第36話:販売方法
商業ギルドを出てから歩き続けて露店エリアに到着。
首から下げてる販売許可証をなんとなく見てみると『52』という数字が表記してあった。この数字は何だろうと思っていたけど、どうやら露店の数みたいだ。パッっと見た感じ、露店の数も50くらいあったからそう思った。
つまりは俺は52軒目ということになる。多いのか少ないのかは分からんけど、今日は50以上の露店が立ち並んでいるわけだ。確かにこれだけの数を1つ1つチェックするのは大変だろうな。
そんなどうでもいいことを考えつつ、空いているスペースを探しつつ歩き回る。
ん~と……どこかいい場所はないものか……
「おっ、あそこが空いてるな。あの場所で商売しようか」
「分かりました。でも……」
「ん? どうした?」
「入り口からだいぶ離れちゃいましたけど、大丈夫でしょうか? お客さんがここまで来るかどうか心配で……」
「まぁ仕方ない。出入り口付近は競争率が激しそうだからな」
さすがに朝早く起きて場所を確保するのは辛い。ぶっちゃけそこまでして必死に売りたいわけじゃないしな。
ギンコと一緒に空いてるスペースに到着し、リュックサックから一通りの荷物を出した。
昨日と同じようにシートを敷き、土台の上にビーチパラソルを設置。あとは看板を置けば完成だ。
看板に書く文字はギンコに代筆してもらうことにした。本来ならば商業ギルドにいた受付嬢に頼もうかと思ったけど、ギンコが文字を書けると分かったのでその必要は無くなったわけだ。
ギンコが書いた文字を見てみるとこんな感じになっていた。
ਲੂਣ ਵੱਡਾ1
ਚਾਕੂ ਸੋਨਾ2
ਸਾਬਣ ਵੱਡਾ5
……うん。全然読めん。さっぱり分からん。これは覚えるのに時間が掛かりそうだ。
とありえず看板はこれでよし。あとは商品を並べるだけだ。
さて。今日はどれぐらい売れるかな……?
「暇だ……」
「ですねー……」
…………う、売れない。
あれから1時間ぐらい経過したが、昨日と同じく1個も売れなかった。
露店ってのはこんなものなのか? それとも値段が間違ってるのか?
ナイフが金貨2枚(約20万円)で売れないのは分かる。でも塩は大銅貨1枚(約千円)だから1個ぐらいは売れてもいいはずだ。
これはさすがにおかしい。何かが間違っているとしか思えん。
……ふむ。ちょっと考え直してみるか。
「ギンコ。しばらく1人で店番しててくれないか」
「え? わ、私がですか?」
「ちょっと調べてみたいことがあるんだ」
「で、でも……」
他の店ではどんな感じで売れているのか視察してみようと思ったのだ。もしかしたらなにかヒントが見つかるかもしれないし。
「大丈夫だって。すぐ戻るから」
「わ、分かりました……」
ここには露店が沢山存在しているからな。そこまで時間はかからないはずだ。
立ち上がってから自分の店から離れる事にした。
「そういうことか……」
俺の店だけ客が来なかった原因がやっと分かった。やはり調べてみて正解だったな。
他でもいくつかの店で塩は売っていたが、基本的は大きな容器に入れて野ざらし状態で販売していたのだ。
けど俺の場合は、量ごとに分けて革袋に入れて店頭に置いていた。中身が見えない状態だったわけだ。
ついでにもう1つ発見したことがある。それは他の店で販売している塩の質が違っていたのだ。
粒が不揃いで大きめだったり、濁ったような色をしていたり、ゴミみたいな物が混ざっていたり……といった感じで、白くて綺麗なサラサラの塩は全く見かけなかった。昨日俺の店で買い占めたおっさんが言ったのはこういうことだったのか。
まさかこんなにも違いが出るとは思わなかった。たかが塩だと侮っていたな。
つまりだ。俺の今やっている販売方法だと、中身が見えないから他の塩と比較することが出来ないというわけだ。道理で売れないはずだよ。
「馬鹿か俺は……」
なんでこんなことに気付かなかったんだ……
都会では野ざらしで塩を販売している店とか見なかったからな。どこも何かしらの小さな容器に入れて密封した状態で置いてあるのが普通だった。だから同じように小分けして販売するのが当たり前だと思ってた。
このままじゃ駄目だ。早急にやり方を変えなければ。
物影でカタログからある物を2つ購入し、ギンコの元へと戻っていった。
自分の店に近づくと、ギンコが1人で店番しているのが見えてきた。
「あ、お帰りなさい。どうでした?」
「やっぱり見てきて正解だったよ。収穫はあった」
「それはよかったですね。あれ? 何を持っているんですか?」
手に持っている大きな桶と計量カップを見て、不思議そうに見つめてくるギンコ。
「ああ、ちょっと売り方変えようと思ってね」
桶をシートの上に置き、その中に革袋に入れてある塩を次々と入れていった。
ついでにストックしてある塩も入れてしまうか。
「それは……何をしているんです?」
「塩はこの桶に入れた状態で販売しようと思ってね。これなら判断しやすいだろうし」
今までは革袋に入れた状態で販売していたが、これからは桶に入れた状態で店頭に置こうと思ったのだ。そんで客が買う時に計量カップですくい、革袋に入れるという方法にするつもりだ。
計量カップは丁度300g入る大きさだ。これなら簡単に量を測れるからな。実際に目の前で入れていくんだから、客にとっても安心できるはずだ。
「こんなもんかな」
「意外と多いんですね」
ちょっと入れすぎたかな?
まぁいいや。とりあえずしばらくこの状態を様子を見よう。
それから10分くらい経った後、1人の男が寄ってきた。
「ちょっといいかな?」
「はい。なんでしょう」
「ここの塩は、大銅貨1枚でどれぐらい買えるんだ?」
「この入れ物が一杯分で大銅貨1枚になります」
近くに置いてあった計量カップを見せつけ、実際に塩をすくってみせた。
「ふーむ……」
お? これはもしかしていけるか?
「……では大銅貨2枚分いただこうか」
「! は、はい!」
やったぜ。やっぱり塩は売れるじゃないか。
なるほど。売り方を変えただけでこうも違うのか。これは教訓になったな。
男の人が立ち去った後、今度は女の人が近づいてきた。
「あら。昨日隣に居た子じゃない」
「へ?」
この人は確か、看板に文字を書いてくれた人だ。
まさかまた出会えるとはな。
「あ、どうも……」
「今日もお手伝いかしら? 偉いわね~」
「は、はは……」
相変わらず勘違いしているみたいだけど、今さら説明するのは面倒だからこのままでいいや。
「ふ~ん。なかなかいいお塩じゃない」
「そ、そうですかね?」
「ここまで上質なものは殆ど見かけないはずよ」
やっぱりそうなのか。こういう塩は手に入り難いんだな。
「せっかくだし、私も買っていこうかしら」
「それなら、特別に多く入れときますよ」
「ええっ!? いいのかしら?」
「昨日はお世話になりましたからね。これくらいサービスしますよ」
「そういうことなら……頂こうかしら」
女の人は大銅貨2枚を差し出してきた。
通常ならば計量カップ2杯分の値段だけど今回はおまけでもう1杯追加し、計3杯分の塩を入れて渡した。
「ふふっ。ありがとうね」
「いえいえ」
「じゃあ私はこれで失礼するわね」
「はい。ありがとうございました」
よしよし。順調に売れているな。この調子なら完売も期待できる。このまま頑張ろう。
その後も客は入り続け、塩はどんどん売れていった。
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