第20話:王都に到着

 村で一泊してから出発し、そこから更に一日かけて王都をめざした。

 そして日が沈みかけた時だった。


「そろそろ王都に着くから準備してくんろ」


 御者の声を聞いた後、馬車から身を乗り出して外を確認してみることにした。

 すると――


「おお――」


 遠くには大きな街が見える。あれが〝王都ルーアラス〟に違いない。

 王都というだけあって、都市の規模はかなり大きいようだ。東京ドーム何個分だろうか。

 この異世界にきてから初めての都市かぁ。なんかわくわくしてきた。

 あそこで念願のスローライフが始まるんだ。一日中好きなことをやって、ぐーたらな生活もしてみたい。夢が広がるなぁ。


 そんな期待に胸を膨らませつつ、しばらく王都の外見を眺めていた。




 馬車も王都の中へと入り、ある程度移動してから止まった。どうやらここで降りるらしい。


「お疲れさん、ここでオラの役目は終わりだべ」

「ここまで乗せてもらってありがとう! 本当に助かりました」

「いやいや。こっちこそ、うめぇメシ食わせてもらっていい思い出になったべさ」


 おっさんにお礼を言いつつ、馬車から降りた。

 レオナールとヴィオレットは既に降りていたみたいだ。


「さて、ここでお別れだな。ヴィオレット殿も護衛ご苦労だった」

「これが私の仕事だからな。無事でなによりだ」


 この人の魔法はすごかったなぁ。俺もあんな感じで魔法を使ってみたいけど……無理なんだろうなぁ……


「では僕はここで失礼するよ。機会があればまた会おう」


 そう言い残した後、レオナールは離れていった。


「私もそろそろ立ち去ることにしよう。短い旅だったがいろいろ世話になったな」

「こちらこそ、宿代出してくれて感謝してるよ」

「ま、困った時はお互い様さ。ではさらばだ」


 ヴィオレットは背を向けてから離れようとして――立ち止まった。


「ああそうだ。おいヤシロ」

「何か?」

「もし護衛が必要だったらいつでも私を呼ぶといい。お前なら格安で引き受けてやるぞ」

「えっと……考えとくよ……」

「しばらくは王都にいる予定だからな。頼んだぞ」


 再び歩き出し、ヴィオレットは離れていった。


 なんかあの人に気に入られたのかな?

 まぁいいや。悪い気はしないし、いつか必要になったらあの人を頼ろう。


 んじゃ俺も行くとするかな。もう日が暮れ始めてるし、早く宿を探さないとな。


 …………


 って忘れてた。今の俺って無一文じゃねーか。宿代どころじゃない、寝る場所すら無いじゃないか!

 やっべどうしよう。もう1回ヴィオレットに宿代借りるか?

 ……いやいや。さすがに2回も借りるのは駄目だろ。別の方法を考えないと。


 どうするどうする。何か良い方法はないのか。


 考えろ。この状況を打破する解決法……


 何か……何か無いのか……?


 どうしたら……


 …………


 ……そうだ。

『カネ』は無くても『物』はある。だからカタログで手に入れた物を売ればいい。


 つまり今探すべき場所は……『質屋』だ!


 よし、そうと決まればさっそく探しに行こう。この世界でも質屋は必ずあるはずだ。




 質屋を探すべく早歩きで町中を探索しているが……本当に広い都市だなここは。とてもじゃないけど1日で回りきるのは無理だ。人もかなり多く、村にいた頃とは活気が全然違う。


 探索すること数十分。ようやくそれらしき店を発見した。

 小さな一戸建ての店で看板には、硬貨と物品の絵が一緒に描かれている。恐らくカネと物を交換するというイメージで描かれたに違いない。


 ちなみに金銭についてはカミラから既に聞いている。

 この世界の通貨は基本的に『銅貨』、『銀貨』、『金貨』で取引されているみたいだ。


 それぞれの価値を分かりやすく表示すると以下のようになる。


 小銅貨

 大銅貨(小銅貨10枚分)

 銀貨(大銅貨10枚分)

 金貨(銀貨10枚分)


 これらを日本にいた頃の貨幣換算するとなると、小銅貨1枚で約100円ぐらいの価値があると思っている。つまり銀貨1枚で約1万円、金貨1枚で約10万円の価値があるということだ。

 まぁこれは大雑把で無理やり当てはめた場合の例えだから、ある程度は前後すると思う。けど大差はないはずだ。多分。


 さて。質屋に到着にしたのはいいものの、何を売ろうか考えてなかったな。

 俺が暮らしていた時代の道具なら大半が売れるとは思うけど……

 う~んどうしよう……あ、そうだ。


 物陰に隠れ、カタログを呼び出してページをめくっていく。

 えーと……今欲しい物はと……あったあった。これだ。

 目的の商品を選び、カタログから出現したそれ・・を受け取る。


 うん。なかなか見栄えがいいじゃないか。手頃なサイズで形も悪くない。

 この世界は地球にいた頃と違って文明が遅れているからな。だからこんな物・・・・でもそれなりの値がつくかもしれない。ひょっとしたら金貨1枚分の価値になるかもな!

 今の俺は悪い顔をしているかもしれない。騙すようでちょっと後ろめたい気持ちもあるが、この状況では仕方ない。これ・・は他では手に入らない貴重な物には違いないんだから、相手にとっても有益な取引になるはずだ。


「なんか楽しくなってきたぞ」


 日も暮れてきたことだし、さっさと終わらせるとしよう。

 リュックサックを背負いなおし、質屋へと入ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る