなので、カタログから育て方が載っている本を購入して渡そうとした。

 が、ここで予想外の問題に直面した。それは皆が本を見た時の出来事だった。


「なんだこりゃ? こんなの読めないぞ」

「ワシにも読めんのぅ。見たことのない文字じゃな」

「え? そうなんです?」

「何が書いてあるかさっぱりじゃ……」


 おかしいな。俺の言葉は通じるのに日本語が読めないだと……?

 これは一体どういうことだ?

 まさかこの世界だと違う文字なのか?


 そういや深く考えていなかったけど、この世界ではどういう言語が使われているんだろう。てっきり言葉が通じるから日本語でもいけると思ったんだけどな。

 うーむ……


 結局、本をそのまま渡しても意味がないので、俺が言葉で伝えてそれをみんなが書き記すという形式になった。書いているところを覗いてみたが、初めて見る文字体系だった。やはりこの世界独特の文字みたいだ。

 何年も農業をやっているだけあって、飲み込みがすごく早かった。あまりにも知識量が多いので逆に俺が聞く場面もあった。

 でもこれならしっかり育てることが出来そうだ。ひとまず安心かな。


 トレッセル村周辺は幸いにも土地に恵まれているらしく、農業をするには最適な場所らしい。ここなら無事に育てることが出来るだろう。

 念のため肥料や農業に便利な物を可能な限り購入し、村の倉庫に保管することになった。


「ここまでしてくださるとは、ヤシロさんには頭が上がらんわい。本当にありがとう。これで村は安泰じゃ」

「いやいや、俺は木を植えただけですって」

「しかし魔術師ってのはすげーんだな。木まで生やしてしまうなんてな」

「だよな。火や水などを生み出す魔術師ばかりだと思ってたからな」

「は、ははは……」


 本当は魔術師じゃなくてカタログから購入しただけなんだけどね。まぁ本当のこと言っても信じてもらえないだろうし、このまま魔術師という設定でいこう。




 植木や肥料を複数購入したせいで、1日に20万近く使ってしまった。そのせいでこの2日間は自分の物を購入する余裕が無かった。

 でも村の皆はすごく喜んでいたし、これはこれでよかったと思う。


 そしていよいよ明日は馬車がやってくる日だ。

 最初はこの村で馬車を待つだけの日々を過ごすと思っていたけど、意外とこんな生活も悪くなかった。周りは自然で景色がいいし、空気もうまい。都会生活に慣れきってるせいでそう感じるんだろうな。


 いっそのこと、これからもこの村で過ごすか?

 そんな考えもよぎったこともあった。


 しかし――


「あの、ヤシロさん。今日も一緒に寝ていいですか?」

「……ん? ああ。いいけど」

「やった!」


 俺の寝床にモゾモゾと入り込むカミラ。

 昨日も同じように一緒になりたがっていたんだよな。連日でカミラと一緒に寝ている。


「えへへ……おやすみなさい……」

「……お休み」


 やっぱり……カミラは……俺のことを――


 …………


 よし、決めた。


 抱きつかれながら目を閉じ、俺も寝ることにした。

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