第19話:無一文

 一夜明けて軽く食事を取った後、出発することにした。

 王都ルーアラスへ行くには途中で村に立ち寄り、そこで一泊してから一日かけて到着するみたいだ。つまり再び野営する必要があるってことだ。

 正直言って馬車の中だと寝心地悪いし、あまり野営はしたくないんだよな。でもそんなことは言ってられない。王都につけば待望のスローライフ生活が待っているんだからこのくらいは我慢我慢。


 ゲー○ボーイで暇つぶしをしつつ馬車で揺られること数時間後、一泊予定の村へと到着した。

 ここの村はトレッセル村に比べると人が多く、活気で溢れていた。村というより小さな町に近いかもしれない。王都に最寄なせいか人も多いみたいだ。

 そんなどうでもいいことを考えつつも、この村で一泊することになった。


 が、ここで問題発生。


 村で一泊するにはどこかの宿にいかなかくてはならない。けれども宿に泊まるには金が必要になる。


 つまり――


「なに? 一銭も持ってないだと……?」

「はい……」


 そう。今の俺は無一文状態なのだ。

 さすがにこればかりはカタログで手に入らなかった。まぁカタログは地球の商品を対象にしているから当然と言えば当然なんだけど……

 いくらカタログで物が手に入るとはいえ、この世界の金銭はどうにもならない。


 しかしこれは困ったぞ。カタログで欲しい物がほとんど手に入ったせいか、金銭のことは後回しにしてたんだよな。そのせいですっかり頭から抜け落ちていた。なんという失態。


「まさか一銭も無いとはな。お前は今までどうやって生きてきたんだ?」

「えーっと……」


 ヴィオレットが呆れたような表情でこっちを睨んできている。

 さすがにこればかりは話すわけにはいかない。『実は別の世界から来ました!』なーんて信じるわけがないだろうしなぁ。


「というかカネも持ってないのに、どうして王都に行こうと思ったんだ? まさか一稼ぎしようとでも思ったのか?」

「ま、まぁ……そんなところかな」

「あのなぁ……いくら珍しい物を持っているとはいえ、無一文でやっていけるほど甘くないぞ?」


 だろうなぁ。

 カタログという便利な能力があるせいで、少し調子に乗っていたみたいだ。さすがに気を引き締めないと駄目だな。


 ………………


「少しは出来る奴だとは思っていたが……やはりまだまだ子供か……」


 そういや今の俺は12~14歳ぐらいの見た目なんだっけ。


「しょうがない。ここは私がヤシロの分まで払ってやろう」

「え? い、いいの?」

「昨晩ご馳走になった礼みたいなもんだ。けど今回だけだぞ?」

「あ、ありがとうございます」


 よかった。ヴィオレットが良い人で本当によかった。この人が居なかったら、村にいるのに野宿する羽目になるところだった。


「そ、それとだな……ヤシロに1つ頼みたいことがあるんだが……」

「頼みたいこと? 一体なにを?」

「明日の野営時に……その……期待してもいいのか?」

「はい?」


 うん?

 言ってる意味がよく分からない。何を期待されているんだ?


「あれだ……その……〝カンヅメ〟というやつだ」

「……ああ。缶詰のことね。それが何か?」

「えっとだな……で、出来ればでいいんだが……その……」


 なんだろう。ハッキリしないなぁ。


「す、少しでいいから分けてくれると……やる気が出るというか……士気が上がるというか……そのぅ……」

「もしかして、缶詰を明日の夜に食べたいってこと?」

「う、うむ。分かりやすく言うとそんな感じだ」


 分かりやすくも何も、最初から食べたいって言えばいいのになぁ……

 どうしてそんなに回りくどい言い方をするんだろう。


「ああ、うん。そういうことね」

「ど、どうだ?」

「いいよ。まだまだ残ってるし、明日はヴィオレットさんも分も用意しとくね」

「ほ、本当か!? や、やったぁ――」


 と、言いかけていきなり笑顔が固まるヴィオレット。

 そして我に返ったのようにゴホンとセキをした。


「う、うむ。では楽しみにしておくぞ」


 そう言い残し、この場から離れていった。


 なんというかすごく喜んでた気がする。そんなに美味しかったのかな。というか今までどんな食事をしてたんだろう。

 まぁいいや。あんなに楽しみにしてくれるなら悪い気はしないしな。どっちみち宿代出して貰えたんだし、このくらいなら安いもんだ。


「どうした? 早く宿に入らないのか?」


 おっと、待たせたままだった。さっさと行かないとな。

 駆け足でヴィオレットの元へと急ぐことにした。


 ちなみにレオナールとおっさんは別行動をしていてこの場にはいない。どっちもこの村でやることがあるみたいだ。

 明日になったら馬車の所まで合流することになっている。


 俺も明日に備えて準備しないとな。

 そう思い、宿の部屋で1人っきりになってからカタログを出現させた。

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