第67話:予期せぬ訪問者

 マナがプリンを何個か食べ終わり、部屋から居なくなった後であることを思い出す。


「あっそうだ。ギンコの首輪外すの忘れてた」

「え? 私のこれをですか?」

「そうそう。いつまでも付けてるわけにはいかないだろ? 前に外そうとした時は無理だったし」

「でしたね……」


 偶然とはいえ、やり方を知ったわけだしな。

 早いに越したことはない。


「よっしゃ。ならさっそくやってみるか。えーと確か、俺の血を当てるんだっけか」


 指先をナイフで切って血をにじませ、首輪についているビー玉みたいな魔封石に触れさせた。


「…………あれ」

「……?」


 おかしいな。何も起こらない。

 確か前やったときは光ったはずなんだけどな。でも今は全く反応しない。


「これでいいのかな?」

「さ、さぁ……」

「とりあえず外してみるか」


 が、やっぱり首輪はビクともしなかった。


「ど、どうなってるんだ……」

「やり方はこれで合っているんです?」

「たぶん」


 まさか……

 あのエルフが言ったことは嘘だったということか?

 それしか考えられない。


「ちくしょう……やられた。道理ですんなり教えてくれたわけだよ……」

「き、気を落とさないでください」

「ごめんな。もうしばらくはそのままで我慢してくれないか」

「私はこのままでも平気ですから。むしろこのままの方が――」


 そんなとき。突然、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「ん? 誰だろう?」

『こちらの部屋にヤシロ様はいらっしゃいますか?』


 ドアの向こうから聞き覚えのない人の声がした。声からして男の人だ。


「俺がヤシロですけど……」

『貴方にお話があって参りました。入ってもよろしいですかな?』

「ど、どうぞ」

『では失礼します』


 ドアを開けて入ってきたのは、50代くらいの男の人だった。

 身なりが綺麗で紳士的な格好をしている。なんというか執事みたいな服だ。


「えっと、あなたは誰ですか?」

「これは失礼。私のことはセバスをお呼びください」

「はぁ……。それでセバスさんは何用で?」

「ヤシロ様を出迎えに参った次第でございます」

「俺を?」


 なんだろう。こういう人と関わった記憶無いんだけどな。


「はい。この度は我が主である〝クルシンス様〟の命により参上いたしました」


 全く聞いたことのない名前だ。

 誰なんだ?


「俺は身に覚えがないんですが、もしかして人違いでは?」

「いいえ。間違いなくヤシロ様を連れてくるように仰いました」

「じゃあなんでこの場所が分かったんです?」

「それは、ヴィオレット様が場所をお教え下さいました」

「ヴィオレットが?」


 そういや最近、ヴィオレットの姿が見えないな。

 もしかしてこの人はヴィオレットの知り合いなのか?


「ヴィオレット様より伝言を承っております。『助けに来てほしい』……とのことです」

「なっ……」


 おいおいなんだそりゃ。穏やかじゃねーな。

 助けろだって? 一体何があったんだ?


「ヴィオレットに何があったんです?」

「少々難解なことになっております故、私の口からでは伝わり難いかと……」

「じゃあどうしたら……」

「直接会いに行かれた方がよろしいかと。その為に私が出迎えに参った次第です」


 あくまで自分の目で確かめて来いってことか。

 さてどうするかな。突然訪問してきたセバスという人も、クルシンスとかいう聞いたことのない人も怪しさ全開だ。

 この人たちがヴィオレットとどのような関係なのか、全く知らないわけだしな。

 出来れば断りたいが、ヴィオレットが人質に取られている以上、断るという選択肢は無いってことになるな。

 ここは受けるしかないか。


「分かりました。ではヴィオレットの元に連れて行ってください」

「感謝いたします。表に馬車を待機させていますので、準備が出来次第お越しください」

「……はい」

「ではお待ちしております」


 そういって部屋から出ていった。


「ギンコ。今の聞いたな?」

「は、はい。なんか大変なことになってるみたいですね」

「俺は1人でいくつもりだから、ギンコはここで待機してろ」

「ええ!?」


 ヴィオレットは俺に助けを求めているみたいだしな。ギンコは無関係なはずだ。

 それに何かあったら巻き込んでしまいそうだ。


「じゃあ俺は行ってくるから――」

「ま、待ってください! 私もついていきます!」

「もしかしたら危険な目に遭うかもしれないんだぞ? いいのか?」

「だったら尚更のことです。何があろうとも、私がなんとしてでも護りますから!」

「ギンコ……」


 確かにこの子ならある程度はなんとかしてしまいそうだ。

 でもなぁ。今回は何が起こるか分からないし、そんな場所に連れていくのは気が引けるというか。


「私では……役立たずですか……?」

「そ、そういうわけじゃ……」

「お願いです。私も連れていってください。迷惑はかけませんから……!」


 悲しそうな顔で見つめてこないでくれ……

 仕方ない。


「分かったよ。ギンコも一緒に行くぞ」

「! はい!」


 まぁ今回は命が狙われるような状況にはならないはずだ。もしそうならわざわざ馬車まで用意して迎えにこさせないしな。

 だからといって100%安全とは言い切れないが。


「んじゃ。ヴィオレットを助けにいくか」

「何事もなければいいんですが……」

「まぁ行けばわかるだろ」

「ですね」


 準備を終えてから部屋を後にし、馬車へと乗り込んだ。

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