第18話:魔術師の実力
食事も終えて一段落し、皆は各々くつろいでいる。
さっき食べた缶詰がよっぽど美味しかったのか、満足気な表情だ。
「さて、眠くなってきたしそろそろ寝るとするかな」
「オラも寝ることにするべ」
レオナールとおっさんはいそいそと馬車の中へと入っていった。
「もしかして俺の寝る場所も馬車の中なの?」
「別に外で寝ても構わんぞ。オススメはしないがな」
「い、いや。馬車で寝ることにするよ」
なるほど。この世界だとテントすらないから、野営だと馬車で寝るのが手っ取り早いのか。
んじゃ俺も寝ることにするか。そう思い馬車に向かうが、ヴィオレットが焚き火の前から動こうとしないことに気付く。
「あれ? ヴィオレットさんは寝ないの?」
「ん? ああ。私は護衛だからな。こうして外で見張りをすることになっているんだ」
そっか。護衛だから見張りの役目も担うことになっているのか。大変だなぁ。
「もしかして一晩中起きてるの?」
「当然だ。でなければ見張りの意味が無い」
「だ、大丈夫なの?」
「このくらいならもう慣れたさ。2、3日は寝なくても動ける程度には鍛えてあるからな。だから安心してくれ」
すげぇな。見張りってのは交代でやるものだと思ってたんだけどな。
まさか1人で引き受けてしまうなんて大したもんだ。
「ご苦労様です」
「これも護衛の仕事だからな。気にするな」
そういうことならここはヴィオレットに任せよう。
俺もそろそろ寝るかな。
アクビをしながら馬車へと向かおうとするが――
「――!? おいヤシロ! 急いで馬車の中に入れっ!」
「へっ? 突然どうしたの?」
「いいから!」
な、なんだよいきなり叫んだりして。意味分からんぞ。
突然ヴィオレットが険しい表情になって、森がある方向を睨むように見つめている。
「あの……一体何があったの?」
「魔物だ」
俺の言葉に振り向きもせずそう答えた。
魔物といえば以前に一度だけ見たことあるけど……まさか近くに現れたのか?
やべぇな。たしか魔物って、凶暴で人を容赦なく襲うみたいなことをカミラから聞いたぞ。
前に遭遇した時は運よく追い払うことは出来たけど……今回も上手くいくとは限らない。
「ど、どうした!?」
「何かあっただか!?」
異変に気付いたのか、馬車の中にいた2人も顔を出している。
「近くに魔物がいるみたいだ。お前達はそこにいろ」
「なっ――」
「ひ、ひぇぇ。おっかねぇ……」
「安心しろ。この私が居る限り手出しはさせんさ」
そう言いつつヴィオレットは、森の方角を凝視したまま構えている。
俺たちは身構えたまま静かにその様子を見守り、未知の魔物に対して緊張感が高まっていた。
と、その時。
木々の中からガサガサと物音が聞こえてきた。
そして次の瞬間、暗闇の中から大きな生物が姿を現した。
「やっとお出ましか。随分と大きな客だな」
魔物の正体は、一言でいえば〝巨大クマ〟だ。
つーかでけぇなおい。ゆうに3メートルは超えてそうな巨体だ。あんなのに襲われたらひとたまりも無い。
巨大クマ……もとい、魔物はゆっくりとこちらに歩いてきている。
あれはどう見ても俺たちを襲う気マンマンだ。明らかに敵意丸出しだからな。
というかやべぇぞ。あんな馬鹿デカい魔物が現れるなんて聞いてねーよ!
なんとかしないと――
あ、そうだ。前に遭遇したときと同じ方法で撃退すればいい。
つまりは再び改造レーザーポインターの出番だ!
…………
――って、しまった!
そうだよ忘れてた。
リュックサックの中に入れたままだった。
しかも馬車の中に置いたままだ。
今から取りに行くか?
……馬車まで距離があるし、間に合うとは思えん。
それだったら……再び同じ物をカタログから購入するしかない。
いや、現状を打開する物なら何でもいい!
とにかくすぐに――
…………
………………
……………………
…………………………え?
カタログの所持金……『200』……?
だ、駄目だ……!
所持金不足で買えないじゃないか!
そういやそうだった。村を出る時に肥料とかを大量に買ったじゃないか。それに加えてクッションやら缶詰やらを複数買ったんだった。だからこんなにも少ないのか。
くそっ。なんたる失態。こんなことになるなら調子に乗って買い込むんじゃなかった……!
どうするどうする!?
ここままだとあの魔物の餌食になっちまう……!
やはり馬車まで取りに戻るしか……
そんな事を考えていると、ヴィオレットが俺を庇うように前に出た。
「ふん。たった1匹でこの私に立ち向かうとは……命知らずな奴め」
いや、命知らずはどっちだよ……
「まぁいい。すぐに終わらせてやる」
そう言って両手を伸ばした。
「はぁぁぁ……!」
徐々にヴィオレットの周囲が明るくなっていき、両手の上に大きな炎が現れた。その炎はみるみる形が変わり、細長い棒状になった。先端が鋭く尖って見える。
あれは炎で出来た矢というわけか。いわば『炎の矢』ってところか。
「くたばれ! 《バーニングアロー!!》」
ヴィオレットの両手に出現した計2本の『炎の矢』が魔物に向かって飛んでいく。
「お、おお……!」
炎の矢は見事に命中し、魔物の巨体を貫いた。
『!? グガァァァァァァァ……!』
すごいな。命中した箇所が黒く焼け焦げている。さすがに効いたのか、もがき苦しんでいる。
魔物はよろよろと立ち上がり、ふらつきながら森の中へと帰っていった。
「ふん、この程度か。他愛もない」
「す、すげぇ……」
「おお、見事だ」
「驚いただ……」
すげぇ……これが魔術師ってやつか。あの馬鹿でかい魔物を1人で追い払いやがった。
それに今見た炎の矢も驚いた。あれが魔法ってやつなんだろうな。魔術師ってのはみんなあんな芸当が出来るのか。そりゃカミラが握手を求めるぐらい喜ぶわけだ。
「い、今の魔物はトドメを刺さなくてもいいのか? また襲ってくるかもしれんぞ」
「その心配ない。どうせあの傷じゃあ長くは持つまい。そのうち野垂れ死ぬさ」
「な、なるほど……」
確かに炎の矢の威力は高そうだったもんな。命中して表面を焼いただけでなく、貫通したからな。体の内部まで黒こげになっているに違いない。想像を絶するほどの痛みだろう。
そう思うとえげつないな。殺傷力高すぎだろ!
「ま、これで分かっただろ? 私が居る限りお前達に手出しはさせんさ」
「頼りになります……」
本当に頼りになるなぁ。1人で見張りを引き受けるのもうなずける。これなら安心して眠ることができるしな。
この場はヴィオレットに任せることにし、馬車の中へ入っていった。
横になって目を閉じていてもしばらくは寝れないでいた。さっきの出来事を思い出して反省していたからだ。
今回はいい教訓になった。使いすぎは止めとくべきだな。毎日20万円使えるとはいえ、やはりある程度は残しておくべきだ。
というか前にもそう決めたじゃないか。完全に油断してたな。何やってるんだ俺は。
よし。明日からは使いすぎないように注意しよう。また今日みたいな危機に遭遇するかもしれないしな。
とりあえずもう寝よう……
緊張の糸が切れたせいか眠くなってきた……
おやすみ……
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