続:王都ルーアラス編

第99話:念願の再会

 あれから何日か馬車に乗り続けてようやくルーアラスに戻ってきた。

 思えば結構な長旅だった気がする。でも今となってはいい思い出だ。

 色々あったけど悪くない経験だった。


 そんなこと考えながら馬車から降りる。

 するとすぐにヴィオレットが話しかけてきた。


「ヤシロ。約束は忘れてないだろうな?」

「ん? ああそうだったな。案内する約束だったけ」


 ヴィオレットとはルーアラスに到着した時に、銭湯にいるおっさんに案内する約束をしていた。

 もしかしたらヴィオレットが長年探し続けている命の恩人かもしれないからだ。


「さぁ早く案内してくれ。あの人はどこに居るんだ?」

「ま、待ってくれよ。そんなに急かすなよ」

「いや待ちきれん。すぐに案内してくれ! どこに居るんだ!?」

「だから落ち着けっての……」


 余程会いたいのか腕をグイグイ引っ張ってくる。

 念願の恩人に会えるかもしれないという気持ちは分からなくはないが落ち着いてほしい。


「一旦、家に帰ってからにしようぜ。荷物も置きたいし」

「そんなの後でいいだろう。こっちの約束が先だ!」


 これは説得するのは無理そうだ。目が本気になっている。

 仕方ない。


「悪いけどギンコとフレイヤはここで待っていてくれないか。ちょっとヴィオレットの用事を終わらせてくるから」

「いいですよ。いってらっしゃいです」

「わかりましたわ」

「さぁ早く!」

「はいはい分かった分かった。そんな引っ張るなって」


 ヴィオレットに引っ張られながらも銭湯に向かうことになった。




 目的の場所に到着。

 この建物の中にヴィオレットの恩人が居るのか。

 何度か会ったことはあるけど、只者ではない雰囲気はしてたんだよな。もしかしたら本当にヴィオレットの探している人かもしれない。


 さっそく中に入ろうとしたんだが……


「……なんで隠れてるんだ?」

「…………」


 何故か俺の後ろで隠れるようにしているヴィオレット。


「どうしたんだよ。何かあったのか?」

「い、いや……そのぅ……」

「早く中に入るぞ。ギンコ達を待たせているからな」

「ま、待ってくれ!」


 歩こうとしたら服を引っ張られた。


「何してるんだよ。ここまで急かしたのはヴィオレットの方じゃないか。早く会いたいんじゃないのか?」

「そ、そうなんだけど……何というか……」

「?」

「その……こ、心の準備がまだというか……」

「……は?」


 こいつは何を言っているんだ?


「あのなぁ……すぐに会いたいんじゃないのかよ!? なんで今さらそんな恥ずかしがってるんだよ!?」

「だ、だってぇ……いざ会えるかもしれないと思ったら緊張してきちゃって……」

「お前は何がしたいんだよ!?」


 頭が痛くなってきた。

 アイドルに会う前のファンみたいな反応しやがって。


「じゃあ今日は会うの止めるか?」

「それは嫌だ! 今日という日をどんだけ待ち望んでいたと思ってるんだ!?」

「なら会いに行こうぜ」

「で、でも……やっぱり心の準備がまだというか……」

「…………」

「うぅ……」


 ……さすがに付き合いきれん。

 さっさと終わらせよう。


「いい加減にしろ。これ以上お前の我がままに付き合ってられるかっての。早く行くぞ」

「え……あ……ちょ、待って――」


 ヴィオレットの腕を掴んで建物に中へと入った。

 中には体格のいいマッチョのおっさんが何か作業をしていた。

 あの人がヴィオレットの恩人かもしれない人だ。名前はバルトロって言ってたっけか。


「あのーすいませーん」

「ん? おっ。久しぶりじゃねーか。そろそろ石鹸を仕入れたいと思ってたところだったんだ」

「あーそうだったんですね。また持ってきますよ」

「よろしく頼むぜ! アンタの持ってきた石鹸は評判がいいからな! お陰で客も増えたんだ! ガッハッハッハ!」

「な、なるほど……」


 相変わらず豪快な人だ。

 おっといけない。さっさと本題に入らないと。


「今日は会いたいと言ってる人がいて連れてきたんですよ」

「オレにか?」

「はい。この人です。ほらいい加減俺から離れろ」

「………………!」


 ヴィオレットはバルトロを見た瞬間、俺から離れて近づいていった。


「……間違いない。ようやく会えた……この日をどれだけ夢見たことか……」

「お? どうしたんだ? オレに何か用か?」

「バルトロさん! 私です! ヴィオレットです! ようやく見つけましたよ!」

「うん? ヴィオレット……? どっかで聞き覚えがあるような……? ひょっとして……あの時の嬢ちゃんか?」

「そうです! 貴方に命を救って貰ったあの時を覚えていますよね……?」

「ああ覚えてるさ。久しぶりじゃねーか。大きくなったなぁ。あの時はまだ小さかったから気づかなかったぜ」


 やはり本人だったか。

 この人が本当にヴィオレットが探している恩人だったとはな。

 すごい偶然だ。


「貴方に……助けてもらえた時のことを感謝したくて……探しました」

「……あの時はすまなかったな。オレがもう少し早く到着してれば村のみんなを救えたかもしれなかったのに……」

「いえ。バルトロさんのせいじゃないですよ。そんなに自分を責めないでください……」

「そうか。そう言ってもらえると助かる……」


 会えなかった分、積もりに積もった話があるだろう。

 しばらくは2人にしておくか。


 俺はそっとその場を離れて外で待機することにした。

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