第12話:村の魔封石

 村中を散歩しようと外へ出たのはいいが、なぜかまた大きな岩の前まで来ていた。特に理由があるわけではない。ここにいると落ち着く気がするのだ。

 たしかこの岩って魔封石なんだよな。よくわからんけど村を守る存在とか言ってたっけ。


「おや、ヤシロさん。またここで会うなんて奇遇ですな」

「あ、どうも……」


 いつの間にか村長が遠くから見ていた。

 昨日と同じくゆっくりと近づいて俺の隣までやってきた。


「何かありましたかな?」

「……分かるんです?」

「悩んでいるような表情をしておるからの。ちょっと気になったんじゃよ」


 長年の勘というやつだろうか。


「こんな年寄りでよければ話し相手になりますぞ?」

「いえ、悩んでたというより後悔してるんです」

「ほほう? 後悔とな」

「実は――」


 さっきあった出来事を話すことにした。もしかしたらさっさと話して楽になりたかったのかもしれない。


「――というわけなんです」

「なんと……そんなことが……」


 さすがに驚いているようだ。


「やっぱり俺が悪いですよね。一歩間違えれば死んでたかもしれないし――」

「いや、ワシの不注意が原因じゃ……」

「へ?」


 どいうことだ? なんで村長が原因なんだ?

 そういえば……カミラは、村長から忠告を聞いたとか言ってたな。たぶんそのことか?


「もしかして、俺たちがいた場所に魔物が出現するって分かってたんですか?」

「分かってた……というより可能性があったと言ったほうが正しいのぅ」

「どういうことです?」

「ヤシロさんがいた付近では、魔物の姿は一度も見たこと無いということじゃ。だから油断しとったんじゃよ」


 なるほどね。そういう理由だったのか。


 あれ。そういや不思議に思ってたんだけど、この村は大丈夫なのか?

 魔物という脅威があるにも関わらず、何でこの村は平然と暮らしているんだ?

 突然、魔物に襲撃されたりしないのか?

 いい機会だから聞いてみるか。


「1つ疑問なんですけど、この村って魔物に襲われたりしないんです?」

「それはな、この魔封石のお陰なんじゃ」


 そう言って目の前の大きな岩――もとい、魔封石を指差した。


「この魔封石は〝魔よけの魔封石〟なんじゃ」

「魔よけの魔封石……? もしかして魔物が寄り付かないとか?」

「左様。これがあるお陰でトレッセル村は、魔物から脅える事なく安心して暮らせるんじゃよ」


 そういうことか。だからこの村周辺には魔物が居ないのか。


「けれども魔よけの魔封石も万能ではない。離れれば離れるほど効果も薄くなってしまうのじゃ」


 ああ、それでか。この魔封石がなぜ村の中心に存在しているのかがようやく分かった。

 遠すぎると恩恵を受けれなくなるから、なるべく魔封石の近くに住んでいるということだろうな。その結果、まるで魔封石を囲うような配置になったというわけか。


「川の付近までは魔物が寄ってないことは分かっておった。しかしそれ以上はどのくらいまで離れたら、魔よけの魔封石の範囲外になるのか不明だったんじゃよ」

「なるほど。先ほど『可能性があった』と言ってたのはそういうことなんですね」

「その通りじゃ」


 いつもカミラが洗濯する付近の川が安全なのは分かってたけど、上流まで行くと離れすぎるかもしれないからこそ念のため忠告していた……ということなんだろうな。

 まぁ実際に確かめるのも命がけだもんな。安全かどうか知るだけなのにそこまで危険なことは出来ないだろうしね。


「しかし今のでハッキリした。これは重大な事実じゃな。上流付近は危ないということはすぐにでも村の皆に知らせておこう」

「それがいいですね」

「それとヤシロさん」

「はい?」


 村長がかしこまった態度で俺に振り向いた。


「このような大事なことを教えてくれて感謝じゃ。なんとお礼を言ったらいいか……」

「いえいえ。元はといえば俺の不注意が原因ですから大したことでは――」

「それと……カミラを守ってくれて、本当にありがとう……!」

「……っ!」


 この言葉はすごく感情がこもっていた気がする。その雰囲気にのまれて思わず黙ってしまった。


「もし……ヤシロさんが居なかったら今頃カミラは――」

「で、ですから! 俺が原因で危険を招いたようなもんですから! 頭を上げてくださいよ!」

「それでもじゃ。あなたが守ってくれた事実は変わらぬ。それにしっかり警告しなかったワシの責任でもある」

「で、でも……」

「もしかしたら知らずに行った人が犠牲になっていたかもしれぬ。そういうことじゃから自分をあまり責めないでくだされ。ヤシロさんが気に病むことはない」

「………………はい」


 フォローしてくれるのは嬉しいけど、マッチポンプみたいで素直に喜べないな……


「では、ワシはこのことを村中に知らせにいくかのぅ。カミラのことは頼みましたぞ」

「はい……」


 村長はゆっくりと歩き出し、この場から去って行った。

 俺がカミラの家に向かったのは、1時間ほど後になってからだった。




 家に着いて中に入ると、カミラは台所で作業をしていた。


「なにしてるの?」

「あ、お帰りなさい。これはですね、今日釣ったお魚を干すことにしたんですよ」

「へぇ~」


 なるほどなぁ。ああやって魚を開いて干すことで、ちょっとした保存食にするつもりなんだろう。

 今日持って帰った魚は全部で7匹。たしかにこの量は1日で食いきれないだろうしな。2~3日はおかずに困らなそうだ。


 ついでに夕飯を作るらしく、カミラはかまどの近くで火を起こそうとしている。

 ……そうだ!


「カミラちゃんちょっと待って」

「はい?」

「試したいことがあるから竈を借りていい?」

「いいですけど……何をするんです?」


 俺が試したいこと――それは今日買った改造レーザーポインターのことだ。

 せっかく手に入れたんだから、ついでにどれぐらい威力があるのか実験してみたかったんだよな。


 竈まで接近し、あらかじめ購入していたマッチ棒を薪の近くに置いた。

 そしてレーザーポインターでマッチ棒の先端を照射した。


「……? 何か光ってます……?」


 照射してから3秒ほど経つと――


「おっ、発火した」

「!?!?!?」


 すげぇなこれ。わずか2~3秒で火がつくのか。

 こんなレーザー光が目に入ったら一瞬で失明するだろうな。今日出会った魔物も一目散に逃げ出したのもうなずける。さすがに危ない。

 これは3万円以上したからな。やはり威力もその分やばいことになっている。


「な、ななななななんでいきなり火がついたんですか!?!?」

「おっと、邪魔してゴメンね。火はついたから後はよろしく」

「あのっ! 今のはどうやったんですか!? なんで突然火が――」


 説明するのが面倒くさいのでその場から逃げる事にした。

 その後、不思議そうに火を眺め続けるカミラであった。




 夜になり、既に寝床についている。目を閉じながらカタログについて色々考えていた。

 カタログは本当に便利な能力だ。まさか改造レーザーポインターなんて物まで買えるなんて思いもしなかった。もしかしたら地球で買える物はほぼ全て買えるかもしれない。


 しかしこの世界には魔物なんての存在するとはさすがに驚いた。カタログが無ければ今頃お陀仏だろう。

 明日になったらカタログの所持金もリセットされているだろうし、色々な物を買い集めておくか。いざという時にすぐに取り出せるようにしないとな。いちいちカタログを呼び出してあれこれ選んでたら間に合わない場面も出てくるだろうしな。


 よし決めた。町に行ったら安全な場所で引き篭もって暮らそう。

 そして働くことなくダラダラと暮らしたい。カタログがあればそれも可能だろう。

 地球にいた頃はひたすら働いてからな。ならばこの世界ではニートになってやる。


 目指せ! 快適なニート生活!

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