第100話:頼れる面子

 しばらく外で待機していると、ヴィオレットが建物から出てきた。


「すまない。待たせたな」

「もういいのか? 念願の恩人に出会えたってのに」

「まだ営業中だからな。私個人の勝手で休ませるわけにはいかないよ」

「そっか……」


 この銭湯にはそれなり客入りがあるからな。まだ閉店時間じゃないだろうし、これ以上は迷惑だと判断したんだろう。


「ああそうだ。私はしばらくこの街に住むことにしたよ」

「へぇ。やっぱり恩人がすぐ近くにいるからか?」

「それもあるが、手が空いた時に魔法の稽古をさせてもらうことになったんだ。これでもっと強くなれるはずだ」

「ほう。なかなかいい心意気じゃないか」


 今でもヴィオレットは十分強いとは思うが、さらに上達したいのだろう。向上心があって立派だと思う。

 護衛としても頼りになるしな。


「そこで相談なんだが……ちょっといいか?」

「ん? 何だ?」

「その……私も手持ちが寂しくなってきてるというか……あまり余裕が無いんだ」

「……? 何の話?」

「実はな。カルヴィン町にいった時にな、情報収集するために色々と使ってしまったんだ。そのせいで今は余裕が無くてな……」

「はぁ……」


 さっきから何の話をしているんだろう?

 手持ちが寂しくなったって…………あっ、まさか。


「もしかして金欠だったり?」

「う……。ひ、一言で言うならそうなんだ」


 あーそういうことね。ヴィオレットの言いたい事が分かった。


「そこで相談なんだが……ヤシロの屋敷に泊めさせて貰えないだろうか? 正直言って宿代ですら厳しくなってきたんだ」

「うんいいよ。家に来なよ」

「! ほ、本当か!? 感謝する!」

「というかこの街に居るならいつでも来てもいいよ。家は無駄に広いし。俺とギンコだけでは持て余してるんだよな。だからむしろ来て欲しいというか……」

「そ、そうなのか。色々悩みがあるんだな……」


 2人で住むには広すぎるんだよな。だからヴィオレットが来るなら少しは賑やかになるはずだ。


「じゃあさっそく行くか。ギンコとフレイヤも待たせているし」

「そうだったな。私の我がままに付き合わせてしまって悪かった」

「いいって」


 それからヴィオレットと共に移動することにした。

 しばらくしてギンコとフレイヤに合流。そしてギンコにヴィオレットのことを話すことにした。


「というわけなんだ」

「そうなんですね。ヴィオレットさんが居るなら心強いです!」

「そ、そうか? まぁ何かあったら頼ってくれ。私に出来る事なら力になるさ」


 実際頼りになる。護衛としては申し分ない実力をしているからな。

 俺は戦えないし、何かあった時はヴィオレットを頼ろうと思う。


「それならわたしくしも貴方の所でご一緒させて貰いますわ」


 割り込んできたのはフレイヤだった。


「な、何で? お前も金欠なのか?」

「そうではありません。ただ貴方に責任を取って欲しいのですわ!」

「だから変な事言うなっての……」

「それともわたくしが入れないほど手狭なのですか?」

「いや、部屋は余っているよ」

「なら問題ありませんね」


 たしか部屋は4つある。そしてこの場に居るのも4人。

 ……あれ? 丁度良く埋まったんじゃね?


「ご安心なさい。わたくしも護衛として役に立ちますわ。もし貴方に危害を加えようとする者がいるなら退治してさしあげますわ!」


 フレイヤも氷の魔女と言われるぐらいだし。実力は確かなはず。

 まぁ実際にこの目で見たわけだしね。疑いようがない。


「ほぅ。フレイヤもヤシロに付いていくのか」

「そうですわ。成り行き上仕方ありません。他に予定もありませんしね」

「そうか。ならしばらく一緒になるということだな。まさかフレイヤと一緒になるとは思わなかったよ」

「わたくしもですわ。貴女のことは噂で聞いていましたし、一度ゆっくりとお話したいと思っていましたわ」

「そうだな。私も同感だ。まぁしばらくよろしく頼む」

「ええ。こちらこそよろしくお願いしますわ」


 ヴィオレットとフレイヤは相性がいいのかすぐ仲良しになったな。同じ魔術師同士で通じるものがあるんだろうか。

 まぁ仲良しなのはいいことだ。


 …………


 あれ?

 よくよく考えると、この場に居る女性陣ってみんな強くね?


 ギンコは獣人最強といわれているフォルグ族。

 ヴィオレットは火の魔法が使える魔術師。

 フレイヤは氷の魔女と言われるほどの魔術師。

 3人とも戦闘力高くないか。


 もしかして一番弱いのって……俺だったり?


 ………………


 ……よく分からんが、情けなく感じてしまうのは何故だろうか。


「ご主人様? どうかしましたか?」

「い、いや。何でもないさ。ははは……」

「???」


 この面子ならどんな強盗が来ても撃退してしまいそうな気がする。

 ある意味、最強クラスのセキュリティだ。


 せめて俺も魔法が使えたらなぁ……

 隠れて魔法の練習とかやってみたんだけど、一回も発動しなかったんだよな。

 未だに俺が使える魔法が何なのか不明なんだよな。マナがくれた加護の正体さえ分かれば使えるはずなんだ。

 だから俺だけ役立たずなんてことにはならない……はずだ。

 いつかは魔法を自由に使えるようになりたい。


 とりあえず今は家に戻るのが先だ。

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