第15話:決意、そして……

 今日はいよいよ馬車が到着する日だ。これで俺も町へいくことができる。

 前もってカタログから購入しておいた道具を次々とリュックサックに入れていく。もしかしたら出番のない道具もあるかもしれないけど、念のためそれらも入れておく。

 すぐに取り出したい道具は、腰に付けてあるウエストバッグに入れておくことにした。これで準備は出来たはずだ。

 あとは馬車がくるまで待つだけだ。


 そんなことをしているとカミラが近くまで寄って声をかけてきた。


「あの……本当に……ここを離れるんですか……?」

「うん。最初からそのつもりだったからね」


 カミラの声はどこか寂しそうだ。


「今までありがとねカミラちゃん。家に泊めてくれて助かったよ」

「い、いえ……こちらこそ色々助かりましたし……」


 本当にカミラには感謝している。

 俺みたいな初めて会う奴に対してこんなにも親切にしてくれたしな。この世界にきて最初に出会ったのがカミラでよかったと心から思う。


「馬車はどれぐらいで到着するの?」

「…………」

「カミラちゃん?」

「…………」


 あれ? 

 返事がない。どうしたんだ?


「おーい?」

「あの……!」

「うん? なに?」

「もう少しだけ……この家に居ませんか?」

「えっ……?」


 ……嫌な予感してきた。


「馬車は定期的に来ますし、町にいくのは次の機会にしませんか?」

「えっと……」

「いえ、これからもずっと私と一緒に暮らしませんか!?」

「……っ!?」


 これは……まさか……


「お願い……どこにも行かないで……」

「カミラちゃん……」

「もう……1人は嫌だよぅ……」


 ……やはりこうなったか。

 ここには長居しすぎた。一緒に寝ようと言い出した時からこんな展開になるかもしれないとは思ってはいたんだけど……本当にこうなるとはな。


 カミラは数年前に両親を亡くしている。表面上では元気に振舞っていたけど、やはり寂しいんだろう。


「ごめん。俺はここを出るよ」

「……!? どうしてですか!? ここに居てはダメなんですか!? 私に不満でもあるんですか!? 何で出て行っちゃうんですか!?」

「カミラちゃん……」

「悪いところは直します! だから――」


俺は父親の・・・・・・代わりじゃな・・・・・・


「……ッ!?」


 この反応……やはりそうだったか。

 村長から話を聞いた時にもしかしたらと思っていたけど……本当にそうだったとはな。

 カミラは本当に父親の面影を俺と重ねていたんだろう。親が居ない寂しさを俺で紛らわそうとしたのかもしれない。だからやたら懐いていたんだ。

 たしか父親も魔術師と言ってたな。そして俺のことも魔術師だと信じている。だからこそ余計に父親のことを彷彿ほうふつとさせてしまったんだろう。


「やっぱり俺は旅立つよ」

「…………」

「大丈夫だって。二度と会えないってわけじゃないんだし、またこの村に来るよ」


 このトレッセル村は本当にいい村だ。余所者である俺のことも受け入れてくれたし、またいつか来たいと思ってしまう。だからいつかまたこの村に立ち寄りたい。


「それにさ、カミラちゃんは1人じゃないよ」

「……?」

「村長さんだってカミラちゃんのこと心配してたよ?」

「ヨルゲンさんが……私のことを……?」

「うん。だからさ、もっと皆を頼っていいと思うんだ」


 この子は何でも自分1人で背負ってしまう節がある。他人を頼らず自分の力だけで生き抜こうとする意思を感じる。

 恐らく両親を亡くした日から、そういう生き方をしようと決めたんだと思う。

 でもこんな生活を続けていると、いつか潰れてしまう。子供が1人で何でもこなすなんて無茶だ。絶対どこかで無理がたたる。


 そんなところに俺という予想外の人物が現れてから、つい甘えるようになっちゃったんだろう。心のより所が欲しかったんだと思う。

 でも一緒にいたらカミラは俺に依存・・・・してしまう・・・・・だろう。そうなってしまうとこの子はダメになってしまう。それだけは避けなければ。


「そう、ですよね……」

「村の皆もいるし、俺がいなくても大丈夫だって」

「……ごめんなさい。いつまでもヤシロさんに頼るわけにはいきませんもんね」


 さっきまで暗い顔をしていたのに、今はスッキリしたような明るい表情になっている。


「もう大丈夫です。確かに他の方にも頼るべきですよね」

「きっと力になってくれるよ」

「次に会えるまでにヤシロさんから頂いた植木の数々、それらを立派に育ててみせます!」

「うん、楽しみにしてるよ」

「はい! 次に会えるまでにたくさん収穫できるようにがんばります!」


 本当に強い子だ。これなら俺が居なくなっても大丈夫だろう。

 馬車が到着するまでの間、カミラとずっと会話をして楽しんだ。




 村の人に呼び出され、カミラと一緒に馬車がいる所まで案内してもらうことになった。

 馬車の近くには村長含め、村の人たちが集まっていた。


「いやぁ、本当にヤシロ君には世話になったよ」

「またいつでも来てね」

「あんたから貰った植木はおれが立派に育ててみせるからよ、次会ったときに楽しみにしてくれよ!」


 村の人たちは俺に向かって感謝の言葉を送っているが、なんとなく気恥ずかしいので軽く手を振りながら馬車へと急いだ。


 馬車の前には村長と知らない青年の男が立っていた。

 そこに近づくと、俺に気付いた村長が話しかけてきた。


「おお、ヤシロさん。待っておりましたぞ。話はつけてあるから、このまま乗っていいそうじゃ」

「あ、ありがとうございます」


 そのまま馬車に乗ろうとした時、村長の隣に居た男が興味津々な感じでこっちを見つめていることに気付く。


「ふむ。君が村の救世主かね?」

「へ? 救世主?」

「なんでもトレッセル村を救ったそうじゃないか」

「えっと……」

「おっと失礼。僕は〝レオナール〟という。王都ルーアラスまでの短い旅だがよろしく頼む」

「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」


 話を聞くと、このレオナールという男はトレッセル村を定期的に訪れているらしい。村に異常がないか視察するのが目的とのこと。

 たぶん王都ルーアラスの使者みたいな存在なんだろうな。村の人と違って身なりが違う。なんというか貴族っぽい格好をしているし、それなり地位がある人なんだろうと思う。


「あの……救世主というのは……?」

「ヨルゲン殿から話は聞いたが、村の危機を救ったそうじゃないか。まだ若いのに素晴らしい功績じゃないか」

「は、はぁ……」


 俺がやったのは植木を出したぐらいなんだけどな。結局育てるのは村の人だし、救世主というのは大げさな気がする。


「おっと、詳しい話は後でゆっくり聞くとしよう。とりあえず馬車に乗りたまえ。すぐに出発する」

「わ、分かりました」


 言われて馬車に乗り込もうとし――


「ヤシロさん!」

「……?」


 今の声は……カミラちゃんか。


「一緒に居てすごく楽しかったです! 今までありがとうございました! また来てくださいね!」

「……ああ。いつかきっと来るよ!」


 お互いに大きく手を振った後、馬車の中へと乗り込んだ。

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