第13話:予想外の仕様

 翌朝。起きてからすぐにカタログを呼び出して金額を確認した。


「……よっしゃ!」


 やはり仮説は間違っていなかった。

 カタログに表示されている金額は『100,000』になっている。つまりいくら消費しようが、1日経てばリセットされるということだ。

 これは嬉しい仕様だ。毎日10万円使えるとかニートにふさわしい能力ではないか!


 さっそく散財してやるぜ!

 ……と言いたいところだが、しばらくは節約していこうと思う。なぜなら色々と買い揃えたいからだ。

 毎日10万円使えるのは便利だけど、逆に言えば1日10万円までしか使えないということになる。なので今のうちに用意できる物は用意してしておきたいのだ。

 消費してしまうと途中でチャージとか出来ない仕様みたいだしな。


 カタログのページをめくり、目ぼしい物を探していく。


「……よし、これにしよう」


 今購入したのは大型のリュックサックだ。

 軽量と丈夫さを兼ね備え、さらに完全防水仕様だ。お値段なんと3万円。

 買った物をこれに入れる予定なので、これを最初に購入した。


 あと欲しいのは…………これだな。

 次に購入したのは腰につけるウエストバッグだ。

 これも非常に耐久性が高く、軽量で防水仕様になっている。お値段2万円也。

 使用頻度が高い物は、すぐに取り出せるようにこれにしまう予定だ。


 んーと……他には……これにしよう。

 次に選んだのはサバイバルナイフだ。

 何が起こるか分からないし、こういうのも持っておきたい。お値段2万円。


 今買った3個だけで既に7万円消費してしまっている。やはりいい物を揃えようとしたら高額になってしまうな。

 とりえあずここまでにしとこう。今日は何が起こるか分からんからな。だからある程度は残しておきたい。

 また明日も買い揃えよう。馬車がくるまでの8日間で準備を済ませておくつもりだ。


 ふとカミラのほうを見ると、不審な目でこっちを見ていた。


「な、なんか物が増えてません……?」

「ま、まぁ色々あってね。馬車が来るまでの間に揃えておきたいんだ」

「は、はぁ……」


 カミラにしてみればさぞかし奇怪な光景なんだろうな。


「とりあえず朝食にしようぜ」

「そ、そうですね」


 今日の朝食は昨日釣った魚で、けっこう美味しかった。




 翌朝。

 今日も色々買い揃えようとしてカタログを呼び出したが――


「なん……だと……」


 そこに表示されている金額を見て思わず声が出る。


 おかしい。

 どういうことだ……?

 なぜこうなった……?

 これは一体何が起こった……?


 カタログに表示している金額は目を疑うものだった。


 どれだけ消費しようが、1日経てばリセットされて『100,000』に戻る。

 そう思っていた。


 俺の考えた仮説は合っていたはずだ。

 その証拠に一昨日は5万円以上消費したのにも関わらず、次の日には『100,000』に戻っていたからな。


 だから毎日リセットされる仕様だと思っていた。


 けれども目の前に表示されている数字は――




『200,000』




 明らかに増えている。

 目の錯覚かと思ったが、何度見直しても同じだった。


 なぜ増えているんだ?

 リセットしたら『100,000』に戻るんじゃないのか?

 俺の仮説は間違っていたのか……?


 意味が分からない。

 ……いや、もしかして何らかの表示ミスかもしれない。


 そう思い試しにコカ○ーラを購入した。

 すると――


「……減ってる」


 購入したのは500mlのペットボトルに入ったタイプだ。値段は150円。

 そして現在表示されている金額は『199,850』になっていた。

 ということは、本当に20万円使えるということになる。


「まじかよ……」


 原因はなんだ?

 なぜ突然増えたんだ?

 俺なにかしたっけ?

 う~ん……分からん……


 でもこれは重大な発見かもしれない。

 カタログはずっと上限が10万円だと思っていた。しかしまさか上限を増やせとはな。

 おかしいとは思っていたんだ。カタログには10万円以上する商品も表示されていたから、どうやって買うか悩んでたんだよな。明らかに買えないのになぜか表示されてたからな。

 でも上限を増やす手段があるなら話は別だ。これなら選択の幅も大きく広がる。


 まぁいい。とりあえず上限が増えたことに喜ぼう。今は必要物資をできるだけ買い集めることが先決だ。




 そしてひたすらカタログから欲しいものを買い集めることにした。

 20万円も使えることで買える品物が一気に増えた。その中から予算内で高すぎず、安すぎない物をひたすら選んだ。安物だとイザという時に壊れたりするからな。


 最初は物が増える度にカミラが驚いていたがもう慣れたらしく、「それは何に使うんです?」と気軽に話しかけられるようになった。




 そんなこんなであっという間に7日が過ぎ、馬車がくる日がせまってきた。

 町に行けば俺の快適なニートライフが待っているんだ。そう思うとワクワクしてなかなか寝付けない。まるでピクニック前日に興奮した子供の気分だ。


 さーて町についたらまずどうしようかなー?

 まずは住む家を買わないとなぁ。

 そのためにはまず――


「あの、ヤシロさん……ちょっといいですか?」

「……えっ? な、なんだい?」


 寝床で考え事をしていたらいきなり話しかけられた。

 というかこんなタイミングでくるなんて初めてのことだ。


「…………」

「カミラちゃん……?」


 薄暗くてよく見えないけど、寂しそうな表情をしている気がする。


「そのぅ……ヤシロさんと……一緒に……寝ていいですか……?」

「はいぃぃ?」


 いきなりどうしたんだ……?

 唐突すぎるぞ。


「えっと、それは……一体どういう――」

「ダメ……ですか……?」

「……!」


 その声は明らかに元気が無く、落ち込んでいるようにも感じた。

 さすがにこんな態度で頼まれたら断り難いな……

 まぁいいか。この家に居るのも残りわずかだしな。


「分かったよ。」

「……! はいっ!」


 カミラはそのまま俺のところまで寄ってきた。

 そして隣で寝転がると――


「ちょ……カ、カミラちゃん!?」

「えへへ……あったかーい」


 まさか抱きつかれるとは思わなかった。


「おやすみなさーい……」

「あ、ああ……おやすみ」


 えっ。このまま寝るの?

 さすがにまずいと思い離れようとするが、嬉しそうに目を閉じてる顔を見るとためらってしまった。

 そして数分も経たない内に可愛い寝息が聞こえてきた。


 …………


 やっぱり……


 このままじゃ駄目だ――

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